実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第三十話 11月1週~“未来へ続く道にあるものとは”

『東條のバットが空を斬ったああああ! 山口のフォークが鬼の如き冴えわたります!』

 

 パワフル高校VS帝王実業高校。

 好投手がぶつかり合い、一方は攻撃型のチーム。一方はバランス型のチーム。

 二つの竜巻がぶつかり合うかのように強豪校が闘志を燃やして戦っていた。

 右の本格派同士の投げ合いにより引き締まった試合になっており、下馬評ではパワフル高校が優位とみられていたが山口の投球の精度が格段に上がっていて、特にフォークのキレが抜群だった。

 一方、鈴本の投球も負けていない。

 スライダーでもシュートでも、すべての球を自由自在に操り巧みな投球で抑える。

 特に決め球のナックルの落差とストレートの球速差を生かしたコンビネーションはタイミングを外すどころかバットまで空を斬る。

 七回まで互いの投げ合いは続き、やっと均衡が破れたのはパワフル高校の東條。

 低めギリギリに落ちていくフォークを鷹が獲物を捉えるかのように一点を狙ったスイングは見事にライトスタンドへ持っていきソロホームランとなり一対〇。

 だが、ドラマはまだ終わってはいなかった。

 九回裏に帝王実業は猫神がセンター前にナックルを弾き返し、すかさず積極的に二塁へ盗塁をして成功。新田から盗塁を成功させ、無死二塁となる。

 バントして一死三塁に進めるとここで今日、二安打を放ってた三番広上がレフトオーバーのタイムリー二塁打。

 さらに蛇島が外角低めいっぱいの147キロのストレートをライト前ヒットに弾き返して広上がホームインで、帝王がサヨナラ勝ちを収めた。

 

 敗退したチームは秋大会でやることは何もない。

 二年生として最後になる秋の大会で終わってしまったら三年生になるまで表舞台には出ることができない。

 突き進むだけ。

 そう、夏の大会まで、

 

 

 

 

――――――突き進むだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱鷺、入っていいぞ」

「あ、はい」

 

 

 季節は11月下旬へ差し掛かろうとしていた。

 俺達野球部の秋大会……新人戦と呼んでも良い大会は各部活も終えていて、地方大会へ進出している部活や全国へ出場している部活もあり、そいつらはバタバタと準備や練習に勤しんでいて周りから見たら頑張っているという印象を与えていた。

 逆に敗退した部活の生徒の中には笑顔で何もなかったように登校してきて、「どうだった?」という問いに対し、澄み切った青空のような清々しい表情で負けたことを話したり、ましてや自慢してきたりした生徒もいた。

 体育祭&文化祭が連日行われたうちの学校で、野球部は練習に勤しんでいたので何もなかったというつまらないとも言えたものだった。まあ、来年はみんなでやるつもりだけどな。

 ドラフト会議が数日前に終わり、今年は不作と言われいたのも事実だった。

 しかし、プロ野球界はかなり盛り上がっていた。

 あかつき出身の一ノ瀬さんと二宮さんが新人賞をW受賞。

 防御率2.14、2勝3敗41セーブという抜群の成績で守護神の座を守り抜き、最優秀救援投手を獲得した一ノ瀬さん。

 打率.309、11本72打点の成績で不動の六番キャッチャーで、ベストナインを獲得して活躍した二宮さん。

 カイザースとバスターズの接戦で最終戦まで持ち込んだ試合。

 今やメジャーも注目しているバスターズのエースの藤堂選手が中二日の中でも八回無失点でマウンドを降りたが、カイザースのドリトンがサヨナラホームランで優勝を決めた。

 藤堂選手は入団から六年連続2ケタ勝利で、日本代表でエースを務めた28歳。

 今年は投手五冠を達成し、もはや国内無敵と言われているほど。

 最速157キロ、抜群のコントロールに加え代名詞の高速スライダー。多彩な変化球も操る天才投手で二宮さんも受けるのが大変と言ってるらしい。

 

 まあ、置いといて。

 今日は三者面談というわけだけど、いかんせん俺には親が今日本にいないことは担任の先生が知っているみたいだ。

 この時期にやるのは恐らく大学進学か就職かという相談だろう。うちの学校は大半が大学進学するけど、就職にも強い学校だからな。

 

「朱鷺。親は元気か?」

「あ、はい。元気だと良いですけどね」

「母親は心配なさそうだけど、父親の方だよな……手術は?」

「この前、やったらしいんですがまだ結果は出てないらしくて。少し経たないと結果がわからない病気なんですよ」

「そうか。心配だな……」

 

 担任はまるで親戚のように心配する。

 物静かな男だが、心は熱い先生と評判になっているらしく歳は28歳と独身なのが驚きだ。

 

「成績は大抵の大学は合格できるレベルだな。英語が得意みたいだし、野球も頑張ってる。何も言うことはないが、官僚大学とかは厳しいぞ。後は指定校推薦でなんとかできるし、帝王大学やあかつき大学はお前の野球の実力だったらセレクションでもなんでも合格だろう。だから進路に関しては……」

「先生」

「ん?」

「後で聖名子先生にも確認をとってもらいたいんですけど、一応話しておこうかと思います」

 

 俺は卒業後、アメリカへ行かなければならないことを担任に話した。

 話している途中に担任はうなづいたり、時には複雑な顔をしながらも関係無しに俺は伝えたいことだけを伝えた。

 一年後はもう、日本にはいない。

 甲子園に出ると言うも目標を掲げた以上、来年の夏しかチャンスが無いのは知っている。

 でも、自然と俺は焦らなかった。

 

「……そうか。お前はプロ野球選手になれる逸材だったかもしれないのにな」

「あはは……。聖名子先生にも言われました。……でも我が儘でここまでこれたんです」

「?」

「本当は高校生になるときにはアメリカへ行かなきゃいけなかった。母が『自分の夢、かなえるんでしょう?』って言ってくれて、俺のために、俺の夢のために一人で高校生活を過ごすことができたのは母のおかげです。だからこそ、潮時……いや、一緒に居なきゃいけない」

 

 スポーツ選手が体に限界を感じて引退するとはわけが違う。

 子供が大人になれば考え方も違ってくるはずだが、子供のうちは我が儘を言っていい。

 でも、もう大人になる。

 周りに合わせて生きていくこともどこかで必ずあるはず。

 それが、高校卒業の時なんだ。

 

「先生。友沢とかみずきちゃんとか聖はどうですか?」

「本当は話してはいけないけどな。友沢は『絶対にプロへ行く』の一点張りだし、橘も同じ。六道は『プロで共にプレーしたい人がいる』って言ってたからな」

「ま、すでにドラフト候補に入ってる友沢らしいっすね……。二人も相変わらずだなぁ。聖なんて一年前までは自信が無かったはずだけど」

「『私が変われたのは修也のおかげだ』って言ってたな。お前ら幼馴染なんだから、思い当たるフシはあるんじゃないか?」

「俺がですか? あいつはあいつ自身で変わったんですよ。たぶん、俺はその手助けもしくはヒントを与えてあげただけだと思います」

「……後は、夏だけだな」

「そう、っすね」

 

 秋大会。

 決め手になったのは樋宮のソロホームラン。

 昨年復帰したとは思えないスイングはスカウト陣の評価を上げるほどだと聞く。

 その後、恋恋高校はあかつき大付属高校と戦い2-0で完封負けを食らったものの、八回まで猪狩と早川の投げ合いが続いた投手戦になった。

 最終回に恋恋高校は二死一、二塁のチャンスを作り、四番の南に打席回った。

 三球目のストレートを完璧に捉え、同点かと思わせたが、ショートの六本木のファインプレーに阻まれた。抜けていれば同点という惜敗した恋恋高校だった。

 

 俺の失点、ふがいない投球さえなければと何度も思った。

 雨という悪天候の中とはいえ武器が使えない投手を攻略するのは難しいことではない。制球力がそこまで良くない投手ならばなおさらだ。

 スライダーもスローカーブも決め球としてはまだまだ不十分に過ぎない。雨が無ければ、高速シンカーで打ち取ることもできたし、三振を獲りに行くことができたから良かったけどそれすら使えないというとなるとストレート中心の配球になってしまうのも無理はない。

 聖を責めることもできるわけがない。

 歯をギリリッ、と音を立てながら食いしばり歪んだ表情をしていたのだろう。俺に担任は話しかけてきた。

 

「俺も高校まで野球やってたんだ。一応、三年間エースで二年生から四番を打ってた」

「そうなんですか? 初耳です」

「出身は違うけど。しかも、俺が入ったのは人数もギリギリで顧問も放任主義な上に試合もまったく指示を出さない人だったから大変だった。結局、予選ベスト8まで言ったけど最後は優勝候補に完敗だ」

「はぁ……」

「投手はグラウンドの中では一人だよな。一人で打者に向かって勝負して結果出すのが仕事。投手ってのはそういうポジションだ。俺は思うんだ」

 

 一呼吸を置いて、担任がゆっくりと口を開いた。

 

「投手は自己中心じゃないとできないポジションだ。だから、少しくらい我が儘を通しきっても良いんじゃないかと思う。だって常に一人なんだからな、あの円形上のてっぺんにそびえたつのはたった一人だけ、例えどんなときでも」

 

 何かを思い出すかのようにに担任は話した。

 それが野球部に居た時なのか、引退した後なのかはわからない。

 でも、確かに説得力はあった。

 そこまで長々しくもない言葉に俺は少しだけ頭に焼き付けられたかもしれない。

 

「最速149キロか。冬場に鍛えれば150キロ超えるし、あの高速シンカーももっと鍛えられる。今は制球は不安定かもしれないけど、高校生ってのはすべてを求められるわけじゃない。自分がやりたいことをやって、好きな部分を伸ばしていいんだ。口うるさい指導者も居ないから自分で試して、自分で解決する。それが一番伸びる方法だぞ。頑張れよ?」

「あ、ありがとうございます。なんか先生野球に詳しいですね」

「ん? 俺? だってあかつき大付属中、帝王実業高校、パワフル大学って野球してきて、恋恋高校でソフト部の顧問やった後にここに転勤してきたんだからな。そりゃあ、詳しいのは当然だ」

「ま、まじっすか!?」

「何か聞きたいことがあったらぜひとも聞いてくれ。甲子園、行くんだろ?」

「……もちろんです! 絶対に俺達が来年の夏は頂点に立ちます!」

「頑張れよ」

 

 俺は一礼してから席を立って、教室の扉を閉める。

 あー、ちくしょー。来年の夏は頂点に立つって言っちまったー……。

 出来なかったら恥ずかしいけれど、まあやるしかないな。

 

 まず改めて俺がどんな投手を目指すか考えなきゃいけない。

 本格派と言っても猪狩みたいなキレのあるスライダーとノビのあるストレートを持った典型的な投手や、鈴本みたいな緩急を使う技巧派に近い本格派だっている。まぁ、猪狩や鈴本は全国の五本の指に入るくらいすべてにおいてレベルが高いしな。

 軟投派と言ったら早川とかだな。

 早川の場合は軟投技巧派って感じで二つのタイプを重ね合わせた投手だし、ストレートも十分に早い。

 

「くそっ、すぐに俺が目指すべきタイプを見つけてやる」

 

 それに試したい変化球もある。

 いや、高速シンカーを改良した球なんだけど、今のままでは恐らくこの地区や甲子園通用しない。

 高速で変化するスラーブのような球を逆方向へ変化させた球だ。

 基本的にオーバースローからのシンカーは縦回転のほうが大きいから落ちる感じなのが多い。実際早川は縦回転が大きい高速シンカーだけど、回転数が多いから変化量が大きい。

 みずきちゃんはサイドから投げ込むから縦回転の球が投げにくい。クレッセントムーンは横変化の方が多い。サイドスローは横のストライクゾーンを広く使えるから、フォームに最も合ってる変化球だ。スライダーも然り。

 かと言って、投げたい球はシュートとは違う。

 あれはまあ、人が投げる球だし重力によって落ちるのは当然だけどスライドするっていう表現の方が正しい。鈴本や久遠が投げてるのがそれだな。あいつらはスライダーもしっかり投げられるから左右に揺さぶれる。おまけに久遠はスライダーが抜群に凄いからさらに有効なんだろうな。

 ……水無月のは別格すぎて、良く武器に出来るよなって感じだ。

 速さを求めすぎると変化量も減るからバランスが大事なんだけど、高レベル以上のバランスでできてるからな。誰かから学んだじゃないかってくらい出来が良すぎる。“カミソリシュート”はやっぱすげーわ。

 シンキングファストは手元で利き腕方向に若干しずみながら微変化するストレートの一種だから違う。

 結局、今のところは机上の空論だけど実現させられれば。

 スラーブの逆方向への変化で、

 

 

――――――もっと凄い投手になれる。

 

 

 ストレートだと思って振りに行った球が変化して空振りが取れるようになる。コースぎりぎりに放った球でボール球にして空振りを誘うこともできる。

 高速シンカーで落ちるほうが良いっていう人が居るかもしれないけど、俺はこのほうが良いと思ってる。

 やりたいと想った事はやる。

 駄目だったらまたやり直せば良い。

 そうして俺は一歩一歩進んでいけばいい。

 廊下を歩きながら、心の中で強く思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川瀬准は今日も、夜遅くまで素振りをしていた。

 練習が終わった後にすぐ家に帰って、夕飯を食べて勉強をした後の十時ぐらいから約一時間弱。

 素振りを行っていた。

 パワーが足りないと自覚していた夏の後はひたすらランニングし、下半身が安定してきた頃に素振りに切り替え始めた。

 しかし、秋大会でのヒットはわずか一本。それもバントヒット。

 確かにチームではつなぎ役と言われる二番に置かれているものの、あまり打撃では目立った活躍はできていない。

 シニアの頃からチャンスには弱いと言われてきて、それでも三番を打っていたのを朱鷺が考慮してくれて上位打線においてくれた。

 期待にこたえたい。でも、できなかった。

 

(駄目だ……何度振ってもこの地区のエース達の球に打てる気がしない)

 

 本格派が多く、基本的な球速が高いこの地区の投手。

 140キロ以上の球をドンドン投げ込んでくるのに対して、あまりついて行けない。

 さらには三振を取れる球も持っている上、カットしたとしても捉えることはできない。

 

(どうしたらいいんだ……あたしには守備しかないのか。……でも、先輩達が抜けたらチームは)

 

 本格的にまずいことになる。

 友沢、朱鷺、猛田といった長打の打てる打者が消えてしまい、さらに陰で支えてくれている喜多村や峰田も居なくてはならない存在。

 生徒会メンバーもそれぞれ持ち味があり、ここぞという時に力になれる。

 なんといっても准にとっても、チームにとっても大きい存在が朱鷺だ。

 エースを張って、キャプテンでありチームを引っ張る存在が居るからこそみんながついて行けている。

 輝く存在。

 だからこそ、准は彼に惹かれていた。

 選手としてキャプテンとして、男として。

 

(あたしも何かできること。……チームに貢献したい)

 

 できることはないか。

 まだ、甲子園に行けるチャンスが残っている。

 あの人と、甲子園に行きたいという気持ちはだれよりも負けていない。

 雅先輩に甲子園で会って、戦うというのがもう一つの目標である彼女はゆっくりと考える。

 

(雅先輩は打撃も良かったなぁ。守備もうまくて、今も成長しているのかも)

 

 秋大会決勝でときめき青春は負けたらしい。

 あっちの地区は一チームしか出れないらしいが、結果は五対三。

 六回五失点という投球内容で青葉がマウンドおりて、水無月が残り三回をパーフェクトに抑えたものの打線がわずか六安打。水無月のスリーランのみで後は打てなったらしい。

 シニア時代の先輩でもっとも近かった存在だったのかもしれない彼女に少し嫉妬してしまう。

 可愛くて、野球がうまくて、それにショートという要を任されていて。

 そして器用な両打ち、まれに長打を飛ばすこともある……。

 

(……両打ち)

 

 思い当たる節があった。

 朱鷺が前にも左打者が不足しているということを言っていたのを准は思いだした。

 左打者。

 そう思った時に背中がゾクッ!と恐怖が襲った。

 両打ち、すなわちスイッチヒッター。

 左投手には右打席、右投手には左打席に入るという左右を苦にしない打ち方だ。

 例えワンポイントの投手が出てきたとしてもすぐに対応できる。

 でも、間に合うだろうか。

 夏までに、戦力になるまでに間に合うか。

 

(でも、やってみせる。左打者、不足しているならばあたしが少しでも補ってみせる!)

 

 波を打つようなスイング。

 准はそれに少しも驚きもせずに振り続ける。

 二年生の意地を見せ、少しでもチームに貢献したいという気持ち。

 それを突き動かしたのは――――――過去の憧れと現在の憧れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛田、友沢、聖、みずき、矢部の五人が放課後になってもグラウンドを離れなかった。

 最後の冬で誰にも負けない力をつけるために個性を伸ばし始めていた。

 

「橘、まだ甘い。腕の振りがゆるくなって、逆に棒球になってる」

「わかった! もう一球!」

「……猛田、コンパクトに振り抜くためにはできるだけ最短距離でバットを振り抜くことが必要だ。それができれば、ミート力を上げつつ、飛距離も落ちない」

「ああ! わあってる!」

 

 矢部は黙々と短距離ダッシュをこなし、友沢とみずきが共に投球練習を行い、猛田と聖が打撃練習を行って指導をしている。

 時には友沢がマウンドにたって猛田らに打撃投手になるなど五人が協力し合っている。

 友沢がマウンドに立つ。

 オーバースローから振りかぶって投げ込む球は140キロ台のストレート。

 それを左右に打ち返したり、時にはセンター前に弾き返す。

 最後にみずきがマウンドにあがってスライダーの感触を確かめているのだ。

 

 みずきはあの日、涙を流した。

 あくまで未完成のスライダーに頼った結果、甘く入ったところをスタンドイン。

 それだったらクレッセントムーンで結果ヒットでも良かった。

 練習量が、足りなかったのだろう。

 それが悔しくて学校のグラウンドに戻ってきた際に涙を流した。

 友沢が自分のことを支えてくれて、なんとか涙を止まった後に周りを見た。

 解散した後、一番泣いていたのが朱鷺だった。

 頭を下げて誰にも見られないようにしていたのが丸分かりであっても、誰も触れることの出来ない姿がチーム全体に移った。

 聖はそんな姿の時を見て、口を抑えて貰い泣きするくらいにもだった。

 雨、ボールが滑るといえばそうかもしれない。

 結果は負け。同じ条件での負けなのだから言い訳は許されない。

 

(……勝ちたい。絶対に勝ちたいぞ、私は。修也と共に甲子園へ)

(友沢がくれたこのスライダーと私をここまで投手として生きてこれた制球とクレッセントムーンで負けるわけにはいかないわ)

(俺が四番としての役割を果たさないわけに行かない……母さんと翔達、そしてチームのためにも)

(ぜってえ、負けねえ。東條にも猪狩にも、どのチームにも)

(この足でチームに貢献するでやんすよ……壊れるくらいに走るでやんす)

 

 最後の夏。

 それは長いようで短い。

 できるだけこのチームで長く過ごす為に、彼らはあきらめない。

 甲子園の覇者を目指して、一歩ずつ歩く。

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