吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
それでは最終話をどうぞ!
「ヴェール......ヌイ......。」
俺の目の前には右手にデザートイーグルを持ち、銀色に輝く綺麗な髪を靡かせた彼女がいた。
「そんな顔してどうしたんだい?私は大丈夫だって利根さんには伝えただろう。」
「なっ、あんな状態で安心できるわけ無いだろう!」
「う~ん............それもそうか。」
「「響っ!!」」
こっちへ向かってきていた暁と雷は一目散にヴェールヌイへ飛び付いていった。
「もう!無茶しすぎよ!!」
「でも帰って来てくれて良かったわ!」
「暁、雷、二人に衝突されたら不死鳥の私でも流石に沈んでしまうよ。」
「「ばかっ!」」
照れ隠しに言った冗談を二人に一蹴されてるヴェールヌイをみて思わず笑みがこぼれてしまう。
合流した筑摩に肩を借りながら俺は彼女が無傷である理由を尋ねた。
「ああ、いつの間にか夕張からこれを渡されたんだよ。」
ヴェールヌイの掌から大工みたいな格好をした妖精さんが両腕を組んでふんぞり返っている。
「応急修理女神......この間のはこれを渡すためだったのか......夕張には感謝せねばな。」
「そうみたいだ、でもお陰で利根さんを守れた。」
「そんな守りかたはして欲しくないのう......」
「君に言われたくは無いね。」
「うぐっ......」
正論過ぎて何も言えねぇっ!
「......まあでも確かに無謀だったかな。」
「そうよ響!あの後利根さん止めるの大変だったんだから!」
「ん、どうしてだい?」
「だって一人で突っ込んで行こうとするし何度呼んでも無視するのよ!」
あれ、何度も呼ばれてたのか......全く気付かなかった。
「それに言葉使いもおかしいし、袖掴んだら睨まれるし............すっごい怖かったんだからぁっ!」
暁はちょっと涙目になりながらヴェールヌイに訴えかけた。
「す、すまんかった......だかお陰で助かった、ありがとう。」
「子供を怯えさせるなんて酷いな利根さん。」
「子供言うなっ!」
「ごめんごめん............そうか、心配かけて済まなかったね。」
「いや、恥ずかしい限りだのう。」
あの時は自分が自分じゃないみたいだったからな。
もう一人の自分みたいな?
ーーなんじゃその中ニ病はーー
うお!?いたのか、ってかなんで中ニ病とか知ってんだよ。
ーーこっちでアニメと言うものを見ておったのだーー
......なるほど。
ーーアニメは凄いのう!吾輩が出ておったぞ!ーー
ああ、それは艦娘達を題材にしたアニメだからな。
ーーなるほどの!......っとそうではないのだーー
ん、一体どうした?
ーーお主の練度は幾つになったのだ?ーー
練度?いや、帰ってる途中だから解らないな。
ーーふむ、どうやら七十八に到達したようなのじゃーー
え?なんで解るんだ?
ーー意識と身体が離れてきとる......そろそろ時間のようじゃのーー
いや、そんなことは......
「あ、あれ?」
「どうしました利根さん?」
「あ、いや......なんでもない。」
身体が動かんだと!?
ーーだから言ったであろうーー
一体どういうことだ?まさか......沈むのか。
ーー安心せい、吾輩は夕張から聞かされておったことがあってのーー
ーー入れ換えロープの効果は練度が吾輩と同じになるまでらしいのじゃーー
え......じゃあ............
ーーうむ、恐らく鎮守府につく前には魂が戻ってしまうであろうーー
そんな......まだ皆に言わなければ行けない事が有るのに......
ーーならば早く言った方がよかろうーー
ーー何時まで居られるかわからんからのーー
ああそうだな......利根......ありがとう。
ーー吾輩はなにもしとらんぞ?ーー
俺を助けるために身を呈して入れ替わってくれた、それだけでも感謝するのに充分過ぎる理由じゃないか?
ーーこっちはこっちで楽しくやってたがのーー
それはあくまでも結果論だからな。
ーーそうか?まあ、ありがたく受け取っておくとするかのーー
ああ、じゃあ伝えてくる。
ーー達者でな............だがーー
ーーアニメが観れなくなるのはちと残念じゃのうーー
俺は苦笑しながら意識を表へ向ける。
どうやらなにも言わず筑摩が支えててくれていたようだ。
「筑摩、迷惑掛けてすまない。」
「仲間を助けるのは当たり前よ?」
「......ありがとう。」
騙したまま皆と別れたくはない。
「筑摩よ、済まぬが全員に通信を繋げてくれぬか?」
「ええ、わかったわ。」
全員に繋がった事を確認すると俺は意を決して全てを話し始めた。
「ここにいる皆に伝えたいことがある。」
「突然改まってどうしたのよ。」
「始めに謝らしてくれ、すまないっ!」
「先に謝られても要領を得ないわね、どういうことかしら?」
「そうだな、だが時間が無いので先に謝らせてもらった。」
心配そうに俺を見る筑摩に大丈夫だといい、俺は話を続ける。
「吾輩......いや、俺は今まで皆に嘘をついていた。」
「登寧......さ......ん?」
「筑摩、すまん......俺は登寧でも士官候補生どころか女性ですらない。」
「え......」
「俺は利根川
誰からも声が聞こえてこないが俺は続ける。
「俺は愚かにも向こうの世界で自ら命を落とそうとしヴェールヌイ、夕張、明石、そして利根に命を救われた。」
「そして皆が助けてくれたお陰で今の今までこうして生きてこれたし、これからも生きて行こうと思えた。」
筑摩の腕が俺から離れていき、支えの無くなった俺の身体はなす術もなく海面へと吸い寄せられていく。
「ぐっ......だからこそ!そんな風に思わせてくれた皆には嘘をついたままにはしたくなかったっ!」
起き上がる事はできないが構わずに続ける。
「そして暁、響、雷。君たちの妹を沈めてしまって本当にすまないっ!」
「恨んでくれたって構わない............だから......彼女の為にも元気に生きてくれ。」
「と......司令官......」
「............」
「............んもうっ!それならそうと早く言えば良かったじゃないっ!」
「雷......いやしかしな......」
「私達がなにも気付いてないとおもってるの?」
まさかとっくに気付かれてたのか!?
「電が沈んだ事は聞いてるわ、でも私達が来てから無理な大破進撃なんて一度もしてないじゃない!」
確かにあの時後悔した俺はあれ以降進撃ミスの起こるような状況での出撃は一切しなくなった。
「それは私達を大事にしてくれているということでしょ?......って筑摩さん!?」
俺は視線だけで筑摩の方見ると腕につけた単装砲をこちらへ突きつけていた。
「筑摩......」
「全て......うそだった......の......?」
俺は彼女の頬をつたう一筋の雫に胸を締め付けられるような感覚に襲われた。
「すまん筑摩......だが、たとえ信じられないとしても俺は素性以外で嘘は言っていない。利根からいわれたことも事実だ。」
「ねぇさん......」
「筑摩......俺を恨んでくれ......だけどじきに利根がこっちへ戻ってくる、そしたら二人で別の鎮守府に移ってもいい。」
「だから、今だけは我慢してくれ。」
「関係ありません......」
「筑摩っ!」
しかし筑摩は構える腕を震わせながら続ける。
「たとえ偽者でもねぇさんの姿で一緒に過ごして、いつでも頼ってくれて............本当に......嬉しかった......のに......」
遂に彼女は構えていた腕を少しづつ下げていく。
「............」
「なのにこんな......撃てるわけ......無いじゃ....ないですか.......」
そう言うと筑摩はその場に座り込み泣き出してしまった。
利根、今の聞いていたか?
ーーーー
聞こえてないのか?
しかし、利根からの返事は返ってこない。
そうしているうちに周りがにわかにざわめき出す。
「あれ?司令官の身体が光ってるわ!」
「わからんが、恐らく時間なのだろうな。」
最後にこれだけは伝えたい、いや伝えなければっ!
「ヴェールヌイ、こっちに来てくれ。」
「なんだい、司令官?」
俺はヴェールヌイを呼び寄せた。
「ホントなら俺が抱き締めたいんだが身体が動かなくてな......すまんが俺を抱き締めてくれないか?」
「なっ、何をいっているんだいっ!?時間と場所を弁えた方がいいよ司令官っ。」
「そうだな、だが弁える時間はどうやら無いようだ。」
「......まあそう......だね。」
「恐らく直接触れ合える事は二度とないだろう。」
「......確かにあれは一回限りみたいだからね。」
「だから最後にお前の温もりを感じたいんだ。」
「......全く、しかたないな。」
そう言いながら彼女は横たわる俺を優しく抱き上げると暖かく包み込んでくれた。
「ああ......ありがとうヴェールヌイ......」
「べ、べつに構わないさ......」
いつの間にか俺の目から涙が零れ落ちていた。
「お前に会えて良かっ......た......っ!」
「ヤ......ト............ザッ。」
今のはロシア語だろうか、既に五感も離れつつある俺にはしっかりと聞き取れなかったが心地よい言葉であったし嬉しい返事だったのだろう。
そんなことを考えている内に段々と意識が利根から離れていく。
それに連れて懐かし音が耳に入っていく。
「んぅ......。」
次に目を開いた時には既に記憶に古い俺の部屋が広がっていた。
「ゆ............め......?」
俺は布団から起き上がろうとして手をついた瞬間。
「......っ!!!」
尋常じゃない痛みが全身に走った。
「ぐっ......ぉぉおおおっ............」
三十分程布団の上で蠢いていたらほんの少しましになった気がしたので俺は漸く立ち上がりPCの前へと座った。
マウスを動かすとスリープ状態だったモニターに映し出された画面に目が留まった。
これは............
「夢じゃ............無さそうだな。」
つけっぱなしの画面の中にはMVPのヴェールヌイがこっちへ敬礼を向けてくれていた。
「よしっ、行ってくるっ!」
ヴェールヌイへ返礼し、身なりを整えた俺は清々しい気分で外へ飛び出していった。
よ~し、仕事探すか!
最後までお付き合いいただきありがとうございます!
完全に見切り発車で書き始めたこの作品は当初は完結させられるとは思っていませんでした。
ですのでこの作品が完結することが出来たのは読んでくださった皆様のお陰です。
改めてここにお礼を申し上げます。
番外編につきましてはひっそりと上げる予定では御座います。
次回作も近々書き始めようと思いますのでそちらの方も読んでいただければ幸いです。
最後にアンケートを活動報告に上げさせて頂きますので宜しければお答えいただけますでしょうか。
それでは皆様、またいつかお会いしましょう。