実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
俺のツーランホームランの後に猛田がセンター前ヒットで塁に出るものの、喜多村が外角のカーブを打たされてセカンドフライ、峰田が内角高めのストレートでショートフライ、黒豹が真ん中低めのストレートで空振り三振に打ち取られた。
早川は打たれたって冷静だ。決して球に感情を表さず、冷静に打ち取っていく。
俺が打てた内角低めのマリンボールは次はさらに精度を上げてくるだろう。
本来ならばもう一つ分低めに落とし、ゴロにするつもりが雨で若干甘い球になった。仕方ないことなのだが、やはりこれも運の一つだと思う。
……我ながらあの球を打てたのに驚いたのだが。
「よし、しっかりと守るぞ!守備、しっかりな!」
「任せろー」
おう!、と守備からの声が響く。
マウンドに立つとすでに止む気配のない曇り空に覆われ、雨はすでに強い。
この状態だと五回にはグラウンド整備でマウンドとバッターボックス付近には土を入れるだろうから、時間は結構開くはずだ。
気持ちは五回に一度気持ちを変えられる。自分たちも相手も。
六回には注意をしておかなきゃいけないけど、それよりもこっちも注意だな。
『九番ピッチャー早川さん』
「お願いします」
九番の早川が打席に立つ。
打撃ははっきりと言えば良くはないけど、気持ちで増田にさっきは持っていかれたから油断はできない。甘いボールは投げちゃ駄目だ。
聖からサインを貰う。
それに頷いて、振りかぶり外角へストレートへ投げ込む。
早川は外角へのストレートを思いっきりフルスイングした。
「ストライク!」
おいおい、そんなスイングじゃあ当たらねーぞ。
早川はすぐに俺の方へ視線を向けてバットを構え、ボールに集中している。
……何が狙いだ?もしかして運よくバットに当たればヒットになるって感じか?
聖のサインは少し内角気味のスライダー。
内角気味のコースから外角へ変化していくスライダーを早川はまたもやフルスイングした。
「ストライク!ツー!」
またもや早川はすぐに構えなおす。
またフルスイングで来るか?じゃあ、特にストライクは投げる必要はないよな?
三球目に真ん中高めに142キロのストレートを早川は同じくフルスイングするも空振り三振に倒れる。
「ストライークッ!バッターアウト!」
「ピッチャーナイスピー!」
狙いは分からなかったけど、アウト取れたからよしとするか。
まだ打順は一番からか。厄介な打者に回ることは変わりない。
『一番センター北条さん』
「ふんふ~んふ~ん♪」
ご機嫌な感じで軽く頭を下げて北条は打席に入る。
こういう打者は一度乗らせると嫌だ。いつも以上の実力を発揮するようになるし、北条の場合は足も速いし、積極的に次の塁を容赦なく狙ってくるからかき回される。
このチームで一番塁に出してはいけない打者だ。絶対に抑えたいところだ。
さっきも失投をホームランにされたんだし、借りは返して置かなきゃいけないな。
(まずはストレートで様子を見よう。コースはどこでもいい)
振りかぶって足元のゆるいのも関係なくストレートを投げ込む。
外角高めへ若干ストライクゾーンに外れた143キロのストレートを北条はうまく流し打ちをした。
キンッ! と三遊間へ鋭い打球が抜けてレフト前へ転がっていった。
「っ!」
『初球攻撃ー!鋭い当たりはレフト前へ転がりまーす!北条これで今日、二打数二安打で一死一塁!s俊足のランナーが塁に出ました!』
「修也、ごめん。次抑えよう」
「ああ、大丈夫だ」
まじかよ、初球攻撃とはやられたな…。
しかも143キロは今日、最速のボールであり外角高めのボール球だぞ。打ちにくいコースを良く手を出せるよな。あのコースなんて、絶対来るってわかってないと手が出せないコースじゃないか?
ただの様子見のボール球のストレートを弾き返してきやがる。
積極的というべきか、なんというべきか。
当たり前だけどファーストストライクを打つのは効果的だ。打者有利のカウントであり気持ち的にも余裕がある。投手は必然的にストライクがほしいからな。
だから初球攻撃というのは結構気持ちにくる。組みたてようとしているところの球をヒットにされるのが痛い。
例外はいるけど、どの選手もファーストストライクの時の打率が一番高い。ということを考えるとどうしてもボール球にしたいけど、ストライクは絶対とりに行かないといけないからな。
俺みたいな制球力が良いとも悪いとも言えない投手はストライクはとりに行かなきゃだめだ。
『二番セカンド初野君』
初野は打席に入って俺の方に視線を向ける。
打席は一番前に立ち、バットも短く持っている。外角の球を狙うというよりは内角の球を詰まってゲッツーにならないように心がけているみたいだ。初野は足も速いし、ゲッツーはとりずらいけどこの場面は狙っていいはずだ。
だったら――――外角のストレート。
短く持ってるのは内角を意識している。わざと外角を投げさせるために短く持ってるとしても打撃に関しては初野は北条よりもうまくはない。綺麗に打てるかと言ったら確率には低い。
聖も同じようなことを考えていたらしく外角へのストレートのサインを出す。
俺は頷いて要求通りに外角ギリギリのストレートを投げると初野は振りかけるが途中でバットを止め、我慢した。
「スイング!」
「ノースイング!」
「ふぅ……」
初野が安心したように息を吐いて、バットを構える。
聖がアピールするものの判定はノースイングとなり、ボール球の判定で0-1となる。
微妙にコントロールが狂ってるから審判も広くは取らないみたいだな。シンカーが使えない分、ストレート中心で組み立てていきたいけど制球が定まらないのが痛い。
ギリギリのコースは大抵印象でストライクが決まるからな。俺が早川ぐらいのコントロールがあれば今のコースは取ってもらえたみたいだけど残念ながらそこまでの力はない。
二球目の内角へのストライクからボールになるスライダーを初野は見逃す。
さすがに内角狙いと入ってもボール球を打ちには来ないか。
0-2で俺らが不利なカウントに加えて雨だぞ。さて、聖からのサインは……。
(低めにストレート。ストライクを入れてこい)
俺はサインに頷いてセットポジションの構えに入る。一塁は俊足の北条だし、聖は取ってからのスピードは高校トップクラスだろうが肩は決して良いというわけではない。
クイックで北条を牽制しながら足を上げた瞬間に、
「ランナー走った!」
友沢が北条がスタートを切ったのを声を出して伝える。
エンドランか?スチールか?とそんな考えが過ぎったものの低めにストレートを投げた。
外角低めのストレートを初野は踏みこんで北条のように流し打ちをする。
北条のスチールを警戒していた友沢がセカンドベースに寄っていたのもあって大きく開いた三遊間へ鋭い打球が転がる。
『三遊間を破るレフト前ヒット!大きく開いていた三遊間へ狙い澄ましたかのようなバッティング!恋恋高校エンドラン見事に成功!一、二番の連続ヒットで一死一二塁!二回裏、得点のチャンスに勝負強いと評判のクリーンアップへ打順が回ります!』
「タイム!」
「やっぱりカウントが不利だとストライクを確実に取らなきゃいけないからきついぜ。ボール先行したらどうしても外角へ放らなきゃいけないからそこを痛打されてる」
「いや、あそこ以外に投げるコースが無かった。カウント的にも球種的にも」
「高速シンカーは使えない。それを考慮して組みたててるけど、スライダーはなんとか大丈夫だけどスローカーブはストライク入るかわからない」
「ストレートもお世辞に走ってるとは言えない……」
「打たれてるのは全部外角だよな?一回にも打たれたから、もしかしたらリードの傾向と球種の関係上読まれているのかもしれない」
「うむ」
「二点やっても良いから三点目は防ごう。ランナーはどっちも俊足だし、ワンヒットで帰ってくる。二点なら後でも追い付けるはずだ」
早川を早めに引きづり下ろせればまだ点差は三点だって、四点だって取れるはずだ。
早川がこのチームの一つの柱でもある以上、下ろせば相手にプレッシャーを与えることができるはずだ。
逆にいえば早川を打ち崩せなければ試合は俺がやられる。だったら、先に点数を与えてやって王天海の方がやりやすい。まだ試合が始まったばかりだから余裕はある。
「攻めるぞ。内角へ投げ込んでいこう」
「了解!任せたぞ、聖」
聖は頷いてマスクをかぶりながら、ホームベースの方へと戻っていった。
タイムが終わったみたいで六道さんが戻ってくる。
樋宮君がそのまま打席に入った。
一死一二塁の大チャンス。朱鷺の状態が良くないだけに橘さんや宇津君に変わられるのは困るから、ここで出来るだけ得点を稼いでリードしておきたい。
相手打線は爆発したら手のつけられない選手が多すぎてあおいちゃんでもかわせないかもしれないから。
「紘人君、作戦はこのままでいいか?」
「うん、よろしく」
僕は真奈花さんにそう伝えるとベンチにも伝えてくれるみたいだ。
樋宮君が僕の方を見てアイコンタクトして頷く。作戦はこのままでいくよ、力強くよろしくね。
僕がみんなに指示したのは『フルスイング』と『外角の球を打つ』という二つのことだった。
試合序盤は朱鷺の調子が悪くても点数は取れないかもしれないと思っていたけれど、北条さんのソロホームランを見て変わった。
――――――『打ち崩せる』と。
失投はおそらく高速シンカー。この雨に加えて朱鷺の調子も悪くて、高速シンカーを投げれないとなれば最速が150近くのストレートを持っていようが上位打線は打てると踏んだ。
下位打線には対応できないかもしれないけど、そこのところはあきらめるだけ。元々、相手の能力は高いわけだからついていけないのは承知している。
そこで二つの作戦が生きてくる。
『フルスイング』は当然のこと。どんな球が来ても思いっきり振りぬくことで相手に迷いを生じさせる。例えそれができなくてもバットに当たれば鋭い打球が転がるかもしれないから。
『外角の球を打つ』というのは相手のリードの傾向上、決め球の使えない朱鷺はストレートやスライダーを外角に決めるのがパターンになる。フルスイングと合わせれば相手が何かしてくるのだろうかという迷わせて、外角攻めになった球を打つ。ただこれだけだ。
たった二つ。それだけで打ち崩せるわけがないが、チャンスさえ作ることができればこのグラウンド状況。そしてクリーンアップの勝負強さなら得点を奪える。
「フルスイングと外角の球を打ちに行こう。そうすれば朱鷺を打ち崩せる。それぞれ工夫して外角へ投げさせるようにしても良いし、外角のボール球を打ちに行っても良いよ」
ボール球を打たせるのは正直迷った。スイングを崩す可能性あるから出来るだけそんなことはしたくはなかった。
勝つためだったら僕ははっきりと決断する。
“聖タチバナ学園高校”に勝つために。
朱鷺が振りかぶって投げる。樋宮君が内角のストレートを思いっきりフルスイングした。
「ストライーク!」
「オッケー!タクミ良いぞ!」
リードの傾向を変えてきたかもしれない。内角中心に攻めていって最後に外角で決める感じかな。
樋宮君は右打者だし、スライダーは内角にも外角にも投げてきそうだ。揺さぶりをかけるのにはもってこいの球種であって変化球の中では一番ストライクを稼ぎやすい球。
足を上げて朱鷺が投げる球は僕の予想通り、内角へスライダー。
樋宮君は腰を引いて見逃した。
「ストライク!ツー!」
うーん、やっぱりリードに定評がある六道さんだ。
一気に傾向を変えてスライダーを外角じゃなくて内角に決めさせる。外角だったら恐らく樋宮君の力と打撃力だったら長打コースだったと思う。打撃に関してはチーム一と言ってもいいくらいだから。
最後は何で来る?ストレート?スライダー?スローカーブ?
いや、樋宮君と六道さんの考えは完璧に一致した。
ここで投げる球といったらあれしかないじゃないか。
さあ、次は僕がつながないといけない。この回で一気に打ち崩して、試合を有利に進めよう。
あおいちゃんには楽に投げさせて、相手打線があってきたところで響ちゃんに交換していけば問題はまったくない。
朱鷺が振りかぶって投げ込む。勢いよく投げた後、右足が高く上がった。
樋宮君がテイクバックをしっかりと取ってその球を打ちに行く。
キィィン!!と金属音が球場全体に響いた。
(何を話してきたんだ。まあ、恐らくここは勝負だろう)
樋宮はそう思いながらバットを構えて打席に立つ。
まだ二回だが一点差でランナー一二塁のチャンス。修也達にとってはピンチであっても、チャンスでは無い。
しかし、樋宮にとってはピンチでもあった。
修也の決め球の高速シンカーを使えない場面で北条、初野が外角の球を二連打。流れは恋恋のほうにきているものの相手のリードを読み切った連打であって、その後のタイムによって配球を変えてきたりしたらチャンスは一瞬に灰となり消えてしまう。
この場面をモノにして早川を楽にさせたい。ただその想いで樋宮は視線を朱鷺に向けた。
聖は何を考えているのか、樋宮は何を考えているだろうか。
何を投げてくるだろうか、何を狙っているだろうか。
互いの読み合いが交差することはお互いに認識している。
このチャンスをモノにしたチームが、このピンチを乗り越えたチームが勝ちに近づくことができる。六道がマウンドから降りてきてマスクを被る。
(一打席目は内角高めのストレートを鋭いサードゴロでゲッツーを喰らったんだっけ。外内外内の順番だったよな。明らかに他の人でも外から入ってるし、高速シンカーが使えないということがかなり効いてるみたいだ。ということはこの場面は外角低めのストレートでストライクを取るという選択が一番ありえる。ライトに強肩の選手もいるし、なによりセカンドの守備範囲なら完璧に一二塁間の間を打たなきゃゲッツーが取れると踏めるしな……しかし、さっきのタイムで配球を変えてくるとしたら内角から入る。二択だけど、相手の調子を見極めれば初球スライダーで外角に投げてくる可能性だってないわけじゃない。外角でも内角でも一球目はフルスイングだ)
(修也の気持ちも考慮して見ればストライクが欲しいところだ。しかし、普通の打者なら外角二連打された後、内角がくる可能性が高いと踏んで居ればヒットにするのは難しくないぞ。ましてや樋宮は打撃も良いし、捕手ということも考えれば……いや、ここは内角にストレートを入れてみよう。修也の球なら詰まらせることもできる)
聖は修也に内角のストレートを要求する。
要求通りに決まった141キロのストレートを樋宮はフルスイングで迎え撃った。
聖のミットにボールが収まる。
「ストライークッ!」
迷いのないスイングをした樋宮を見てボールを朱鷺に返した。
樋宮は再びバットを構え、聖はしゃがんでサインを考える。
(初球から思い切ったスイング……この場面にこの点差でしてくるということはまさか読まれているのか?いや、簡単にリードを読まれるということはないはずだが……チームバッティングする樋宮としてはこの場面は二死二三塁で南に回したいと思ってるはずだ。しかし、ただこっちの判断を鈍らせるためだけけのフルスイングだとしたら外角のスライダーかストレートは禁物)
(内角に決めてきたということはリードの傾向を変えてきた。コントロールミスという可能性は今の朱鷺の球からしてありえない。さてと、こっちの作戦が読まれているのだったら外角の球は来ない。が、裏をかいてくれば外角の球だ。スローカーブは内角に来ても外角に来ても打ち返せる。スライダーかストレートだったら……まだ読み打ちは出来ないな。一球見逃すのが得策か?……チャンスで南に回したい)
(セオリーで行けば内角の後は外角。……私のリードは読まれているから常識的なリードをしていたのがここになって影響が出てきた。修也には申し訳ないことをしてしまったが……だったらもう一度内角に決めて追い込んでやればいい)
修也が振りかぶって投げる。
キレのあるスライダーが内角のボールコースからストライクへ変化していく。
その球を樋宮は腰を引いて見逃した。
『非常に良い球!内角のスライダーが決まります!』
「ストライク!ツー!」
「……」
樋宮は一度打席を外して、素振りをするのを見て聖は朱鷺へボールを返す。
ここで抑えれば、ここで抑えられれば。お互いの思考はさらにヒートアップする。
カウントは2-0。打者として追い込まれた樋宮は予想以上に追い込まれていた。
だが案外追い込まれていたのは聖の方でだった。
(……っ、見逃してきたのか?いや、手が出なかった?狙いを変えていたのなら内角のスライダーは手を出していたはず。まだ外角が狙いか?それだったら初球の内角のコースは見逃してるはずだ。追い込んだ……でも打者は樋宮だ。進塁打のために打ってくるんだったら外角は必ず手を出す。だが……狙いは外角だったらヒット以上の結果は避けられないぞ……)
(内角のスライダー……完全に攻めてきているが迷った末の策にしか思えない。……いや、俺も正直迷っている。内角攻めの後は基本的に外角だがチームで外角を狙っているのがきずかれた以上、狙いを絞れない。もう一度内角での三球勝負にくるか?)
一打席目の結果は内角高めのストレートをヒットにしたことによって樋宮は内角で決めてくるということは無いと思っていたが、この配球により考えが変わった。
聖にとってここで欲しいにはゲッツー。
ならばひっかけさせることができる緩急をつけたスローカーブか、ストレートと同じ軌道から変化するスライダーの二つに絞られる。
ここで聖は先頭打者のあおいのフルスイングに気づく。
聖は相手打線は外角の球を狙っているのは確信に変わった。なぜならば先ほどの配球で見逃したということでなぜ初球はフルスイングはでたらめと気付いたからだ。
(もし、初球のフルスイングが本気だとしたら私は迷わされていた。外角の球は簡単に痛打されるわけじゃない。樋宮の初球のフルスイングが本気じゃなかったら……この回の先頭打者のあおいのフルスイングはどうなる?あおいの打撃は良くない上、フルスイングした意味がなくなる。本気で打つにも初球は見逃すはずだ。二球連続で内角を攻めて、外角に投げる布石のためだとして相手の初球の動きを考慮すると、遊び球はいらない。最後の球はこれしかないぞ)
(コースは絞れない。球種は恐らく詰まらせてゲッツーをとりたいからスローカーブかスライダー辺りだろう。……落ちつけ俺)
樋宮は一度頭の中を落ち着かせて切り替える。
南の指示に従うのも重要だが、自分で動くということも大切だ。
(俺が朱鷺をリードするならば内角二球連続の後の勝負球。ここまで外角中心の配球をしていて、相手打線が外角狙いに来ている。さらに初球はただのデマカセとわかったなら、遊び球はいらない。スローカーブにも対応できる打者にわざわざ投げるわけにはいかない。だったら……。南には悪いがここは指示に反して動く!)
誰が予想するだろうか。
この六道聖のリードが読み負けるということを。
――――――内角低めのストレート。
互いの思考が完璧に一致する。
修也が振りかぶって投げ込んだ球は完璧に制球されたストレート。
聖は読み勝ったと思いつつ、ミットを構える。
しかし、
――――――聖のミットには届かなかった。
樋宮がテイクバックをしっかりと取って打ちに行ったボールはキィィン!!と金属音が球場全体に響く。
打球はレフト方向へぐんぐんと伸びていき、やがてフェンスへぶつかった。
『打ったあああああああああああ!!! 樋宮の振り抜いたバットは内角低めのストレートを捉える!!レフト矢部の頭上を越える二点タイムリーツーベースヒット! これで一点、二点と入り逆転します!!』
「よっし!」
樋宮が二塁上でガッツポーズをする。
読み勝ったはずが逆に読まれていたのだ。
投げた球は決して悪くはなかった。ましてやこの悪天候であそこのコースに決めることができたのは修也の実力だろう。
内角三球連続で勝負するなんて誰が思うだろうか。常識的なリードで良かったと聖は思う。
(……素直に外角で良かったはずだ。今さら後悔しても仕方がない、切り替える)
「聖。大丈夫だ、次取るぞ」
「そうだな。うむ」
次の打者は恋恋高校で最も信頼されている選手。
一打席目は楽に打ち取れたが、この場面では脅威の打率を誇るだろう。
一度、屈伸して打席に入る南紘人を修也は見る。
(こいつを抑えれば流れを止められる)
(ここで打てば流れはこっちに傾く)
考えることは同じ。
ただ相手を倒す為に集中することだけだ。
(初球ストライクを取れば抑えられる)
(初球を打つ)
聖のサインに修也は頷き、振りかぶって投げる。
コースはギリギリ低めに決まるストレート。
南には何も見えない。見えるのは白い景色と唯一つ写っている硬式ボール。
上向き回転している綺麗なストレート。
今日最速の148キロのストレートは南にとって決して早く感じず、むしろ遅く見えた。
一番長打にならないコースに、一番良い球を投げた。
それを苦にもせずに南は、
――――――捉えた。
ッキィィン!!!と金属音が響いた。
南はフォールスルーの直後にバットを投げてしまうほどに完璧に捉え、打球は大きな弧を描く。
ぐんぐんと伸びていくボールは雨を切り裂き、ライトスタンドへ飛び込んだ。
「っしゃー!!!」
「南くん!ナイスバッティン!!」
「紘人君!ナイス!」
「先輩!」
ガッツポーズしながらベースランニングする南の姿を修也はみる。
重く、大きい二失点。
『行ったあああああああああ!!! ライトスタンドに飛び込むツーランホームラン!! これぞキャプテン!! この回4点目!! 五対二!!!!』
「……っ、すまなかった」
「……聖。みずきちゃんを完璧にリードできるか?」
「修也!!もしかして、」
「俺がライトに行って黒豹をベンチに下ろしてみずきちゃんをマウンドにあげる。心配そうな顔をするなって、またマウンドをにあがって見せる。逆転して勝つぞ」
「……ああ、もちろんだ!」
『ここで聖タチバナ学園高校のシートの変更を申し上げます。ピッチャーの朱鷺君がライトへ、ライトの黒豹君が下がって、マウンドに橘さんが入ります。九番ピッチャー橘さん、五番ライト朱鷺君となります』
「聖の判断だ。みずきちゃん、よろしくね」
「聖の?……まあ、任せなさい。久しぶりに投げられるんだから張り切っていくわよ」
「うん、頼むよ。リードの方もよろしくな」
「うむ」
『三回満たずに五失点!!朱鷺、立ち上がりを打たれリードを許してしまいました!ここでピッチャーの交換です。朱鷺、マウンド降りてそのままライトへ入ります。リリーフに早くも守護神である変則サイドスローの橘を投入してきました!』
『五番サード小井田さん』
聖のサインにみずきは頷き振りかぶって投げる。
内角低めにクレッセットムーンが決まり、ストライク。
二球目に外角低めにストレートを決めて追い込んだ後、外角高めに見せ球で2-1。
最後は内角低めにストレートで小井田のバットを空振り三振に取って見せた。
「あのコースはさすがに打ちにくい……!」
「はいはーい!ツーアウト!しっかり守りなさいよ!」
(さすがみずきちゃん。制球力があるからしっかり立て直せるし、思い通りに投げれることが多い……腐っちゃだめだ、俺には俺の武器がある。まずそれを理解しない限り、あいつとは戦えない)
みずきは六番の香川をセカンドゴロに打ち取る。
三回表を終わって五対二。
三回裏の聖タチバナ学園高校の攻撃。
先頭の矢部が初球のカーブを打たされてファーストゴロ、二番の川瀬は何とか粘ってフォアボールで出塁するも、三番の六道が2-1からのマリンボールをショートゴロのゲッツーに打ち取られて無得点。
恋 104
聖 020
片方はエースが降板し、片方はエースがマウンドに立つ。
恋恋高校が鉄壁の守備陣でこの三点のリードを守り逃げ切るか、聖タチバナ学園高校が自慢の打撃力でひっくり返すか。
お互いの実力が試される……!