吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
作戦開始の朝、俺達連合艦隊は真剣な顔立ちで波止場へと集まっていた。
「全員揃ったようだね、これより作戦を開始する。」
ヴェールヌイは皆を見渡した後、海へと向き直す。
「利根川連合艦隊抜錨!!」
ヴェールヌイの掛け声と共に他の皆も次々と海面へと降り立ってゆく。
俺は思わず転けそうになりながらも何とか体勢を立て直し抜錨することには成功した。
しかし、これは恥ずかしいな......。
っといかんいかん、油断するなと昨日も鳳翔さんに言われてたじゃないか。
そういえば昨日の演習の後鳳翔さん少し怒ってたような......俺があまりにも不甲斐なかったからか。
う~ん......帰ったら謝っておこう。
「利根さん、周囲に敵艦はいるかい?」
「うぇ!?い、いや大丈夫じゃ!敵艦はおらぬ。」
「......作戦中に余裕じゃないか、くれぐれも油断はしないで貰いたいな。」
「うぐっ、......すまぬ。」
怒られてしまった。しっかりしないと......
そこから鎮守府正面にいる駆逐級や軽巡級なんかと会敵したがこの連合艦隊の相手になるはずもなく順調に歩を進めていった。
「全員機関停止......南東の方角に声が聴こえる。」
「声?艦娘かしら?」
「分からない。利根さん、南東の方角に誰かいるかい?」
「ん~......小島がある以外には特にいないの。」
「............よし、その小島に行こう。」
「響っ!?もし深海棲艦だったら危ないわっ!」
「そうです、偵察なら私達がすればっ!」
「深海棲艦だとすればこんな近くに話せる知能をもった個体がいるのは危険だ。それに利根さんの電探で確認出来ないってことは恐らく島の地下にいるんじゃないかな。」
反対する暁達にヴェールヌイはそういって聞かせた。
二人が黙り込んだところへビスマルクが投げ掛ける。
「本当に声が聴こえたのかしら?」
「ダー、間違いない。」
「そう......榛名はどうする?」
「榛名は......ええ!行きましょう!」
「ほら、旗艦がこういっているのよ。逆らうつもりかしら?」
「はい、分かりました。」
「し、仕方ないわねっ!ちゃっちゃと行くわよ!」
他の皆も納得したようで連合艦隊は南東にある小島へと航路を変更させた。
「ここから聞こえたのかのう。」
俺達は小高い山が幾つかある小島へ上陸していた。
そして少し進んだ所にあった少し大きめの洞窟の前まで来ていた。
「ダー、今も物音が聴こえるよ。」
「この大きさじゃあ全員でいったらかえって邪魔になるわね。」
「私が行こう、皆は周囲を警戒していてくれ。」
「わ、吾輩も行こうっ!中に深海棲艦がいたら危険じゃからの。」
俺がそう言うとヴェールヌイは俺を睨みながら言った。
「私一人じゃ不安かい?」
「あ、いや......!?そういうわけではなくてだな......」
慌てふためく俺を見てヴェールヌイはため息を吐いた。
「冗談だよ、そんな動揺しなくても良いじゃないか。」
「え、あ......そうなのか?」
「ああ、じゃあ私と利根さんで行ってくるよ。」
「ええ、何かあったら連絡して下さい。」
翔鶴達へ手を振ると俺とヴェールヌイは洞窟の奥へと入っていった。
「グァァアッ!!」
中には駆逐級や軽巡級の深海棲艦が道に立ち塞がっていた。
砲塔を構える軽巡二級に向けてデザートイーグルを撃ち抜く。
「ぐわぁっ!?耳がぁ!!」
その瞬間、強烈な耳鳴りに襲われ周りの音が聞こえなくなってしまった。
「ぬぅ、すまんヴェールヌイ!大丈夫か?」
艦娘であるが故に砲撃音は余り気にならない筈だったが、洞窟内では音が反響し常人なら鼓膜が破裂し三半規管すら麻痺してしまう程のものとなっていたようだ......
俺はすぐさまヴェールヌイの方を向こうとした時。
「............!!」
ヴェールヌイが言っていることは聞き取れなかったが、彼女が放った砲撃の音と耳に付けている物々しい耳当てだけは確認できた。
「ぬぉぉ!?それはなんじゃぁあっ!!?」
耳をやられながら叫び続ける俺の声は残念ながら彼女には届かなかった......
深海棲艦との陸上戦が終わり漸く耳が落ち着いてきた俺達は、更に奥へと進み始めた。
「......お主はこんな状況も予想しておったのか?」
「ん?ああ、これのことかい?これは夕張が作ってくれたんだけど、集中するときや睡眠時にもつかっているんだ。」
ヴェールヌイが言うに彼女の有り得ない可聴域を知り、ちゃんと寝れてないのではと心配した夕張が開発したノイズキャンセラーの強化版だそうで100dB以下200kHz以下の音を全て無効化してしまうとんでもない耳当てだそうだ。
「寝つきが悪かったのは事実だったからね、夕張には本当に感謝してるんだ。」
「ほう、いい話じゃのう。」
二人の仲の良さを少し羨ましく思いながらも、
俺は目尻を落とし柔らかく微笑むヴェールヌイを見て癒されていた。
しかし、不意に彼女が真剣な表情に戻ったので俺は慌てて前を向いた。
「この先にいる。」
「よし、気をつけてゆくぞ!」
俺等はあからさまに怪しい鉄の扉を砲撃で吹き飛ばすと正面には戦艦ル級がおり、その隣の檻の中には全身が白一色に赤い瞳が目立つ少女が座り込んでいた。
「カンムスダトッ!?姫様ハ渡サナイワ。」
ル級はすぐさま全ての主砲を構える。
「話せるのかっ!ならば少し話し合わないか!」
話せるなら戦う以外にも何か方法があるのではないかと俺は考えたが......
「黙リナサイ、艦娘ナンカト話ス意味ナドナイワッ!」
「利根さん来るよっ!」
「う、うむっ!」
交渉の余地などなくル級は俺たち目掛けて16インチ連装砲を一斉射してきた。
俺達は左右に飛び込むように回避し、すぐさまル級のもとへと走った。
飛んでくる副砲に掠りながらも遂にル級の額へデザートイーグルを突きつける。
「本当に話し合えないのか?」
酷い耳鳴りのせいでル級に聞こえているのかもル級が何を言っているのかも分からない。
だが、それでもこっちへ砲塔を向けようとしている彼女の様子からは話し合いの意志が無いことが感じ取れた。
「そうか......」
ル級の主砲が全てがこちらを捉えた時、俺は引き金を引いた。
耳鳴りが止み世界が音を取り戻し始めた頃、俺は檻の鍵を開けル級が姫様と呼んでいた少女の前にしゃがみこんだ。
「一体何をしているんだいっ!?」
「大丈夫、話を聞くだけだ。」
攻撃出来るなら恐らく檻の外にいようと関係はないだろう。
「クルナッ!カエレッ!」
「さて、どうしてこんなところにいたのかな?」
「............オマエ敵、カエレッ。」
少女は後退りしながら足元にある小石を俺に投げつけてくる。
「見たところ艤装もないようだし君に危害を加えたりはしないよ。」
地味に痛いのを耐えながら俺は続ける。
「ねぇ、もしかしてなんだけど君にお姉さんは居るかな?」
これは俺の勝手なイメージもあるが港湾棲姫が暴れている近くの島に彼女、北方棲姫が幽閉されてるのが俺にはどうにも無関係には思えなかった。
「オネェチャン............私、捨テラレタ......悪イコダカラ。」
うん、どうやら間違いないようだ。
しかし捨てられたか......それだと彼女が暴れてる理由が分からないな。
「お姉さんが君を悪い子だっていったの?」
「オネェチャンカラ聞イタッテ、レ級ガ言ッテタ。ダカラ保護シテヤルッテ......」
なるほど、黒幕は分かった。
後はこの子を彼女のもとへ連れて行ければ......
「君のお姉さんの名前を教えて貰えるかい?」
「............ナンデ......」
「実は近くで俺達が港湾棲姫と呼んでる姫が暴れているんだ。」
「港湾オネェチャン!ア............」
北方棲姫はしまったと言うように慌てて両手で自分の口を塞いだ。
「やっぱり君のお姉さんなんだね。」
「きっと君を探しているんじゃないかと思うんだけど、このままだと俺達は彼女を倒さなければいけないんだ。」
その瞬間、少女の深紅の瞳から涙がこぼれおちた。
「ヤメロッ!オネェチャンタオスナ......カエレ......カエレェ......!」
「確かにこのままだと倒さなくちゃいけない............でもね、一つだけお姉さんを倒さずにすむ方法があるんだ。」
「............スンッ............グスッ......ナンダ?」
俺は少し近づき少女の頭を撫でながら答えた。
うて
「君が無事だとお姉さんが知ればきっとお姉さんも落ち着くと思うんだ。だから一緒に来てくれないか?」
北方棲姫は俯いたままだったが暫くして俺に尋ねてきた。
「......ワタシガツイテッタラオネェチャン倒サナイ?」
「ああ、お姉さんが納得してくれるならね。」
「............ワカッタ......オネェチャンノトコ......ツレテケ......。」
よし、交渉成立だ。
行けるもんだろ?とヴェールヌイの方をみるが何故か溜め息をついていたが、まあ結果オーライだよね?
「よし、ではほっぽよ。吾輩と共に参ろうか!」
俺はひょいっと北方棲姫を抱っこすると出口へ向かって歩き始めた。
「ナッ!ナンダ!?」
「ん?おんぶの方がよかったかの?」
「チガウッ!シャベリカタ、変!」
「うむぅ......済まぬがそれは気にしないでくれぬか?」
向こうで子供と接してた時の口調になってたなんて言うわけにもいかないしなぁ。
「カンムス......ワカラナイ。」
俺の答えが納得いかなかったようでほっぽは出口までの道のり終始俺の肩に顎を乗せたままむすっとしていた。
「おお、皆のもの待たせたの!」
と出口まで戻ってきた俺は陽気に振る舞ったのだが......
「貴女本当に利根さんなの!?」
「利根さんの振りした深海棲艦じゃない!?」
「ああまさか利根さんが取り憑かれてしまったのでは!」
「次発装填済です!」
全員の砲塔が全て俺へと集中していた。
泣きたい......まあ、疑うのは仕方ないことだが。
俺は両手を上げながら中で起きたことについて説明を始めた。
「つまり、この子を連れていけば余計な戦闘は回避出来るかもしれないということね?」
「うむ、理解が早くて助かるぞビスマルクよ。」
ヴェールヌイが補足しビスマルクが要約してくれたお陰で全員が納得してくれた。
「こんなに近くで姫を見るとは思わなかったわ!」
「そうね、私達より小さいじゃない!」
「ヤメロ、ナデルナッ!」
暁は既にほっぽと馴染んでるようだし問題はないかな?
「ですが......見境無く暴れている港湾棲姫に接近するのは簡単ではありませんよ?」
「そこなのだが翔鶴よ、お主達空母にあやつが放つ艦載機の迎撃を頼めぬか?」
「ええ......それは構いませんが。」
「そしたら吾輩が奴のもとまでほっぽを連れて行こう。」
「一人で行くつもり?」
「ああ、あまり相手を刺激したくないのじゃ。」
「だからって......相手は陸地型の姫ですよ、無茶苦茶ではありませんか。」
「そうだのう、しかし......」
「よし、じゃあ私が行こう。厳しいと判断したらすぐに利根さんを連れて撤退してくるよ。」
ヴェールヌイはこっちへ振り返るとにやりと笑みを浮かべつつ聞いてきた。
「さっき連れてったんだ、駄目だとはいわせないよ?」
「ぬ............そ、そうじゃな。」
正直危険な任務なのは分かってるからあまりついてきて欲しくはないのだが、その話を持ち出されると反論できる気がしない。
「それじゃあ万一の撤退の判断は私が下すよ。榛名さん、それでいいかい?」
「......ええ、分かりましたっ!」
「スパスィーバ、それじゃあ港湾棲姫和平交渉作戦を開始する。」
「「「了解っ!」」」
深海棲艦これくしょんとかもやりたいなぁと思う今日この頃......レ級......ほっぽ......かあいいなぁ。
それでも嫁はヴェールヌイです(キリッ