実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
5月4週の土曜日。
俺たち聖タチバナ学園高校野球部初試合の日が来た。
あかつきのグラウンドに招待された俺たちはグラウンドに来ていた。
みんなの顔を見てみる。
友沢、猛田、聖、喜多村はまったく緊張してない様子だが、他のメンバーがかなり緊張しているみたいだった。
喜多村はまあ、性格が緊張しなさそうだからあれだけど、お前ら三人は緊張しろよ。
聖名子先生みてみろ。もう緊張しすぎて、俺的に可愛く見えてきたぞ。
おっと、そんな場合じゃない。
「ここでやんすね」
「ああ。入ろう」
みんながうなづき、俺たちはグラウンドへ入る。
グラウンドへ入るとあかつきのメンバーが挨拶をしてくる。
それに俺たちも返して、準備されている三塁側ベンチに荷物を置く。
それをずっと見ている奴が一人いた。
マウンドでキャッチボールしているやつだ。
―――――――――――――猪狩守。
俺が猪狩のほうに視線を向けると、それに反応するかのように猪狩は目線をそらした。
ちっ、あいつ眼を逸らしやがって。
セカンドバッグからグローブを取り、みんなを集める。
「じゃあ、俺と聖はみんなと別にアップするから、・・・猛田、率先してアップ指示をしてくれ」
「おう、任せろ」
「試合開始は今から四十五分後。気合い入れていくぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
猛田にアップの内容を伝えて、みんながアップしに行くのと同時に俺と聖でアップを開始する。
ランニング中にあかつきメンバーの部員を見る。
中学時代に見たことのあるやつが結構いるみたいだな。捕手は見たこともないやつだが。
キャッチボールしているあかつきのやつらを見てみるとレベルが高いのがわかる。
でも、やっぱりあかつきのやつらを見るときに最初に目がいくのは猪狩だ。
一人だけオーラが違う。
たぶんだが、一軍のエースを張っている一ノ瀬さんと猪狩で投手陣は十分だろう。
それに今年入った、一年生が一軍レギュラーを占めているらしいから、バッテリー以外の一軍のレギュラーは一年生だろう。
あかつきの準エースが投げてくれるんだし、これほどありがたいことは無い。
「両チームの代表は来てください」
「聖、ちょっと行ってくる」
「うむ」
聖に軽く手を振りながら、審判の元に行く。
相手の代表は……猪狩か。
先攻後攻・……どっちとるべきか。
「先に先攻後攻決めろ。修也」
「……ハンデってことか?」
「ああ。ボク達とキミらでは格に差があるからね。ボクが居ながら、ボクが所属するチームが負けることはない。たとえ、相手がキミだとしてもね」
「ずいぶんと言ってくれるな、んじゃあ、先攻もらうぜ。コールドは七点差らしいな?」
「そうだ。まあ、コールドに勝ちにならないように楽しませてくれよ」
「その言葉後悔するなよ」
若干だが、猪狩の表情が変わった。
しかしすぐに猪狩はベンチに歩き帰って行った。
さすがだな。相変わらずのイヤミだぜ。
まあ、これから始まる戦いは俺たちがこれからやって行けるか、運命を握る戦いだ。
全力で行く!
両校のノックが終了して、両校がホームベースを境にして並ぶ。
人数に差がありすぎる。こっちが九人に対して、あっちは二十人は居る。
「それではあかつき大付属高校対聖タチバナ学園高校の練習試合を始めます!礼!」
「「「「「「「お願いします!!!」」」」」」」
全員が挨拶をして、俺たちはベンチに戻る。
一方であかつきは守備につく。
ウグイス嬢による、スターティングメンバーが発表されるみたいだ。
久々だな。ウグイス嬢。
『先攻の聖タチバナ学園高校のスターティングメンバーを発表します
一番センター 矢部
二番ライト 真田
三番キャッチャー 六道
四番ショート 友沢
五番サード 喜多村
六番レフト 猛田
七番ピッチャー 朱鷺
八番ファースト 霧丘
九番セカンド 峰田
以上です』
今日の試合は俺の打順を下げた。
久しぶりの試合だから投球に集中したいってのが一番の理由だ。
さらには友沢の打撃が一番みたいってのもあるからな。
もしかしたら調子に合わせてどっちかが四番になるってのもいい。
「朱鷺、俺が四番でいいのか」
「ああ、大丈夫だ。友沢、お前に今日は任せた」
「ふ、まあ見ていろ」
頼りになるやつだ。
友沢や猛田には好き勝手やらせるつもりだし、特にサインは出さないかもな。
ま、サイン出す機会も無い試合になるかもしれねえ。
なんたって相手のピッチャーは、
『続きまして、あかつき大付属高校のスターティングメンバーを発表します
一番ショート 平見
二番ライト 高宮
三番センター 小宮山
四番ピッチャー 猪狩
五番ファースト 岡島
六番セカンド 目岸
七番サード 多露
八番レフト 横河
九番キャッチャー 富士
以上です』
猪狩だからな。
しかし、猪狩のやついきなり四番打つのかよ。
打撃は良いしな、注意すべきバッターの一人だ。
甘い球を投げたら簡単に長打にされるな。
岡島、小宮山はシニア出身らしいし、俺も耳にしたことはあるやつらだ。
怖いぜこの打線。連打になったら何点取られるかわからないな。
注意してリードしていこうぜ、聖。
「おい、朱鷺。猪狩の持ち球とかはどうなんだ?」
「ああ、ストレート、スライダー、カーブって感じだな。平凡に思えそうだけど、スライダーのキレは良いし、カーブでタイミングを外すことができる。ストレートは今は140は出てんじゃねーかな。後、もしかしたらなんだけど、・・・ライジングショットっていうあいつの持ち球がある。ストレートよりも10キロ近く遅いんだが、伸びるというか、浮き上がる球がある」
「浮き上がる球でやんすか!?」
「だけど、まだ未完成のときに見たからな。今も未完成だと思うから、捨てて行っていい」
「ちっ、厄介な投手だな。ストレートはかなり早い上に伸びもあるんだろ」
「ああ。見ればわかる」
猪狩から放たれたボールは、ズバァン!と凄まじい音を響かせてキャッチャーミットへ吸い込まれる。
やっぱり、速いな。しかし、まだ本気じゃねえ。
あいつの本気は、投球練習の時点・・で威圧感があるからな。
あのキャッチャー、若干ミット押されてるな。全力が取れるか怪しいもんだぜ。
「よっし、みんな行くぞ!」
「「「「「おー!!!!」」」」
円陣を組んでみんなと声を出す。
いいぜ、相手がだれであろうと喰らいつくぞ!
俺たちの初戦が始まるんだ。
『一番センター 矢部君』
「行ってくるでやんす」
そう言って矢部君が打席に入る。
マウンド上の猪狩は、マウンドを均しながらボールを受け取る。
「プレイボール!」
審判が開始の合図が言うと猪狩は投球フォームに入る。
振りかぶり、すでに完成されたフォームの左腕から投げられた球はキャッチャーミットへと吸い込まれる。
速い。普通の一年生じゃない。
まさに剛球というべきか。
全く矢部君は反応できていない。
「ストーライッ!」
インコースへのストレート。
恐らく、130キロ後半は出ているだろう球。
あれを今の猪狩は絶対にコースに決めてくる。
簡単に打てる球じゃない。
猪狩はボールを受け取ると、すぐに振りかぶる。
バシンッ!とミットが音を立てる。
「ストラックツー!」
アウトハイのストレート。
またもやタイミングが合わず、矢部君は空振る。
そして、次に放たれた球は途中で角度を変える――――スライダーだ。
「ストライク!バッターアウト!」
外角から曲げてきやがったな。キャッチャーのミットに吸い込まれるように球が曲がった。
矢部君が振ったバットにかすりもしない。
感じろ。これが中学トップクラスの投手だ。
だけど、スライダーのキレはもっとあるはずだ。
どういうつもりかわからないが、まだあいつは全力を出していない。
『二番ライト 真田君』
「おっしゃす!」
真田が打席に立つ。
振りかぶって放たれた球は、大きく曲がりミットに収まる――――カーブだ。
「……っ」
ストレートのタイミングで待ってたんだろう。
これは打ちとられるな。
案の定、真田は二球目のスライダーに詰まってしまいファーストフライに倒れる。
だが、うちの打線はこっからだぜ。
「聖!頼むぞ!」
聖に声を掛けると、頷いて打席に向かう。
緊張してんのかわからないやつだ。
『三番キャッチャー 六道さん』
ピクッと猪狩は反応する。女だからって舐めてたら打たれるぜ猪狩。
俺はキャッチボールしながら、打席を見守る。
猪狩が振りかぶって投げる。
インローへのストレートを聖はカットする。
真後ろへのファールだ。タイミングが合っている証拠だ。
よく初球からついて行ったな。だが、次が絞らないといけないぜ。
猪狩の左腕から放たれた球は―――カーブ。
聖は体重を後ろに残して、右方向におっつける。
ッキィン!
金属バットの音が響く。
鋭い打球は一二塁間を抜けて、ライト前ヒットとなった。
「ナイスバッチ!」
聖が塁上でガッツポーズしている。
うまくカーブをおっつけたな。ストレートのタイミングで打ってたら、間違いなくサードゴロだったぜ。
まあ、次のバッターは期待の四番だ。
打ってこい。友沢。
『四番ショート 友沢君』
「……」
無言で右打席に立つ。
両打ちである友沢は相手投手によって打席を変える。
たぶん、この試合に見に来ている、レギュラー陣。
さらにはスカウト陣は打者友沢の本領発揮するシーンを見るだろう。
猪狩が投げたインローのストレート。
厳しいコースかもしれない、それでも構わず友沢はフルスイングする。
ガッキィィン!!!と音が球場に響く。
バットはボールを捉え、ショートの頭を鋭いライナーで越して、左中間を抜けていく。
転がっていくボールはフェンスに当たる。
「回れ回れ!!!」
うちのベンチから声が挙がる。
聖は悠々とホームインして、打った友沢は二塁を回ったところで止まる。
タイムリーツーベースヒット。
これで一対〇。
猪狩から先制点。これはデカい。ナイスバッティング、友沢。
ったく、140キロ近い球をあんな打球とか……やっぱり天才だな。
しかし、マウンド上の猪狩は焦りを見せない。
『五番サード 喜多村君』
ウグイス嬢が喜多村をコールする。
帰ってきた聖と共にキャッチボールを始める。
「どうだった?」
「重かった。ものすごく重かったが何とか振り切れたと思う」
「うまく打ったからな。あのカーブも厄介だな」
「うむ」
そう言いながらキャッチボールを続ける。
ただ気になるのが、猪狩の表情だ。
今までの猪狩なら乱れてるはずだが全く動揺していない。
カッキィン!!
金属音が響く。喜多村が猪狩の球を捉えたが、残念ながらレフトフライだったようだ。
「行こう」
「ああ!」
俺たちはマウンドに向かった。
高校に入って初めてのマウンド。しっかりとした投球をしなきゃな。
投球練習の間に今日の状態確認をしておく。
最高だ。これなら聖のリードにこたえられそうだ。
『一番ショート 平見』
左打席に平見が立つ。
こいつは中学のときにみたことあるぞ。
足が速くて少々厄介なやつだけど塁に出さなきゃ問題は無い。だが巧打力がある打者だしな。
(外角のスライダー ストライク)
聖からのサインを受け取り振りかぶって投げる。
初球のスライダーに、平見は見送る。
若干外側に外れたのだが、ストライクになる。
今日の審判は外側を広めにとりそうだ。
(インハイのシンカー ストライク)
インハイにシンカーって……かなり厳しいコースだぜ?
落ち着いて投げれば大丈夫だ!
スッとシンカーは変化せずにボール球となった。まあ要するにすっぽ抜ました。
「ボーッ!!!」
畜生。
シンカーは結構抜けやすいし、雨の日なんかはボールが滑るから使いにくいんだよな。もっと精度を上げなきゃ使いもんにならねえ。
投げた球は外角に大きく外れ、打者が余裕で見逃す形となる。
まあいい。切り替えろ。
(低めのストレート)
聖のサインを受け取り、振りかぶって投げる。
良し感じだ。腕も振れている。
要求どおりに低めにストレートが決まった。
「ストーライク!」
「ナイスボール」
うっし!良いボールだ!
もう一度同じ球か。
綺麗なフォームを心掛けて俺は投げる。
バシッ!!とキャッチャーミットに決まり、打者はバットに当てられずに空振った。
「ストラック!バッタアウト!」
「ワンアウト!」
「「「ワンアウト!」」」
よし。
これで俺も落ち着いてきたと思う。
シンカーが抜けちまったが、予想はしてた。
久しぶりの試合だし、制球も乱れることだってあるしな。
今は少なくとも腕は振れているから大丈夫だ。
俺は続く高宮をスライダーでサードフライに打ち取る。
そして次は注意すべき打者の一人。
小宮山だ。
打席に立つと縦も横もある大きな体が良く分かる。
しかし、今まではその力だけで打ってきたにすぎない。
巧打力はそこまでないはずだ。
(高速シンカー 内角)
なるほどな。
体が大きいからインコースは打ちにくいからっての読みか。
それは当たるかどうか。中にもうまく打ってくる打者もいるからな。
中指と薬指でボールを挟んだ球は腕を振ったときに回転がかかる。
そのボールは打者の手元で鋭く落ちる。
小宮山のバットの芯には当たらないで打球が飛ぶ。
「レフト!」
「おう!」
打球はレフトの頭上で力を無くす。
そして猛田がキャッチして、レフトフライに打ち取った。
「うっし!」
「ナイスピッチだ。修也」
「任せろ!」
あれに反応しやがったか?当てられたのか。
完璧にタイミングを外したと思ったのにな。
やっぱり初球に高速シンカーはまずかったんじゃねーか?
これで二軍の一年だからな。レギュラー陣だったらスタンド運ばれてもおかしくはない。
それほどあかつき大付属はメンバーがそろっているんだ。例え、三年間レギュラーになれなくとも入学してくる奴らもいる。
ベンチ裏や外野で見ているレギュラー陣の中には一年生レギュラーが大量に居るって噂だ。
そいつらに安易な投球したら危険だしな。気合い入れていかねーとな。
まあ、二宮さんと一ノ瀬さんはバックネットのベンチに座ってるのが俺には見える。
ちょうどど真ん中の位置にいて、猪狩の球を見てるのか、俺たちの動きを見ているのかは分からない。
っと。次は猛田からか?ネクスト入んなきゃな。
『六番レフト 猛田君』
「よっしぁ!」
元気よく猛田が打席に入る。
猪狩が振りかぶって投じた初球のカーブをフルスイングして空振りする。
「猛田、ミートセンスあるのだがな」
ん?友沢」
普通の打者は落ちる変化球に対してボールの上に振る。しかし、眼が良い打者や天才と言われる打者はみんな変化量を見越して下を振る。下を振れば、しっかりと変化量と比較して調整できるからな」
「もしかしてあいつは……」
「そうだ。しっかりと下を振ってる。フルスイングしているのにもかかわらずだ。俺もこの技術は頑張って身につけんだが、あいつはそこのところは天才だと思う。六道も同じだが、六道の完全ミート型と強振型の猛田。だが・・・実際見ていると猛田はパワーヒッター向けではない感じがする。っていっても努力したのが見えてるからな。俺は口出しはしないさ。きっかけで変わってくれればいいけどな」
なるほど。
確かに猛田の打法も大きく背中を反る、外国人のようなフォームだ。
ただのフォームではなく、しっかり素振りして固めた打法だからこそ友沢はもったいないと思っているのだろう。
友沢からすると強振型からミート型の打者のほうがあっているらしい。
じゃあ俺はどうなのだろうかと疑問に思ったので俺は友沢に聞いてみた。
「俺は?」
「技術云々じゃないけど、大抵のクリーンアップを打ったりしている奴は自然とこういう感覚は身についているんだ。お前は打者のほうがあってるくらいにな。打者として必要な体の筋肉とかもバランス良い」
「そうなのか。よくわからないなその辺は」
「しかし、あういう技術はなかなか努力で身につけるのが難しい。出来る打者が一流って感じだ。努力で獲得できる技術って限られているんだよ。俺もあれを身につけるのに苦労したからな」
そう言っていると猛田がキャッチャーフライに打ち取られ帰ってくる。
「くそ、カーブにやられたぜ。やっぱりストレートがノビ、キレがある分カーブでタイミングが外されちまう」
「できるだけ中途半端なスイングにならないようにしていくしかないな」
「だな。行ってこい」
そう言われながら俺は打席へと向かった。
猪狩のほうを見ながら歩いていると、猪狩は俺のほうを見ずに帽子を取って今までよりも深く被った。
まるで今からが試合開始ように。
「よろしくお願いします」
一言挨拶をして俺は打席に入った。
(何の球を狙うか。スライダーが怖いが、カーブにみんな手こずってる。しかし、今から本気で投げてくるってならば、ストレートを叩きに行くしかねえな。ただ最初は見よう)
猪狩がゆっくりと振りかぶる。
次に放たれた球は今までの球とは違うストレートだった。
ズバァン!!!と大きな音が轟き、キャッチャーが取り損ねるほどのストレート。
「ス、ストライクッ!」
聖タチバナのベンチはみんなが唖然としていた。
今までとの投球とは違うぞ。
覚悟しなきゃな。
球は140は出てるし、簡単に打てるほど甘いコースには来ない。
(次はカーブかスライダーか?うまく打つ必要はない。思いっきり振っていく!)
バットを構える。
二球目に猪狩が投げた球はスライダーだ。
外角のボールコースからストライクへの急激な変化。
矢部君に投げた時よりも上に行く変化。キレ。
それに俺は思いっきりバットを振る。
ガギッ!!!
「ファール!」
何とか当たった打球はバックネットへと飛んだ。
後ろに二宮さんや一ノ瀬さんが見ているが、気にしない。
投げた後に飛ぶ帽子が猪狩の全力のサインだ。
(スライダーか。次は一球外してくるか?)
読み通り。
カーブをワンバンさせて、ボールとなる。
キャッチャーはボールを取れずに弾いてしまう。
後逸が多いな……。キャッチングが甘い。
猪狩がかわいそうになってくるぞ、しっかり取ってやれよ。
(ストレート、スライダー、カーブ。ってきたら俺の予想だが、ストレートだろう。コースはインハイか?思いっきり振らないと内野止まりだ)
ビュッ!と猪狩の腕が振られる。
読み通り、ストレート!
思いっきり振れっ!!!!
俺が予想して出したバットよりも軌道は上を超えて、ミットに突き刺さった。
バシッ!とキャッチャーが中腰になって捕る。
「ストラックバッターアウトッ!」
ちっ。
ボール球だったか?振りに行かなくても良いボールだが、いかんせん球の威力がその辺のレベルじゃない。
しっかりみないとここから打てなくなるぞ。
作戦立てていかなきゃまずいかもしれねえな。
「ごめんな、当たんなかった」
「あのスライダーを当てただけ十分だと思うぜ。猪狩が全力で投げてきたってことか?」
「いや、猛田。俺の予想だが……ほら見ろ。また弾いたぞ」
「……キャッチャーが取れないってことか?」
「たぶんな、友沢。全力投げたら取れない時が多いから、8割から9割程度で投げてきたと思う」
それでも打ち取られてたってことはやっぱり猪狩は相当なレベルだ。
ただそのレベルにキャッチャーが追い付いていないし、ましてや振り逃げとかが増えたりしたら相手の監督も困るだろう。
今も後逸して、振り逃げだ。
ワンバウンドさせたカーブを体で止められずに後ろにそらす。
「峰田、バントできるか?」
「はは。何言ってんだよ。あれぐらいはいける。150キロ後半からはちときついが」
「頼りになるぜ」
この前見た時はうまいっていうイメージじゃなかったんだが、調子が良い日は全部出来る自信があるって言ってたな。もしかしたらこの前のは調子が悪かったのか?
今日はいけるらしいから、ここで二死二塁で得点圏にランナーを送ろう。
猪狩が振りかぶって投げた球はストレート。
それをいとも簡単に峰田はバントをする。
しかし、ただのバントではなかった。
――――――――――プッシュバント。
ピッチャーとファーストとセカンドの間……トライアングルと呼ばれる場所に転がった打球は、誰も居ないところへ転がり、前進していたライトが捕る。
その転がっている間に霧丘が二塁をを蹴って、三塁に行く。
ナイス、好判断だ。
「矢部君、いくよ」
「任せるでやんす」
この確認は何のためにあったのか。
一死一、三塁でピッチャーは猪狩でファースト、サードもレベルは高いが肝心のキャッチャーはそうでもない。
スクイズだ。この機会を逃したら絶対に駄目だ。
初球だ。矢部君、頼んだよ。
内野が前進守備を敷いている。
そんな中、猪狩が投げた。
カーブ。
普通に打ちに行ったらタイミング外されるが今はバントだ。
関係ない。矢部君がバントの態勢になったときに、内野陣が寄ってくる。
コツッ。
ショート側にうまくころがした!
ランナーの霧丘が全力でホームに走り、滑りこむ。
それを阻止しようと、相手のキャッチャーはブロックする。
ドカァ!と音が響く。
「……セーフ!」
相手のキャッチャーがボールを落とし、判定はセーフ。
よし!うまくいった!これで2-0だ。
峰田のバントのおかげだな、これは。
「ナイス判断だな」
「ま、そんなもんだろ」
笑顔で霧丘が答える。
外見と違ってプレーはやっぱりしっかりしてるぜ。
ここから続きたいところだったが真田がサードゴロで併殺に終わってしまう。
投球練習が終わり、二回の裏。
『四番ピッチャー 猪狩君』
打席に立つ猪狩が、構える。
構えが落ち着いているのがさすがというところか。隙がない。
(それはどこに投げても簡単には打ちとれそうにないぜ?どうする?)
聖からのサインが来る。
(カーブ 外角 外へのボール球)
俺が振りかぶって投げる。
横変化が少なく、縦の変化も決して多いわけじゃないが、球の遅さが結構あるカーブだ。
サイン通り外角に行くが、猪狩はいとも簡単に見逃す。
余裕で見逃しやがったぜ。
(高速シンカー 低め)
鋭く低めに落ちる高速シンカー。
しっかりと腕も振れることができて、キレのある変化だ。
低めに決まったボールだが、それを猪狩は
――――――捉えた。
ガッキィン!
「っ!」
打球はライトの頭を超えたフェンスダイレクトのツーベースヒット。
打たれた。完璧に。
ただ、冷静に。俺は全力で投げただけだ。
(あそこまで完璧に打たれちまうとな。投げにくくなっちまうじゃねーか)
若干苦笑いしながら猪狩のほうを見る。
まるで自分でも驚いたような顔をしている。
「修也」
「どした?聖」
「完璧に打たれたが、大丈夫か?」
「大丈夫だ。それよりしっかりと行こう。点取らせないようにな」
「うむ」
聖が間をうまくとってくれた。
良い捕手だ。間をすぐに入れてくれるなんてわかってるじゃないか。
よっし、行くか!
続く俺は岡島、目岸、多露をセンターフライ、三振、セカンドゴロに仕留める。
「ナイスピッチ」
「打たれたけどな」
「あんなに打撃も良いのか猪狩は」
「ああ。ぶっちゃけ俺が居なかったら四番だったし、他のチームでも四番を張れるほどの打撃力は持ってたはずだ」
あそこのシンカーを打たれるなんてな。
さすがとしか言いようがない。打撃も一流だし、油断できないやつだ。
「この試合しっかりと行くぞ。点もっと取るぞ!」
「「「「「おー!!」」」」」
まだ、油断はできない。
相手がいつ打線爆発するかもわからない。
だから、確実に、だけど積極的に攻めていくぞ。
「やっぱり酷いな」
「そうだな」
これで何回落としているだろうか。
キャッチャーの表情はすでにいっぱいいっぱいだが、それを関係無しに俺たちは攻め続けた。
八回表。一死満塁。五対二。
あの後は捕手がしっかりとリードしないせいか、点差は広がっていくばかりで振り逃げも4つ。
相手の監督も育てるためにやらせているのかもしれないが、これは酷過ぎる。
六回に友沢の二点タイムリーヒット、聖のタイムリーヒットで追加点。
こちらは岡島のタイムリーツーベースヒットで失点してしまったが、しっかりと抑えることができた。
「すみません。選手交代お願いします。あまりにも捕手が……レギュラー陣の選手使わせてもらってもよいですか?」
「いえ構いませんよ」
相手のサングラスをつけた監督が聖名子先生に話している。
そして少し話していた後、審判に選手交代を告げた。
「富士に代わって、二宮。すまんな、本当は見学なんだが」
「大丈夫です」
相手キャッチャーは二宮さん。
昨年の春の甲子園でベスト8に入ったときの主力メンバーであり、チームの要だ。
今年で三年生。打撃、守備共にプロでは注目を浴びていて一年生からあかつき大付属の司令塔を務めていた。
リード面、キャッチングなどさきほどの捕手とは全く違うだろう。
もちろん猪狩の球は捕れるはずだし、配球も変わってくる。警戒しないといけない。
今年のドラフト候補に挙がっている選手が出てくれるのはこっちとしてもうれしいことだ。
ここから本当の試合だ、と思う。
『三番キャッチャー 六道さん』
聖が打席に立ち、構える。
マウンドの猪狩はここから全力投球してくるだろう。
そうなってくれば簡単にヒットは打てない。
公式戦ならここでスクイズだが、練習試合だ。
「聖!打って行けよ!」
そう声を掛ける。
猪狩が振りかぶって投げた球はキャッチャーミットへ轟音を響かせる。
ズバァン!!!とミットに突き刺さったボールは――――――――今までよりも数段上をいく球だった。
「ストーライ!」
まったくバットを振らせないストレートの伸び、キレ、速度。
145キロ出ているかもしれない球。
涼しい顔をしながら、それでも気合いの入った投球を猪狩はする。
二球目もストレートだ。
ズバァン!!!
完全にボールはバットの上を通っている。猪狩の伸びに聖の眼が追い付かない。
そして決め球は急激に変化をするスライダー。
バットを振り始めた時に変化した球でバットが空を切る。
三球三振だ。
二宮さんが猪狩に声を掛ける。
それを聞いているのか聞いていないのかわからない表情で猪狩はボールを受けとる。
「すまない。かすりもしなかった」
「ドンマイだ。あれを打てなんて無茶なことは言わねーよ」
「私のバットスピードでは追いつかない……」
そう呟きながら聖はレガースを付け始める。
145キロをヒットにしろだなんて難しいってもんじゃない。
しかも伸び、キレがかなりある球を良い一年生が簡単に打てたら苦労しない。
だが、甲子園に行くためには打たなきゃならない。
俺は聖のレガースをつけるのを手伝いながら友沢の打席を見守る。
その友沢の打席。
インハイのストレートを引っ張り特大ファールになる。
ここまで七球で2-3になっている。
すげえ、どっちも。
友沢の打撃はここまですごいのか。
猪狩もよくこんな天才に対抗できるぜ。こっちも天才だ。
勝負の八球目。
ビシュ!
腕を振る音が聞こえる。
選択したのはストレート。
インローの最高のコースを友沢は打ちに行く。
しかし、バットは空を切り、ボールはキャッチャーミットへ音を立てて収まる。
「ストラック!バッターアウト!」
三振に捕った猪狩は普段見せないガッツポーズをして、ベンチに去っていく。
相当うれしかったんだなあいつ。
友沢は清々しい表情で戻ってくる。
その後も回は進み九回裏。
二死走者なし、5-2。
『九番キャッチャー 二宮君』
この人が最後の打者になんてすげえうれしい。
プロ注目の打撃も持っている人だから、全力で行きたい。
(ストレート 低め)
サインが出されて、それにうなづく。
胸を借りるつもりで行く。
俺が振りかぶって投げた球は、完璧な低さへ。
回転もしっかりとかかり、速度も最高の球を二宮さんは打ってきた。
鋭いスイングからバットに当たった球は逆方向へ伸びていく。
「なっ……!」
思わず声をあげてしまう。
伸びていった打球はわずかポールの右に切れていった。
「ファール!」
若干苦笑いしてしまう。さすがプロ注目選手。
あの膝元ギリギリのストレートをもう少しでホームランかよっ……。
聖も驚きを隠せない。
(高速シンカー 外角からストライクへ)
サインにうなづき、俺は高速シンカーを放る。
ボールコースからストライクへ高速で変化する球を二宮さんはまた捉える。
さっき同じくライトポールの右に切れていき、ファールになる。
「ちっ、また少し遅れたか」
そう呟きながらバッターボックスを均している。
ホームランバッターとしてはパワーは足りないが、巧打力はプロ級の打者だ。
かと言って甘いボールはスタンドへ持っていく打者。
こんな人と勝負できるなんて、面白い。
聖からサインを受け取り、俺は振りかぶって投げる。
俺が選択した球はストレート。
しっかりとしたフォームで体重移動をして、ボールに回転がかかる。
下半身の勢いもこの球だけに集中させる。
そうして投げた球はど真ん中へと行く。
コースは甘い。普通に見れば失投に見えるかもしれない。でも、速度などからみたらこれ以上の無い球。
一球目のストレートよりも良いボール。
「うおおおおおおお!!」
その球を二宮さんは叫びながら……。
―――――――――バックスクリーンへと運んだ。
俺たちは試合が終わって、それぞれに帰る準備をしていた。
猛田は昔のシニアの知り合いと話していたり。
こっちのメンバーはあかつきのやつらと話しているやつが多かった。
そんな風に思っている俺に話しかけてきた。
二宮さんだ。
「お疲れ様です」
「おう。お前良い球投げるじゃねーか」
「いえいえ、打たれてしまいましたから。あかつきとは言っても二軍相手に三失点なんてまだまだです」
「謙虚なやつだ。お前みたいなやつ嫌いじゃねーぜ」
「はは。ありがとうございます」
「夏の大会、当たるの楽しみにしてるぜ。俺も一ノ瀬も、猪狩もな」
「!?……猪狩がですか?」
「ああ。試合前はかなり気合入っていたぜ。投げ合うの楽しみしていたらしいからなお前と。キャッチャーがあれだったから五失点だったが、本番じゃあ俺が捕手だからな。そう簡単には打たせないぜ?」
「もし当たったらですけどね。当たれるように頑張りたいです」
「おう。じゃあな」
そう言いながら校舎のほうへ歩いて行った。
近くで見たら凄い練習量をこなしているってのが見えた。
手にたくさんのマメが出来ていて、振り込んでいる証拠だ。
あれがプロ注目の捕手。
「あんな人たちと俺らは戦うのか……当たればの話だけどな」
当たるように頑張らないと。
今日、失点した原因をしっかりと確かめて夏の大会に向けて修正して行こう。
あと約一か月だ。
甘く入ってしまった変化球はもうなくしていかないと強豪のチームに対抗できない。
九回三失点、被安打六か。
エラーが少しあったし、まだまだ守備での改善の必要がある。
最後のホームランは挑戦しに行っただけだし、あんまりチームとしては関係ない。
俺の問題だ。
すぐそこに大会が待ち受けているのだから。