吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
「おつかれ、今日で教えるべき所は全て教えたし午後は総復習として1対1で演習を執り行うとしようか。1225か……そうだね、昼食を食べたら1300迄に艤装をつけて波止場に来てくれ。」
午前の講義が終わり食堂へ向かった俺は、お昼の鯖味噌煮定食を食べながらこっちにきてから今日までの事を思い出していた。
そういえばここの鯖味噌煮定食を初めて食べたのはもう二ヶ月も前のことなのか……
最初の一週間は筑摩と一緒のベットのせいで意識しすぎて寝れかったってヴェールヌイに愚痴ったら次の日からは途轍も無いハードスケジュールにされたんだよな……おかげ様で泥のように眠れたけど。
それでも朝五時起床の翌朝二時就寝ってだけでもきついのに休憩が朝昼夜の食事休憩の計二時間だけってのはどうなのよ?
向こうの世界で働いてた時の会社でも流石にここまではいかなかったよ。
まぁ途中で特別作戦にも参加していたヴェールヌイには頭が上がらないが……
「っとそろそろ時間じゃな、行くとするか!」
気付いたら時間は45分を回っており、俺は残りのご飯を掻き込むと食器を返却口に返し艤装を取りに工廠へと急いだ。
艤装をつけて波止場に着くとヴェールヌイの他に暁、雷、明石の三人も待っていた。
「利根さん遅いわよ!15分前行動を心掛けなさいっていったでしょ?」
「流石に無茶を言うでない、飯の時間が無くなってしまうではないか。」
「レディは時に我慢も必要なのよ!」
「腹が減っては戦は出来ぬ!」
暁としょうもない言い合いをしているとヴェールヌイが仲裁に入って来た。
「落ち着きなよ暁、ギリギリまで切り詰めたスケジュールを組んだのは私だ。更に15分前行動なんてさせたら利根さんの主食が食パンと水になってしまう。」
「そ、それもそうね。私も毎日食パンは嫌だわ……」
「利根さんも余り意地を張らないでくれないか、それに暁の言っている事も全て間違ってるというわけでもないんだよ。」
まあ……確かに前の会社でも似たような事言ってたし、規律の厳しい軍隊なら15分前行動も当たり前なのかも知れない。
「うむ、そうじゃな……すまなかった。」
「こ、こっちこそごめんなさい。そっちのスケジュールの事は知らなかったわ。」
「二人共落ち着いたようだし、そろそろ演習を始めようか。」
「それはいいのだが、1対1ではなかったのか?」
ヴェールヌイは周りを見渡し、俺が何を言っているのかを理解した。
「ああ、暁達は次の遠征まで時間があるから演習を見に来たんだよ。明石さんは利根さんの艤装の動作確認だってさ。」
「頑張ってね利根さん!応援してるわ!」
「響に一発でも当てられたら褒めてあげるわ!」
二人の応援を受けた俺は何故かあるセリフを思い出したのでつい口にしてしまった。
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「「「あ…………」」」
その瞬間世界が凍りついた様な感覚に襲われた。
「え……っと?」
「ほう……随分大きく出たね。」
振り向くと先程までとはあからさまに気配の違うヴェールヌイが立っていた。
「いや、あの……ヴェールヌイ……さん?もしかして……怒ってる?……」
「大丈夫だよ、どっちみち全力で行くつもりだったからね。」
そ、そうだったのか。じゃあ別に怒ってる訳じゃ……
「ただ、鳳翔さんの言葉を借りるなら
あ、やばい完全に地雷踏み抜いてたわ。
「あ~あ、やっちゃたわね……模擬弾だから沈まないと思うけど気を付けなさい。」
「ぶ、無事を祈るわ。」
「あはは……動作確認なんで頑張って持ちこたえてくださいね~。」
ちょっ!?あんまり不安を煽らないでくれます?
「さぁ、早く配置につきなよ。」
ヴェールヌイの言葉が怖いんですが……
「うぅ…………えーい、尻込みしてても仕方あるまい!甲巡利根、出撃するぞ!」
半ばやけくそに所定の位置まで向かった。
「あーあー、こちら明石。聞こえますか?」
「聞こえてるよ。」
「こっちも大丈夫じゃ。」
「えー、それではこれから駆逐艦ヴェールヌイ対装甲巡洋艦利根による1対1の演習を始めたいと思います!審判は私工作艦明石が務めさせていただきます。利根さんは初めての演習と云うことでルールを説明致しますね。まずおたがいの艤装には演習用の模擬弾が装填されております。そちらの模擬弾は炸薬部分には特殊な電磁波を発生させてあり、着弾すると内部に溜まった電磁波を放出します!その電磁波の当たり方によって浮力以外の艤装の機能を低下させていき先に相手を無力化、即ち轟沈判定にしたほうが勝利となります。何かご質問はありますか?」
「うん?つまり直撃したら動けなくなるのか?」
「いえ、火薬庫や頭部に直撃した場合は別ですが、装甲が電磁波をある程度遮断するので駆逐艦の砲撃一発で戦艦が完全に動けなくなったりはほぼありません。ですが模擬弾とはいえヴェールヌイの持ってる10センチ連装高角砲で大体音速の3倍以上の速度で打ち出されますから直撃したらそれなりに痛いですよ?」
「痛いのか……だがダメージは直撃のみカウントされるのか?たしか実戦では至近弾による損傷もあったはずではないか?」
「勿論ありますよ。弾頭が着水時に一定範囲まで電磁波を放出するようになってます。」
なるほど……つまり殆ど実弾と同じ扱いってことでいいのかな?
「うむ、了解したぞ!」
「あ、それと今回利根さんは直撃弾至近弾かかわらず僅かでも相手に損傷を与えれば合格だそうですよ?」
「それくらいは難なくやってくれるだろう?私に勝とうとしているんだから。」
「あはは、まぁ頑張ってくださいね。それじゃあ三度目の砲撃が開始の合図ですから!」
そういって明石は通信を切った。後ヴェールヌイさん怖いっす……
暫くすると一度目の砲撃音が響いた。
とにかく気持ちを落ち着けるために深呼吸をする。
二度目の砲撃音が轟く。
遥か水平線の先にいるであろうヴェールヌイを見つめ、二ヶ月間習ってきたことを思い出す。
そして三度目の砲撃と共に機関出力を上げつつサングラス電探を起動させる。
「最大戦速!ゆくぞ!」
こちらも近距離型とはいえ近づかれたらまず勝てないだろう。ならば電探の性能を活かして向こうが見つけるより早く見つけ撃つべきだろう。
「む、電探に反応あり!距離50000か、相変わらず性能だけは飛び抜けておるの。」
ヴェールヌイから聞いた話だと第二次世界大戦の頃より性能は全体的に上がっているらしいが、それでも現状の電探では16キロ先の艦娘を捉えるのがやっとらしい。
まあつまり艤装に初期装備されている小型電探しか載せてないヴェールヌイはそこまで近づかなければ俺を捉えられないと云うことになる。
ならば焦る必要はない、20キロ先から狙い打てばこっちが有利に進められるはずだ。
「距離30000……そろそろ速度を落とすか。」
俺は最大戦速(32.9ノット)から第三戦速(24ノット)まで落としサングラスに表示されている細かな情報を元に二ヶ月間みっちり教え込まれた計算式を組み立ながら距離25キロの所まで進めた。
「距離24600……よし、この辺でいいか。」
航行速度を第一戦速まで落とし組み上げた計算式を元に方位、仰角を淡々と割り出していく。
きっとこれは艦娘としてのスペック上昇なんだろう。でなければいくら分かりやすくみっちり教わったとしても暗算でここまで答えを導き出せるはずがない。
利根にも感謝しなきゃだな……。
「仰角38°方位右に6°……てーっ!!!」
両手で構えたM500から轟音と反動が全身を震わせるがまだ終わらない。
「更に仰角を0.3°下げ、方位左に0.5°移動し、続けていけー!」
再び轟音が響き渡る。
更に砲身を微調整しながら三発、四発と放っていく。
五発目を撃ち終わった俺はリロードを待つためM500をホルスターにしまい電探を確認した。
「37……20…………10……5、4、3、弾ちゃーく、いま!」
なんてな、言ってみたかっただけだからもし使い方がおかしくても気にしてはいけない。
誰にともなく弁明しながら電探に目をやるが先程と変わらぬ速度にこちらへ接近してきている。
「うむ、やはり簡単には当たらぬか。」
ならばもう少し近づいてから撃つか。
距離を縮めようと航行速度を第三戦速まで上げようとした途端、前方150メートル先で大きな水しぶきが上がった。
「なっ、至近弾だと!?」
くっ!砲撃音を聞き逃したか。この距離で撃ってくるとは思ってなかったから油断していた……
損傷は!?小破まではいかないくらいか……まだいけるが、どうしてこっちの場所が割れたんだ?
とにかくこのまま直進するのはまずいか!
「取舵20°索敵外から回り込み丁字有利をとる!」
相手のやや背後から丁字有利に持ち込めば撃ちにくいはず!それに魚雷発射管も確か前向きについてたから横は無防備だ、これなら!
後は電探で相手の向きを確認しながら進んでいけば……よし!ここだ!
「面舵一杯じゃあ!ゆけー!」
ん?速度を落とし始めただと?このままでは相手の前についてしまうな。
「取舵5°そのまま進め!」
左に舵を切りながらお互いの距離が20000を切ったとき微かに耳鳴りが聞こえた。
「ん?今のは探信音か?一体どこから……」
しかしそれ以降は聞こえ無かったので気のせいだと決め目標へ狙いを定めつつ前進していく。
両舷微速でこっちからみて右に98°を真っ直ぐ進行中か……
「距離17800…………仰角……34°……方位……右に15°……てーっ!!!」
先程と同じように角度をずらしながら5発を連射していく。
リロードを待ちつつ辺りを見ているとが空飛ぶ物を見つけた。
「ん、なに!砲弾だと?あ、そうか!砲弾の方が音より先に来るのか……って納得している場合ではない!まずいぞ!取舵一杯急げ!!」
少しでも回避しようと全力で舵を切るが全部は回避出来そうにない!
「このままでは被弾す……んがっ!?」
運が悪かったのか一発の砲弾が後頭部にクリティカルヒットし、そのまま気を失ってしまった。
この後俺はヴェールヌイに曳航されて波止場まで運ばれたらしい。
「ほら、大丈夫かい?これを当てとくといい」
そう言ってヴェールヌイは水で冷やしたタオルを渡してくれた。
「むぅ、すまぬ。」
「それにしてもあの距離で頭に当たって一発轟沈なんて運ないわねぇ。」
「ん?それはヴェールヌイの射撃精度によるものであろう。」
そんなに運は悪くないはずだが……とタオルを後頭部にあてながら考えてるとヴェールヌイが自嘲気味に答えた。
「流石にあそこから頭を狙うなんて神懸かり的なことは私にはできないさ。」
実際に当たった俺は神懸かって運が悪いってことか…………ま、まあそんなときもあるよね?……ね?
それはさておき幾つか聞いておきたい事が有ったんだった。
「狙うと言えば最初と最後なのだが一体どうやってこちらの位置を特定したのじゃ?お主の電探では発見できない距離にいたはずじゃが。」
するとヴェールヌイは単純な事だと答えた。
「最初のは飛んできた弾の方向と弾着角から逆算して大凡の位置を割り出したんだ。五発とも狙いが正確だったから計算しやすかったしね。」
「いや、そんな簡単に出来ることでは無いと思うのだが……」
「そうかい?要は射撃理論の応用さ、まあ利根さんのみたいに得られる情報が多くないから大体の位置しか割り出せないけどね。」
「ね、ねぇ暁。今の話しどういうことか分かった?」
「と、当然よ!!一人前のレディ…………なん……だ……か……ら。」
よ、よかったぁ。全員それくらい出来るなんて言われたらどうしようかと思ったわ。
「そ、そうか……それは……分かった。では最後のはどうやったのだ?」
「最後のは、特技……かな?」
「ほう、特技か!」
「しっくり来る言葉それくらいしか思いつかないからそう呼んでるんだけどね。」
そう言いながらヴェールヌイは装備の一つを外してこちらへ見せてくれた。
「これが何だかわかるかい?」
「んん……電探……かの?」
「惜しいね、これは三式水中探信義……所謂ソナーと呼ばれるものなんだ。」
「ソナー?そういえばさっきソナー音が……そうか!ソナーの出力を上げて電探以上の効果を発揮したのじゃな!」
くそー!あのときに気づいてれば一発当てることもできたかもしれん。
「そうか、聞こえていたかい……すまない。もしかしたら通信を繋ぎっぱなしだったかも知れない。」
「え?どういうことなのじゃ?」
「うん、確かに一回だけ使ったんだ。
「いや、でも通信器は外しておったぞ?」
「うん、そもそも超音波は空気中では減衰がひどくて使い物にならないんだよ。そっちまで聞こえるような出力なんかにしたらいくら指向性を付けやすくてもこっちの耳が先にやられてしまうね。」
全然違かったか…………無念。
「うむぅ……では一体どうやったというんじゃ。」
「超音波は周波数が高ければ高いほど空気中の減衰が大きくなるんだけど、逆に低ければ低いほど遠くまで音を届かせる事が出来るんだ。その分精度は下がるけどね。」
「なるほど、つまり低周波も発生させることが出来るソナーということか。」
「そうだね、これは明石さんに改修してもらったんだ。」
「確かに珍しいがこれではお主というよりソナーの特技ではないか?」
「私は耳がいいんだ。」
「?確かに可愛らしい耳であるな。」
「ち、ちがっ!?そうじゃなくて……人より可聴域が広いんだ。」
なるほど、そっちだったか……ん、なんで今それを?
「えと……ちゃんと低周波ようの聴音機もついておるのだろ?」
「この範囲までカバーできる聴音機は出来ていない、というより需要がないんだ。普通に使っても精度が悪すぎるから電探を改修した方ましな代物なんだよ。」
有り得ないなんて事は有り得ない……そんな聞き覚えのある言葉が俺の頭の中で駆け巡る。
「あ、明石よ……本当に聴音機は作れぬのか?」
俺の希望に明石は無常にも首を横に振り答えた。
「残念だけどそれはできませんね。確かに需要が無いというのもありますが彼女が使ってる探信義から発生出来る最低周波数が2Hzなんですが、確かに30キロメートル先の標的まで音波は届きます……ですが音波が戻ってくる時には1Hz未満になって返ってきてるそうなんです。しかし現在の我々には1Hz未満の音波を捉える方法がないんですよ。なので彼女が直接拾った方が遠距離の索敵が出来るんですよ」
「ただ、艦隊に水偵を積んだ軽巡以上や空母がいる時は必要ないから余り使う事は無いんだよ。」
「そ、そうなのか。」
さ、流石に何言ってるかわからなくなってきた……これが凡人には決して超えられぬ壁というやつか。
ずば抜けてるのは可愛さと計算能力だと思っていたがまさかここまでオーバースペックだとは……
「ヴェールヌイといい明石といい周りが皆凄すぎる気がするの、凡人にはきついのじゃ……」
「あっはっは!面白い事言いますね利根さん!」
え?なんか明石に笑い飛ばされたけど何か面白いこといったか?
「な、何がおかしいのじゃ!?」
「そりゃおかしいですよ~、あはははは!だってたかだか練度3程度のしかも物凄く使いにくい艤装をつかって貴方が練度100超で尚且つ異常なまでの計算能力を有するヴェールヌイ相手に啖呵切るわ先制ダメージ与えるわで、そんな貴方が凡人なんて言ったら一部の艦娘に後ろから撃たれますよ?」
「いや、啖呵を切った訳じゃないのだが…………ってダメージってどういうことじゃ!?」
「あれ、聞いてませんでしたか?先制攻撃の五発目が至近弾で装甲に3ダメージ入ってますよ?」
「言ったじゃないか、正確な射撃だったって。あと一発多ければちょっと危なかったかもしれないね。」
「そ、そうだったのか!?」
「うん、合格だ。早速明日から鎮守府近海へ出撃してもらうよ。」
おお!何かやっとここの一員になったって感じるな!
「よし!吾輩に任せるがよい!」
「頼りにしてるよ、利根さん。」
「はっ、もうこんな時間だわ!行くわよ雷。それじゃあお先に失礼するわ!」
「へ?そ、そうね。いってくるわ!」
先程まで惚けていた二人は時間を思い出し足早に去っていった。
「さて、私達は夕食でも食べに行こうか。」
「うむ、いこう!吾輩もうお腹がペコペコじゃ!」
「じゃあ、私は今日のデータの確認でもしてきますかねぇ。」
「いつもすまんのぅ明石よ。」
「いえいえ、好きでやらしてもらってますから。」
「そうか?うーむ……そうじゃ!後でそっちに飯を持って行こう!明石、何がいいか?」
「うぇ!?いいんですか?」
「遠慮なく言ってくれ!いつも世話になっとるしな。」
すると明石は暫く考えてから答えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて……カレーライスお願い出来ますか?」
「それは構わぬがカレーライスでよいのか?日替わりメニューもあるぞ?」
「あ、いえ……着任した時から好きなんですよ。ここのカレー。」
「うむ、そうか。吾輩の鯖味噌煮定食の様なものじゃな!分かった、明石の工廠の方に持ってゆけばよいか?」
「はい、すみませんがおねがいします。」
「ではまたあとでの!すまんなヴェールヌイ待たせてしまったな。」
「構わんさ、じゃあ行こうか。」
そのまま俺達は夕飯を食べに食堂へと足を運んだ。
気付いたらヴェールヌイがオーバースペックにOTZ
主人公初めての戦闘だ!
→いきなり実戦は艦隊に負担掛かるし演習だろう。
→相手どうしよう?
→ヴェールヌイが教えてるし卒業試験的な感じで
→流石にレベル差90以上あるのに勝つの無理じゃね?
→でもこの艤装だと実戦導入可能なレベルって既にハイスペックPCレベルじゃね?
→じゃあそれを上回る計算能力にしよう!
→ついでに索敵値もあげちゃえ!
てな感じでオーバースペックになりました。
誰だあんなイかれた艤装用意したのは!
はいすいませんでした!!
いきあたりばったりな作品ですがこれからもよろしくお願いします!