吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
「港湾棲姫、発見したよっ!そのまま真っ直ぐきてる!」
「よくやった瑞鳳よっ!」
「ユーちゃんにかかればこんなものよ!」
真っ直ぐ来てるか......気付かれていないなら好都合だ。
「翔鶴、瑞鳳、赤城、筑摩、扶桑。航空機は任せたぞ!」
「かしこまりました。」
「まかせてっ!」
「いいですよ。」
「分かったわ。」
「行けるかしら。」
「じゃあ行こうか利根さん。」
港湾棲姫に気付かれる前に出来る限り近付きたいところだな。
「うむ、急ごうっ!」
俺とヴェールヌイは陣形から外れ最大戦速で港湾棲姫の方へと駆け出した。
それから三十分、前方から十数機の艦載機を発見した。
「あれは、偵察機だ!」
「まて!偵察機なら攻撃は無用じゃ」
俺は機銃を構えるヴェールヌイと攻撃準備中の翔鶴達を制止する。
「見逃せばこっちの情報が相手に伝わってしまう。」
「ああ、だが落としても位置は割れる。ならほっぽが居ることをあやつらが報告してくれることに賭けてみようではないか。」
「......そうだね。」
だが、その願いは更に三十分後、儚くも撃ち破られるのであった。
「アッ!オネェチャンノ!」
目を輝かせ手を振るほっぽを余所に俺達の表情はひきつっていた。
「ざっと百はおるのぅ............流石に身体が震えてきたぞ......。」
「残念だけど願いは届かなかったようだ。」
「空は私達で何とかしますっ!」
「二人は先に行って!」
「一応上には気を付けてくださいね?」
空母三人に背中を押され俺の震えが少しだけ収まった気がした。
「......了解じゃ!ほっぽよ、しっかりと掴まっておれ!」
「?......ワカッ......タァァ!?」
俺は落とされた爆弾を確認した後で右に大きくステップした。
「ヴェールヌイっ!大丈夫か?」
「ダー、問題ないさ。」
そう言いながら彼女は向かってくる艦載機を次々と落としていく。
「奴との距離が五十キロを切ったぞ!」
俺も翔鶴達の迎撃を潜り抜けてくる雷撃機の魚雷をステップで回避しながらヴェールヌイに港湾棲姫を捕捉したことを伝える。
「カンムス......オカシイ......。」
「すまんのほっぽよ、もう暫く我慢してくれ。」
慣れない動きに目を回すほっぽの頭を撫でながらも降ってくる爆弾を回避するが......。
「利根さん後ろですっ!」
翔鶴の言葉を受け振り向くと、そこには今にも魚雷を発射させようとする雷撃機の姿が。
「しまった!?」
着地に合わせて放たれようとする魚雷が鳳翔さんとの演習と重なり、俺は最悪の事態を覚悟した。
しかし突如降ってきた爆弾によって二キロ手前まで迫っていた雷撃機は魚雷もろとも爆散したのである。
「利根さん、大丈夫ですか?」
どうやら筑摩が瑞雲で雷撃機を落としてくれたらしい。
「ち、ちくまぁぁ~ありがとうぅ~......」
「まだ来ますよ、頑張ってくださいね。」
思わず膝を着きそうになる足をひっぱたき喝を入れる。
「そうじゃな、礼を言うぞ!」
ステップが出来るからと油断があったのかもしれない。
俺は所詮付け焼き刃でしかないことを認識し、周囲の状況把握に力を入れ直した。
それにより真後ろを狙ってくる艦載機も対処出来るようになってきた。
「後二キロ接近したら港湾棲姫へ呼び掛けるぞ!」
「分かった、その間の艦載機の対処は私達に任せてくれ。」
まだ七割程残る港湾棲姫の艦載機を回避し、そして落としながら更に接近を試みる。
この辺りから砲撃も多くなり避けるのもかなり厳しくなってきたが、皆の支援のお陰で何とか近づく事に成功した。
港湾棲姫との距離およそ三キロ。
お互いの姿が見えてきた所で俺は大きく息を吸い、港湾棲姫へ向かって叫んだ。
「聞こえるかぁーっ!北方棲姫は無事じゃあっ!」
俺は港湾棲姫の返事を待ったが、その返事は俺の期待したものとは少し違っていた。
「キサマラカ......キサマラガホッポウヲ......ユルサナイ......」
これは不味いか......推測は間違っては無さそうだが奴には俺達が誘拐犯に見えているようだ。
「まてっ!吾輩達が拐ったのではないっ!」
「艦娘ガ戯レ言ヲォォッ!」
「なんっ!?」
その瞬間残った全ての艦載機がなりふり構わず俺へと特攻してきた。
「「「利根さんっ!!」」」
「ぐっ......」
これは............無理......か。
すまんな利根、お前まで沈めてしまうような駄目な提督で。
やっぱり演習とは比べ物にならないくらい痛いんだろうか、ヴェールヌイもあんなに苦しそうにしてたもんな。
ーー提督よ、目を開けよーー
なんだ?もう俺は死んだのか、随分呆気なかったな。
ーー寝惚けとるでないっーー
俺は利根にいわれるままにゆっくりと目を開いた。
「こ、これは?」
最初に視界へ入ってきたのはいつの間にか俺の手から離れ、前で大きく腕を広げるほっぽの姿だった。
そして次に自分を見ると中破一歩手前の色々とギリギリな姿であった。
「オネェチャン、コイツ倒シタラ駄目ッ!」
「北方......ドウシテ......ソイツハアナタヲ拐ッタワルイ奴ナノヨ。」
「チガウッ!拐ワレテナンカイナイ、レ級ガ保護シテクレテタダケッ!」
「レ級......!......ソウ。」
何か思い当たりがあるのか港湾棲姫は考える素振りを見せるとほっぽへ一つ質問を投げ掛けた。
「北方、レ級ハナンテ言ッテイタノ?」
ほっぽはレ級の言葉を思い出してしまったようで泣き出しそうになるのを我慢しながらゆっくりと口を開いた。
「ワ......ワタシガ悪イコダカラ............オネェ......チャンハ......ワタシヲ......キ......嫌イニナッタ......ッテ。」
鼻をすすりながら頑張って続けようとするほっぽを目の前まで来ていた港湾棲姫は強く抱き締めた。
「大丈夫ヨ、北方ハトテモ良イ子ダシ私ガ北方ヲ嫌イニナルナンテコトハ有リ得ナイワ。」
港湾棲姫に包まれたほっぽはそのまま暫く泣き続けていた。
「カンムス、悪カッタワネ」
「まああれが普通の反応であろう、気にすることではない。」
とはいえ完全に死を覚悟した瞬間ではあったが......
「ソレト......北方ヲ救ッテクレテアリガトウ。」
「うむ皆に伝えておこう。」
「トネ、マタ......コイ。」
「うむっ、また会おう!」
ほっぽ達と別れを済ませ俺は二人に手を振って見送った......
「ふぅ、そう言えば吾輩はどうして助かったのじゃ?」
「北方棲姫が自身の艦載機をぶつけて相殺してくれたんだよ。あんな姿でも流石は姫級といったところだね。」
なるほど、今度何かお礼を出来ないだろうか......
「何にせよ第一段作戦完了だ、戻ろう。」
ヴェールヌイより作戦完了を言い渡され帰投しようとしたとき、ほっぽ達が向かった方から大きな水飛沫が上がった。
「あれはっ!?すまんが様子を見てくるっ!」
「利根さんっ!?」
嫌な予感がした俺は一人急いでほっぽ達の方へと向かった。
だが、たどり着いた先で衝撃的な光景を目にする事になる。
「ケッ!姫二人デコノ程度カヨ、ツマンネーナ。」
海の中へと消えて行く二人とそれを見下すように眺めるレ級......
折角彼女らと少し和解出来たとおもったのに......
ほっぽにお礼も言えていないのに......
その瞬間、俺の心はどす黒い何かに包まれた。
「殺す......お前だけは殺す。」
「ア?巡洋艦ゴトキ雑魚ガ勝テルト思ッテンノカ?」
「うるさい。」
俺は奴の射線から外れるようにステップをするとレ級目掛けて全力で駆け寄った。
「ヘェ、面白イナ巡洋艦......ケドナ。」
至近距離まで来たところで奴の頭へデザートイーグルを向けようとするが......
「オ前ダケノ技ジャネーンダヨッ!」
レ級はしゃがみ込み両手を着くと両足で俺の腹を蹴り飛ばす。
「ぐぅっ!?......っはぁ......はぁ......」
あいつだけは赦せない......
立ち上がろうとする俺に向かってレ級は駆け寄ってくる。
「ナンダヨ......殺スンジャネーノカ......ヨッ!」
俺の側頭部へ強烈なハイキックが見舞われる。
そのまま意識が持っていかれそうになりながらも何とか耐える。
しかし心とは裏腹に身体が立ち上がる事を拒む。
「くっそ!結局なにもできないのかよ。」
「ナンダヨ......カンムスモコンナモンカ......モウイイヤ、シンジャエ。」
レ級は俺に砲塔を向ける。
この距離で受ければひとたまりもない圧倒的な火力が放たれようとしている。
まだだっ......コイツだけは............!
俺はレ級を睨み付ける、レ級は見下した目で俺を見ている。
「睨モウガドウセ何モ出来ナインダロ?サッサト沈メヨ。」
「ウラァァァァーーッ!!」
レ級の砲撃が放たれる直前、叫び声と共に俺とレ級を遮るように白髪の少女が飛び込んできた。
「ヴェールヌイッ!?」
直後、彼女の身体に直径四十センチもの砲弾が炸裂し爆炎に包まれた。
「ヴェールヌイッ!ヴェールヌイ!!」
俺は急いでヴェールヌイへ駆け寄った。
「............無事かい......しれい......かん。」
「俺が勝手に飛び出したのに、なんで俺何かを庇う!」
「私は......司令官に......し......死んでほしく......っ......ない............だ......から......こっちに来て......貰った......んだ。」
「俺のせいで......ヴェールヌイまで......」
ヴェールヌイは煤汚れてしまった右手をやっとの想いで持ち上げるとゆっくりと俺の頬を撫で始めた。
「これでも......幸せ、なんだ......大切な皆を守れずに一人残るより......ずっと......ゴホッ............ゴホッ......」
「まて!今ドックに連れてってやる!」
「私は大丈夫............大丈夫だよ......。」
すっと彼女の手から力が抜ける......
「まて、待ってくれっ!ヴェルッ!」
俺の叫びも虚しく、彼女は俺の腕をすり抜けるように海へ溶けていってしまった......。
「利根さんっ!無事ですか!」
「ああ、
俺は立ち上がると追いついてきた榛名達に背中を向けたまま答えた。
「ヴェールヌイさんは......?」
「沈んだ、俺のせいで......」
翔鶴は黙ってしまった......軽蔑しているのだろうか......
それも仕方ない、軽蔑されて当然だ。
「オー、イッパイキタナァ。」
レ級は額に手を掲げ周りを見渡すように俺達を眺めた。
その動作が俺の憎しみを更に増幅させた。
「あいつ......ころシてヤル......なんとしてモ。」
俺が奴に飛びかかろうとした時、突如袖が引っ張られる感覚に気付いた。
「なんだ......。」
振り向くと涙目の暁が振り上げた掌が俺の下顎にヒットした。
「バカっ!!響はあんたを守るために沈んだのよっ!」
「ああ、そうだ......ダから俺ハアイツヲ殺すんだ。」
「あんた一人じゃ勝てないこと位わかるでしょ!」
「じゃあこのまま引き下がれと言うのぐっ!?」
次の瞬間、俺は暁から腹に軽いパンチをもらった。
「冗談じゃないわ!
「暁............」
俺は何でも自分で解決しようとしていたのかもしれない。人一人の力なんてたかが知れてるのに、周りを信用出来ずに......今の今までずっと......
「......そうだな、皆で彼女達の敵を取ろう。」
俺は感謝を伝えながら暁の頭を撫でた。
「もうっ、頭をなでなでしないでっていってるでしょ!」
「すまんすまん............ではいこうか。」
俺は暁に伝えようとした言葉を飲み込んだ。
あいつと戦う前に死亡フラグは立てたくないからな......
「作戦会議ハオワッタカ?マ、オマエラジャ幾ラ考エテモ無駄ダケドナ!」
「我々全員で貴様を倒してみせる!」
俺はデザートイーグルを構え直した。
「ケッ、セイゼイ楽シマセテクレヨ?」