吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
それとシリアス注意です。
ディスプレイの明かりだけが照らす部屋の中で俺はパソコンのマウスを動かしていた。
「はぁ、もういいか……」
そう言って俺は椅子から立ち上がりパソコンの前から離れていった。
俺の名前は利根川 生永《せいえい》別に家族が悪徳金融企業の元幹部だったりはしないし、
熱い鉄板の上で土下座もしていないから安心して欲しい。
ついでに最近23歳になった現在無職である。
と言っても最早どうでもいい話だ。
今日でこの命とも別れを告げるわけだからな。
「じゃあな、ヴェールヌイ。もし生まれ変わりなんてものがあればお前にカッコカリじゃない指輪を渡してやりたいな。」
ちなみにヴェールヌイとはー艦隊これくしょんー通称艦これと呼ばれる第二次世界大戦時の日本の艦艇を擬人化した艦娘を育てて深海棲艦という敵と戦うブラウザゲームの駆逐艦の一人であり俺が愛した艦娘だ。
まぁ、所詮はゲームの中の作られた存在だから生まれ変わっても行けることは無いことは分かっているがな。
そうやって全てを諦めた目をしながら淡々と終わらせる準備を始める。
家の中で一番丈夫な柱に縄を括りつけ、垂らした先で輪をつくる。
そして用意した椅子に乗って輪に首を通し、後は椅子を蹴り飛ばせば完了だ。
準備を終え俺は昔を思い浮かべながら最後の時を噛み締め…………
勢い良く椅子を蹴り飛ばした。
締め付けられる痛みと苦しみを感じながら、
暗転していく意識の中で何処か聞き覚えのある少女の声が聞こえた気がした。
目覚めるとそこは暗闇だった。
まあ死んだんだし仕方ないかと思いながら体を動かしてみるとしっかり動かすことができたが、
どうやらどこかに閉じ込められてるようでどう動かしてもぶつかってしまう。
しかしこれは自分で選んだ事なんだといつものように諦めることにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
時間の感覚は分からないが恐らく二日は経過しただろう。
最初は平気だったが、すこし寂しくなってきたのでとにかく叫んでみた。
「おーい!!誰か居ませんかー……ってなんじゃこりゃ!?」
自分の口から何か聞いた事ある声が出ている?この声はまさか!?
「……んっ、……んんっ!吾輩が利根である! 吾輩が艦隊に加わる以上、もう、索敵の心配はないぞ!」
あ、マジもんだわ。
いやぁ、これはニコ動に上げたらうけるだろう!
って死んだあとでできるようになってもしょーがねーだろ!
なんて一人寂しくノリツッコミをしていると突然空気を噴出するような音がすると同時に目の前の壁が動き出した。
「な、なんなんだ一体!?」
目の前に広がる光に目を細めながら二つの人影が近づいてくることに気づいた。
明るさに慣れてきた頃には二人は目の前まできていた。
「やあ、知ってると思うけど私はヴェールヌイだ。一つ確認させてもらってもいいかい?」
銀色の髪に綺麗な水色の瞳の可愛らしい少女、ヴェールヌイの問いかけに俺は無言で頷く。
「スパスィーバ、それじゃあ単刀直入に聞こう。君の中身は利根川 生永で間違いないね?」
彼女にそう言われて俺は自分の体を見てみる。
その姿はどう見ても艦これの登場キャラクター利根型重巡洋艦一番艦利根だった。
ああ、本当に転生ってあったんだなと俺は初めて神に感謝していた。
「あ、ああ……生前はそうだったな。」
「生前…………か。」
ん?気のせいかもしれないがヴェールヌイさん怒ってらっしゃいます?
俺もしかして彼女達に何かしましたっけ?
なんて考えてると隣の草緑色のポニーテールの少女が話しかけてきた。
「まあまだ死んでないから安心してね。っていっても貴方にとっては残念なのかしら?」
「あ、一応自己紹介しておくわね。わたしは兵装実験軽巡夕張よ、よろしくね!」
「ああ、よろしく……ってえ?まだ死んでいないってdぐはぁっ!?」
俺が疑問を口にしようとした瞬間、ヴェールヌイから腹部におもいっきりストレートが飛んできた。
「ぐおぉ………………なにすんだよ!」
「それはこっちのセリフだよ。なんであんなことをしたんだい?」
「は?何をいってrぶふぉっ!?」
訳が分からないまま今度は強烈なビンタを受けて文字どうり張り倒された後胸ぐらを掴みかかられた。
「なんで自害なんて真似しようとしたんだい?
君には家族もいるだろう!友人だっているだろう!
君は残された人の気持ちを本気で考えたことがあるのかい!?いいやないだろうね!考えたことがあるなら自害なんて手段は選択肢に入らないはずだ!!
そうだろう!なぁ!聞いているのかい!!?」
俺の知っているイメージからは想像もつかないくらい声を荒らげる彼女を前に俺は成す術なく地面に頭を叩きつけられながらも彼女がなぜこんなにも悲しそうにしているのか分からずにいた。
「ちょっと!?落ち着きなってヴェル、あなたらしくないわよ!」
「だって!残された人の気持ちも考えずにこいつは!こいつわぁ…………!」
夕張の仲裁によりヴェールヌイは少し落ち着いたようで彼女は俺から手を離した。
「はぁ……はぁ……済まない、少し取り乱してしまったね。」
「まぁ、ヴェルは艦としての記憶の事もあるから勘弁してね。」
そうだ、彼女は終戦まで残った艦艇だった。
ということはそれだけ仲間の最後を見てきてるってことか。
「確かに軽率な行動だった……ごめん。」
謝った所で死んだことに変わりはないのは分かっているが今はもうそれしかできないでいた。
「よし、落ち着いたところで説明の続きをさせてもらうわ」
「そうだね、そうしようか。」
「じゃあ今の状況だけど貴方は今利根さんになっているのはわかるわね?」
改めて確認してみたがやっぱり利根だな。ならば!
「うむ、そのようじゃな。」
あ、やっぱ喋り方それっぽくするといいな!
「あはは!大丈夫そうね。まあでも別に転生とかそうゆうのじゃないの。」
「え?死んだのに転生じゃない?」
「まだ死んじゃいないさ、夕張の造ったこの機械で死ぬ前に魂を入れ替えたんだ。」
「え?」
「そう!これが私の自信作なの!その名も……」
「入れ替えロープ」
夕張は自慢げに胸を張り声高々とその名を呼んだ。
「……いや、どっかで聞いたことあるしどう見てもロープじゃないだろ!」
「細かいことは気にしない気にしない!」
「まあ、いいや。それでどうして利根と俺を入れ替えたんだ?」
「おもった以上に君は鈍いんだね、君が自害しようなどと馬鹿な事を考えを起こすから利根さんの協力を得て連れてきたんだよ」
ヴェールヌイは呆れたようにため息をついてから答えた。
「でも今戻してもどうせ少ししたらまた死のうとか思うんでしょ?」
見透かしたような夕張の言葉に俺は何も返せないでいた。
「要するに自分は人並みに頑張れてないって思うからそんな事しようとしてるんでしょ貴方は。
それで貴方には此処で利根さんの代わりを務めさせて向こうに戻っても自害なんて考え無いくらいに
自信をつけさせようってこと。」
なるほど、自分はまだ生きているというのは納得するとしよう。
「で、なんでそんな事までわかるんだ!?」
「んふふ、図星なんだ~。勘よ!勘!」
「はぁ……」
まぁ、ほんとにハッタリだったのかもしれないしそうでなくともまともに答える気はなさそうなので諦めることにした。
「しかし、利根が向こうにいったのは大丈夫なのか?」
「まったくもって見当違いの発言をするんだね。死のうとしていた君があっちの世界のことを気にするなんて。」
「いや、そうだけどそうじゃなくてだな。」
「冗談だよ、向こうとは連絡は取ってあるから安心していい。」
「え?どうやって連絡を?」
「艦娘だからね。」
「そ、そうか……」
よくわからないがまあ、いいか。
「じゃあ私はそろそろ寮に帰るよ~明日からよろしくね!
「おう、おやすみ。」
そうして夕張は部屋を出ていった。
「今日はもう遅いから部屋を案内するよ。」
「へ?」
部屋ってまさかまさか筑摩と相部屋だったり?まじか!!
「…………なにを考えてるか大体想像つくけど部屋は別棟の一人部屋だよ。」
「ですよねー!……ってかそのゴミを見るような目はやめてくださいごめんなさい。」
そして十分ほど歩いた先に使われてなさそうな建物に到着した。
「着いたよ、今日から此処が君の部屋だ。」
「まるで廃墟じゃないか……」
別棟だからある程度は覚悟していたがこれはひどい、霊感なんてもんはないがでそうな雰囲気がダダ漏れである。
「文句は言わせないよ、君が何かするとは思っていないけど君の中身が異性だと知らない彼女達のスキンシップは気に障るからね」
「え?それって……」
今彼女の言葉に特別な意味を感じたのは気のせいだろうか?
「そ、それに君がへまをやらかして別人だとバレてしまうと困るからね」
帽子を深くかぶりながら彼女は言葉を足した。
「ん?まあ当たり前ちゃ当たり前だがバレちゃダメなのか?」
普通に考えればバレた瞬間俺はフルボッコ&解体処分になるんだろうか…………
「ん、そうだね。
ヴェールヌイはこっちを真っ直ぐ睨んでいってきた。
「そんなに凄まなくても分かってるって。」
俺だってどうなるかなんて想像もしたくない。
「そうか、まぁ気を付けてくれ。じゃあ私は帰るよ、おやすみ。明日は0600迄に起きて準備しておいてくれ。」
「ああ、分かった。」
六時かぁ早いなぁ……無職にはきついぜ。
そうだ、一つ聞きたかったことがあったんだった。
「そうだ、ヴェールヌイ。」
「なんだい?」
「俺のことが嫌いか?」
「………………そうだね、自分の事を価値がないとか思ってる君は嫌いだ……」
そう言って彼女は俺に背を向け右手で手を振り帰っていった。
「そっか…………」
その右手薬指に光る物を見て俺は少しだけ嬉しくなった。