実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
恋恋高校戦を四日後に控えたある日。
俺たちは出来るだけ集めたデータをもとに相手の研究をしていた。
恋恋高校に対してどう戦うのか、ただ問題点が多々あったのだ。
「やっぱり研究してもわかんねぇ……」
「……む。どう攻めて行くべきなのか」
「どうした、朱鷺。六道と仲良く研究か?ラブラブだな」
「なー!」
「何言ってんだよ、友沢。恋恋の研究だ」
「なるほど、通りでお前らがいないわけだ。それで何がわからないんだ」
そう言って友沢は一つの紙にまとめられた研究データを見る。
その紙を見て、若干顔を驚愕させていた。
「な?早川あおいと南、そして小井田真奈花のデータを研究していたんだよ。他のやつらのデータは集まったし、苦手なコースも結構わかってきたんだがな。見ろよ驚きだろ南の各コース別の打率をさ」
「左上から1として真ん中上が2と見ていくんだが・・・」
「全部のコースの打率が三割後半から四割強。盗塁率は四割弱なんだがさらに成功率は九割超え、内野安打は二割から三割、守備率は驚異の九割九部。得点圏打率は七割弱、か。隙がないというレベルじゃないな。朱鷺、こんなやつが味方だったのかと疑うぞ」
「最初、データを見たときは俺も驚きだ。んで変化球とか直球の打率もコース別で見ても四割弱あたりなんだよ。どう攻めていったらいいのかをさっきまで考えていたんだけどな。恐らく南がクリーンアップを打つみてーだ。それに早川あおいと小井田真奈花のデータも調べていった」
「早川は俺はシニア時代見たことあった。だが戦ったことはないからわからない」
「シニア出身だったのか、それは凄いな。変化球はカーブ、シンカーの二種類っぽい。下手投げで球速も120キロも出てないが、結構三振も多い。恐らくだが四球も無いことから制球力が異常に良いな。早川の球で俺的に怖いのが早川のストレートかな」
「何故だ?そこまで球速がないというのは怖くないはずだぞ」
聖が頭の上ではてなマークを浮かべている。たぶん、変則投手の球とか捕ったことないんだろうな。
聖レベルなら戦ったり捕ったりしたことあると思ったんだけど、やっぱりオーソドックスな投手が多い証拠なのかね。
「……経験したことも無い角度からのストレートか?昔、シニア時代に変則投手と戦ったことがあってな」
「御名答。さすが元投手だな。聖に説明してやってくれないか、友沢」
「六道、アンダースローの投手は打ったことあるか?」
「いや、ないぞ。それが何かと関係するのか?」
「想像できるアンダースローよりも実際見たアンダースローはまったく違う。内角高めのストレートは通常の投手……猪狩とかの球速が速い投手などは別だが、釣り球とかに使われたりもっとも飛ぶコースでありながらも良く使われるコースでもある。ただアンダースローからだとまったく打ったことも無い球だからなのか、浮き上がってくるような感覚を印象付ける球へと変わる。釣り球ではなく、決め球に使うことができるんだ」
「そうだ。たぶんだけど、相当早く感じるだろうな。ソフト経験者ならわかるがソフトの投手が投げるライズボールと似ている。要注意の投手だな。制球力がなおさらだから下手したらまったく打てないってのもある」
俺が手を使ってライズボールの浮き上がりを表現する。
友沢もそれに軽く頷きながら、データの書いてある紙を見ている。
聖はそれになるほど、と頷いている。
これは後でみんなにも言っておかないといけないっぽいな。
「他にも小井田のデータはあるのか?」
「まあな。聖が昔に一度戦ったことあるらしい。低めに強く、打球が引っ張り方向に多くて、チャンスに強いみたいだな。守備に関してもかなりうまいみたいだ」
「相手はやっかいだぞ」
「他のメンバーも下手ってわけじゃねえし、良い選手もいる。強いぞ、恋恋は」
「ふっ、どこであろうと俺は自分の仕事をするだけだ」
相手として不足はないし、強い相手だが俺たちとそう戦力は変わらない。
待ってろよ、南。俺たちはお前らを倒す準備はできているからな。そっちも俺たちを倒す準備はできているはずだよな?勝負だ、お前が作り上げたチームと俺が作り上げたチームで。
――――――――――同時刻、恋恋高校にて
「相変わらずいつ見てもタレントぞろいだよね……」
「うん。簡単に勝てる相手じゃないよ。やっぱり注意するのはクリーンアップの三人、六道さん、友沢さん、そして朱鷺。さらには六番に猛田さんも控えているこの打線は強豪校にも匹敵するかもしれない。友沢さんはどのコースも弾き返してくるし、六道さんもヒットを量産してくる。朱鷺なんかははっきり言って四番でも良いのに、五番に座っている」
「慶次はチャンスに強いから厄介だし、一、二番を抑えないと打線が機能するから怖いな。聖ちゃん、亮君、修也君の三人はみんな打撃は良いし、怖いと言ったらありゃしないね。こっちはあおいと南は警戒されてるだろうし」
「あれ?慶次って……猛田君のこと知ってるの?」
「ああ、まあな。幼馴染だし」
「えー!?そうなんだ!って今は相手チームの話だよね。でも、ボクら同じくらい真奈花も警戒されてるはずだよ。三番サードなんだから」
「そうだね。真奈花さんの実力も警戒されていると言っても良いよ。とにかく打線は凄いのはわかるけど、後は投手陣」
僕たちは一つの紙を三人で見る。
うーん、やっぱり相手のデータは多いな。結構データあるから対策とかはできるだろうけれど。
「朱鷺君がエースで霧丘君も投手なのかな?」
「ううん、あおいちゃん。たぶん、朱鷺がエースで投手は一人なはずだよ。朱鷺の球種はスライダー、カーブ、シンカー、高速シンカー。球速も平均135キロでスタミナが抜群だし、制球力も及第点。前の試合は九回一失点の好投を見せている投手だよ。一年生なのに135キロ以上を投げるのはすごいよ」
「キャッチャーは聖ちゃんか。リードもうまいだろうし、なかなか点は捕らせてくれないだろうね」
「何だかんだキープレイヤーが朱鷺だね。この打線をあおいちゃんが抑えてくれれば大丈夫だけど」
「うん、ボクしっかり抑えるから期待しててね南くん。頑張るよ」
「あおいちゃん頼むよ。真奈花さんも期待してるからね」
「おっけー。打ちまくってやんよ」
「どうしたよ、みんな」
部室のドアが開く。そこには我がチームには無くてはならない存在である人物がいた。
樋宮 巧君。
「樋宮くん、リハビリは終わったの?」
「お、早川。さっきリハビリやってきた。そういえば次の相手はどこなんだっけ?」
「早いね、巧。慶次が居るところだよ。聖タチバナ学園高校」
「え?本当に?あー、出たかったな。公式戦。俺もこの肩さえ壊してなければなあ」
「……やっぱり小次郎と慶次を恨んでるか?」
「それはないよ。小次郎と慶次だって悪気があってやったわけじゃない。俺が二人の練習に付き合っていて、たまたま起こった事件だったわけだからさ」
そう言って樋宮君は笑う。それに僕たちは少し黙ってしまう。
樋宮君はシニア時代、練習後に東條君と猛田君の練習に付き合ってた際に肩を壊してその年の最後の大会に出場ができなくなった。東條君がもう少し続けたかったらしく、了承した次の球を樋宮君が投げて肩を壊してしまったらしい。最後の年は帝王シニアとの最終決戦が予想されていて、毎年争っていた対決ができなくなってしまった。そして海外に行って外国特有の手術で肩の治療を行い、日本でその病院でリハビリを行うことになった。
そこで樋宮君はこの高校に進学してリハビリを中心に高校生活を過ごそうとしていた時に、幼馴染である真奈花さんが樋宮君を誘って野球部に入ってくれた。もちろん最初は嫌がっていたけど、真奈花さんが肩を直してキャッチャー転向を勧めてさらに当時投手の他に守っていた外野にも勧めた。
そのときは否定していたけど、樋宮君自身も野球をやりたがっていたのかもしれなかった。
今は夏の大会には間に合わないけど、秋の大会からは参加できるようになると言われて今はしっかりリハビリに勤しんでいる。
僕は樋宮君をとても尊敬している。中学校時代は朱鷺のことを尊敬していて、ずっと投手をできないでいたのがわかっていた。高校でやっと投手をできて、抽選会でイキイキしていたのを見て安心した。
樋宮君は朱鷺と同じでは無いけど、結構似ていたりする。そういうところに僕は尊敬している。
「南、早川、真奈花」
「どうしたの?」
「どうしたのかな?」
「どうした?」
「今度の試合は勝てよ。俺は病院で応援してるからさ」
「うん。樋宮君」
「もちろん、頑張るよ」
「なんだよ、お前らしくねーな」
そう言いながら僕らはそれぞれハイタッチをする。
お互いに全員一年生のチームだけど、力でいえばそっちが上かもしれない。
でも、僕たちは倒しに行く。聖タチバナを。
朱鷺の作り上げたチームを僕らが倒しに行くから、覚悟していてくれよ!
お互いのチームのキープレイヤーであるキャプテンは相手チームを倒す為に準備万端だ。
まだ猛暑とは言い難い夏。夏予選はまだまだこれからだ。
―――――――恋恋高校戦前日、部室にて。
「大体こんな感じだと思う。あくまでこれはイメージだからな」
俺がそう言うとみんながそれぞれに頷く。
さっき、俺は早川の球筋についてみんなに説明していた。データでみるとどう考えても早川は厳しいコースへの球が多く、変化球と直球のバランスの良い配球で相手を打ちとっていた。さらには鷹野さんと同じく四球が圧倒的に少ない。
俺は女の子で投手をやることから、早川を『精神的に強い』投手と予想した。
いくら精神的にきつい方法を取っても逆にやられるだけ。ただ、攻略法が無いわけではない。相手は俺たちと同じ、投手陣が一人しかいないということだ。
一回戦の投球数は早川が七十六球で終わっているのに対して、こっちは九十八球だ。疲労度は俺のほうが高いし、比較的俺は多く変化球を投げていたから延長になったらどっちに転ぶかもわからない。
だけど、俺と早川を比べたらスタミナの差は俺のほうがある。
作戦は『相手のスタミナをどれだけ削っていくか』だ。もちろん相手もこの作戦を使ってくるはずだから、我慢する試合になると思う。
「変化球はカーブとシンカーはどっちが手強いかっていわれたら、慣れないシンカーか・・・?変化の大きいカーブもちょっと厄介だな」
「どっちにしろ良い投手には変わりねーよ。しっかりと狙い球絞っていかないと怖すぎる。いつの間にか点取れずに延長とかシャレにならねーぞ」
「先制点も重要だぞ。プレッシャーも与えていきたいところだ」
「ふっ、とりあえず簡単には簡単にくれないってことだろ。自分がすべき仕事は変わらないはずだ」
その通りだ、友沢。
攻撃は明日は我慢の展開が続くだろうけど、みんなならやってくれるはずだ。
「そして打線のほうだ。ここで注意する打者は恐らく四番に座る南が重要だ。一応データをまとめたから拡大コピーしてもらったこれを見てくれ」
そう言ってみんな(友沢と聖以外)がそのデータを見る。
そうすると全員の顔が驚く顔に変わった後にしばらく誰も口を開けなかったが矢部君が口を開いた。
「こ、これ、本当でやんすか……?」
「はあ!?こんなにバランスの良くて、隙がない選手っているのか?」
「ああ、嘘じゃない。だからこいつが一番怖い打者であって、一番警戒しなきゃいけない打者だよ」
「ところで、南の対策は見つかったのか?」
「……」
「……」
友沢が俺と聖のほうを見る。
俺と聖が冷や汗ダラダラかいて、全員の視線が俺に集まる。や、やめろ俺らを見るな!
いや、俺らも考えたんだよ?な?
聖が俺のほうを向いて助けを呼んでいる。ごめん、俺もまだ見つかってないです。
すぐに俺はみんなに土下座をした。
「ゴメンナサイ!見つかってません!」
「すごく潔いな……。まあ、後は試合でどうなのかだな。実際戦ってみなければわからないことは多い」
うんうん。その通りだな。
南の攻略法は恐らく戦ってみなければ無いし、南だけのチームじゃないからな。
猛田こっちみんな。ごめん見ないで。
「他には三番か五番に座るだろう、小井田のデータだ。低めに強く、サード方向に良く打ってくる打者だ。だが、典型的なプルヒッターなわけじゃないし、流してきたりと技術も高い。こいつもチャンスに強く、守備に関してもうまいからな」
「……」
猛田も知っているようだからわかるだろうけど、良い選手だぜ。こいつも。
低めが得意な打者は配球に苦労するからな。さらに技術も持ち合わせているとなれば、相当苦労しそうな打者だ。
しかし、今思うと恋恋は良い選手がいるぜ。
他のチームも驚いているところもあったはずだ。特に一回戦のチームなんてな。
余裕だと思ったら、良い投手とかスーパープレイヤーが居たりして驚いただろうよ。
ま、でも野球は九人でやるものだ。一人や二人良い選手が居ただけじゃあ、チームの柱しか作ることができない。明日の試合も勝ちに行く。相手は俺らと同じくらい良いメンバーがいると考えても良いからな。
「よし明日も勝ちに行こう!」
「「「「「おー!!!」」」」」
みんなの声が部室全体に響いたのだった。
太陽がグラウンドを照りつけるような猛暑となったこの日。
市民球場ではある二回戦の戦いが幕を切ろうとしていた。
三塁側のベンチに聖タチバナ、一塁側には恋恋というどちらも一年生のみ部員のいる高校であり、さらに今年加入した高校でもあることからスタンド、バックネット裏には他のチームやスカウト陣もいるようだ。
うっわ、スピードガン持ってる人もいるぜ。色んな人がこの試合を注目してるのか。
あっ、あれはみずきちゃん達じゃないか?もしかして応援に来てくれたのか?
よし!気合いも入ってきた!今日も良い投球できるように行きますか!
『さて始まります。地区大会二回戦、今大会注目のカードとされている対決です!片方は今大会初出場ながら一回戦突破した恋恋さ高校。片方は今大会八年前以来の出場となる聖タチバナ学園高校。どちらも注目すべきはベンチに入っているメンバーが九人、さらには全員が一年生という異色のチームです』
二回戦をラジオで放送するのはかなりの異例なことであり、世間がやっぱり注目している試合。
じゃんけんで負けてしまった俺たちは先攻で、先ほどノックが終わって恋恋が後攻でノックを今している。ベンチの様子を見ても自分達同じ一年生というのもあるのか緊張しているのが目に見える。
『それでは各高校のスターティングメンバ-を発表したいと思います!
まずは聖タチバナ学園高校。
一回戦では今年、シード校にとって脅威と言われた極悪久高校を七対一というスコアで勝っています。
特徴としてはクリーンアップの勝負強さが光るでしょう。
一番センター 矢部。俊足が持ち味で一回戦では積極的な走塁を見せていました。
二番ライト 真田。この選手も俊足が持ち味ですが、今日の試合で見せてくれるか。
三番キャッチャー 六道。女性選手です。一回戦では四打数四安打の活躍。ミート技術も凄いですが、キャッチングセンスも見ものです。
四番ショート 友沢。一回戦ではショートに転向して二ヶ月ながらもそれを感じさせないプレイを連発。スーパープレイヤーと言っても過言ではないでしょう。今日も攻守共に活躍してくれるか?
五番ピッチャー 朱鷺。一回戦は一失点完投しました。打者としてもレベルは友沢にも劣らないほどです。キャプテンとしてもチームを引っ張ります。
六番レフト 猛田。勝負強さはチーム一。ムードメーカーでもある彼がどう試合に影響するか。
七番サード 喜多村。攻守ともにバランスの良い選手です。相手チームとしてこの打者が下位にいると嫌でしょう。
八番ファースト 霧丘。このチーム唯一の左利き。数少ない左打者として活躍できるか。
九番セカンド 峰田。かなりのバント職人と聞いています。堅守で内野陣を引っ張ります。
対する恋恋高校。
一回戦では投手陣が売りのブロードバンドハイスクールに六対二で勝っています。
特徴は異色のアンダースロー投手の早川擁する守備と粘り強い打線でしょうか。
一番レフト 増田。この選手の足は矢部に匹敵する俊足です。
二番セカンド 田中。バントがうまいのが持ち味です。足もそこそこです。
三番サード 小井田。女性選手ながらも一回戦ではチーム最多打点の四打点の打撃に加え、粘り強い打者で相手を苦戦させます。かなりの堅守を誇る選手です。
四番ショート 南。聖タチバナの友沢と同じくスーパープレイヤーです。打撃はもちろん、圧倒的な守備範囲でチームを支えます。小井田との三遊間も見ものです。
五番ファースト 香川。ミートが売りの打者です。流し方向は良い打球を飛ばします。
六番ライト 松岡。一発がある打者です。肩も強く、外野の守備を引っ張ります。
七番センター 沢松。特徴の無いのが特徴の選手です。
八番キャッチャー 中里。リードで投手を引っ張ります。打者としては粘り強いのが特徴でしょうか。
九番ピッチャー 早川。女性選手ながらもアンダースローからのキレの良い球を投げます。制球力が抜群に良いのも特徴です。
この試合はどんな試合になるでしょうか。
両校がベンチ前に整列します』
おっとラジオはここまでかな。
相手のノックも終わったようだ。よし行くか。
俺がみんなに声を掛けてベンチ前に並ぶ。
あっち側も準備ができたみたいだ。
「行くぞ!」
「「「「「おー!!!!」」」」」
両チームの選手がホームベースに並ぶ。
「お願いします!」
「お願いします!」
お互いのキャプテン……俺と南が挨拶をしてそれに続いて全員が挨拶する。
別れるときに俺と南の視線がぶつかり合う。
「朱鷺」
「南」
南、お前らのチームぶっ倒してやっからよ覚悟しとけ。
そう言って俺たちはベンチへと戻った。
俺は今、幼馴染の一人であるやつと対峙して並んでいる。
いつも変わらない表情でこいつは俺のことを見ている。
挨拶が終わるとあいつが俺に言った。
「慶次、負けないから」
「マナカ……」
「……いつまでもあの事件を後悔してたら成長できないよ。小次郎と慶次はぜんぜん成長してない」
「っ!」
「成長してると思うんだったら見せて。あんたの本気。でもね、あんたよりもあたしのほうが成長してるってはっきり言える。中学野球に逃げた時のあたしとは違うよ」
「俺だって成長してるって言える。あいつの分の夢も俺が受け継いでるんだよ!」
「じゃあなんで 小次郎と同じ高校に進まなかったの?」
「なっ!?……そ、それはっ」
「ごめん、今は関係なかった。……あんたも同じだよ、小次郎もそう思ってるだろうね。馬鹿だよ本当に。とにかく負けらんないからこっちも」
「マナカ、言うじゃねえか。そこまで言われて何もできない俺じゃねーぜ」
そう言ってマナカはサードベース付近へと歩いてゆく。
ちっ、くそ!なんであのことを思い出させようとするんだよ!
まだ、俺はあの事件を忘れたわけじゃねえ!心の奥にしまっておいただけなんだよ。
俺はあいつの分の夢を背負ってる!コジローだってそう思ってるかもしんねえ。
でも、それでもあの事件で俺らはバラバラになったんだよ。
……今はそんな場合じゃねえ試合に集中しなきゃな。
恋恋のエース、早川がマウンドに立って投球練習を行う。
低いね。なんかもう投げる位置が低いね。あたりまえだけど。
『一番センター 矢部君』
ボールバックがされ、キャッチャーがセカンドにボールを投げる。
キャッチングはそこそこかな。
そして矢部君が打席に立つ。大丈夫かな?軌道はやっぱり見てみないとわからないもんだから初球から行くと打ちとられる。
一回戦は初球から行ったせいで相手チームが早川のスタミナを奪えないで負けた。
『プレイボール!』
審判の声に反応して早川が振りかぶって投げる。しなやかな腕の振り。
下手投げ。そこから浮き上がってくるようなストレート。
外角低めの球。矢部君は見逃す。バシッとキャッチャーミットの音が響く。
「ストーライク!」
「やんすっ!?」
まあ、驚くのも無理はない。見たことも無い軌道だから。
しかも、ギリギリのコース。厄介な投手だな。
早川が投げる。
さっきストレートの軌道をなぞるように球が投げられる。しかし、途中で軌道が変化してワンバウンドする。キレのある変化球だぜ、カーブか。
矢部君は空振りする。だから、制球力には気を付けろとあれほど……。
結局、次の球の真ん中からカーブで落とされて矢部君は空振り三振。
続く、真田がバッターボックスに入る。
「だからあれほど」
「すごい軌道でやんす……。簡単には打てないでやんすね」
「だからあれほど」
「制球力もあるでやんす。同じコースからのカーブは難しかったでやんす」
「だからあれほど」
「うるさいでやんす!おいらがわるかったでやんす!」
まあ、矢部君がとりあえず反省しているってことで良しとしよう。
真田もなかなかタイミングがつかめてないようだからな。
ありゃりゃ、真田も外角高めのストレートを見逃し三振か。
こりゃあ、よっぽどすげえな。
「すまん。球が予想以上に早く感じるわ」
「カーブもキレは良いか?」
「ああ。カーブの制球力も良い。直球だけ注意ってわけじゃないみたいだな」
「では行って来よう」
『三番キャッチャー 六道』
聖が打席に立つ。やっぱり相手チームも研究しているようで、聖の打席になるとみんなで声をかけ始めた。
早川がサインに頷いて振りかぶって投げる。
それにしても良いリリースポイントで投げているな。あれは結構打ちにくいぜ。もっと改善できるだろうけど、一年生であそこまでできたら上出来以上だ。
投げられた球を打ちに行こうとするが、タイミングが合わないみたいか見逃した。
「ストーライクッ!」
内角低めのストレートだろうか。聖の眼がストライクって判断できたのはさすがだな。
しかし、このストレート打つ方法は無いのか?
早川がゆっくりと振りかぶる。それに合わせて聖が構える。
次の球もストレート。コースは外角高めだ。
それも聖は見逃して、2-0となる。早川の特徴である対角線投球もやっぱり注意だ。
うまく打者の気を逸らす投球だし、眼が追い付かなくなるからな。
ただ、聖は眼に関しては別格だぜ。対角線投球は聖には通用しない。
次の球は―――――内角高めのストレート。
俺らが一番警戒すべき球種の一つであり、早川にとって自らの持ち味を最高に生かすことのできる球。
聖はそれを打ちに行く。
コキンッとバットに当たる。打球は詰まりながらもピッチャーの右を抜けてセンター前に抜けそうな打球。
だが、そこは恐らく奴の守備範囲だ。
ショートの南が腕を伸ばして捕って、回転して一塁にそのまま送球した。
「アウトッ!」
審判が声をあげてコールした。
あいつにとっては普通にやってるようだが、周りからしたら超ファインプレーだぜ。
観客から声が挙がり、一気にムードが一変した。
「ナイスプレー!南くん」
「そっちこそナイスピッチングだよ。点取りに行こう!」
南が早川に声を掛けている。
さすがキャプテンやりなれてるだけあるな。みんなをしっかりフォローできるポジションだもんな。俺もだけど。
そう言いながら打席から帰ってきた聖のレガースをつけるのを手伝う。
「想像してたよりも浮き上がって見えた。なんて打ちづらい球だ」
「最初はしょうがない。次から頼むぞ、聖」
「わかった。修也は投球頼むぞ」
「おっけー」
そう言って俺らはそれぞれのポジションに着く。
マウンドのボールを拾って、投球練習を開始する。
何球か投げた後にボールバック、そして聖がセカンドへ送球する。
『一番レフト 増田君』
「お願いします」
一番の増田が左打席に入る。
確かシニア出身の俊足巧打の選手だったっけ。セーフティバントも警戒しとかなきゃいけない奴だ。
(内角にストレート)
聖のサインに頷いて俺が振りかぶって投げる。
いつも通りのフォームから投げられた球は内角に構えていた聖のミットにバシッ!と収まる。
「ストーライク!」
増田はボールを見る。よし、初球取った。1-0だ。
そして増田はボックスを均して再度打席に立つ。
(外角からストライクゾーンに入ってくるスライダー)
俺が頷いて投げる。外角のボールゾーンからストライクに入るはずのスライダーがそれてボールとなる。
すぐにボールを受け取り、低めのストレートのサインに頷いて投げる。
そのボールを増田はバットに当てて三塁ベンチへのファールとなる。
……振り遅れているな。初打席だからってのもあるけど、低めの若干真ん中よりだぜ。
(外角低め ストレート)
サインに頷いて投げた球はストライクゾーンギリギリ入っている球。
それを増田はバットに当て、カキッという音が出る。
打球は三遊間へ飛ぶゴロ。しかし、レフト前には転がらない。
ショートの友沢が打球に追いつく。さっきの南のプレーと同じくらい難しい打球。
「……!」
それを友沢は捕って、すぐにノーステップで一塁へと送球する。
それと同時に増田が一塁を駆け抜けた。どっちだ!?
「アウトッ!」
おおっ!、とスタンドがどよめいて、ざわざわする。
さっきの南と同じくらいのファインプレーだからな。スカウト陣も転向して二か月のプレーにしては凄いと驚くだろう。
「ワンアウト!ショートナイスプレーだ!」
「ワンアウト!友沢サンキューな」
「しっかり頼むぞ。エース!」
任せろ、お前の期待にこたえられるようにしとかねーとな。
聖がみんなに声を掛ける。友沢も自ら他のやつに指示を送る。
ふぅ、ナイスプレーだ。友沢に救われたぜ。
『二番セカンド 田中君』
田中が右バッターボックスに入る。
こいつは足はそこそこあるが、あんまりバッティング自体は良くない。
甘くてもヒットには出来ないはずだ。二球ともストレートでいい。
2-0からのシンカー。それを田中は空振り、三振となる。
バットに当てられずに田中はベンチへ戻ってくる。
『三番サード 小井田さん』
小井田の得意なコースは低めで、特に内角低めの打率が高い。
フォームもフルスイングする選手の神主打法に似ていて、変化球にも対応できる打者でもある。
聖よりみたいなミート力は無いがそこそこ当ててくるのがうまく、猛田みたいなフルスイングする打者みたいだ。
結構投げにくいな。しっかりとリード頼むぜ。
(外角高めのストレート)
頷いて投げる。外角高めのストレートだが、小井田はそれをカットしに行く。
カッ、とボールがバックネットに当たる。
きわどいあのコースをフルスイングして、さらにタイミングぴったりとかかなり警戒しなくちゃいけねーみたいだな。これで甘いコースに投げていたら明らかに長打だったな。
こいつも聖と同じで眼の良い打者、もしくは勘の良い打者だったとしたらなかなか投げにくい。
(一回内角高めのボール球で様子見)
頷いて投げる。内角のボール球にびくともせずに見逃す。
っと、これは怖い打者だな。
「ふぅ、…よし!」
一回、深く吐息を吐いてバットを構えた。
気合いも入ったらしく、すでに俺のほうに集中していた。
(外角低めのカーブ。ストライクゾーンから落とす)
ゆっくりと軌道変化するカーブを小井田はバットをフルスイングする。
ッカキッ!と打球は一塁線への鋭いファールとなる。
これは難しい。次の球でボールにしたとしても、球数を増やされるだけかもしれない。
だったら―――――。俺が聖に向けて、帽子のつばを触りサインを送った。
(!、内角低めの高速シンカー)
聖は驚いたように、サインを送った。
ボールの縫い目を確かめて、しっかりと握って投げる。
内角低めギリギリへと変化するこの球を小井田は振りに行く。
バシッ!とボールはキャッチャーミットへと収まった。
「ストーライッ!バッターアウト!」
審判がコールする。
よっし、打ちとった!高速シンカーにタイミングこそあっていたが、変化量が予想以上みたいだったらしくバットは空を切った。
「やるね。さすが慶次の居るチームだ」
「しっかり守るよ!」
小井田がそう呟き、南がみんなに声を掛けて守備に着きに行く
打ちとられてもムードは悪くなんないっていうか、落ち込まないって感じかな。
それはそうとしてこっちの攻撃だな。
「やっぱり打てなさそうか?」
「ボール球をあんまり投げてこないでやんすね。相手もスタミナのことも考えているでやんすよ」
「内角高めのストレートが打ちにくかったぞ。球が遅いと思ってたらやられると思う」
「まだ様子見するべきだな。でも、甘い球が来たら打っていこう。友沢頼む」
「わかった」
『四番ショート 友沢君』
友沢が打席に立つと外野手が全員守備位置を下げ、ファーストとセカンドも守備位置を下げた。
これは左打席に立っている友沢のためのシフトだろうか。
これはかなり警戒されてるな。恐らく南と早川の指示だろうけど。
早川が振りかぶってしなやかな腕の振りで投げる。
その球、内角高めのストレートを友沢はフルスイングする。
「……!」
「ストーライッ!」
バットは当たらずに空を切る。ただそこに友沢の動揺は無い。
再びバットを構えて、早川に視線を向ける。
サインに頷いて早川が投げる。
次の球を友沢は見極めて1-1。
友沢相手に変化球無しははっきり言えば無理だ。そろそろ来る。
行け。友沢、早川の変化球を打ちに行け。
投げられた球はシンカー。途中で軌道変化して、低めに決まるボール。
それを友沢はすくいあげて、ボールを打つ。
ッカァキィン!とボールはライトを越してフェンス直撃して、その間に友沢は二塁を陥れた。
ツーベースヒット。さすが友沢だ、初の変化球をあそこまで飛ばすとはな。
『五番ピッチャー 朱鷺君』
さて行きますか。俺も続かないとな。
このワンチャンスは逃したくないし、先制点がほしいところだったからな。
俺が打席に立つと友沢と同じく外野が後ろに下がる。
(早川はシンカーとカーブ。さらにあの制球力が厄介だ。厳しいコースは全部打ちにいくつもりじゃねーと、三振喰らうしスタミナを奪えない)
初球は内角低めのカーブ。それを見逃す。
改めて凄い制球力だと感じさせる。普通のチームでもエース狙えるほどだろこれ。
ただ捕手があまり良くないな。早川の制球力はもっと生かせるはず。
(次は外角付近だ。シンカーは友沢が打ったからストレートを狙う!)
ビュッと早川から球が投げられる。
予想通りのストレートだ。
無理に引っ張んなくて良い、逆方向を意識して流す感じで……!!
ッキィンッ!と音を残して打球はライトスタンドへのファールボールとなった。
予想以上に伸びてきて、威力もある球だ。会心の打球とは言えない。
2-0だし、もう相手が圧倒的有利だ。
三球目。外角へのストライクゾーンから落ちるカーブを見逃す。
これは恐らく内角高めのストレートへの布石だろう。2-1となる。
早川のストレートは内角高めの決まれば最高の武器だからな。
(来い、来い!その球投げてこい!)
早川が投げる。来た、内角高めのストレート。
この球は伸びてくる。打つんだったら叩け!上からボールの上を叩くつもりで良い!
ッキィィンッ!とバットはボールを捉える。
が、しかしショートの頭を越えるような打球は南がジャンプして捕球した。
「アウト!」
っ!!やっぱり簡単には打たせてくれない。振り遅れたし、打球も上がってしまった。
前のボールがやっぱり頭に残ってたっぽいから駄目だった。
「猛田、内角高めのストレートはやっぱり注意な!」
「任せろ!」
『六番レフト 猛田君』
猛田がそう言って打席に立つ。
俺がベンチに戻り打席を見つめる。
「ボール!」
外角へのカーブが外れる。
これで猛田は2-2だ。あのカーブの後の内角高めのストレートだけじゃない。
そう、真ん中付近から落ちてくるシンカーだってあるんだ。
「ストライク!バッターアウト!」
猛田が悔しそうに打席から帰ってくる。
だよな、ストレートだけじゃない。警戒するのは変化球もある。さらにそれを生かしてるのは制球力だ。
しかも、未だにランナー背負ってるのに力みを感じさせないし安定したフォームで投げ続けている。
続く喜多村は2-3まで粘るが、最後のシンカーをサードライナーで打ちとられる。
喜多村もやっぱり苦戦しているみたいだし、この試合は俺の予想以上に苦戦させそうだ。
「聖、しっかりと頼むぞ」
「わかった」
お互いに声を掛けてマウンドへ向かう。
まあ、この回の先頭打者が警戒するバッターってのもあるしな。
『四番ショート 南君』
南が打席に入ると俺に向かってバットを向ける。
改めて敵だと実感する。構えからして友沢と同じ感じがするぜ。
さて、こいつはどんな球にも対応できる技術を持ってる。
(ど真ん中ストレート)
何!?と思って若干表情を変えてしまうがすぐに戻す。
確かに思ってみればこの球はあいつの実力を再確認できる球かもしれないな。
ゆっくりと振りかぶって投げる。
ビシュッ!!!
「……っ!」
ッキィンッ!!!と快音を残して打球はライトポール右を切れてファールとなる。
まじかよ、こいつ。俺の今日一番の球を捉えてきやがった。
確かに野球センスは抜群だな。こんなやつの後ろを打ってたのか俺は。
(内角高めのストレート ボール球)
サイン通りに投げる。
南はつられずにしっかりと見逃す。これで1-1。
(外角のスライダー)
外角へのスライダー。ストライクゾーンギリギリへ変化するスライダー。
それを南がしっかりと踏みこんで捉える。
ッキィンッ!!!とバットはボールを捉える。
打球は一塁線上への鋭いライナーで抜けて行った。
(速い!もう二塁へ行きやがった!)
ライトフェンスへ転がっていく打球で、南は二塁を蹴って三塁を狙う。
峰田が外野からボールを受け取って投げるが南はスライディングをして、すでに立ち上がっている。
「セーフ!」
外角ギリギリのスライダーをあそこまでしっかりと飛ばされると本当に攻略法が無いな。
後は俺の球の問題なのかもしれない。
「タイムを頼む!」
「タイム!」
聖が審判にタイムを申して内野全員が集まる。
さすがにピンチだと思うぜ。先に点をあげたらきつい試合でもあるからな。
「修也、すまない」
「大丈夫だ。俺の球が甘かっただけだからな」
「朱鷺、シフトはもちろんスクイズ警戒で良いんだよな?」
「ああ。セカンド以外はホームにいつでも刺せるようにしてほしい。友沢も前で守ってくれ」
「了解。次の打者は比較的力が無いが、ミートはうまいからな」
みんながそれぞれのポジションに散っていく中で友沢が俺に声を掛けてきた。
どうしたんだ?友沢。
「南紘人、か。負けられないな」
「お前も十分凄い奴だよ」
「点やるなよ」
「ああ」
「ノーアウトランナー三塁!外野バックホーム!」
よし、行くぞ。
五番の香川には内角攻めで行く。
内野はスクイズ警戒シフトだし、スクイズされても問題は無い。
(一度外そう。スクイズがあるかもしれない)
サインに頷いて投げる。
バシッとキャッチャーミットと収まる。
バッターはびくともせずにすぐに構えた。
(内角低めのストレート)
その球を香川は見逃して、1-1となる。
次の球の外角スライダーを空振って2-1となり、四球目の外角へのカーブをカットする。
審判からボールを受け取って、セットポジションに入る。
スクイズあると思うが、高速シンカーなら初見では当てられないはずだ!
俺が選択した球は高速シンカー。香川はバントの構えに入る。
―――――スクイズ。南はホームへスタートを切る。しかし、内角低めのシンカーはワンバウンドしてバットに当たらない。よっし、空振り三振!
南がすぐに反応して戻り、聖が前にはじいたボールを素手で捕ってサードへ送球した。
「セーフ!」
審判がコールをして、ランナーの南が残ったままになる。
速いな判断が、普通のランナーなら戻れない。だが、こいつは本当にスタートが速いし空振りした瞬間にブレーキを掛けて三塁へと戻りに行った。
友沢も若干驚いた表情を見せているが、すぐに元の表情へ戻る。
視線を聖に向けるとすまなそうに声を掛けてきた。
「弾いてなければゲッツーだった。すまなかった」
「大丈夫だ、気にするな。それよりワンアウトだ。しっかりリード頼むぜ」
聖は頷いて、マスクをかぶる。
さてこいつも結構嫌な打者だからな。
『六番ライト 松岡』
大きな体はしていないにも関わらず、パワーヒッターの素質を持っている打者。
ミートはそこまで無いものの、長打があるからな。
徹底して外角攻めだろう。それも聖はわかってサインを送る。
初球、二球目と外角のストレートで追いこんで外角にカーブで外す。
2-1となって、内角高めのボール球の釣り球を松岡はフルスイングした。
カキィン!と打球はレフトの定位置へのフライ。さて、南がタッチアップの準備ができてるぜ。
猛田が勢いをつけて捕った。それと同時に南がスタートを切る。
レーザービームともいえる送球が放たれるが、南の足が速い。
クロスプレーは南の足が先に入ったようで点数が入った。
〇対一、先制点は恋々に奪われる。
でも、アウトが捕れたことは大きいに変わりは無い。
「ツーアウト!」
俺がみんなに声を掛ける。それにみんなは答えて、守りに集中する。
よし、ずるずるいったら負ける。
次の沢松を初球のストレートをピッチャーゴロに打ち取る。
「朱鷺、すまねぇ。刺せなかった」
「心配すんな。俺が元々出したランナーだ」
「それにしても南君はすごいでやんすね。走塁に無駄がなかったでやんす」
確かに、な。猛田には悪い思いさせちまったみたいだが、南の走塁能力が高いのも確かだ。
本当はスクイズで点入れたかったんだろうが、こっちが上手だったようだ。まあ点数は取られたけど。
それよりも攻撃だが、未だ策は無い。粘れとしか言いようがないからな。
この回は三者凡退となった。
同じく相手の攻撃も三者凡退。球数も七球で抑えられたし、なかなかだったと思う。
さて、この回、は重要だぜ。焦ったりしたら駄目だ。
真田がバッターボックスに入る。あいつには色々とできることがあるからな。
――――そう、初球セーフティ。サード方向に転がった打球は小井田の前に転がる。
定位置からのセーフティならセーフになる確率は高いはず―――――。
「……させるかぁ!」
何っ!?小井田が素手で捕球して、そのまま捕った態勢からすばやく送球。
真田との足とほぼ同時だが―――――
「アウト!」
スタンドがざわめく。女性ではあういう筋力を必要とするプレーは難しい。
しかし、彼女は成功させた。っ、これは痛いな。
相手の三遊間が堅過ぎて、こっちも打つ方向を意識してなくても避けているんだ。
外角の球はだから打たされたりするし、ボール球でも振ってしまう。
おかげで流れが恋々に向かっている。くそっ、さすが守備が良い選手だ。
予想以上の活躍をしてくれる……!
『三番キャッチャー 六道さん』
だけど、この回は取りに行くって決めてるからな。
クリーンアップが攻略しなきゃあ駄目だよな、行ってこい聖。お前がやってこい。
聖が打席に立つ。三番打者ってのもあるのか、女性ってのもあるのか早川の表情が若干変わる。
負けてられない、そう物語ってる表情だ。
初球。外角低めに決まるストレートを聖が空振る。
クリーンアップに対してもストライク先攻していく投球は立派だ。
まだ、タイミングを合わせているところだから次から調整してくれる。
ボールを受け取って早川はゆっくりと振りかぶって投げる。
内角高めから落とすカーブ。ストレートのタイミングで待っていたのか、聖は打ちに行ってカットする。
カッ!とボールはバックネットへのファールとなる。
次の球の外角高めのカーブ。ボール球をしっかりと見逃して2-1だ。
四球目の内角へのシンカーをカット、次の球も内角低めのストレートを見送り2-2となる。
「……」
「ふぅ、……!」
早川が一息吐いた後に振りかぶって投げる。
さて、次の球は何で来る?粘られたらきついのは相手だ。聖なら捉えられるぜ。
――――――内角高めのストレートを!
ッキィンッ!!!と快音が響いた打球は三塁線へのライナー。
その打球に反応して小井田が飛び込む!
バシッ!とキャッチする音が響く。小井田のファインプレーだ。
「アウトッ!」
「っ!!」
「あおい!ナイスピッチ!」
「ありがと、真奈花」
くっそー、あの打球にも反応するとか凄すぎだろ。
サードであの守備だったら、セカンドもできんじゃねーのか?
でも、早川は守備に助けられてるしさっきの打球は完璧に捉えたぜ。内角高めのストレートを聖は打ったんだから、これである程度は楽になってくれる。
『四番ショート 友沢君』
2-3からの内角低めのシンカーを友沢はフルスイングした。
ライトへの大きなフライだが、ライトが下がっていたのもあってか打ちとられた。
「アウトッ!」
四回表のこっちの攻撃は〇。
そして四回裏の相手は二番の田中から。
田中を低めのストレートで打ちとるが、小井田に外角低めのカーブをライト前に運ばれる。
そして四番の南を迎えた。
2-2からの俺らが選択した球は――――高速シンカー。
まだ南には一度も見せていない球だ。
ビシュッ!ククッ!
南はタイミングを外されて空振り三振。
「うっしゃあ!」
「ナイスだぞ!」
そのあとの香川をライトフライに打ち取ってこの回〇に抑えた。
『五番ピッチャー 朱鷺君』
(さてそろそろ一発打ちますか。内角高めのストレートを捨てて、カーブを狙ってやるっ!)
早川が投げたカーブ。予想通り!外角へ変化する。
ッキィンッ!!!と捉え、打球は右中間へのツーベースヒットとなる。
「ナイスバッティング!」
「いいでやんすよ!」
「猛田!頼むぞ!」
「任せろ!俺が返してやる!」
『六番レフト 猛田君』
早川はここで捕まえてやる。五回表、この辺が勝負どころだからな。
猛田、お前の勝負強さはピカ一だからなお前に任せたぞ!
早川が投げた初球のカーブを猛田は見逃す。
二球目、三球目はストレート、シンカーとストライクゾーンに入ったがカットをして2-1。
そして四球目。
コースは内角高め。球種は―――――――ストレート。
ガッキィィン!!と轟音を響かせてボールはレフトスタンドへと吸い込まれていった。
「うらぁああああああ!!!」
スタンドは一変して、タチバナムードへ変わった。
これで二対一。俺たちが一点リードとなった。
「ごめん、南くん。打たれちゃった……」
「……あおいちゃん。大丈夫だよ、まだ負けてない」
「わかってるよ……でも」
「あおいちゃん!エースが落ち込んだらそこで試合が決まるんだ。いつもの笑顔でね」
「……うん!」
まだ恋恋の粘りは続く。南の好プレーなどに阻まれて、追加点はなかなか入らなかったが試合はそのまま進んで終盤への戦いへとなって行った……。
一方でパワフル高校メンバーの二人はこの試合を見ていた。
七、八回で聖タチバナが追加点を入れ恋恋を突き離す。
「また点が入ったね。さすがあのクリーンアップを完璧に抑えろって言われても僕は難しいかな」
「……確かにな。三番の六道は圧倒的なミートセンスでボールを捉える。四番の友沢は全打席でボールを捉えてる。五番の朱鷺は友沢にも匹敵する打撃を持ってるが……」
「一、二番の出塁率は良くない。下位打線……七番以降はほとんど上位レベルになったらアウトになりやすいね」
「ああ。何事もバランスが重要だ。下位打線が弱いと繋がりにくくなる」
「だけど、チームワークは良い。朱鷺君中心では無く、みんなでまとまってる。良いチームだよ」
(猛田、お前の本気はその程度か?)
スコアはこのようになっていた。
タチバナ 000 020 21 5
恋恋高校 010 000 1 2
東條と鈴本が話している後ろで声が聞こえた。
「相変わらず、慶次はフルスイングするね。真奈花は中学時代よりかなり成長しているけど、慶次はミート力はあまり成長していないな。ただ、勝負強さだけはさすがだよ」
東條の表情が固まる。
東條が聞いたことのある声。
そうあの事件の被害者であり、あれ以来一度も姿を見せなかった奴の声に似ていた。
「どうしたんだい?東條」
「……まさか。その声……」
そう言いながら東條は後ろを振り向く。
そこには―――――――樋宮巧の姿があった。
「樋宮……!」
「小次郎。パワフル高校に行ったんだ」
「どうしてお前がここに!!」
「ただ、試合を観戦しにきただけだよ。それよりもどうして小次郎は慶次と同じ高校じゃないの?」
「何っ!?」
「あのときの約束は無くなったのかい?」
「……俺はやらなくちゃいけない」
「……俺はそう思ってる小次郎が優しすぎる。自分のために野球はするべきなのに、ね。じゃあ俺はこれから用事があるから」
「樋宮……」
そう言いながら樋宮は歩いて行く。
東條はその後ろ姿をずっと見ていた。
それとは別に鈴本は試合を見ていた。試合は今、恋恋の攻撃になっている。
(聖……)
六道聖。鈴本にとっては過去最高のパートナーであって、初恋の女性。
その人が修也を選んだことに彼に憎しみや嫉妬は無い。
鈴本の実力は最高の吸収力と、並みならぬ努力で生まれている。
打撃ではいつも近くに居た聖から盗んだ技術、教えてもらったことで今の打撃がある。
投球の部分でもたくさんの投手を見ていく中で盗んだものやひたすら努力して生まれた力だ。
特にナックルに関しては中学一年のころから聖と共に生み出し、常に改良を加えて鍛えてきた。
彼一人ではここまで成長できなかっただろう。
六道聖というパートナーがいなければ頑張れなかった。
だから、次は味方ではなく敵だ。
(聖、戦ってみたい。君を敵として、そしていつか僕は……)
そう思った頃にはすでに試合は終わっていたのだった。
パワフル高校のエースと四番はそれぞれの想いを胸に秘めて、スタンドを去っていく。
試合は五対二で聖タチバナ学園が勝利を収めていた。
すでに彼らとの戦いは始まっている。
何が勝者と敗者にするのか。
二人は歩いて行く。
(樋宮……猛田……小井田)
(聖……そして朱鷺)
勝ちべき相手はすぐそこに迫っていた……。