壇上に立つ少女。新入生総代、司波深雪。たしかにその整った容姿と、洗練された態度は人の目を惹きつける魅力に溢れていた。しかし十夜が驚いたのは
『オーラが二種類? そんな事があり得るのか?』
十夜が見ているオーラは霊子放射光-霊子の活動によって生じる非物理的な光だ。その時の精神状態によって変化はするが本来のベースとなる色は一種類。その色は誰もが共通ではなく、精霊と同じで誰もが違う色を持っている。しかしその少女がまとうオーラは一種類ではなかった。
『近い色だがあれは確実に性質が違う。どういうことだ?』
「「十夜」君」
繰り返しかけられた声に我に返った十夜は
「あ、ごめん、凄い綺麗な人だね」
内心の動揺を隠し、話題になっていた外見に関して言葉にした。
「ほんと、女の子から見ても目を奪われちゃうもん」
十夜の態度を容姿に目を奪われていたんだなと解釈したほのかと
「む、ライバル?」
なぜか対抗心を燃やす雫。二人の思考が自分から離れた事を感じ、十夜が再び壇上に目をやると既に少女は答辞を終え壇を下りた後だった。
『悪いオーラでは無かったし今はあまり気にしなくていいか』
十夜はとりあえずそう結論づけると、会場への警戒を再開した。
◇◆◇◆◇◆◇
「「「せーの」」」
三人同時にIDカードを見せあう
「「「A組」」」
「よかった二人と一緒のクラスで」
ほのかが嬉しそうに言う
「うん」
しずくも表情が明るい。
「一人だけ違うクラスになったらどうしようかと思ってた」
十夜も同じように続けながら内心では
『僕は旦那様から聞いていたから知っていたけど二人には言えないしな』
同じクラスになるのは小学校、中学校に続き三回目。
教育機関のクラス編成に軽く口を出すくらい潮にとって簡単な事なのだ。
「とりあえずホームルーム行ってみようか?」
十夜が二人に聞く
「そうだね、どんな人がクラスメートかも知りたいし」
ほのかが言うと
「ほのかが気にしてるのは試験の時の人」
「雫!」
雫の発言にほのかが抗議の声を上げる。
「気にしているのは本当」
そう続けA組の教室に向かって歩き出した雫を追いながら、抗議を続けるほのかをみて
『ほのかちゃんはもう少しこっちの耐性つけないとな』
と自分の事は棚に上げて思う十夜だった。
◇◆◇◆◇◆◇
教室内は4~5人のグループが3つほどできていた。
「一クラス25人だから全員来てる訳ではないみたいだね」
十夜が教室内を確認して言うと
「今日はもう授業も連絡事項も無いはず」
雫が答える。
「それもそっか、ほのかちゃん?」
「うーん、さっきの子居ないね。」
教室を見回していたほのかだが、A組だろうと思っていた先ほどの少女と、自分の目当ての人が居ない事を確認して二人の会話に混ざってきた。
「明日になれば全員揃うだろうし、まだ判らないよ」
教室に入ったときに十夜は全員をその目で視ている。自分のセンサーに引っかかる様な人物が居ないのは確認済みだ。
「司波さんは今頃いろんな人に囲まれている」
雫が断定的に新入生総代の現状を宣言する
「あーたしかにそうかも、十夜君も見惚れてたもんね」
「む」
なにか言いたそうに自分をじっと見てくる雫を見ながら
「綺麗な人だったけど、綺麗過ぎて逆に近寄りがたいなぁ」
十夜は正直な感想を述べた。
なでなで
「雫?なんで僕の頭撫でてるの?」
「なんでもない」
視線を逸らした雫の横で
「はいはい、ごちそうさまです」
呆れた様な表情でほのかが呟いた。
「ほのかの目当ての人も居なかったし帰る?」
それぞれの席を確認し終えた後、雫が二人に話しかける。
「し~ず~く~?」
「あはは、雫それくらいにしてあげて?少しお腹空いたしどこか寄って行こうよ」
「残念、でもその意見には賛成」
「ほのかちゃんも機嫌治して、デザートくらいなら奢るからさ」
「残念って・・・もー・・・」
雫にはまだ何か言いたそうにしていたほのかだが
「ありがと十夜君、セットじゃないとやだからね?」
十夜の気遣いが伝わったのか返事は冗談交じりの明るい声だった
「十夜、私は?」
「雫、そこは空気読もうよ・・」
◇◆◇◆◇◆◇
教室を出ようとしていた3人に
「ちょっと待ってくれないか?」
入り口の近くに居たグループから声がかかった。立ち止まり振りかえると
「これから同じ
最初に声をかけてきた男子が話しかけてきた
『プライドが高そうなやつだな、それにこのオーラどこかで見た気がする。めんどくさい事になりそうだ』
内心でそんな事を考えながら、どうする?といった表情で十夜は二人に視線を送る。
2人はお互いに顔を見交わした後
「「十夜」君?」
『逆に判断を任されてしまった・・・僕はいいけど2人の事を考えたら断るのは良くないな』
「じゃあよろしくお願いするよ」
「よろしく、僕は森崎駿。森崎家の者だ」
「森崎家ってボディーガード派遣の会社を経営してるクイック・ドロウの森崎家かい?」
十夜は内心苦虫を噛み潰したような気分で聞く
『先日のホームパーティーで外の警備にいたボディーガードか、雫の事は気づいてないみたいだけど』
森崎は驚いた表情をしながら
「詳しいんだね、たしかにその森崎家だ」
「それだけ有名だからね、僕は木闇十夜。呼び方は十夜でいいよ」
「光井ほのかです」
「北山雫」
十夜に続けて2人が短く自己紹介をする、
「・・・」
「・・・」
「・・・」
続いている残りのメンバーの自己紹介を聞きながら十夜は
『森崎はそこそこやりそうだけど、他の子達はライバルにはならなそうだな。後は・・・』
脳裏に浮かんだのは先ほどの新入生総代、司波深雪
『2種類のオーラもだが、あの量は規格外だ。数字付きでは無い様だが、特殊な血筋としか考えられない。エレメンツか?』
「十夜」
『司波・・・波・・・水?』
「十夜君」
『少し調べてみるか』
「「十夜」君!」
「うわっ」
考え事をしてる間に話は進んでいたようだ。雫とほのかを残し残りのメンバーは移動を始めていた。
「みんなご飯食べに行くって、私達も行く?」
「十夜、なにか考え事?」
問いかけてくる2人に
「今日は止めとこう。自己紹介はしたし、ほのかちゃんにデザートセット奢る約束だしね」
ほのかにそう返事をし森崎に声をかける
「わるい、今日は僕達ご飯はパスで~。」
「了~解。じゃあまた明日なー」
「また明日ー」
「木闇君は両手に花がいいんだ?」
「えーじゃあ私もそっちいくー」
ワイワイ喋りながら教室から出て行くクラスメートを見送りながら
「後で話すよ」
十夜は雫に小さく囁いた。
◇◆◇◆◇◆◇
「美味しいね」
「まあまあ」
「場所も丁度良い位置にあるし、これからお世話になりそうだね」
3人が入ったのはフレンチのカフェテリア。デザートの種類が豊富で女子には人気そうなお店だった。返事はしているが十夜は正直それどころではなかった。
『オーラが2種類、そして色が同じ・・・・・か』
そう3人が入ったカフェテリアには先客が居た。例の新入生総代、同じテーブルに女子生徒2人と男子生徒が1人ついている。十夜の視線を辿ったのか
「あそこに居るの司波さんだ」
雫も気づいたようだ、小さい声で2人に教える
「え?あ、本当だ。お友達といっ・・・!」
「?」
「・・・・」
「ほのか?」
「なん・あの人・・・・なの・・・」
「ほのかちゃんどうしたの?」
急に俯き呟き始めたほのか
「・んで・・・2科・・の」
「なんであの人が二科生なの・・・」
「あの男子がほのかの言ってたあの人なの?」
ほのかに聞き返しながら
『たしかに司波さん以外二科生、だが男子はオーラを見る限り規格外だ・・・あの活発そうな子、あのオーラの色・・・師範代に近いな、妹がいるなんて聞いたこと無いが・・・そして・・・』
3人目の瞳を視た瞬間の感覚。あれは自分と同じ眼だ・・・
『まさか神霊眼を持っている子がこんな近くに居るなんてね』
次回こそ早めに・・・