吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
俺達は対空対艦対潜全てを厳重警戒しながら、第一艦隊の所へ向かっていた。
この海域でヲ級flagshipが出没する事を確認した以上、何が出てくるか想像もできない。そんな中五十キロも離れた味方艦隊と合流する事がどれ程厳しいかなんて想像もつかないが、常時警戒を厳にしてても恐らく過剰ではないだろう。
「恐らく後一時間程で合流できるであろう。四人とも引き続き警戒を頼むぞ!」
「「了解した(しました)!」」
四人の力強い返事を受け一先ず安心だが出来る事なら会敵せずに合流したいものだ。
どうやら先ほどの敵艦隊は撤退を始めている様だし他の敵反応はなし、これなら大丈夫か。
なんて安心するのも束の間、進行方向に突然反応が現れた。
「まずいの……南西の方角に敵艦じゃ!距離三〇〇〇〇に速度十八、数は六じゃ。単縦陣で向かってきとるぞ。」
「このまま進行は厳しいか……」
口惜しそうにする長門の通信を聞きつつ如何するか思案する。
そして考えをまとめ行動に移す為に全員に伝える。
「全員に通達する!敵艦隊との距離が一二〇〇〇になるまで両弦原速でこのまま前進する!」
「何を言っているんだ利根!?このまま直進すれば反航戦とはいえリスクが大きすぎるぞ!」
「それはわかっておる、だがこのまま第一艦隊との合流が遅れればその分リスクが高まる。」
「それはそうですが迂回して敵との交戦を避けられるならその方が良いのでは?」
長門や浜風の言うことも正しいと思うし普通ならそうすべきなのだろう。しかしフラグシップ級の空母のいる可能性、そして複数の敵艦隊による挟撃の可能性など普通では起きないと思われる可能性を想定した結果これが一番生き残れる可能性が高い方法だとおもう。
「うむ、確かに通常なら迂回して交戦を回避するべきであろう。だがもし迂回した先で新たな敵艦隊が出現しこちらに気づいた場合最悪連絡を取られ挟撃されるやもしれぬ。その場合第一艦隊の支援が遅れるだけでなく敵連合艦隊を第一艦隊にぶつける事になってしまうのじゃ。」
「深海棲艦が連絡を取り合って挟撃だと!?そんな事ありえない!」
「確認されなかっただけで無いという訳ではなかろう?」
現に俺自身が例外みたいなものだしな。
「とにかくこのまま進む事で最低でも前方の敵艦隊だけは撃破できる状況にしておきたいのじゃ。」
あくまでも最悪の可能性の話だから納得しにくいだろうが……頼む、判ってくれ!
すると浜風から通信が入ってきた。
「長門さん、私も利根さんの案に賛同します。」
「浜風か……一体何故だ?理由を聴かせてくれ。」
「そうですね、確かに挟撃の可能性があるかどうかは解りませんが可能性の一つとして考えるならあの艦隊にフラグシップ級の空母がいる事や、迂回先に敵艦隊が出現する可能性なら大いにあります。もしフラグシップ級空母がいた場合迂回しても意味が薄いだけでなく、先程利根さんが仰ったよう二艦隊を相手にする事になるかもしれないです。」
「なるほど……今の状況ならその可能性は無視できないという訳か。」
そう言えば良かったのか……伝達力の低い俺に代わり浜風が長門を説得してくれた。
「伝わり難くて済まなかった。だから第一艦隊と連携を取り同時に砲撃を開始しようと思う。よいか長門よ。」
「わかった、それで行こう。全艦両弦原速!単縦陣でそのまま前進する!」
長門の掛け声を合図に単縦陣を組み、進みながら後ろで筑摩と再び連絡をとった。
「筑摩よ、そこから北東十五キロ先に敵艦隊がおるのは判るか?」
「敵艦隊?ええ、捉えてますよ?」
「そうか、じつはその更に三十キロ先に吾輩たちがおってだなこれからそこの敵艦隊を挟撃したいと思うのだが。」
「挟撃ですか……では説明を省く為旗艦の榛名さんから連絡し直しますね。」
筑摩との連絡が切れた直後、榛名から連絡が掛かってきた。
「お電話かわりました、第一艦隊旗艦の榛名です!」
「こちらは利根じゃ、筑摩から軽く聞いておるとおもうがそこから北東十五キロ先にいる敵艦隊に挟撃を仕掛けたいのじゃ。協力してくれぬか?」
「挟撃ですね。わかりました!そちらはどの位で砲戦距離に入りますか?」
「こっちは後二十分以内には到着するぞ。」
「はい!それでは榛名達も最大戦速で向かいますのでそれまで通話は繋いだままでお願いしますね!」
「うむ、了解したぞ!」
「それでは皆さん面舵一杯です!最大戦速で北東へ向かいましょう!」
よし、後は周囲を警戒しつつ進むだけか……あ、そうか!今は夜だったな。
俺はある事を思い出し榛名との通話をミュートにし、シオイだけと連絡を取った。
「シオイ、今は大丈夫か?」
「はい、なんですか?」
「俺の世界での潜水艦達は夜戦では相手の攻撃は殆ど効いていなかったけどこっちでもそうなのか?」
「ん~と、効いていないというか夜の海中は真っ暗なのでソナーで大体の位置がわかっても正確な位置までは特定できないんで殆ど当たらないんですよ?」
「そうか、という事は当たったら普通にダメージは通るのか……」
ならばこの状況で単艦で偵察は万が一を考えると危険か……
そんな俺の考えを見透かし、シオイは笑って答えた。
「あ、もしかして危ないから偵察は止めようなんて考えてます?」
「え?いや、まあ。万が一何かあった時に単艦だとまずいだろう?」
「いえいえ!確かに当たれば痛いですがそんなのは万が一どころか億が一だってありえません。」
「いや、しかしどんなに回避が高くても当たる事もあるだろ?」
「そもそも爆雷投射機の射程がすっごい短いんで一キロも離れれば届かないんです!だから夜間偵察くらいなら簡単にこなせちゃいますよ!」
「そうか……じゃあ敵艦種の特定を頼む、くれぐれも無理はするな。」
「りょうか~い。シオイ、敵艦隊を偵察してきます!」
シオイの報告を待つとするか。フラグシップ級空母がいなければいいが……
十五分後シオイから連絡が入って来た。
「目標確認しました、え~旗艦が重巡リ級flagship、後はリ級eliteと軽巡ト級eliteが一隻づつで残りは駆逐イ級三隻ですね!」
空母はいないな、なら大丈夫か。
俺はシオイに戻ってくるように伝え、第一艦隊へ敵艦隊の情報を報告した。
そして敵との距離が十三キロを切ったことを全員へ伝える。
「こちら利根、敵艦隊が射程圏内に入った。これより砲撃を開始する!」
「はい、榛名達も大丈夫です!主砲、砲撃開始!」
俺と榛名の号令を合図に双方から次々と砲撃音が轟き出す。
「っ……敵艦隊も中々やるな……。」
「長門っ!大丈夫か!?」
「ああ、中破といった所か……問題ない。」
しかし、リ級達も負けずに砲撃してきており、先頭を走っていた長門はリ級flagshipからと思われる砲撃から直撃弾一発と至近弾二発を受け中破してしまった。だが、幸いなことにリ級達の放った魚雷は全て外れ尚且つ敵艦隊は十隻による一斉砲撃に前後を挟まれ一隻残らず撃沈していった。
「敵反応消失したぞ、我々の勝利じゃ。」
「よし!では急ぎ第一艦隊と合流しよう。全艦両弦強速で進め!」
「ふぅ、これで帰れるか……大丈夫かヴェールヌイ?」
「っ……はぁっ…………はぁ……だい……じょう……ぶ…………だよ。」
念の為警戒をしつつも、ヴェールヌイの容態を確認するため振り向くと出血が酷く顔色も真っ青で今にも沈んでしまいそうであった。そんな彼女の姿を見た途端、俺は形容し難い恐怖に襲われた。
「もう航行するのもやっとではないか!これ以上無理をさせる訳にはいかん!抱えて行くからこっちへ来い。」
「っ!?……いや……それは…………さす……が……に。」
「強がってる場合ではない!」
断ろうとするヴェールヌイを俺は半ば無理やり抱き上げ、長門に通信を繋いだ。
「長門よ、ヴェールヌイの状態が余り良くない。なので吾輩が抱えて行くから速度を上げてくれぬか。」
「そ、そうか。わかった、どのくらいまで出せるか?」
「そうじゃな、二十八ノットまでなら出せるぞ。」
「わかったシオイはそのまま第一艦隊に合流してくれ。それ以外は全員第四戦速まで速度を上昇せよ!」
「(…………流石にこれは恥ずかしいな。)」
この後第一艦隊と合流し無事に帰還を果たした俺はすぐさまヴェールヌイを医務室へ運び処置するから外に出ろと医療妖精さんに追い出され廊下にある椅子に腰を掛け頭を抱えていた。
「はぁ……結局俺は俺か。」
どんな高い身体能力や計算能力があってもどんな性能のいい物を使ったとしても所詮は全て借り物の力だ。
それらを扱う俺自身がこんなポンコツじゃあ結局誰一人として守る事もできやしない。
自信を付けようにも自信となるものなんか何もないのにどうしろというんだ……
「利根さん?どうしたのよこんな所で。」
頭を抱える俺に不意に語り掛ける声が聞こえた。
「む、夕張か。いやヴェールヌイが重傷を負っての、今治療中なのだ。」
「え、ヴェルが重症?鎮守府正面海域行ってたんじゃないの?何が起きたらそんな事になるのよ。」
「実はな……」
事の顛末を一通り話し終えると夕張は納得し、少し考えた後これから明石の所へ行かないかと軽い調子で誘ってきた。
「な!?いや、吾輩はここでヴェールヌイを……」
「重傷なんでしょ?じゃあどっちにしろまだ何日か掛かるわよ。だったら時間を有効に使うべきだとおもうわ。」
言ってる事は尤もだがそれは余りにも淡白ではないか!?
俺は気持ちを宥めつつも少しばかりの怒気を含ませ夕張を問い質した。
「……お主はヴェールヌイの事が心配では無いのか?今だって生死の境を彷徨っておるのだぞ!」
その一言を聞いた夕張は先程までの軽い雰囲気とは打って変わって今まで見たこと無いくらい真面目な表情で答えた。
「生死の境どころかその先に逝こうとしてた人がよく言うわ…………まぁいいわ。それで私がヴェルを心配していないかですって?心配に決まっているでしょ!でもね、それと同じ位彼女の強さを信頼してるの。だから立ち止まっている時間があったら彼女の友人として起きた時に彼女を後悔させないように出来る限りの事をするわ。今の貴方をヴェルが見たら絶対に後悔するからね。」
「後悔……何故?」
「貴方もヴェルと所々考えが似ているから解る筈よ。自信を持たせる為に出撃させたのに自分が大破した所為で自信を奪ってしまったなんて知ったらどう思うか……」
「違う!あれはヴェールヌイの所為じゃないんだ!俺がしっかりと撃墜していれば。」
「そんなことは後で確認すれば分かるし問題はそこじゃないの。私が言いたいのは本人がどう捉えるかってことよ。」
違うんだ。俺がこの身体の性能をもっと活かせれば……
俯いて拳を握り締める俺を見て、夕張は呆れた様子でため息をついた。
「はぁ……自信無いのか自信過剰なのかどっちかにして欲しいわね……」
「俺が?俺の何処が自信過剰だっていうんだ!?」
「はぁ、自覚も無いのね…………明石さんの所へ行く前にこれだけは言っておくわ。」
すると夕張は大きく息を吸い込み、一拍おいてから大声で怒鳴った。
「ふざけないで!!」
…………は?俺がふざけてるだって!?俺だって例え無能であろうとも俺なりに頑張ってきたんだ!いくら世話になった夕張でも今の言葉は聞き捨てならなん!
憤りのままに反論しようとする俺の言葉を遮り夕張がまくしたてる。
「貴方ね!その程度の練度で自分の力だけで守れるって思っているの!?」
「そんな事はない!だけど守る力が無いから守らなくていいって事にはならない!」
「そう考えているのなら貴方のすべき事は後悔じゃなくて力をつける事よ!後悔ってのは出来る事をやらなかった時にするものであって出来ない事をやれなくてするものじゃないわ!」
「だからこの身体なら出来た筈!!なのに俺が当てられなかったから彼女は重傷を……」
「この身体ならできた!?それは今出来ないのと一緒なの!自分の身体を使いこなせるようにする為に私達は練度を上げてるんだから!」
「な!そ、そうなのか!?」
俺の一言を聞き先程までこっちを睨みつけていた夕張は目を見開いてきょとんとしていた。
「えぇ!?……ヴェルから教わったでしょ?」
「い、いや……艦娘の仕組みについては全く……」
そういやこの二ヶ月って殆ど戦闘や戦術についてで艦娘のこと、所謂保健体育的なものは一切学んで来なかったな。最初の頃夕張から聞いた艤装と艦娘の生い立ちくらいか……
「…………」
「…………」
「…………っんもう!ヴェルったらちゃんと説明しといてよねぇ!」
「悪い……すこし説明をしてくれないか?」
「あーはいはいはいはいなるほどねぇ、りょうかいりょうかい。」
夕張は何故か喉のつっかえが取れたようにすっきりしているが俺にはさっぱりわからん。
そんな俺の様子に気づいた夕張は俺に分かる様に説明してくれた。
「あ~つまりね、練度ってのは私達がどれ位この身体を使いこなせるかってのを数値化したものであって艤装の性能があがってる訳じゃないのよ。だから貴方の言っていた事は自分の練度が百だったらヴェルを守れたって言ってる事になるのよ。」
なるほど、そう言われればかなり無理な事を言っていた訳か……そりゃふざけた話だよな。
それでもヴェールヌイを守れなかった事は悔しいが、轟沈ゼロで帰って来れた事を運が良かったと思うべきか。
「すまぬ、取り乱してしまったな。」
「こっちこそ知らないとは思わずちょっと言い過ぎたわね、ごめんなさい。でもわかったでしょ?これから貴方がすべき事は。」
「うむ、この身体を使いこなす為に自分を見直しに行こう。」
「よしきた!じゃあ直ぐに明石さんの所へ行くわよ。」
また一つ新たな事を学んだ俺はヴェールヌイの強さを信じ自分が今出来る事をするため医務室前を離れ夕張と共に明石の工廠へ向かう事にした。
医療妖精A「いむしつのまえでさわがないでほしいです!」
医療妖精B「かんじゃさんのめいわくです!」
自信が無いのに自信過剰。
矛盾してる様に思えますが意外とそういう人もそれなりにいると思います。
自分が届かないレベルを見て他の人は全員そのレベルにいると思い込み、そこに届かない自分が人より劣っている様に感じ自信が持てなくなる。
ただそれが本当に基準なのかどうかは本人には中々判らないものですよ。
上を見て頑張れる人は良いですが、上を見過ぎて芯が折れてしまうくらいなら一度下を見て首を休めるのも良いのではないでしょうか?
なかなか難しく思いますが、自分を客観的に見れる様になりたいですね。
さて、あまり長くなっても仕方ないのでこの辺でお暇させて頂きます。
礼号作戦は完遂できませんでしたが、小説の方は無事完遂させたいと思いますのでよければそれまでお付き合い頂ければ幸いです。
おまけという名の補足
作中で全部話せなかったんでここで説明しておきますのでよければよんでいってください。
艦娘保健体育
錬度→艤装のパフォーマンスを発揮している割合。1~150%となっておりケッコン・カッコカリをすることにより本来の艤装以上のパフォーマンスを発揮することが出来る。
近代化改修→魂を艤装に取り込む事により艤装の強度を上げると共にその魂の艦艇としての知識を得ることができる。
改造→艤装をある程度扱える様になってきた時に弾薬と鋼材を使用し行うことができ、艤装自体の性能を引き上げることが出来る。なお改造の際、近代化改修で取り込んだ魂は分離しなけばならず、再び艤装として具現化することも出来ない。その為、魂は工廠妖精達により昇天し、いつか再びこの地に降り立つと云われている。