実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第二十五話 10月4週 “vs恋恋高校 前編 予想外と想定外のコラボレーション”

「雨か」

「ああ。少しばかり予定が狂った」

「それは仕方ねえだろ。天気予報が外れちまったからな」

「晴れのちくもりという予報だったんでやんすけど、やっぱりよっしーの天気予報ははずれるでやんすね」

「あの人は信用できないからなぁ……」

 

 パラパラ降ってき始めた雨が地面を打つ。

 地面が若干湿り、土の色もより濃くなっていく。その様子を俺達はベンチから眺めていた。

 秋大会は日程が比較的詰まるからな。

 よほどの雨とかじゃないか限り決行するのが普通だろう。

 

『さあ、秋大会二回戦!今大会優勝候補である二校がぶつかり合います!聖タチバナ学園高校対恋恋高校!』

 

 球場はパワフルズの本拠地である頑張市民球場。

 プロ野球チームの本拠地が使えるなんて凄く良い経験にもなるし、気持ちが高ぶってよりいい緊張感の中でプレーできる。人それぞれによるけど。

 この試合に勝てばあかつき大付属と九割方の確率で戦える。

 リベンジができるんだ。

 あんな悔しい想いは絶対にしない。次こそは絶対に勝つ!

 っと、目の前の試合に集中だ。

 

「聖、投球練習始めよう」

「うむ」

 

 すでに肩は温まっているが一応のために投げ込んでおこう。

 それを分かったのか聖はキャッチャーミットを持ってブルペンに来てくれる。

 マウンド間隔まで広がって軽くボールを投げ込む。

 完璧な状態に仕上げておかないといざ試合で投げるときに不安定な状態でチームに迷惑をかける。さらには聖のリードも少し狂う。

 足を上げて腕を振って投げる。スピードは八割程度の球だ。回転、指先の感覚などを意識して聖に受けてもらう。

 

「???」

「ん?」

 

 聖が受けていて少し首をかしげる。

 俺が投げたボールを少しの間見ていたが、投げ返してきた。少し違和感を覚えた俺が聖に聞く。

 

「まだ五割程度で投げているか?」

「いや、八割ぐらいだけど。もしかしたら雨でボールが滑るから回転数も足りてないんだろ。こればっかりはしょうがないと割り切ってリードしてくれると嬉しいんだけど」

「そうか……。なんとかするぞ」

「聖」

「どうした?」

「今日の試合はお前が投手交代の指示を出してくれ。雨ならなおさら捕手が投手の状態を見極めなきゃいけない。聖のタイミングで投手交代をしてくれ」

「了解した。初回からみずきと宇津を準備させておく」

「ん…ああ、いいけど」

 

 そうしたんだ?聖のやつ。緊張しているのか?

 初回から準備させるなんて聖はずいぶんと心配性だな。……ああ、そうか。もしかしたら早川とみずきちゃんを少しでも投げ合いをさせたいという気持ちなのかもしれないな。

 心配しなくてもその場面は楽になってからか、早川がマウンド降りてからだ。

 今日は俺達にとって秋大会初戦だ。

 このために調整してきた俺はそう簡単に打たせないぜ?恋恋高校。

 

――――――なあ、南。俺とお前。どっちがチームを勝利に導けるか。勝負だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは先攻の恋恋高校のスターティングメンバーを発表いたします。

 

 一番センター   北条さん

 二番セカンド   初野くん

 三番キャッチャー 樋宮くん

 四番ショート   南くん

 五番サード    小井田さん

 六番ファースト  香川くん

 七番ライト    松岡くん

 八番レフト    増田くん

 九番ピッチャー  早川さん

 

 次に後攻の聖タチバナ学園のスターティングメンバーを発表します。

 

 一番レフト    矢部くん

 二番センター   川瀬さん

 三番キャッチャー 六道さん

 四番ショート   友沢くん

 五番ピッチャー  朱鷺くん

 六番ファースト  猛田くん

 七番サード    喜多村くん

 八番セカンド   峰田くん

 九番ライト    黒豹くん』

 

 ウグイス嬢から両校のスターティングメンバーが発表される。

 ライトに黒豹を置いたのはなんとなく。いや、そういうわけじゃない。

 打撃は正直、ダメダメな黒豹だが守備が良い。そして恋恋高校との一戦だからな。一点が重いこの試合は外野の守備を固めておかない限り、犠牲フライはほとんどフリーパス状態になってしまう。

 それだけは絶対に避けたい。

 せめて友沢と同等を誇る超強肩をライトに置き、失点を減らす。

 

「負けない、俺は」

 

 そう呟くと聖も頷く。

 集合を掛けて、みんなが俺の周りに集まる。

 この戦いは負けるわけにはいかない。あかつき大付属高校と戦うため、甲子園に行くため―――――

 

――――――負けない。

 

「雨が降ってるからどっちのチームにもミスは出る。お互いの投手も安定しない部分があるからその分みんなでカバーし合いながら行こう!」

「よっしゃ、行くぞ!」

「タチバナー!!!ファイ!」

「「「「「オー!!!!」」」」」

 

 審判からの集合の声を聞き、ベンチ前に両校のメンバーが一斉に出てくる。

 お互いに並び終えると俺の向かい側には南紘人。通称、恋恋高校の心臓。

 そいつの顔を、眼を。俺は睨みつけて、握手をする。

 

「お願いします」

「おねがいします!」

「礼!」

 

 少し溜めた後に、「おねがいします!!!」という声が響き渡る。

 恋恋高校はベンチに向かい、俺らはグラウンドへ全力疾走で駆けて行く。

 ホームベースを背にしてマウンドに向かって、一歩、二歩と歩き出してプレートのところまで歩いて振り返る。

 やっぱり、俺の居場所はここだ。

 マウンドに立っているのは俺で受けてくれるのがキャッチャーの聖。

 聖が俺にボールを投げてきてそれを受け取る。

 ボールを見ると空から雨が降ってきて、雨がボールを濡らすのをユニフォームのズボンで拭いてプレートを踏む。そして、ゆっくりとフォームを確認しながらキャッチャーミットへと投げ込む。

 決して良い球でない。そりゃあ雨だから少々、威力、制球共に落ちてしまうのが普通だ。

 それでも俺は全力を尽くさなければならない。

 マウンドに経つ以上責任はほとんど俺にある。守備のせいでも、ましてや相手の凄さでもない。

 

――――さあ、ゲームの開幕だ。

 

『一回表!恋恋高校の攻撃は一番の北条から。恋恋高校の切り込み女隊長はどんなものを見せてくれるのか!』

『一番センター北条さん』

「よろしくお願いま~す」

 

 元気よく審判に挨拶して、片足でけんけんを一度、二度、そして三度行って打席に入る。

 雨でもいつもと変わらない自分でいるというのが彼女の強みでもある。

 俺は足場の悪いマウンドを自分が投げやすいように少し均して、ポケットに入っているロージンバックを触って白い粉がついたのを確認してプレートに足を踏み入れた。

 

(初球、まずはストライクを取りに行く。低めにストレートだ)

 

 サインに頷いて振りかぶる。

 足場が悪くて軸足はなかなか安定しなくて慎重になり、少しだけ意識しすぎて踏み出して投げた球は運よく低めに決まった。

 

「ストライク!」

『ストライク入りましたが、134キロのストレートです。いつも球威はありません。やはり雨で足場が安定しないか?』

「修也!」

「ふっふーん。よーし!」

 

 うん、分かってる。

 いまいち軸足が安定しないんだよな。でも、文句は言ってらんねー。

 どんどん雨も強くなってくるはずだ。中途半端に投げてたら、ストレートも変化球も使いものにならなくなってしまう。それは痛い。

 だったら、思いっきりいってやる!いつも以上に腕を振ることを意識して――――。

 思いっきり外角にスライダーを放ってボール球になるも良い球が行く。これで1-1だ。

 よし、良い感じ。

 この調子なら―――――いける!!

 

「貰ったぁ!!!」

「!」

 

 まずいっ!高速シンカーが抜けた!

 でも非力な北条なら……。

 

「えっ?」

 

――――――ッキィィン!!と快音が響く。

 

 空振りもしくは見逃しでストライクを取るために、外角低めギリギリへ落ちるはずだった高速シンカーが抜けて雨で滑ったボールが真ん中高めに抜けた失投。

 それをフルスイングしたバットで完璧に捉えられて打球はぐんぐん伸びて行く。

 雨を突っ切って進んでいく打球はバックスクリーン直撃の先頭打者ホームランとなる。

 

「やったぁ!」

「ナイスバッティング!北条さん!」

『ま、まさか……!朱鷺修也、雨で滑った失投を完璧に運ばれましたー!北条の先頭打者ホームランで恋恋高校早くも先制!』

 

 …っ。非力つっても思いっきりフルスイングすれば長打になる。

 ましてや失投だ。気持ちも体重も乗っていない球なんて打たれて当然だろうが。

 ここからいくらでも取り返せる。気持ちを切り替えろ、俺。

 聖が俺に眼で訴える。

 

「朱鷺!安心して投げろ!打たせて良い!」

「友沢……」

 

 ショートから頼りになる主砲兼副キャプテンから声を掛けられる。

 サンキューな、友沢。

 

「朱鷺、自分の投球。しっかりな」

「朱鷺!いいからバックを信じろ!」

「朱鷺先輩!」

「朱鷺君!外野にも打たせていいでやんすよ!」

「先輩。任せてください」

「朱鷺ー、まかせろ」

「修也!」

 

 友沢に続いて峰田から、猛田からとどんどん守備についてる仲間から声を掛けられる。

 なに自分のことばっかり気にしてるんだ。後ろには仲間がいるんだろ?朱鷺修也。

 

「私のミットだけ見て投げ込んでこい!全部私が受け止める!……まだ一失点だぞ!」

 

 聖が俺に向かって叫ぶ。試合中でタイムもかけてないのにもかかわらず、叫ぶ。

 観客は聖の叫び声で一気に静まった。彼女を中心に世界が廻り、彼女のために世界があるのかのように。

 『私はここに居る』という暗示だろうか。それともただ『私を頼れ』という意味か。

 そんなことはどうでもいい。この恋女房の聖が居るんだ。

 自分を見失ったらそこでおしまいだ。……俺もまだ甘いな、バカ野郎。

 

「修也。私だけを見ろ。迷うな」

 

 聖がマスクをかぶる前に優しく伝えてくる。

 女の子なのにかっこよすぎるぜ、六道聖《おさななじみ》。

 うっし、打たせてくぜ!しっかり守れよ!

 

『二番セカンド初野君』

「よろしくお願いします」

 

 笑顔で優しそうな表情で初野が打席に構える。

 今年の春から一年生として二塁手のレギュラーを務めており、南と二遊間を組む俊足巧打に加えて守備のうまい選手。一番センターの北条といい、昨年の秋までランナーがたまらなかった恋恋高校にとって願ったりかなったりの選手。

 ミートが上手く、足も速いってことはわかってる。

 サインは……ストレートか。頷いて聖の構えるミットへストレートを投げ込む。

 

「ストライーク!」

『ナイスボールです!朱鷺、良い球が低めに決まりました!』

「ナイスボール!」

 

 うん、この感触だ。少し忘れていたのかもしれない。

 球威は相変わらずだし、腕は振れてるつもりだけどいつもより多分振れてない。

 少し……いや、けっこう苦しいな。

 二球目のスローカーブは大きく外へ外れる。

 初野は未だバットを振らないでボールの様子を見ているが、一度打席を均す。

 たぶん、次からは振ってくるのだろう。上等だ、抑える!

 

(もう一度、高速シンカー。外しても良いから使えるかどうか)

 

 聖のサインに頷いて俺は振りかぶる。

 抜くような感じで腕を振って投げる。

 

(っ!!また真ん中高めにっ!!)

 

 もちろん初野はそれを逃さずに綺麗に流し打ちする。

 キンッ!!、とレフト前に鋭く打球が抜けて行く。友沢が飛び込むけど、わずかに届かず。

 

「よしっ!」

「ナイスバッティング!」

『鮮やかな流し打ちー!レフト前ヒットー!!』

 

 まずいな……高速シンカーはすっぽぬける。

 練習してるしてないの問題じゃなくて、圧倒的に天候が悪すぎて俺には合わないんだ。雨で請求や変化量が落ちだち、すっぽ抜けてしまうということは誰でもある。

 だけど、挟んで投げる上にボールが滑って甘いコースに行くのなら完全に使いものにならない。

 となると、配球が組みずらくなるぞ……。

 俺の考えが聖にも伝わったのか、眼を合わせると頷く。

 

(この試合、高速シンカーは封印か……)

 

 次第に強くなり始める雨が俺の体を打つ。

 黄色のグローブが色を変えて濁ったオレンジ色になるのが良く分かる。

 ……まずいな。ランナー出してクリーンアップを迎えたくはなかったが、ここは割り切ろう。

 

『ノーアウトランナー一塁!追加点を入れるか恋恋高校!ここで三番キャッチャー樋宮。昨年の秋からの出場ですがかなり頼りになる打者です!』

『三番キャッチャー樋宮君』

「おねがいします」

 

 樋宮はゆっくりとバットを自分の位置に持ってくると打席に入る。

 癖の無い良いフォームだ。恐らくどんな球にでも反応できるリラックスしたフォームだ。力が入ってないのがわかるほどってのはなかなかいないぜ。

 左右に打ち分ける技術も持ってる。厄介な打者だな。

 

(外角低めにストレート。外れても良いぞ)

 

 頷いて、クイックモーションで盗塁を防ぎながら投げる。

 体重の乗ったストレートが外角低めぎりぎりいっぱいに決まる。

 

「ストライクッ!」

『外角低め一杯!良いボールを投げ込んできました!』

 

 よし!初球入れたぞ。

 二球目のボール球の内角からストライクゾーンに入ってくるスライダーを樋宮はミートしてきてバックネットに当たるファールボールになる。

 三球目はスローカーブがすっぽ抜けて外角のボ-ル球になる。

 ちっ、球数も自然と増えて行くのは厄介だな。

 かと言って打たせて行こうとしてヒットを打たれても意味がないぞ。

 勝負の四球目。振りかぶって投げ込んだ142キロのストレートが内角高めへ。

 樋宮はその球を思いっきり引っ張る。

 キンッ! と鋭い打球は三塁線上に飛んでいく。

 

「喜多村!」

「!」

 

 すぐに喜多村は反応して打球に飛びつき、見事にキャッチしすぐに起き上がってセカンドへ送球する。

 

「峰田ー」

「アウトッ!」

「ゲッツーだけはっ……」

「残念だけど、その願いは叶わないよ」

 

 峰田はセカンドベース上でボールを受け取り、スライディングをかわしてサイドスローで一塁へ送球する。

 それと同時に俊足である樋宮が一塁ベースを駆け抜けた。

 どっちだ……!?

 

「……ア、アウトッ!!」

「よしっ!」

 

 わああああああああああああああああっ!! とスタンドから歓声が沸く。

 よっしゃナイスプレー!喜多村、峰田最高だ!

 

「セカンド、サードナイスプレー!ツーアウト!バッター四番!」

「お願いします」

『素晴らしいプレーです!ノーアウトランナー一塁が一気にツーアウトランナー無し!ここで四番ショート、南が打席に入ります!』

『四番ショート南くん』

 

 南か。ランナー無しだったら怖いっていう打者では無いな。

 ツーアウトだし慎重かつ大胆に攻めて行く。

 一球目に内角へスローカーブでストライクを取ると二球目、三球目はスライダーでボール球。

 四球目に外角高めへストレートを南はカットをするように一塁側のファールにするものの、五球目の外角のボール球から入ってくるスライダーで見逃し三振に打ち取った。

 

「ストライク!バッターアウト!」

「よっし!」

「ナイスピッチだ。朱鷺」

「ああ。でも、あのホームランは正直痛いかもしれねえ。雨のせいにするのはやぶさかだけどな」

「…しょうがない。点取るぞ!」

「よし!矢部君、頼む!」

「任せるでやんすよ」

 

 頼りになる言葉を言い残して矢部君がヘルメットをかぶって打席へ向かう。

 一点取られたら取り返さないといけないからな!

 

『さあ、後攻の聖タチバナ学園高校の攻撃!俊足好打の成長凄まじい矢部が打席へ入ります!』

『一番レフト矢部君』

 

 矢部君が打席に立って構える。

 マウンド上は安定感抜群の変則アンダースロー投手早川あおい。

 振りかぶって地面スレスレから放たれるストレートが内角高めへ決まる。

 

「ストライク!」

 

 すんげー制球力。雨なのにも関らず、自分の持ち味を出せる選手は凄い。

 本当に完璧なコースへ投げ込んでくれれば、捕手もリードしやすいだろう。

 さらに一年前とは大違いだ。スタミナもしっかりとついて、球威も増している。バックに小井田妹がついているから全力で飛ばしていっても良いのが強みだ。

 二球目は外角低めへキレのあるカーブが決まって追い込まれる。

 そして三球目。

 あの高速シンカーが来ると思いきや、内角低めへストレート。

 その球を矢部君は思いっきり引っ張る!

 キンッ! と打球は三遊間へ鋭く転がっていく。その打球に小井田はいち早く反応し、飛び込んで捕った後にバックアップに入っていた南へグラブトスをする。

 

「南!」

「任せて!」

 

 素手でボールを受け取った南は一連の流れで素早く一塁へ送球する。

 さっきの樋宮と同じように矢部君が一塁へ駆けると同時にファーストに送球が到達した。

 

「アウトッ!!」

『す、素晴らしいプレーをいきなり見せつけます!鉄壁の三遊間……いや、もはや超えることのできないほどの三遊間のコンビプレー!』

「真奈花さん!ナイスキャッチ!」

「真奈花!オッケーだ!」

「褒めても何も出ないって、あおい!しっかりな!」

「うん!」

 

 やっぱり手強い守備陣だ。矢部君もうまく打ったし、打球も鋭かったけど小井田のところが抜けていたとしてもショートの南が追い付いていた。

 やはり投球の傾向も変えている。雨だから足場が安定しない分神経がそっちに向かてしまう。投手のスタミナの消耗も早くなってしまうからな。

 球数を投げさせたくはないのは俺達もあっちも同じ考えだ。

 ここぞというところで武器の高速シンカー……えっとみずきちゃんが言ってたけどマリンボール…だっけ?かを投げたいからな。

 

『二番センター川瀬さん』

 

 良いプレーが出て乗ってきているかもしれないけど、ここは塁に出てほしいぞ。

 初球は内角低めへのストレートを思いっきり准は打ちにいくけど当たらない。ノビがあるから低めにストレートを投げられるとどうしても感覚が狂う。

 もちろん初球さえ取れればあっちだって楽になる。

 二球目、三球目とゆるいシンカー、カーブといった変化球で追い込めば―――――。

 

「ストライーク!バッターアウトォ!」

『内角高めのストレート!ノビのあるストレートを当てられません!ツーアウトー!』

 

 この打ちにくいノビのあるストレートが待ってる。

 かと言って初球打ちすれば相手の思う壺にはまってしまい、鉄壁の守備陣が待ってる。

 攻略しなきゃいけないけど……時間が必要だ。

 聖も初球のカーブをうまく流し打ちするがラインの右に切れていってファール。

 二球目のゆるいシンカーが外角から曲がってくる球をこれも流し打ちして一二塁間へ鋭く転がるもセカンドの初野がうまくさばいてスリーアウトチェンジ。

 

『聖タチバナ高校!三者凡退!好投手早川あおいの立ち上がりを攻められません!』

「ドンマイな」

「うまく打たされた。投球のたびに守備位置を変えるのは当然だが、どこか引っかかる……」

「どこか?」

「うむ……確かに私はうまく流し打ちしたけども、抜けなかった。それに矢部の打球だって鋭く普通のチームだったら抜けていたはずだがサードの小井田が捕った。矢部は思いきったバッティングをし、真ん中から内角の球はほとんど引っ張りのはずだ」

「打者のくせによって守備位置を少し変えているということか?」

「恐らくそうだと思う。川瀬のときも外野は前目、ショートとセカンドがセカンドへよりに守っていてファーストはライン際、サードはショートよりと守っていた」

 

 俺達の打線のクセを見分けてシフトを敷いている上に内野陣があの守備力。

 なるほどな……そりゃあ夏の大会わずか二失点しかしないわけだ。しかもあかつき以外のチームには無失点だ。

 ふう、それでも点数は取らなくちゃな。

 聖の足にレガース付けて俺はマウンドへ向かう。

 この回は五番の小井田から。これまた厄介な打者から始まるな。

 プルヒッターながらも逆方向へ流し打ちもしたりと打撃に関しては良く分からないが、引っ張り方向の打球が多いことは変わりない。

 ただ、こいつの厄介なところは粘ってくるというところだ。得点圏にランナーが居れば確実にモノにする。というより夏ではこの小井田の打点が一番多く(得点圏の打率は南だけど)、決定打も出ていたのがこいつだ。

 女とは思えない打撃だからな。甘い球は禁物だ。

 聖からのサインは外角へスライダー。ストライクからボールになる変化球か。

 頷き、振りかぶって投げる。

 ボールは雨を切り裂き、途中から変化をして聖が構えたミットへ決まる。

 

「ボーッ!」

「……ふぅ」

 

 っと相手もギリギリで見逃してきたか。初球は打ってくるのかと思ったけど、見てきたか。

 後ろのポケットに入れているロージンを触りながら聖が返してくるボールを受け取る。

 塁に出しても良いのだが、今日の調子、グラウンドの条件からしてミスは起きる。そこを突かれたくはないから慎重に行かないとな。

 二球目は外角低めへストレート。これも外れて0-2になる。

 

「オッケーだ!もっと腕の位置を高く、逆側の腕の振りを意識!」

「おう!」

 

 腕の振りがちょっと甘くなってたからかな。

 もう少し意識すればいいボールがいくのかもしれない。

 

(内角へスローカーブ。打たせていこう)

 

 聖のサインに頷いてスローカーブをストライクゾーンへ投げる。

 小井田はしっかりと溜めて腰の回転をうまく利用してボールを弾く。

 鋭い打球が三遊間を襲いそのまま打球はレフト前へ頃が転がっていった。

 

『レフト前ヒット!恋恋高校、五番の小井田がスローカーブをうまく弾き返しましたー!ノーアウト一塁!六番の香川が打席に入ります!』

「よし!」

「ナイスバッティング!」

 

 やっぱり高速シンカーがないとここまで苦労するんだな。あの球がどれだけ自分にとって必要だったかを思い出させてくれる。

 ムービングファストはまだ使えない。聖の捕球がイマイチで偶にミスすることがある。

 この試合でのミスは試合に大きく影響を与えるから自重するのがベストだ。

 

「バント警戒!確実に一つ優先!」

 

 香川がバットを寝かせてバントの姿勢に入る。

 初球のストレートをうまくころがしてワンアウトランナー二塁。

 よしとりあえずここまではいい。

 七番からはしっかりと投げれば十分打ち取れる打者たちだ。落ちついていこう。

 七番の松岡に対して初球から内角へストレートを決め、二球目に外角のスライダー、三球目に外角高めへストレートを放り三球三振。

 

「よっしゃ!」

「ピッチャー!良い球来てる!」

「バックに打たせても良いでやんすよ!」

 

 ああ、守備陣には苦労かけるかもしれない。

 でもそこはみんなで守りきるぞ!さあ、ピンチはまだ続いているからな!

 

『八番レフト増田君』

「お願いします!」

 

 増田が打席に入ってバットを構える。

 そいつに対して俺は外角へスライダーを投げ込んだ。

 

「うりゃあ!!」

「なにっ!?」

 

 外へ逃げるボール球のスライダーを増田は強引にバットを出して、まさに気持ちでライト前へ持っていった。

 キィンッ!! と打球はライト前へを抜けていく。

 その打球にわああああああああああああああああっ!!!と観客は沸き、点数が入ったかのような盛り上がりを見せる。

 俺がホームのカバーへ走る間に小井田がホームへ走るのが見えた。

 

「黒豹!」

「よっしゃあ!!」

「ライトバックホーム!!」

 

 ガッツポーズをする増田が一塁へ走る。

 聖と俺の掛け声、そしてさらに他の守備陣が黒豹へバックホームの指示を出す。

 

「!!」

『抜けたー!ライト前ヒットー!そしてセカンドランナーの小井田がサードベースを蹴ってホームへ突入しに来るー!!!』

 

 まずい!小井田が勝負しにきやがった!

 鋭い打球を黒豹が処理してバックホームの体制に入って思いっきり腕を振って球が放たれた。

 まるで某野球選手のレーザービームのような送球は雨を切り裂いていき、ホームへ一直線に投げられる。白い糸にしか見えないほどの送球は一気にホームと線を結び、距離を詰める。

 

『ライト黒豹のレーザービーム!ホームベースへ一直線!』

「っ!!」

 

 バシッ! と聖のミットに突き刺さったと同時に小井田のスライディングで交錯が起きる。

 ブロックの体制に入った聖が吹っ飛び、小井田の体が聖の体の上に乗る。

 

「聖!」

「真奈花さん!」

 

 聖はゆっくりと立ち上がってアピールをする。

 自らのキャッチャーミットにボールが収まっていることを審判へ示した。

 

「アウトッ!!!」

『ア、アウトー!!!ライト黒豹の超レーザービーム!!!見事チームの危機を救いましたあああああああ!!!』

「や、やった!先輩!」

「ナイスプレーだ、黒豹」

 

 黒豹の頭をみんなが叩いて喜ぶ。ちょ、痛いですよ!とか言いながらも黒豹もつられて喜ぶ。

 わああああああああああああっ! と歓声が再び沸いた。

 こんな試合、絶対見ているほうは楽しいだろう。凄いプレーがすでに何個も起きているのだから。

 

「聖もナイスな」

「自分がやれることをやったまでだ。次は攻撃だぞ」

「おう、点数返すぞ!友沢、じっくり見て行け!」

「わかってる」

 

 友沢が打席に向かう。

 空を見ると未だやむ気配も無く薄暗く広がっている雨雲が見える。雨の粒も試合開始前とはかわって大きくなっているのがわかり、肌に当たって弾ける。

 やばいな……雨が強くなってきそうな予感しかしないぜ。

 まずは同点。そうすれば雨でもっと試合は分からなくなってくるし、ミスだって出て来る。

 自分のミスは取り返さなきゃいけないしな。

 

『二回表、聖タチバナ学園高校の攻撃はすでにドラフトナンバーワン候補とも呼び声の高い、友沢亮!高校生トップクラスを誇る打撃力を持つスーパープレイヤーが打席に入ります!』

『四番ショート友沢君』

「お願いします」

「外野バック!三塁打を二塁打で止めるだけで良い!早川!しっかりこいよ!」

「うん!」

 

 友沢が打席に入るとすかさず樋宮が外野に指示を送る。

 南が内野に若干深めに守るように指示を送り、長打警戒を呼び掛けてる。

 さて、あっちは長打警戒をかけているけどバッテリーは勝負しに来てるぞ。早川のマリンボールを連発してでも抑えて流れがほしいところだしな。

 流れは与えたくないぞ、友沢。頼むぜ。

 

「……」

「ふっ!」

 

 早川が振りかぶって内角低めに落ちていく高速シンカー……もといマリンボールを投げ込む。

 デッドボールコースから変化していくボールに友沢は見逃した。

 

「ボーッ!」

「早川!良い球来てるぞ!」

 

 ボールか。初球から打ちにくいコースをいきなり使いやがって……だが、あそこに変化する球は相当な制球力が必要だ。それほど雨でも自分のボールに自信があるのだろう。

 マリンボールはかなり厄介だけど、早川並のコントロールがあるともっと脅威になる。

 友沢はどう対応する?見せてくれ。

 早川は少し間をおいてから振りかぶって投げる。

 外角へ落ちていくマリンボール。それもストライクかボールか判断が難しいボールを友沢は迷いもなく振りぬいた。

 カキィィン!!! と風を切るスイングは快音を立ててボールを捉えるも惜しくもレフトへのファールボールになった。

 

「っ……」

「……ふう」

 

 早川の顔が変わった。武器であるマリンボールをたったの二球で捉えらたのだから驚くのも無理はない。

 友沢は一瞬、俺の方に顔を向けたがすぐに早川の方を向いた。

 そして早川が投げた三球目。

 球種は内角高めへのストレート。

 打ちにいくのには難しいコースに対して友沢は――――バットを寝かせた。

 ……セーフティバント。

 コンッ という音を立ててボールは三塁方向へ絶妙な力加減で転がる。雨だということも考慮してなのか少し強めのバントはちょうど良く小井田と樋宮の中間の場所で止まる。

 

「キャッチ!」

「任せろ!」

 

 小井田が間に合わないと踏んだのか樋宮に対してアピールし、樋宮はすぐに広いファーストへ送球するものの一塁へ先に到達したのは友沢だった。

 

「セーフ!」

『友沢!絶妙なセーフティバントで出塁をしました!まさに予想外!ノーアウトランナー一塁!』

「ナイスバント!友沢!」

「続けよ、朱鷺!」

「ああ!任せろ!」

 

 もちろんだ、自分のミスは自分で取り返すのが普通だ。

 このチャンスで絶対に点を入れるぞ!

 

「ちっ、無警戒だったな。しょうがないと言えばしょうがないが、友沢は足も速かったし次からもしあやに入れておかなきゃな」

「ううん、次抑えよう!」

「うっし、了解!あおい、頼むよ!」

 

 早川がマウンドに戻ってポケットに入っているロージンバックを触る。

 

「お前と対戦は初めてか」

「……よろしく」

「さすがそこらへんの打者とは集中力が段違いだな」

 

 そう言って樋宮が座ってミットを構える。

 ノーアウトランナー一塁。まずはランナーを得点圏へやった方が効率的には良い。

 バントはしないが、しっかりと右打ちを意識!

 バットを構えると早川が俺を睨み、モーションに入る。

 その時――――――

 

「ランナー走った!!!」

 

 ショートの南の声に反応し、俺はバントの姿勢になってバットを引く。

 早川も反応して外すと樋宮が捕ってセカンドへ鋭い送球を放った。

 捕球してからスムーズに弧を描くようなフォームから繰り出された送球はちょうど南が構えるセカンドベースの前。しかし、友沢がそこに滑り込む!

 

「セーフッ!!!」

『友沢の単独スチール!見事成功!ランナーは得点圏に進みます!』

 

 友沢速ええ。伊達に身体能力が高いわけじゃないな。

 あんまり目立たないから足の速さはわかられてないけど、むちゃくちゃ速いぞ。六本木と同等かそれ以上、盗塁ももっとしても良いくらいだ。

 友沢がベース上で親指を立ててグーをしてくる。

 ああ、ナイス盗塁。やっぱりお前は頼りになるぜ。

 

「おっけー!ノーアウト二塁!外野バックホームな!」

「おお!」

 

 樋宮から指示が飛ぶ。

 こいつはやっぱり捕手になって正解だと思うぜ。性格的にも経験からしてもあってる。

 ……っと、0-1だ。

 何で来るか。一球は見逃すか。

 早川が投じたのは外角低めに落ちていくカーブ。

 俺はその球にびくともせずに見逃した。

 

「ストライク!」

『抜群の制球力ー!外角へカーブを決めます、早川!』

 

 一度打席を外して屈伸してから再び打席に入る。

 歩くとぐちゃとなる泥まみれのバッターボックスを均して、バットを構えて視線を早川に向ける。

 早川が濡れたユニフォームで汗をぬぐいながら、振りかぶって投げた。

 外角低め、マリンボール。

 その球を俺は逃げるようにカットした。

 

「ファール!」

『朱鷺、逃げるようにカットしました!これは早川が上か!?』

 

 三球目はまたもやカーブを外角へ投げるがボールになって2-2。

 ほとんどのコースがギリギリストライクなんて信じられねーコントロール。

 でも――――打てない球じゃないよな?

 自分に問いかけた。

 

(ああ、もちろんさ)

 

 早川が振りかぶって投げる。

 内角高めへのボール球を俺は再びカットした。

 喰らいつく。打てない球じゃないのなら打てる。

 外野は若干レフトが右寄り、ライトが下がっている。ということは俺はライト方向への打球が多いと研究されているのか。

 でも、スタンドに放り込めばそんなものは関係ない。

 ザッ! と早川の足が地面の泥と砂の混じった地面に踏みこまれる。

 外角から内角低め気味に落ちてくるマリンボールを、

 

―――――俺は振りぬくっ!!!!

 

 テイクバックをして溜めた力をそのボールを叩くためだけに解放する!!!

 

――――――キィィンッ!!と打球は高々と舞い上がった。

 

 アッパースイング気味だったのか、打球は大きく高く上がっていきボールに雨が当たる。

 トップ回転が掛かったのにもかかわらず打球はずっと落ちない。

 そのままぐんぐんと伸びていき、センターの北条がフェンスにぶつかったのを見て、

 

――――――俺は右腕を空へ高く上げた。

 

『は、入ったああああああああああ!!!朱鷺修也の逆転ツーランホームラン!!!自らのミスをバットで取り返しましたあああああああああ!!!!』

「朱鷺君!!サイコーでやんす!!」

「朱鷺先輩!」

「ちっ、俺が打ってやろうと思ったのによ!!打ちやがって!!」

 

 数々の声援が俺に浴びせられる。

 むちゃくちゃ嬉しい。そして気持ちが良い。

 ……試合は振り出し、いやリードした。まだ気は抜けない、なんせ今日の俺は絶不調。

 それでも俺は俺にしかできないことをきっちりやる。

 勝つために、あかつき大と戦うために。俺は友沢とハイタッチをしてベンチへ戻っていく。

 南を見るといかにも苦しいという顔は全くしていない。

 気づいてる、あいつは俺の状態に気づいてる。

 高速シンカーを投げていないということ、ストレートが走ってないこと。

 

(さて、俺の投球と早川の投球。どっちが点を多くとられるか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――負けねえぞ。試合は……こっからだ。

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