吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
知り合いが先日このサイトで初めて1000文字程のSS短編を上げたのですがそれがなんと一日で600UAつきましてタイトルのインパクトはやはり必要なんだなと実感しましたね。
私の短編ももっと惹かれるタイトルだったら大勢の人に読んで貰えたのかななんてw
まあそんな話はともかく本編の方をどうぞ。
午前四時。俺は日が昇るにも早い海面を重い眼を擦りながら進んでいた。
「ふぁ……慣れてきたとはいえ、早起きはきついのう……」
「利根さん、喩え演習であろうと海に出ている以上油断は禁物ですよ?」
「す、すまぬ!」
ほんの少し怒気を含んだ鳳翔さんの声が通信越しに聞こえ、俺は慌てて気を引き締める。両手で自分の頬を叩いて気持ちを入れ替え、急ぎ所定の位置へ向かった。
「……っとここじゃ。こちらは到着したぞ、そっちはどうじゃ?」
「私のほうも位置に着きました。三式弾には換装しましたか?」
「うむ、問題ないぞ。」
鳳翔さんに俺の艤装では三式弾以外での対空迎撃は不可能だと断言されたので、三式弾を使い訓練する事になったのだ。
「しかし、三式弾だと結局どれ位落とせるかなんて運次第ではないか?」
すると鳳翔さんは微笑みながらそうですねと答えた。
「やってみればわかりますよ。」
「……ん?」
「ふふ、ではまずは私が搭載している九七式艦攻十六機を全て撃墜してください。制限時間は四時間です、よろしいですか?」
四時間以内に全てか……流石にそれだけ時間が有ったら出来るだろう。
「うむ、はじめてくれ!」
「ではいきますね。航空部隊、発艦!」
鳳翔さんの掛け声と共に十キロ先の航空機を俺の対空電探が捉える。
「ふむ、直ぐに視界に入ってくるであろうか。」
俺は上空を睨みつつも情報を数式に当てはめ射撃位置を割り出していく。
要は少し早くて昇降ができる船だ、落ち着いて打てば当たる。
そう思っていた俺はやはり気が緩んでいたのだろうか。
「仰角よし、方角よし。三式弾撃てぇっ!!」
俺の掛け声えをかき消すように爆音が響く。
そして一発目の反動でぶれた銃身を戻すと、続けて二発三発と爆音を響かせていく。
放たれた三発は上空で炸裂し大きな爆炎をあげた。
「やったか!?」
撃墜数確認の為に対空電探を確認すると爆炎の脇から四部隊に別れた攻撃機が一旦離脱し再びこっちへ向かってきていた。
「なんじゃと!?まさか一機も墜ちておらぬとは!」
「そんな単純な予測では攻撃機すら落とせませんよ?」
そう言い放つ鳳翔さんに唖然としそうになる。
いくら間に合わせの予測射撃とはいえ三式弾を三発も放って当たらないなんて事あるのだろうか。
なんて考えるが、再度接近して来る攻撃機を落とす為にすぐに思考を切り替え銃を構える。
「ならば予測修正をしてもう一度じゃ!」
何度も狙いを定め撃ち放ち、その度に修正を加えていくが攻撃機は文字通り縦横無尽に飛び回り爆炎の嵐の中を悠々と潜り抜けていく。
「なぜじゃ!なぜあたらん!?」
演習開始から既に二時間が経過しようしているが、攻撃機は何度か燃料の補給に戻るだけで唯一機として撃墜できていなかった。
その事実に焦りを覚えつつも当たるよう祈る事しかできずにいると鳳翔さんからアドバイスが入ってきた。
「利根さん、どんなに高速で移動する物体でも慣性が働いている以上必ず回避不可能なタイミングがあります。計算だけに頼らずそれを見極めてください。」
「計算だけに頼らず…………か。」
鳳翔さんの言葉を反芻し攻撃機を見つめる。
計算は終っている、後は
「………………いまじゃ!!」
ここだと思うタイミングで引き金を引く。
同時に爆音が響くがそれでも続けて引き金を引く。
反動で銃身が少しずつぶれていくが構わず引き金を引く。
視界は再び爆炎に包まれた。
「ど、どうじゃ?」
対空電探を確認しながら爆炎が晴れるのを待っていると再び鳳翔さんから通信が入った。
「流石です、その調子ですよ。」
「や、やったのか!?」
鳳翔さんから褒められ少し舞い上がっていたが対空電探を目にした瞬間俺は愕然とした。
「ほ、鳳翔さんっ?一機も墜ちとらんではないかっ!?」
「簡単に落とせると思って貰っては困りますね。ですが、演習開始してから初めての命中弾ですよ?」
そういっていたずらっぽく笑う鳳翔さんの声に俺はうなだれる事しか出来なかった。
「さあ、引き続き頑張って下さいね。」
鳳翔さんに励まされた俺は気を取り直し、次こそは撃墜させようと再び銃を構えた。
「吾輩の本気、見るが良いっ!」
そういって俺は再び銃口を空へと向けた。
「今日はこれでおしまいです。お疲れ様でした。」
「う、うむ……明日も頼む。」
なんだかデジャブを感じるが結果的として俺は四時間で一機も落とすことは出来なかった。
もし実戦で四時間も攻撃機を落とせなかったらなんて思うとぞっとしてくる。
「最初から上手くなんて行きませんよ。何事も毎日の積み重ねですから。」
「そ、そうじゃな。ありがとう鳳翔さん。」
鳳翔さんに諭され俺は気持ちを切り替えるように努めた。
そんな俺の様子を見て鳳翔さんは優しく微笑みつつお店の仕込みがあるからと言って波止場を去っていった。
その後朝食を食べ終えた俺は工廠で艤装と標的を持ち出し、基礎的な射撃訓練を行うついでに海上での特殊な移動方法を試みていた。
「おぉっとっと……ってうわぁっ!?」
深くしゃがみ込んでから膝のバネを活かして空高く跳躍しようとするが、海面が氷のように滑ってしまい俺は勢い良く尻を海面に打ち付けてしまった。
「いっつぅ…………やはり跳ねたりするにはかなり修練を積まねば厳しいか。」
ヴェールヌイや明石から話を聞いてる限りだと不可能ではないという自信はあるんだが……。
何かコツは無いだろうかと試行錯誤していると陸の方からこちらへ手を振る人影が目に入った。
近づくとそこにいたのは艤装を身に着けた夕張であった。
「夕張であったか。これから出撃かの?」
「違うわ、明石さんに頼まれて新装備の実験をしに来たのよ。」
そういって夕張は足についている筒状の何かを見せてきた。
「ぬぅ……これは一体なんなのじゃ?」
夕張の足に付いてる物が何なのか分からず、夕張に尋ねると待ってましたと言わんばかりに次々と説明を始めた。
「これはね、スラスターといって一言で言っちゃうと船体を平行移動させる事の出来る推進システムなの!」
「ふ~ん……ってスラスター!?そんな物があるのか!」
スラスターっていやあ宇宙船や某アニメのロボットが使ってるあれか!?
「まあスラスター自体は現代の大型船なんかにはついてたりするんだけど、当然
え、現代の船に?ってああ、バウスラスターとか呼ばれてるスクリューが横についてる奴か。
流石にあんなもん船に装備するなんてとんでもない事はしないか。
「そ、それがつけられるようになったということか。」
「そう!そしてその試作機がこれ!」
そういって再度夕張はドヤ顔で足を見せつけてきた。
夕張の説明を聴いて俺は関心すると同時にやはり疑問が解消できないでいた。
「しかしなぁ……それがなくとも人の姿をした我々なら頑張れば平行移動位できると思うのだが。」
それは俺としては唯の一般人としての疑問だったのだが夕張には何かが気に入らなかったようで眉間にしわを寄せてうなり始めてしまった。
「利根さ……いえ、提督。あなたにはこのスラスターの素晴らしさが分からないの!?」
「い、いや…そういう訳では無いが……ただ人の姿なら横歩きくらい出来るであろう?」
夕張の勢いに押されながらも俺は俺の理を伝えた。
「スラスター無しでどうやって横移動するって云うのよ!」
「いや、どうやってって……こうやってだろ?」
と言って陸上でカニ歩きをしてみせると夕張は呆れたふうに頭を押さえため息を吐いた。
「…………わかったわ、じゃあ利根さんにこのスラスターの素晴らしさを実際に見せてあげるわ。」
そういって夕張は勢いよく海へ飛び込んだ。
そして海面に着水するとそのまま横に平行移動をし始めた。
「さあ利根さん!あなたも同じように海上で横移動できるの?」
夕張はドヤ顔をしたまま右へ左へゆらゆらと横移動を繰り返した。
俺は夕張のその動きに多少の苛立ちを覚えつつも海面へと降り立ち、ゆっくりと先ほどと同じようにカニ歩きを始めた。もちろんドヤ顔で。
「え、うそっ……ホントに出来るなんて。」
俺の渾身のドヤ顔には目も暮れず夕張はあまりの予想外の事態にただ唖然としていた。
「ま、まあ……確かに陸上よりバランスが取りにくいがヴェールヌイや明石の話を聞く限り理論上不可能ではないとおもったのだ。飛んだり跳ねたりはまだ出来ぬがの。」
「で、でも提督だから出来るだけで私達に出来る訳じゃないわ。」
俺の動きを目の当たりにしながらも夕張は認めようとしないので俺はその言葉をはっきりと否定する。
「それは無い、考えても見るがよい。船は陸を歩けぬが、お主等は陸を歩いておるであろう……ならばお主等は船とは全く違うではないか。」
俺の言葉に夕張は何も言わずこっちを見ている。
「確かに船の魂であるお主等は思いつかなかったかも知れないが出来ないという訳ではない!それは吾輩が保障しよう。」
その言葉に夕張は俯いて考え込んでしまった。
もともと艦娘じゃない俺に保障されても信憑性に欠けるか……
「あ、えと……そうじゃ!ならあいておる時に一緒に飛んだり跳ねたり出来るように一緒に練習に付き合ってくれぬか?」
「……えっ!わたし?……いやいやいやいやダメだって私運動神経良くないし出来ないって!」
「むっ、そうか?まあ別に無理にとは言わないが…………そうか、わかった。」
「ま、まぁでもありがと。おかげで分かったわ…………そうよね、技術者が最初から否定的じゃ良い物は生まれないわ。もっと自由な発想でなくちゃね!」
訓練の誘いは断られてしまったが夕張が何だか機嫌が良さそうなので良しとするか。
「あ、そうだ!明石さんに報告してこなきゃ。またね利根さん!」
「うむ、またな!」
走り去る夕張を見送ると俺は再び跳ねようとして転ぶのを繰り返すのであった。
船についてるスラスターって本来かなりゆっくり移動するらしいんですね。
この話を書くまでは私の中のスラスターは宇宙船に使われてるスラスターと同じで勢いよくその場旋回できるものだと思っていましたが……(汗)
やっぱり核融合炉を船の動力にして、光学兵器が蔓延る世界に普通の物なんて無かったんですね。