実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第三十二話 5月3週 vsアンドロメダ学園高校 “終わりの無い道と終わりのある道”

 新入生の入部から一ヶ月が過ぎた。

 各高校の選手たちは夏に向けて調整を始め、練習試合などを行って冬で失われかけた実戦感覚や試合勘を養うようにする。

 かと言ってわざわざ同地区の選手と試合して、手の内を明かすわけには行かないので別地区の高校と練習試合を行っていくのだ。

 特に今年は俺達三年生の最後の大会ということもあるので準備を怠らないようにしていた。

 五月頭から始まった練習試合のお祭りで試合勘を養って行っている俺達。だが数試合行ったものの、手ごたえのあるチームとはなかなかお手合わせはできなかった。

 すべての試合を二桁得点に加えて完封。

 一年生トリオもその辺の高校でも結果は残してるし、涼なんかはチーム三番目の打率と友沢に次ぐホームラン数を記録している。

 そして今日、ようやく手ごたえのあるチームと戦うことができることが決まった。

 独自のカラーである紫を中心としたユニフォームに帽子のマークにはアンドロメダということもあってか星がついていて、その中にAのマークが刻まれている。おまけに全員が最新の先端科学技術によって作り出されたゴーグルを着けている。

 今日の相手は―――アンドロメダ学園高校。

 ここ四回の甲子園大会すべてに出場し、すべての大会でベスト8に入っている文句なしの強豪校の一角。秋の予選大会決勝でときめき青春高校と戦い五対三で勝って、甲子園大会へ駒を進めたチームだ。

 エースの神高、大西の好投手二人の実力は高校トップクラス。

 最速150キロにスライダーとカーブのキレは抜群で両方どちらでも三振を獲ることのできる変化球を持ち、制球力もスタミナもあってプロ即戦力クラスといわれている神高。常に四番に居座る打撃能力と高いフィールディング能力は雑誌にも載るほどの選手だ。もちろん今年のドラフト上位候補にも挙がっているはずだ。

 多彩な変化球を操る上にそれらの変化球は決め球にすることができると言われている大西。制球力に難はあるものの、ストレートも151キロを記録している。試合で百二十球を投げても尚、球威が落ちないと言われるスタミナは延長さえも完投を可能にするとも言われる。ドラフト候補にも入ってる投手だ。

 だが、それだけでは無い。

 ハイレベルな野球を可能するための能力は可能にしており、野手陣は最新の先端科学技術を利用して鍛え上げられた肉体とそれぞれ野球技術を磨きあげてきた実力者達。

 

「……やっぱオーラからしてすげえ」

「おいおい、お前がビビってるのは初めてだな? 猛田」

「ビビってねえ。むしろ楽しみだぜ、あいつらすげえしな」

 

 あふれ出るオーラを纏い、楽しそうに談笑する選手達を見る。

 実力者たちの余裕とも取れる。

 うーん、経験がモノを言うとはこのことなのか? どんな場面でも落ち着いてプレーできる平常心を持っているはず。

 さっき友沢が神高と一緒に話していたけど、なんの事だったんだろうな。神高もシニア出身だからお互い面識あるからか?

 

「友沢、さっき神高と話していたけど?」

「ああ。シニア時代だが、あいつと戦ったことがあってな。それで約束したことを確認していた」

「約束? あいつとそんな関係だったのか」

「……まあな」

 

 歯切れ悪そうに友沢は言ったものの、深く追求するほどではないと思ったので何も言わなかった。

 当の友沢もすぐにバットを持って素振りし始める。

 

(というか、あの女の人……恋恋にいた加藤先生じゃねーか)

 

 ベンチで選手と談笑している加藤先生は美人だからかかなり目立っていた。

 この高校に転勤になったんかな?

 いや、初めての野球部を作ったんだから南達がいなくなった時に普通だったら転勤だよな。

 隣にいる監督も日本人じゃなさそうだし、強い原因はやっぱり外国からのスポーツの技術や練習法を取り入れたりしてるからかもしれない。

 筋肉とかも凄いし、何より縦にも横にもデカい。

 うーん、データによると下位打線は打率こそ上位に劣るけど力がある分長打も出てる。強力打線、ダブルエース、堅実な守備と三つの要素を持ってるから甲子園でも上に行ける。

 気合い入れていかなきゃ情けない試合であっちにも失礼だ。

 それにスカウト陣も来ている上に、あかつきをはじめとした地区の偵察組も来ている。手のうちを簡単に明かしたくないが仕方ねえ。

 

「よし、打順発表するから集合してくれ」

「さて今日も出塁するでやんすよ!」

「……色んな高校も偵察に来ているぞ。情けない試合はできなさそうだ」

「聖の言うとおり。スカウト陣も来ているし、何よりも偵察にきている。……ま、偵察組もあせるぐらいの試合をしてやろうぜ? 発表するぞ。一番、レフト矢部君」

「やんす! ここ数試合で調整はしているでやんす」

「二番、センター准」

「左打席がどれだけ一流の投手に通用するか確認できる試合だからね、全力で行く」

「三番、キャッチャー聖」

「神高も大西もレベルが高い。打ちたいところだな」

「四番、ショート友沢」

「任せろ。点は取る」

「五番、ライト猛田」

「打順昇格だな! 打つぜ、夏前最高の相手を叩けることだしな!」

「六番、ピッチャー俺で七番ファースト涼」

「うっす。神高さんは凄い投手っすから自分のスイングをしたいっすね」

「八番、サード喜多村」

「了解だー」

「九番、セカンド峰田」

「おう」

「んで、相手は正直言って強い。みずきちゃんと宇津、そして双子も投げる準備はしていてくれ。……よし、大会前最後の仕上げだ!!! 勝つぞ!!!」

「「「「「「「「おおー!!!」」」」」」」

 

 こっちの先攻だったな。

 相手先発は神高か。なんか雰囲気あるな。

 特にフォームに癖があるわけじゃないし、普通のフォームだけど威圧感がかなりあるな。甲子園でも脅威の通算一点台以下を誇るダブルエースの一角は違う。

 ゆっくり振りかぶって右腕を振るう。

 ズドッ!! と威力のあるストレートがキャッチャーのミットに吸い込まれて行った。

 

「速いな、十分すぎるほどに」

「……140キロ後半は出ているっていう感じだ。あの球威を後半まで続けられるぐらいの投手だからこそ、この世代を代表する投手とも言われてる」

「知ってるさ。あいつと戦って勝った俺が身を持って分かってる……そして今日も負けるつもりはない」

「相変わらず頼もしいな。友沢」

「……ふう。それより何で今日の試合に限って打順を落とした?」

「俺が五番打たなきゃいけない決まりでもないだろ? ……って言っても納得しねーだろうから教えると、“試し”だ」

「“試し”だと?」

「ああ、今年の夏は甲子園まで突っ走る予定だからな。クリーンアップを打ちながら、エースを務めるなんてなかなかできないところだ。もちろん、神高は四番打ってるけどもう一人のエースの大西が居るし、水無月はリリーフ起用だからクリーンアップに入ってても負担は大きくはない。本来なら五番を打つぐらいの打撃能力がある猪狩だって打ってない。両立できるのは滅多にいないぐらいだよ。まぁ、最終的にはクリーンアップ打つかも知んねえけどな」

 

 本当はもう一つ狙いがあるんだけど、それは置いておこう。

 猛田は去年に一段階“覚醒”した。だが、それはまだ本来の猛田の打撃じゃない。

 もし、もう一回覚醒したとしたら――――。

 

(このチームは間違いなく夏の頂点に立つことができる)

 

 俺はそう確信している。

 だからこそ、俺は猛田に絶大な期待を寄せているんだ。

 

 神高が数球投げ込んで投球練習が終わる。

 キャッチャーも肩は十分強いし、捕ってからのスピードも速い。

 甲子園常連校は伊達じゃないな。毎年、抜群に実力が抜けてる選手だけじゃなくてそれらを支える選手達も他の高校に行ったら即戦力クラスが揃ってる。

 本当に練習試合を組めて良かった……。

 さて、まずは矢部君に先陣を斬ってもらわないと偵察組にも相手にも一泡吹かせられない。

 

『一番、レフト矢部君』

 

 ザッ、とバッターボックスに矢部君が入って足場を作る。

 その様子を神高が見ながらロージンバックを触る。

 

「プレイボール!」

 

 球審が試合開始を告げた後にゆっくりと振りかぶって神高が投げた。

 威力のあるストレートがキャッチャーミットに轟音を響かせる。

 

「ストライークッ!」

 

 一年生にスピードガン、打者ごとの投球を付けさせてるけど……。

 147キロのストレート。それを低めギリギリ一杯に決められる力があるなら簡単に打たれないわな。

 二球目、神高が選択したボールはスライダー。

 どちらかというとカットボールのほうに近いスライドする球は外角のコースギリギリに外れるボールになるが、矢部君のバットはピクリとも動かない。

 まあ、でも俺達はさ、久遠のスライダーを仮にも打ってるんだからさ。

 神高のスライダーも打てるはずなんだよね。

 

 

 三球目、内角から変化するスライダー。

 矢部君は引きつけて、鋭いスイングで右方向に打ち返す。

 

――――打球は一二塁間を抜ける。

 

「打ったでやんすよ!」

「よっしゃあ、ナイス矢部君! 准、続けよ!」

 

 頷いて左打席に入って構えると体を少し揺らす。

 初球、大きな変化のするカーブを捉えられずに空振る。

 初めての球種だし打てなくても仕方がない。

 重要なのは失敗を恐れないことだ。相手がどんなやつでも積極的に、冷静に力強く戦うことが一番重要だ。

 その点に関しては准も自分自身知っている。最近は左打席でも結果を残している上に、盗塁も、バントもなんでもこなす二番打者としては十分な選手になっている。

 後は、一流に対してどんな対応をするのかだな。

 二球目の内角いっぱいのストレートをカットして2-0。

 良い球だから見逃しても仕方がないと思ったけど、よく付いていった。

 そして三球目。

 神高がセットポジションからクイックモーションで放ってきたのはまたもや内角ストレート。

 それを腕をたたんで准は弾き返す。

 

 

――――――負けられない。

――――――俺達は今年の夏の頂点に立つチームになる。

 

 

 准の打球は一塁線を鋭く破る打球になり、転がっていく打球はフェンスに当たる。

 会心の当たりで打球が速かったものの、矢部君が俊足を飛ばしてワンヒットでホームに帰ってきた。

 打った准は二塁を落としてガッツポーズをする。

 驚いたスカウト陣も思わず声を漏らす。

 さてさて、まだまだ驚いてもらいますよ。

 今年の聖タチバナ学園高校は昨年とはまるで別のようなチームなんですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は部室。

 グラウンドに響く金属バットの音とグラブの音が外で響いており、試合中ながらも二人の女性の声が響いていた。

 

「……朱鷺君をですか?」

「ええ。彼の才能、強さ、性格、何より人を惹きつける力。すべて、野球をするために生まれてきたかのような存在」

「……」

「いえ、言い方が悪かったわ。神童さんの推薦とも言っていいかしら」

「裕二郎さんが!?」

 

 その女性の一人である聖名子は驚きの声を上げた。

 まだ、妹や両親にも隠している婚約者の名前を挙げられたことに驚きを隠せなかった。

 対等に真剣な眼つきの理香はそのまま話を続ける。

 

「違うのよ。別に彼をレギュラーリーガーに特別入団させようってわけじゃないわ。神童さんが昨年の決勝戦の試合を見て、機会があればこっちの世界に連れてきてほしいって言ってたのよ」

「……もしかして朱鷺君の事情を知っているんですか?」

「残念ながら知っているわ。……彼が決める道だとは思うけど、それでも本場のプレーを身で経験することでいつかプロ野球に戻った時に経験を生かせるはずって。あっちに行っても高校まで稼いだ野球の経験値を腐らせず、野球を続けてほしいって言ってたわ」

「……」

「彼にはスーパースターへの道を歩いてもらいたい。っていうのもあるけど、世界に彼の野球はすばらしいということを示したいの」

「それは……」

 

 聖名子も朱鷺のキャプテンシーによく驚かされていたのは事実だ。

 実力もある上にあのキャプテンシーがあったからこそ、学校内でも学校外でも人気を誇り、休部していた部活も復活させてここまでのチームに仕立てあげたのは間違いない。

 あっちにいったとしても野球を続けるかどうかは分からないし、もしかしたら辞めるかもしれない。

 かといって、絶対にやってほしいとは思ってなかった。

 それは人それぞれの人生なのだから。

 妹のみずきは野球を強引に初めて、いつしか後継ぎどころかプロ野球を目指すようにもなった。

 ……だからこそ、その選択は彼自身に決めてもらいたい。

 聖名子は事情を知っているからこそ、強くそう思った。

 

「私が決めることじゃない……彼が決めることです。私は彼には野球を続けてもらいたいとは思っていますが、強制はしません。とりあえず、この話を少しだけお話しておきます」

「ありがとうございます。……でもね、橘さん」

「?」

「私は色んな選手を見てきたし、挫折する選手も居ればケガを乗り越えて活躍する選手も見てきた。ましてや覚醒と云わんばかりにめきめきと能力を伸ばしていった選手も見てきたけど……猪狩君や友沢君、東條君、神高君、南君とこの世代でも凄い選手はたくさんいる。でも、彼だけは違ったのよ」

 

 理香は先ほどの表情とは一変し、部室の扉を開けて試合を遠くから見る。

 まるで楽しそうに、そして嬉しそうな顔をした。

 

「あの子が居るだけで変わるチーム。あの子が他の選手に与える影響が測りきれない……初めてよ、こんなこと」

「……その気持ち、私もわかります」

 

 振りかぶって投げ込む姿。

 ちょうどよく神高を三振に取った朱鷺が六道とグラブを合わせて、喜ぶ。

 三振に打ち取られた神高も悔しそうな顔をしたが、すぐに面白いと思ったのか少し口元がにやけていた。

 

「神高君って元々表情を変えない選手なのに、あそこまで表情を変えるところは初めてよ」

「……“朱鷺君マジック”っていうのかもしれませんね」

「ふふっ、そうかもね」

 

 お互いの笑い声が響く。

 夏の始まりを告げる太陽も次第に明るくなってきているみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バッター6番から! 守り頼むぞ!」

 

 序盤の猛攻撃でリード、五回無失点で俺が抑えられたし言うことは何もない。

 後はこの継投が上手くいくかどうかだな。

 六回からみずきちゃん投入、たぶん最後は飛鳥に締めさせる予定だ。

 俺はマウンドを降りてベンチに下がって監督の役割を担いつつある状況。

 打線で一気に攻めたから有利になったけど、甲子園で当たったとしたら先制点を確実に取るためにバント、エンドランで得点圏に進めた後じゃないと駄目だな。

 友沢や俺、涼は長打もあるしヒットも打てる打撃を持っている。時と場合によって切り替えられるから良いけど、他の聖は長打を狙って打てるほど力はない。

 猛田もまだ覚醒途中だから不安定だ。矢部君や准はそういうのに気にさせちゃうと打撃を崩す可能性もあるから口には出せない。

 ……一人だけはマイペースかつ安定しているけどな。

 

「喜多村」

「おー、どうしたー?」

 

 こやつ、プロにかかっても良いんじゃねえかってくらい安定さがある。

 八番サードに打順を下げてもこいつの安定は変わらない。バントもうまいし、狙い球をしっかり返せる打撃力も長打力もある。守備でのミスはほとんどないから信頼できるぜ。

 しっかし、みずきちゃんのクレッセントムーンを一順もせずに捉えてくる打線はこええな。

 特に四番の神高は化け物だ。

 俺の150キロの外角低めのストレートを踏みこんで流し打ちでフェンス直撃。

 二打席目は『シエルアーク』で空振り三振に斬ったけど、使いたくはなかった。

 打たれて良い気分じゃないのは普通だからな……でも、他校が偵察に来ているのに使っちゃいけないのがミスだ。

 

「ナイスピッチ! ツーアウト!」

 

 うん、良い投球。

 得意の右打者の内角低め、左打者の外角低めに決めるストレート、スライダーは簡単に打てない。これにクレッセントムーン、さらに普通のスクリューもある。例え、クレッセントムーンを一順もせずに捉えてくる打線もスライダーなどで惑わせば問題はない。

 八番を外角のスクリューでショートゴロに打ち取って帰ってきてこの回無失点。

 打線は涼から七番の涼から。

 

「お願いします」

 

 と一言を審判に行って打席に入る。

 相手投手は大西。投球練習見てる限りでは調子はいつもどおりって感じだ。

 初球、外角のスライダーを見逃す。

 変化球のキレは凄いけど、コントロールが悪いから使いずらいっぽい。

 結局、変化球でコントロールがつけやすいのはスライダーかカーブのどっちかだ。

 だけど、それが入れられなくなると苦しくなって――――

 

 ッカキィン! と涼の振り抜いた打球は甘く入ったストレートを左中間真っ二つ。

 

 五対〇からまた点差が広がるのか? こっちとしてはありがたいけどな。

 

「……これではあいつら勝てないな」

「友沢、どうしてだ?」

「六点も取られるようになったら、とき春の二人は五失点以内なら抑えられるだろう。現にあいつらは秋の時点で五失点に抑え込んでいる。俺らがこのくらい点数取れるなら、水無月中心とした打線は同じ程度は取れるはずだからな」

「水無月にパーフェクトに抑えられてるって言ってたしな。確かに俺たちだって打ちきれなかったからわからないでもないけどな……」

「成長していないと言えばそれまでだ」

「神高自身も理解してるとは思うんじゃねえか? なんか雰囲気は違うしな」

「……神高とはこの先も野球で会えるとは思うがな」

 

 そう言って友沢は複雑な感じになる。

 この先も野球で会える、か。

 

「どうしてたの友沢~。なんか変な言葉言っちゃってさ~」

「そうでやんすね。おいら達、この先野球してればまた会えるかもしれないでやんす」

「なんだよこの雰囲気。まだ試合中なのによ!」

「ちょ、猛田。怒るなよ」

 

 そんな空気を見て少しだけ俺は微笑を浮かべる。

 やっぱこいつらと野球出来るのっておもしれーわ。

 小学、中学と野球してきたけどなんか、言いきれない感のある感じなんだ。

 こいつらはプロも視野に入れて日々努力した結果が表れてる。

 ……なんて言うか、こいつらが羨ましかった。

 もし大会が終わったとしたら、次の舞台に進むやつがこの中にも居るはずだ。

 

「よっしゃ! 続け!」

「矢部先輩! お願いしますよ!」

「フッフッフ、オイラの俊足見てるが良いでやんすよ……」

「いいから行けって、先輩」

「て、手厳しい……相変わらずでやんすね、准ちゃん」

 

 矢部君は言い残して打席に向かう。

 何て言えばいいかわからない。

 こいつらと居るだけで、仲間で、野球してるだけで良い。

 もっともっと長く野球がしたい。

 俺が立てなおした野球部だからってわけじゃないけど、勝ちにこだわってた俺だから、チームだから。

 最後の夏も勝って、勝って、勝って、勝ち続けて。

 

 

――――――甲子園(あのきらめくステージ)に立つんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや負けたよ、友沢君」

「お前らしくもない投球だったけどな、神高」

「本気出したのにあの結果だよ。いや、今年は甲子園に行って打倒あかつきを掲げてたけど正直きついかもね。こんな試合じゃ、とき春に負けるって可能性もある」

「……とき春は強いぞ。俺もみんな抑えられたからな」

「こっちもだよ。僕だってあのカミソリシュートに手も足も出なかったからね。それに匹敵する高速シンカーを投げられちゃ、さすがの僕も空振り三振するよ。……強いね、キミらは」

「ああ、俺もそう思うよ。神高君」

「朱鷺君、君づけはよしてくれよ。ははっ、あかつきももしかしたら負けるんじゃないかなキミたちに」

「そんなうまくいくかよ。あいつらは凄すぎるぜ」

「……無論、そんなことは承知の上で言ったんだ。キミ達があかつきに勝てる確率は決して低いわけじゃない、むしろ五分五分と言っても良いレベルだ」

 

 突然、表情を変えて鋭い目つきになった神高がそう言った。

 

「実はね、すでに一度あかつきとは戦っているのだよ。四月の下旬にね……結果は二対〇。着実に力を付けている君たちはすでに彼らの成長度をはるかに上回っていることがわかったよ。僕らもあかつきに近づけてるのは感じているけどね」

「……」

「チーム力の向上に加えて打線の強化、朱鷺君のレベルアップなどの要素を加えた君らならあかつきを倒すことが可能さ……いや、倒してくれ」

「!?」

 

 表情も変えずに言った神高からデータをまとめた紙を受け取る。

 そこにはあかつきレギュラーの苦手なコース、猪狩の投球別コースなどの書かれている紙だった。

 

「確かに強いよ。あかつきに何度も負けて、データを調べて、対策して……という繰り返し行ってやっとあそこまで追い詰められた。しかし、それ以上にあかつきの成長度は上回り毎回のようにデータが通用しなくなった上に我々の実力も伸びにくくなったからね。たぶん、全力でやっても予選敗退という行為は避けられないかもしれない」

「神高、お前……」

「友沢君。朱鷺君。頼むよ、君たちがあかつきを倒すんだ。そして君らがナンバーワンに立つんだ」

「……神高」

「ん? 何だい?」

「勝ちあがってこい」

 

 そこにあったのは友沢が右手を差し出して握手を意味している姿。

 神高が少し微笑を浮かべて、眼を少し閉じた後に頷く。

 

「握手は勘弁してくれ。僕にはそういう姿は似合わないよ……これを受け取ってくれないか」

 

 サングラスを外して友沢の手を持ち、その上にサングラスを置いた。

 ……俺はわかった。

 

 神高はアンドロメダが予選敗退することを確信してしまったということを。

 

 なぜだろう。

 あのサングラスがあったから神高を象徴しているようなものだったはずだ。

 

「神高!」

「僕と君の約束は先延ばしにしよう……僕はプロという舞台に立つ。君は甲子園優勝という看板を背負ってプロに来るんだ――――友沢君」

「……全力で予選勝ちぬけ。お前の本気の投球を見せてやれ。中学時代、俺らのチームを最終回ツーアウトまで完全に抑えていた時のようにな」

「その理論だと、三番打者にホームラン打たれるんだけどね……僕自身すべてをかけて戦うよ。エースで四番としてね」

 

 威圧感。

 その言葉が一番似合うような姿だった。

 友沢が下向くがすぐに神高を見るのにつられて俺も視線を上げる。

 

「僕は勝ちのためならなんでもする男だって友沢君も知っているだろう?」

 

 そう言って神高は振り返って歩いていった。

 自分のチームが勝つんじゃない。

 神高は他のチームに勝ってもらうという選択を選んだのだ。

 それは選手として、チームとしては屈辱以上の屈辱に違いない。

 

「負けられないな、友沢」

 

 サングラスを髪の毛にかける友沢を見て言う。

 友沢の眼は真剣な眼差しと少し遠い存在を見るような感じで俺も自然と口を閉じてしまう。

 

「神高が俺に託したんだ。あかつきには負けない」

「頼むぜ、四番。お前が点取ってくれれば。俺は抑えるんだからな」

「頼むぞ、エース」

 

 

 お互いに腕タッチしながらクールダウンを始める。

 あいつらの想いも背負って、勝つぞ。

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