実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
10月4週。
秋季大会は夏大会と同じくさまざまな会場で行われている。
例えば、頑張パワフルズのホーム球場である頑張市民球場。キャットハンズの本拠地であるまたたびスタジアムであったり、極悪久やんきーズの本拠地の極悪ガチンコスタジアムだったりと。
プロが通常、試合や練習を行う場所で高校野球の予選大会が行われる。
猪狩カイザースの猪狩ドームを除く五球団のホームスタジアムが使われるのだ。
聖タチバナと恋恋が激闘を繰り広げている中――――――――
――――――あかつきとバス停前高校も激闘を繰り広げていた。
場所はシャイニングバスターズの本拠地であるシャイニングスタジアム。
平均的な球場だがフェンスが柔らかく、球場に比例しておらず観客がたくさん入るというのが魅力の球場である。社長自身が野球についてはたくさん人がいれば楽しいという安易な発想で作り上げた球場だ。
バックネットにはいち早く甲子園優勝投手であり、立役者でもある天才投手“猪狩守”を見に来るスカウトがたくさん集まりスピードガンやらメモやらを用意している。
「……夏以来の公式戦か」
そのスカウト陣が目的としている猪狩守は息をスゥ、と吸って呟いた。
ベンチで座っている彼は夏とはまた別に大きくなって戻ってきているのがわかる。
甲子園の最多奪三振記録を作り、もはやプロの一流投手と遜色のないレベルまで成長しており、巷では世代別ナンバーワン投手などと呼ばれさらには“猪狩世代”まで呼ばれるようになった。
それでも彼は天狗にもならないし、油断もしない。
まぐれともいっていい試合で勝ち甲子園を決めた。
最後の最後までリードをされたあいつらを力で倒すまでは。
一回戦なんて余裕だ。負けられるわけがない、相手はバス停前高校だ。
――――――現実は違かった。
全力で当たっても抑えに行っても、点が取れなきゃ意味がない。
「ストライーク!バッターアウトォ!」
『六本木が外角高めのボール球を振らされましたー!!これで三振七個!マウンド上の結城夢人、これほどの投手がなぜ今まで出てこなかったのか!?あかつき打線を未だノーヒットに抑えています!』
「……148キロちゅーけど、150以上は出てるんちゃうか。眼がついていけへん」
「十二者連続三振の記録を作ったのも納得。当てられなかったら意味ないしなあ」
九十九と八嶋が呟くと六本木がヘルメットを外し、ベンチに戻ってくる。
悔しそうな顔をしてベンチに座るとグローブを片手に守備に備える。
「悔しいけど僕には当たりそうにもない。彼の球に僕のスイングスピードは追いつかないよ。でも…」
「でも?」
「あの制球力の悪さは付け入る隙だと思うよ?」
「ああ……それは一理あるね」
四条が四球で出たものの、八嶋がバントを空振りして三振となり六本木も初球のバントも空振るのを見てあかつきベンチはバントの指示を送るのをやめた。
ノビとキレ、両立させたストレート。
天性のストレートとも言っていい球は見事に日本刀で人を斬るように打者を三振に打ち取る。
バス停前高校のマウンドに立ち、あかつきの前に立ちはだかるのは、
――――――無名の天才投手“結城夢人”だった。
プレイボールと同時に投げた初球のストレートで142キロを投げたかと思えば、二球目に変化の大きくキレも申し分のない142キロのスラーブを投げ八嶋のバットを空に切った。
最後は147キロのストレートで三振に取って華麗にデビューを飾ったかに思えたが、次の六本木には簡単に四球を出してランナーを出すという不安定さを両チームに見せつけた。
「ボール!」
「オッケー!もっと投げ込んできていいよ!」
捕手の和泉原が笑顔で声をかけたが制球が振るわず外角高めのボール球を投げ、七井に4球連続のボール球を投げて四球となり、ランナー一、二塁になる。
一方で結城は無表情とも心の中では闘志に満ちているのかわからない表情で淡々と綺麗なフォームから抜群のボールを投げ込む。プレートの左端から投げ込むクロスファイヤーはストライクさえ決まれば左打者を簡単に斬っていく。
ただし、スピードガンに記録されているのは少なくともバス停前高校に居るような球じゃない。
プロでもお目目にかかれない球速表示だった。
「良くキャッチャー取れますね。僕じゃあ無理かも……」
進が悔しそうに呟く。彼も空振り三振に打ち取られていた。
キャッチャーは基本的に自分からサインを出して指示を送ったコースにミットを構える。
ピッチャーによっては逆球が行く可能性があるのでそれにも反応しなくてはいけないのだが、結城の場合はほとんどがキャッチャーのサイン通りにはいっていない。
キャッチャーにとって制球力のある投手はとてもありがたい。自分の思うとおりに試合運び、リードをすることができる。死四球での自滅は少なくなるし、打ち取るテンポも良くなって守りのミスが少なくなる。プロで制球力のある投手が活躍している選手が多いのはそういう面があるからだろう。
しかし、結城のストレートの球速表示がほとんど140キロ後半以上。ましてや150を超える球も来る。
それが思うコースに来なければキャッチャーも捕球するのが大変どころか、逸らしてもおかしくはない。その上あかつき打線が手強く、三振に切られているのを見るとよっぽどストレートにノビがあり、変化球も切れ味抜群の球でドロップカーブにおいてはワンバウンドがほとんどなのにもかかわらず和泉原は難なく捕球する。
プロでも荒れ球の投手はちらほらいるがその投手でも少しは構えた場所に行くことがある。
まさにそのタイプの投手。
ただ決まれば手の出ないコースに完璧に投げ込んでくる。
ギュオッ!!と154キロのストレートが外角低めぎりぎり一杯に決まる。
「ストライクッ!」
『三本松のバットは動かなーい!154キロのストレートが決まります!』
「ナイス!夢人!」
「おう」
「ぬぅ……手も出ない」
まさに豪速球。そう言わんばかりに繰り出されるストレート。
二種類のカーブを操り、どちらもキレ、変化量も申し分のない球だ。それが制球力が悪い投手ならなおさら球種が絞れなくなる。
唯一の救いは制球が悪いことであり、それが時には良い影響を与えるのだ。
「ボール!」
ズドッッ!!!と轟音がミットへ突き刺さる。
149キロのストレートが高めに抜けて1-1となる。そして立て続けに2球連続でボール球を投げて1-3。
結城にはいくらボール球を投げようと関係ない。
例えボール球を何球投げようとも、ストライクゾーンへ入れば、
「ふっ!!!」
「ぐっ!」
『ストライーク!140キロのスラーブが外角のボールゾーンからストライクへ決まります!!!三本松でも打てないのか!!?』
打たせないほどの球を持っているのだから。
三本松のバットが空を切る。いや、空を切らされてる。
「ラストボールだ。行くぜ」
ズバァンッ!!!と気合いに満ちた151キロのストレートが真ん中高めに決まる。
これで終われ、と言わんばかりに投げ込まれた球に三本松のバットは動きもしなかった。
『三本松見逃し三振!!これで結城夢人、八つの三振を奪う圧巻の投球を見せつけます!しかし、あかつきの先発猪狩守は未だ一塁ベースを踏ませていません!!』
三回裏が終了して未だ〇対〇。
猪狩はここまで一塁ベースを踏ませていなかったものの、打線が点を取れなければ意味がない。
結城は三回で三振八つ。四死球六個の投球内容。
猪狩のピッチャーゴロ以外、その他のアウトはすべて三振なのだ。
「とりあえず点は与えられないね」
「そうだな。しっかり守るとしますか」
「……」
猪狩はマウンドに向かう際にベンチへ戻っていく結城の方へ視線を向ける。
ベンチへ向かっても表情を変えないでおり、捕手の和泉原がちょっかいかけているのが目に見える。
ちょっかいを掛けられていても表情を変えない彼の左腕から繰り出されるストレート、スラーブ、ドロップカーブ。
(少しは楽しめそうだ……あいつと戦う前に負けてはいられないしな)
それにこんなところで苦戦していたらあかつき大付属の名が廃る。
猪狩はそんなことを想いながらマウンドへ立った。
ここにいるのはボクだ、という存在感を猪狩は見せつける。
『一番キャッチャー和泉原さん』
「うっす」
要注意人物の一人が打席に入ってバットを構える。
前の打席は三球とも見逃しで三振に打ち取られている。しかし、相手がどんな打者であろうと猪狩は関係無しに投げ込む。
糸を引くようなストレートがミットを目掛けて向かっていく。
「ふっ!!」
「っお!!」
キッ!!とバックネットにファールボールが当たる。
152キロのストレートがスピードガンに表示される。
『152キロのストレート!!この試合150キロを超えたのは初めてですがいきなり152キロを出します!!それについていく和泉原!』
「さすが、世代ナンバーワン投手。ついていくのが精いっぱいだよ」
「……打ってみろ。ボクから」
「面白そうだね。全力で行かせてもらおう!」
そう言って和泉原は打席を一番前に移動して足場を均すついでにバットを短く持った。
変化球にもストレートにも付いていくために考えたのだろうか。
猪狩はふぅ、と息を吐いてポケットの中に入っているロージンバックを触ってボールを握る。
雨はグラウンドの状態を悪くするが、猪狩の投球はまったくといっていいほど影響は出ていない。
振りかぶって猪狩はキレのあるスライダーを投げる。
その球を和泉原は三塁線へのファールにするも根っこに当たっていた。
追い込んだ後、釣り球で一球内角高めのボール球を見せるもまったく釣られない。
(こいつ……)
良い打者だ、と猪狩は少し笑みを浮かべながら思った。
和泉原の方はオープンスタンスに構え、猪狩から視線を逸らさない。
完全に集中している。猪狩からはそのように感じ取れた。
外角へフォークをコースいっぱいに投げたものの判定はボール。救われたという顔を和泉原はするもすぐに視線をこっちに向ける。
そして五球目。
猪狩が投じたのは――――――ライジクングショット。
当てるのが精いっぱいだった和泉原はフルスイングするが空振り三振に打ち取られた。
「しゃあ!!」
負けてられない。負けられるわけがない。
和泉原は悔しそうな、でもどこかで嬉しそうな顔をしてベンチへ戻っていた。
(ついムキになってライジングショットを使ってしまったか。……バカだな、ボクは。なぜこんな試合に使ってしまったのだろうか)
少なくとも気まぐれではない。
あるとすれば、一つ。
和泉原という選手が要注意という枠で収まっていなかったということかもしれない。いい加減な投球をしていたらスタンドへ持っていく能力はあった。スイングも発想も。
続く二番、三番をどちらも見逃し三振に打ち取って猪狩はマウンドを降りた。
「猪狩ナイスピッチング!」
「兄さん、良い球来てましたよ」
「ああ。点取るぞ」
「もちろん打たなきゃいけないナ」
七井が言うと五十嵐がもちろんよ、と言って打席に向かう。
そろそろ点数がほしいところ。あかつきのレギュラーメンバーもそのように考えていた。
あの投手をどのようにしたら打ち崩せるか。
どのようにしたら点数が取れるのか。
夏の甲子園覇者は考えることを一度たりともやめないのだった。
この秋も甲子園へ向かうために。
「……今年の甲子園覇者さんは気迫が違うねえ」
「彼らは甲子園に名を連ねる名門校の一つだ。昔から強かった」
「言ってるけどお前少しもビビっていないな~」
「この試合は“全力”を出してるから少しもビビる必要もない。名門校だからこそ一泡吹かせたい気持ちがあっただけだ」
よし、じゃあいくか、と尚はホームへ戻っていった。
あいつが受けてくれるから俺はこのマウンドで投げ続けることができる。
俺を受け止めてくれる。
『五番サード五十嵐』
いくぞ、あかつき大付属。
簡単には勝たせてやるもんか。俺の球で、絶対に打ち取る!!!
試合前のことを思い出す。
『ナイスボール!って言っても全力じゃないしね。まじで今日は良い方でいてほしいけど……』
『一言多いやつだ。俺もできたら毎回良いほうでいたいがな』
『この0か100しかできないノーコン投手め』
『イラつくやつだ。お前しか受けられないんだからしっかり頼むぜ』
0か100しかできないからお前が受けてくれたんだろうが。
いちいちうるさいんだよお前はっ!!!
「ストライーク!!」
『今日最速の155キロのストレートが内角低めに決まりまーす!!!五十嵐は手が出ない!』
「オッケー良いぞ!夢人!」
ふう、いちいちストライクが入ると安心する。
自分でもなんでこんなノーコン投手になったのかも分からないけど、尚が受けてくれるんだったら関係ない。
本気の全力でお前に投げるっ!!!
149キロのストレートが外角のボール球になる。
もっとストライクが簡単に入れば苦労はしないけど。俺の能力じゃあやっぱり全力で投げるだけが精いっぱいだ。
尚からのサインはドロップカーブか。
抜くような感覚で……。思いっきり腕を振れ!!
「くっ!」
「ストライク!!」
『129キロの落ちるカーブ!!この球速差もなかなか厄介です!』
お、うまく決まった。
それじゃあ、最後はやっぱりこの球。
しっかりと受け取れよ!!
俺は振りかぶって腕を振るう。俺には考えて投球することは合わない。
あんまり表情にも出せないし、無理にチームを盛り上げることもできない。
でも、やれることはある。
全力で投げて、抑えて、チームを勝利に導くことだ!!!
パァンッ!!!と尚のミットにストレートが決まった。
おおおおおおおおっ!!!と観客が沸いたのを聞いて俺はすぐさまバックスクリーンへ首を向けた。
――――――俺の最高速を更新した“157キロ”だった。
「「「うわああああああああああああああああああああ!!!」」」
『ひゃ、157キロのストレートで五十嵐が空振り三振に打ち取られました!!!結城夢人、天才投手ここにあり!!!』
「こいつ……」
「夢人!ナイスピッチ!」
球場が沸いた。
左投手歴代高校球児最速の157キロを投げたからだ。
真ん中高めに決まったストレート。コースは甘かったけど、俺は打たれなかったからまあ良かったと思う。というより、ストライクが入った時点で良いんだけどさ。
俺はバックスクリーンから振りかえって心の中でガッツポーズをしながらボールを受け取る。
「夢人!ワンアウト!」
「俺じゃなくてみんなに言えよ……」
「結城!ワンアウトな!」
「よっしゃ!!抑えろよ!」
「頼むぞー」
「打たせても良いからな!でも、ストライクは取れよ!!!」
「無理に決まってんだろ!!結城には無理だって!」
「あっ、そうか!っはっはっは」
(聞こえてるっつーの……)
いい加減に自覚してるんだから制球力に関しては言うなよ……。
それでも三振に切れば、みんなが声をかけてくれる。
嬉しい。
なによりみんなと戦えているのが嬉しい。
「ワンアウトだ、守るぞ」
「おねがいね」
俺が尚に声をかけると頷いてマスクを被る。
まだ序盤だ。油断はできない。
俺がやる仕事は相手打線を封じることだ!
『六番キャッチャー猪狩進君』
……弟の方か。一打席目は綺麗に粘られたな。
打撃も守備も一年生とは思えない。雑誌では5ツールプレイヤーとかなんとか言ってたような気がする。つか、足も速いのに二番に使わないってどうなんだろうか。
まずは外角へストレートか。
振りかぶって、腕を振って投げ込む!
「ふっ!!」
「ボール!!」
149キロのストレートが外角高めの明らかなボール球になる。
コース指定したって入らないんだから指示無いほうが良いと思う。
うん、でもお前が指示するならしょうがないかもな。
尚のサインはもう一度外角へのストレート。
ストライクゾーンをかすめた球は外角低めに155キロのストレートとなって尚のミットに決まる。
猪狩進のバットは空を切った。
「ストライーク!!」
「痛ったー……ナイスボール!」
(サイン出してるのに痛いと言われても困るんですが)
「凄い投手だ……」
三球目、四球目と猪狩進はドロップカーブとスラーブを見逃して1-3となる。
五球目に真ん中高めにストレートを投げるも猪狩進はなんとかバットに当ててきたが、セカンドゴロに抑える。
セカンドの花田が難なく捌いてツーアウトになる。
「夢人!ツーアウト!」
だからなんで俺にだけ言うんだって。
そんなことも思ってられるのは次の打者を抑えてからにしないと駄目だな。
『七番ピッチャー猪狩守君』
「お願いします」
そう言ってイケメンの高校球児――――猪狩守は打席に入った。
本来ならば五番にすわるほど打撃力のある打者。
そしてなによりも世代別ナンバーワン投手。これほど抑えたい打者は今の俺にはいない。
行くぞ、尚。猪狩守。
これが俺の全力ストレートだっ!!!!
「!!!」
ギュオッ!!!と唸りを上げる球がボール球の高めに決まる。
ズバァ!!!という音が響く。
0か100しか出来ない俺の全力のストレート。
俺が先ほど投げた157キロのストレートの時と同じぐらい球場が沸く。
「ボ、ボール!!!」
『158キロのストレート!!!猪狩守のバットは動きません!!!ボ、ボール球ですがこれは凄まじいストレート!!!打てるのか!?彼の球は打てるのかー!!?』
「……ふぅ」
ボールを受け取って俺はマウンドで少し空を見上げた。
もしかしたらこのまま〇行進が続いたのならば試合中止になるのではないかというくらい降る雨。
ぐちゃぐちゃと少しでは足踏みすると音が鳴るマウンド。
そして目の前には本気でおさえたい打者が居て、その後ろには本気で俺の球を受けてくれるやつが居る。
ポケットの中に入っているロージンバックに触る。
手が白くなるが雨のせいかすぐに濡れてしまう。うん、いけないことだな。
尚のサインは外角へのドロップカーブ。
俺は振りかぶって投げると120キロのドロップカーブが真ん中低めに決まった。
「ストライーク!」
『120キロの落ちるカーブ!この球速差はどんな打者でも厳しい物があるでしょう!』
よし、打者はタイミングが合ってない。さすがの猪狩守でも155キロオーバーは打てないはずだ。
相手は本職じゃない。俺はこいつを絶対に抑える。
続けて、スラーブがワンバウンドしてボール球。
制球が効かないのはある。いや、もともと効いてはないけど。
内角へ149キロのストレートが決まりこれで2-2。
よし、ツーストライクになった。
猪狩守の表情は全く変わらない。甲子園の奪三振記録保持者だし、俺達相手には焦りはない。
経験がモノを言うよな、やっぱり。
(夢人の全力で来ていい!尚が受け止めるからね!)
尚のサインは当然のごとくストレート。
――――――行くぞ、全力。
一度息を吐いてからゆっくり振りかぶる。俺の投法である体ごとひねってその力を一気に解き放つフォーム、トルネード投法。
二塁方向へ思いっきりねじり、右足を出した後から左腕が出てくる。
その力を生かして投げられるストレート。
俺は左腕を思いっきり振った。
まさに球場が揺れるようなストレートが尚のミットに突き刺さった。
――――――この時、尚はどのように思ったのだろうか。
目が凄く開いており、驚愕の顔に満ちていた尚を見て俺は少し驚いた。
今まで体験したこともない球だからか?もしくはストライクが決まったからか?
決まったコースはど真ん中で絶好球。
しかし、猪狩守は手が出ずにそのままボールを見逃していた。
バックスクリーンのスピードガンには、ただこの数字が並んでいた。
――――――160キロ。
「ストラィーク!!!バッターアウッ!!チェンジ!」
『な、なんと160キロのストレートオオオオオ!!!猪狩守手が出ません!!!いや、出ない方が普通でしょう!未知の領域160キロオオオオオ!!』
「「「「「わああああああああああああああああっ!!!!」」」」」
シャイニングスタジアム球場全体が沸いた。
高校野球どころか、プロ野球でも滅多に見られなかった160キロを叩き出した俺への声援。
あるいはバス停前高校にこんな投手が居たのかという驚きなのか。
雨の中、尚が見たのは、
――――――未知の領域に達した俺の球。
「ナイスボール!」
それは誰にでもない俺への声。
ものすごい歓声に包まれながら俺は出来るだけ反応しないようにマウンドを降りる。
本当はむちゃくちゃ驚いたし、喜びたい。表面に表せるほど、まだ実感が沸いてないんだ。
初めてこいつに受けてもらった時と同じように。
彼女は微笑んで、いつも通り俺にちょっかいをかける。
いつもは嫌だ、と思っていたそのちょっかいが少しだけ、ほんの少しだけ
――――――嫌じゃなかった。
白熱した投手戦はまだ続く。
先に得点したチームがこの試合勝つだろう。
王者あかつき大付属に対して俺達、バス停前高校は下剋上を起こす。
勝つぞ―――――尚。