吾輩は利根である。カタパルトはまだ(整備して)ない 作:上新粉
こちらにて本当に完結となります。
改めましてご愛読ありがとうございましたっ!
例の作戦完了から一ヶ月の時が経ち吾輩の身体の傷も癒えた頃であった。
暁達が向こうでの暮らしを知りたいということでの、みなで部屋へ集まって話して聴かせてやることになったのじゃ。
「利根さん、長い間すまなかったね。」
「なに、向こうの暮らしも悪くはなかったぞ?」
「姉さんが返ってきてくれて本当に良かったわ。」
筑摩がその瞳に涙を滲ませながら安堵の表情を浮かべていた。
「どうした!?まさかあやつに何かされておったのか!?」
だとするなら何としても夕張にイ級と奴を入れ替えさせねばのう......
「あ......いえ、されたというか......してしまったというか......」
「むぅ......要領を得んのう?どういうことじゃ?」
顔を赤らめ俯く筑摩に代わってヴェールヌイが答えてくれたのじゃ。
「......といった所だね。」
「なるほどの、運の良い奴じゃ。吾輩の身体であるのを良いことに手なんか出していたら沈めてやろうと思ったのだがな。」
「大丈夫よっ!だって司令官ってロリコンって奴なんでしょ?」
「暁、それを何処で聞いたんだい?」
「鎮守府の皆と利根さんはずっと響の事を気にしてるねって話をしてたら夕張が教えてくれたのよ!」
「「夕張......」」
全く......子供に何を教えておるのだ。
吾輩とヴェールヌイは呆れた目で夕張をみた。
「あ、いやだってね?詮索されて提督がボロを出さないようにしてただけよ?」
「だからってのう............ん?それって吾輩がロリコンだということになってはおらぬか?」
「あ、それは大丈夫!......だと思う。」
はあ......取り敢えずは信用するとしよう。
「ってもう!そんなことはどうでも良いのよ!早く向こうの話を聴かせてよっ!」
「どうでもよくは無いのだがのう。」
「済まないね利根さん。暁はお子様だから気になって仕方無いんだ。」
「ちょっ!?違うわよ!!」
「おお、そうか!それはすまぬのう。では始めるとしようか。」
「違うって言ってるでしょ!」
「まずはあっちに最初についたときじゃな。」
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「ここが提とぐぬぉ!?」
そ、そうであった!あやつ首を括っておったのだった!
「ぬおぉぉぉおおお!!」
入れ替わったのにここで果てる訳には行かぬっ!
吾輩は縄を両腕で掴むと腕力だけで身体を浮かせ一命はとりとめたのではあるが......
「此処からどうすればよいかのう......」
暫くは堪えておったがすぐにこの身体の限界が来てしまった......
「ぬぅ......そろそろ腕が釣りそうじゃ......」
しかし、腕が限界を迎える前に扉の開く音が聴こえてきたのじゃ。
「おーいっ!助けてくれぬかぁ!?」
「ちょっと!?何してるのよ生永!」
こうして吾輩は提督の母上によって九死に一生を得たのであった。
「助かった......死ぬかと思ったぞ。」
「この馬鹿っ!心配したじゃないの!」
このまま二時間位説教されたが吾輩ではなくあやつに言ってくれないだろうか。
......まあそんなこと言える訳もないがの。
「す、すまぬ母上よ......」
「はぁ......まあいいわよ、死にたく無くなったから堪えてたんでしょ?」
「う、うむ......」
「何か思うところがあるならいつでも言っていいからね。」
それだけ言うと提督の母上は隣の部屋に戻っていったのじゃ。
そしてその日から吾輩はこの家の一員として過ごすことになったのだ。
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「へぇ~、司令官のおかあさんってどんな人だったの?」
「ふむ......一言で言えばおかん、かの?母親らしい雰囲気があったの。」
「ふ~ん、鳳翔さんみたいな感じかしら?」
鳳翔か......ふむ......
「鳳翔と北上を足して2をかけたような人じゃったな。」
「......いったいどういう人なんだい?」
うむぅ、ヴェールヌイでも解らぬか......
「そうじゃな......多少ものぐさなのだが面倒見の良い包容力のある人だったのう。」
「へぇ~、そんなおかあさんが居るのに司令官はなんであんなことしようとしたのかしら?」
「そうよね、もっと頼れば良いじゃない!」
暁と雷のもっともな意見にヴェールヌイは返答し、吾輩は付け加えるように一つの推測を立てた。
「だからこそ......なのかも知れないね。」
「うむ、提督の考えは解らぬが......奴は自分を貶める癖があるからの。大方母上の負担になるのが辛いが仕事もまともに出来ない自分などと考えておったのだろう。」
今となっては答えを知る術も無いがの......
ま、それはさておき次は何の話をしようかのう......
吾輩が考えておると意外な......いや、意外ではないか......ヴェールヌイから手が上がった。
「どうしたヴェールヌイ、何か聞きたいことがあるのか?」
「あ、ああ......その......司令官の友達はどんな感じだったんだい?」
「なんじゃその我が子を心配する母親のような台詞は......」
「いや、最初の頃司令官に友達だっているだろうと決めつけて発言してしまったんだ。」
「そうか......すまんが吾輩はあっちにいる間に奴の友人とは出会っておらぬの。」
「そうか......私はなんて軽率な発言をしてしまったんだ。」
「ほ、ほらあの時はヴェルも感情が昂ってたし提督も気にしてないと......思うわ?」
落ち込むヴェールに夕張なりにフォローしておるがあまりフォローしきれてないのう。
「だが大丈夫じゃヴェールヌイよ。」
「いや、大丈夫じゃないよ......司令官は何も言わなかったけど私の言葉にきっと傷付いてる。」
提督もであるが、こやつも大概じゃな......。
「そうではない、会っていないだけで提督と仲の良い友人がおることは確認しておる。」
「本当かいっ!?」
膝を着き落胆していたヴェールヌイは直ぐ様頭をあげて吾輩を見上げた。
「うおっ!?ほ、本当じゃ。其奴の名はな......」
「その人が司令官の友人?」
「うむ、本名かどうかは解らぬが提督の兄上とのラインとやらを見る限り大分仲が良い事が伺える。」
「その人って艦娘なのかしら?」
「なんだか強そうじゃないっ!」
「ええ、その人が艦娘だとしたらだって......」
「まあ、アルファベットで書いておったし艦娘では無かろう。」
ん?ヴェールヌイが何故か複雑そうな顔をしておるな。
「......夕張、私をあっちに送ることは出来ないかい?」
「ちょっと響っ!?なにいってるの!」
「私はあっちで確認しなければならない事が出来た。」
ヴェールヌイのとんでも発言に暁と筑摩が待ったをかける。
「ヴェールヌイさん、お気持ちは解りますが提督があちらの世界で他の女性の方と付き合われるのはごく自然な事なのよ。貴女が邪魔してはいけないわ?」
「司令官と同じ人間の女性なら認めるさ......でも他の艦娘と結ばれるなんて認められないっ!」
そもそも女性かどうかもわからんのだがな......
やれやれ......あのヴェールヌイが駄々をこねるとはの。全く、あやつも幸せもんじゃのう......。
「はぁ......お主が行ってしまっては吾輩が入れ替わってまで提督を連れてきた意味が無かろうが......。」
「うぅ......でも......」
「だったら最初からあやつをこっちに留まれるようにも出来たのではないか。のう夕張?」
「えっ?ん~......まあ正直戻りを考えない方が簡単につくれるわ。ヴェルが言わなきゃそうするつもりだったしね。」
............戻る条件を聞かされたのは向こう行った後なんじゃが......
「な、ならば何故戻れる様にしたのだ?片道でも色々方法はあったであろう。」
向こうの世界の事を気にしなければだが。
「それは......司令官には幸せになって欲しいから......」
「ならば尚更こっちにいた方が良かったのではないか?」
「それは駄目だっ!そしたら司令官は家族や友達と二度と会えなくなってしまう。」
なるほど、だから自分があっちへ行こうとしておるのか。まあ分からなくもないし提督に取ってもそれが幸せかも知れんの......
「......お主の想いはわかった、だが一つだけ覚えておくが良い。」
「......なんだい。」
「提督がこっちに来ると家族や友に会えなくなるように、お主が向こうに行ってしまったら夕張や暁達と二度と会えなくなるということじゃ。」
「............」
「ヴェル......」
「響......いくの?」
「なによ暁、夕張。そんな顔してちゃ駄目じゃないっ!」
「だって響まで離れちゃうなんて......いやよ......。」
「そう......ね、ヴェルが幸せになるなら嬉しいんだけど............ちょっと寂しいかな。」
「確かに寂しいわ、でも大丈夫よっ。私達は心で繋がっているんだからっ!」
雷は己の胸を大きく叩いた。
「そ、そうね......妹の幸せを願うのは当然よね!」
「解った、明石さんといつでも行き来できるようにしてあげるわ!」
「良いわね!任せたわよ夕張っ!」
「暁、雷、夕張............。」
「良い仲間を持ったなヴェールヌイ。」
「利根さん......。」
ふむ、どうやら覚悟は決まったようじゃの。
「スパスィーバ......皆ありがとう。私は......」
ふむ、達者でなヴェールヌイよ。
「私は............ここに残るよ。」
「そうかそうか......って、むっ?」
「ヴェル?」
「ありがとう夕張、往復出来るようになるのを楽しみにしてるよ。」
「響、いいの?会いたいんじゃないの?」
「会いたいさ、会いたいけど会いに行きたいとは言ってないよ?暁、私は確かめに行きたいと言っただけだ。」
「なによもうっ!」
「本当は司令官と一緒に暮らしたいんでしょ?我慢しなくても良いじゃないっ!」
「そうだね雷、司令官と共に生きたいとは思うよ。」
「じゃあっ!」
「ただ......皆とも別れたくないんだ......それに司令官とは離れていてもこれで繋がっている事を思い出したしね。」
ヴェールヌイは右手の薬指を見せびらかす。
「ほぉ、見せつけてくれるのう。だが良いのか?一方通行ならともかく、自由に往復となると流石の二人でもすぐには造れんだろう。」
ヴェールヌイは頷きつつ夕張を見つめながら呟いた。
「そうだね、きっと時間がかかるだろう。でも夕張ならいつかやってくれる気がするんだ。」
「んもうっ!ヴェルったらぁ......任せなさい、一日でも早く完成させてあげるわっ!」
「スパスィーバ、但し無理はしないようにね。」
「仲良き事は良い事じゃ、のう筑摩よ?」
「ね、ねえさん!?」
吾輩は側にいた筑摩の腕を取りぎゅっと抱きつく。
筑摩の体温を感じつつ吾輩は帰ってきたことを肌で感じていた。
それから温泉旅行を自慢したり、秋雲にアニメを作って貰おうか等と盛り上がり気がつけば既に日を跨いでいた。
「むっ!?もうこんな時間か......続きはまた今度じゃな。」
「そう......ね。よふかしは......お肌のてんてき......よ......むにゃ......」
「駄目よ暁っ、ちゃんと自分の部屋で寝なきゃっ!」
しかめっ面をしながらメトロノームの様に揺れる暁を雷が背負い部屋を出ていく。
「あれではどっちが姉が分かったもんではないなっ!」
「それには同意するけどまさか利根さんに言われてしまうとはね。」
「むっ、どういう意味じゃヴェールヌイ。」
「じゃ、私も帰るよ。ダスビダーニャ」
ヴェールヌイの奴め、吾輩が子供だとでもいうのか!
吾輩はふと筑摩の方を見た。
うむぅ、確かに筑摩はしっかりしておるし吾輩と違って家事なんかもそつなくこなせるからのう......
「むむむ......」
「?......どうしました姉さん?」
ま、それでも構わぬか。
筑摩が吾輩を必要としてくれるならば周りの眼を気にする必要もあるまい。
「よし、寝るか筑摩よ!」
「え、姉さん?私の部屋で寝られるのですか!?」
「ぬ、駄目かのう?」
「いえ!そんなことありませんっ!」
「ならよかった、ならば早く寝ようではないか。吾輩も眠くて......の。」
吾輩達は一つのベットへと潜っていく。
「姉さん、一人暮らしされたかったのではないの?」
「そうじゃな......だが一人は寂しかったからの......ふぁあ......」
「......ええ、そうですね。一人は寂しいです。」
筑摩が吾輩を後ろから抱きついてくる。
全く、筑摩の気持ちに気付いてやれなかったなんてお姉ちゃん失格じゃの。
「感謝するぞ、提督よ。」
「ねえさん......?」
「なんでもないぞ?では休むとするか筑摩よ。」
「はいっ、お休みなさい姉さん。」
本当はもっと利根があっちに居たときの話を広げようかと思ったのですがね......自分の生活環境をうっかりさらしてしまいそうだったのと利根一人で話を進めて行ける能力が私には......orz
ま、まあそれでは皆様、夕張が完成させてくれるのを気長に待ちながら未来でお会いしましょうっ!