実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
秋大会が開幕した。
新人大会ということもあって、少しでも練習時間を確保するために試合を見に来るチームはあまりない。
そんな中、俺達聖タチバナ学園高校は練習を休みにして一日フリータイムにした。
ここまで全力で引っ張ってきたみんなを休ませる意味もあってのことだった。
今日は恋恋の試合とその後に行われるバス停前と灰凶の試合も見る予定だ。
恋恋の方は当然負けてられない。
しかし、俺はバス停前のキャプテンにどこか引っかかったためだった。
あの自信満々な表情。
いかにも灰凶には勝てる見たいな感じで。
「修也、始まるぞ」
「ああ」
一緒に来た聖とバックネットの後ろで座って見る。
秋には珍しく太陽がグラウンドを照らしていた。気温は二十二度で、かなり暑い方だろう。
グラウンドに眼を落とすと、恋恋高校のベンチ前では南が素振りをしている。
特に緊張してないような顔で素振りをしている南は夏と比べ、体つきががっちりしていた。
さらには投球練習している早川も下半身が安定しているみたいで、厄介だなと思わせるほどだ。
審判が出てきて、両チームがベンチ前に集合しホームベースを軸に並ぶ。
「礼!」
「「「「「お願いします!」」」」
恋恋高校とかぶ高校のメンバーが礼をして、後攻の恋恋高校がグラウンドに散っていく。
その時、一瞬南が俺達の方向を見てすぐにショートへダッシュしていった。
「南は気づいていたか、俺達のこと」
「みたいだぞ」
ついこの前のスポーツの週刊誌に秋大会の注目選手に南、早川の二人が載っていた。
数々の高校の中から選ばれ、その評価を下されるこの週刊誌ではあかつきなどには無論、猪狩や七井などが載っていた。
その他にもパワフル高校では東條、鈴本、新田。帝王は山口、蛇島、広上。
俺達も俺、友沢、聖が注目選手として載っていた。
『恋恋高校の心臓、南紘人』『安定度抜群下手投げ投手、早川あおい』
南はこのチームに居なきゃいけない存在というのは誰よりも南たちがわかっている。
だからこそ、夏での敗退はものすごく惜しかった。
怪我さえなければ。そう思わせるほどに。
早川も完封目前でのあの失投も悔やまれた。だからこそ、今大会であかつきに勝とうとしているのだろう。
安定度抜群か。俺も同感だ。
早川が投球練習を終え、セカンドへ樋宮が素早く送球する。
地肩が強いだけあって鋭い送球がセカンドベースの上へ投げられた。
コントロールも良い、夏であんまり盗塁されなかったのは樋宮のスローイングとリードのおかげなのだろう。転向して一年ほどでここまでやってのけるセンスは凄いと正直に思う。
一番バッターが打席に入って構え、早川に対して視線を送った。
相手に対して振りかぶって、早川が投げ込む。
「!?」
っと、まじかこれ。
アンダースローから放たれ、ギュッ!と威力のあるストレートがインコース低めに決まる。
打者は低いと思って見逃したのか、バットは振らなかった。
「ストーライクッ!」
夏よりも恐ろしいことに打ちにくくなってやがる……。
元々のフォームから改造し、夏からもさらにフォームを改良して来やがったぜ。
ギリギリまで球持ちを良くすることで、浮き上がってくるストレートがさらに浮き上がってくるように感じさせるようにフォームが変わってる。
しかも、球威も上がっていて今まで球速が120中盤程度だったはずが130キロ前半まで上げてきた。
その球を四隅ギリギリに決めるコントロールも凄い。
スタミナは夏よりもあるだろうし、完投することも可能なはずだ。
「手強い、やっぱり手強いな……」
聖がコクリと頷いて再びグラウンドに眼をやる。
外角へ逃げて行くカーブを打者は空振り、2-0になったところで伝家宝刀の高速シンカーで早川は三振を取る。
続く、二番には内角低めストレート、外角低めストレート、外角へシンカーで三振。
三番には内角高めのストレートでサードフライに打ち取って三者凡退に切る。
「ナイスピッチ!点入れてこ!」
「了解!私たちに任せな!」
かぶ高校は比較的打撃が強い高校だ。
しかし、それでも自分たちの打撃をしてもらえないのか……。
早川の制球力に加えて緩急、さらに高速シンカーで三振も取れる。猪狩とは違った攻略しにくいタイプだから困る。
……守備陣に語ることはない。
地区ナンバーワン……いや、全国でも五本の指に入るくらいの堅守を誇るチームだ。そう簡単にエラーなんてあるもんじゃないからな。
『一番センター北条さん』
左打席に北条が入る。
足が速くて、ミート力のある典型的な一番バッター。
恋恋はこいつを塁に出すと点につながる可能性が非常に高い。さらにいえば、初球からガンガン振ってくるタイプに加え、盗塁もどんどん狙ってくる。
新チームになって恋恋の打線が良くなったのも彼女の影響が大きいはず。
相手打者が投じた外角気味の133キロのストレートを北条はレフト前へ弾き返す。
『二番セカンド初野君』
さてと、どう出てくる?
若干サード、ファーストはバント警戒の前進気味。ヒッティングもバントも盗塁も何でもありの場面だ。
相手投手がモーションに入った途端、完全に盗んだスタートを北条は切る!
若干甘くなった外角のボール球を初野は強引に流し打ちをして、三塁線上に打球が抜ける。
「うまい。一年生だけど、要警戒な一、二番だ。私達との試合でも盗塁されたり、揺さぶりはあるぞ」
「聖がそこんとこ見極めてくれれば問題ないな」
「もちろんだ」
っ!
笑顔でそう言った聖が可愛すぎる。やばいぞ、これは破壊力が抜群だ。
今まであんまり気にしなかったけど、聖も一人の女の子だもんな。女の子らしい仕草はやっぱりあって当然か……。
グラウンドに目を戻し、無死一、三塁の場面で樋宮が打席に入る。
ランナーはどっちも足が速い。内野ゴロでも一点が入る確率が高いけど、かぶ高校は内野全体が前進してきた。
樋宮に至ってはバランスの良い打者だ。
ミートもうまければ、パンチ力もある。だけど、打撃に関しては樋宮の特徴なのかわからないけどランナーが居ないときは思いっきり強振して、居る時はチームバッティングに専念する。
ッキィン!と樋宮は外角低めへのカーブをライト前へ運ぶ。
「うまい!」
つい声に出してしまうほどの綺麗なバッティング。
一二塁間の間を抜けて行き、初野が二塁で止まり、無死一、二塁。
そしてこのチームの心臓が打席に入る。
『四番ショート南君』
このチャンスでこの男か。なんか色々と運の良い奴だ。
お願いします、と一言断って南はバットを構える。
一点差。まだ初回とはいえ、外野は前に来ているし簡単に攻めてはこないはず。
そう思った瞬間――――――、南がバットを振りぬいた。
ッキィィン!!と打球はぐんぐん伸びて行ってフェンス直撃の走者一掃の二点タイムリースリーベースヒット。
「この試合決まったぞ」
特に感情もない言葉で聖が呟く。
「一番北条、二番初野の巧打力、足の速さには警戒だ。三番樋宮、四番南もチャンスに強いし、パンチ力もある。そして五番の小井田も―――――」
聖が言いかけた瞬間に、ッキィイン!!!と打球はフェンスを超えてスタンドへ入る。
「この打撃力。しかも、チャンスに強いとなれば何もかも警戒しなければならないな。南に巧打力は劣るかもしれないが、女性で飛距離を飛ばすのはそうそういないぞ。六番の香川もしっかりと打ってくるし、一から六番打者までは油断は絶対にできない」
「それにあの守備力だもんな。早川から何点取れるかが俺らの試合のカギになる」
「少なくとも三点は欲しいところだ」
俺の調子が悪かったり、みずきちゃんが打たれこまれたりして失点する可能性はいくらでもある。当日が雨で、ぬかるんだりしていればそれこそ失点が増える。得点も増えるかもしれないけどな。
でも、打線で負けている気はしない。
矢部君と准だって、恋恋コンビと比べても引けは取らないはずだ。クリーンアップの強さ、六、七番の猛田と喜多村と入れたら絶対乱打戦になったらこっちに分がある。
「負けらんねえ。甲子園に行くためにはこいつらを倒してからだ」
「もちろんだぞ」
相手がどんな奴であれぶっ倒すのみだ。
十分に燃えさせてくれるチームだ。今からでも試合しても構わないくらい体が疼く。
あかつきを倒して甲子園に行くのは恋恋高校を倒してからでも遅くはないはずだ。
そうだろ?神様。
その後、恋恋高校は初回に五点を入れた後も打線の爆発は続いた。
二回に一点、三回四回と二点を加えて五回は南のスリーランホームランで一挙六点を上げる。
早川がこの試合をヒット一本に抑えて一六対〇の完封コールド勝ちで二回戦進出を決めた。
一週間後の二回戦、恋恋高校対聖タチバナ高校のカードが決まった。
「……見てたね。朱鷺と六道さん」
「うん、次当たる相手だからね。意識しちゃうよ」
「でも、マリンボールがあれば慶次達に勝ててもおかしくはないだろ。いや、勝てる。点を与えなければ良い話だからな」
「チャンスに回せば、あたしらが打つし、飛んできたボールは全部アウトにする」
「……けー達は絶対に抑える」
「私と初野君が出て、チャンス作りますよー!」
「僕は基本的に北条さんを得点圏に送る係なのでそこまで出塁は期待しないでくださいね」
「相変わらずだなお前ら……もちろん俺も負けてらんないな」
今年の夏の大会決勝。
僕たち恋恋高校は聖タチバナ学園高校対あかつき大付属高校の試合を観客席でしか見ることしかできなかった。
あと一歩で負けた聖タチバナ学園。
相手のミスに付け込んでギリギリ勝つことができたあかつき大付属。
悔しかった。
僕たちと同じスコアで、明らかに評価が違かったから。
勝つ。僕たちが勝つ。
僕たちには最高の仲間が居る。
甲子園に行くぞ。特別枠でも、何でも使って甲子園に行く。
あの舞台に立って、甲子園というものを経験する。
――――――絶対に勝つ。
僕がスリーランホームランを打ってスタンドを見上げた時、朱鷺は笑っていた。
そして睨みつけるかのように僕を見下ろして―――――。
「さて、みんな速く待機室開けよう。先生に次の試合の灰凶とバス停前のは録ってもらうから」
「うん、わかったよ」
あおいちゃんが頷くと、そのほかのみんなからもそれぞれ返事が聞こえてくる。
彼女のおかげで、最初の大会から戦い続けて行くことができた。
秋大会。最後の秋大会。
「……樋宮君、次の試合のために準備できる?」
「ああ、もちろん。任せろ」
「次の試合はあおいちゃんをガンガン飛ばしていかせるから、響ちゃんも初回から準備しておいてね」
「わかった」
……自然と負ける気はしない。
みんなが居るから、僕は負けない。
――――――僕たちは負けないよ。
今日の第二試合目。
第一試合が恋恋高校がコールド勝ちであっさりと終わり、二試合目が始まる。
万年一回戦敗退のバス停前高校対強豪の灰凶高校の組合せ。
試合前のアップをしている両方のチームだが、三塁側で投球練習している右投手を見やる。
(あいつは田中山だ。俺が見たいのは……)
隣に眼を移すと左投げの投手である背番号11を着けたやつを見る。
それを受けるのは背番号2を着けている二年生。どちらも夏、さらには昨年の試合にも出ていない選手だ。
バス停前高校は今年の夏、一回戦で十五対〇のコールド負けで敗退している。
灰凶にとっては絶好のカモと言ったところだろうが――――――
―――――どうしてもひっかかる。
どうしてあんなに自信満々だったのか。
普通のチームなら灰凶と当たったら少しは焦るはずだ。もちろん、俺だって少しは焦る。
灰凶のエースはゴウ。
150台を記録するストレートはあかつきだって一順目はなかなか打ちきれなかった球だ。
それに変化球も加われば、と考えると制球はそんなよくないにしても大量得点は期待できないだろう。
打線だって怒拳、御宝、ゴウのクリーンアップ。
パワーのある三人が揃い、例えゴウを打ったとしても三人を抑えなければまったく意味がない。
「修也、どうした?」
「ん、何でもない」
やべえやべえ、考えすぎなのかもしれねーな。
一度深呼吸して心を落ち着かせるか。
「やはり灰凶のエースの球は速いな。コントロールは甘いが、変化球も抜群。ベスト4に食い込むのも納得ができるぞ」
「確かにな。ガンガン飛ばしていっても完投する能力もあるからなあ」
「バス停前高校は厳しいか」
小さな声で聖が呟く。
まあ、どうだろうか。それは試合始まってみないことにはわからないな。
両校が整列すると同時に聖がラジオをつける。
『さて、今日の第二試合バス停前高校対灰凶高校の試合が間もなく始まります!』
「行くぞ!声出していけえええええ!」
元気な声がバス停前の捕手から響く。
先発は田中山。いつもは四番に入っているが、今日は三番。
捕手のやつが八番、そして先ほどの左投げのやつが九番ライトに入ってる。
『一番センター太田君』
ウグイス嬢が一番バッターをコールする。
一番バッターの太田が打席に入って、構える。
この後、この試合の終盤。
俺達はあり得ないものを見せられたのだった。
――――――黄金バッテリーとはまさにこの二人みたいな関係なのだと。
八番キャッチャー 和泉原 尚
九番ライト 結城 夢人
『なんと、マウンド上の投手である――があかつき大付属の猪狩守の記録を破りました!!』
とうとう終わりまでの道筋が見えてくるようになりました。
予定ではあと15話辺りだと思いますが、もし付き合ってくださる方はこれ彼もよろしくお願いします。