六畳間を広げよう   作:猫月

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やっちまった。オチが無い。それでもよければどうぞ。
むっちゃどうでもいい話ですw


大人の味の初体験

 

 

始まりは孝太郎の父親が貰った、とある臨時収入からだった。

 

『そうだ。うちもアベノミクスでな――だから、友達とでも美味しい物でも食べて来い』

「そうするよ。サンキュー親父、身体気をつけてな」

『ああ。それじゃあまたな、孝太郎』

休日の昼食時にかかってきた父からの電話に終止符をつけると、孝太郎は部屋に揃っていた面々へと声を掛ける。

「よし!!今日の昼飯は寿司に行くぞ!!」

 

孝太郎の言葉に一番最初に飛びついたのは、純日本人の幽霊の早苗だ。

『孝太郎!!お寿司って回る寿司?それとも回らない寿司?』

「そんなもん回る寿司に決まってんだろ。回らない寿司なんて高くって行けるかっ!!」

『そっかぁ回る寿司か~でもでも、回る寿司でも久しぶりで楽しみっ!!』

 

その次に続いたのは、純日本人コスプレ金欠少女の虹野ゆりか。

「わ、私も食べていいんですかぁ!?こ、こんなに嬉しい事…やった、やりましたよぉゆりかぁぁ!!」

「食べてもいいが、百円皿十枚までだぞ。それ以上は知らんからな」

「じゅ、十枚も…それで十分ですっ!!やっぱり里見さんは良い人でしたぁぁ!!」

 

大げさに喜ぶゆりかに優しげな視線を向けたのはクラノ=キリハだ。

「ふふっ。相変わらず食べ物関係だとゆりかは大げさだな。だが今回は我も楽しみだ」

「そうなのか?キリハさん」

「ああ。地底帝国じゃ新鮮な魚は高級品だからな。寿司もあまり食べたことが無いんだ」

そう答えるとキリハは少し嬉しそうに口元を歪めた。

 

そして最後に微妙な反応を浮かべるのは、ティアとルースのフォルトーゼ組み。

「寿司、寿司かぁ…この星に着いたときに調べたが、わらわは食べたことがないのぉ」

「私もです殿下。確か、生の魚をご飯の上にのっけた物でしたか……生の魚なんて、お腹を壊さなければいいのですが」

「その辺は大丈夫ですよルースさん。それにティアも一度で良いから食べてみろよ、日本の代表的食文化なんだからな!!」

「コータローがそう言うのなら、まあ…」

「試してみても良いかもしれませんね」

孝太郎の保障を受けると二人は納得し、皆で回る河童のお寿司屋へと行くこととなった。

 

 

 

六畳間を広げよう  第三話 大人の味の初体験

 

 

 

店員にテーブル席へと案内され、孝太郎とキリハが奥へと座ると、順に座っていく面々へとお茶を用意する。

今ではもう慣れてしまった日本茶と、醤油と箸がそれぞれの前に行き渡ったが、ティアとルースは店の仕組みに目を丸くしたままだった。

 

「何故、皿が回ってるのじゃ…」

「不思議なモニュメントですね」

回る皿。回る寿司。初めて見る光景に驚く二人に孝太郎が説明する。

「飾りじゃないですよルースさん。これを食べるんです。バイキングの逆バージョンみたいな感じですね――うん!!うまいっ!!」

こうですと説明しながらマグロの皿をサッと取ると、孝太郎は一口で頬張った。

ツンとワサビが効いて、鮪の後味を爽快な物へと変える。

『おおっ!?山葵がこんなに美味しく感じるなんて!!孝太郎は大人だねっ!!』

孝太郎の首元に引っ付く早苗が、味覚共有の恩恵を受けて嬉しい叫び声をあげた。

「ほぅ、孝太郎は山葵が平気なんだな。では我は鯵と鯖を頂こうか」

「私も好物をいだだきます~」

孝太郎に感心しながら、キリハとゆりかはそれぞれ目的の皿を取った。

「いきなり銀物とはキリハさんは中々渋いな。ゆりかはまあ……予想通りか」

「ああ。父様の影響でな、銀物は嫌いじゃないんだ」

「何だか馬鹿にされた気がするけど…今はそれよりも玉子寿司ですぅ~」

キリハは答えながら、ゆりかは文句を言わないように心掛けながら、それぞれ箸を進める。

 

そんな皆の様子を遠巻きに観察している二人に気付き、孝太郎は声を掛けた。

「ティアもルースさんも、なんだったら俺が取りますけど何がいいですか?」

レーンに一番近い人物の役目と、親切心で訊いてみたが二人は困った様子で首を傾ぐ。

日本食でもあまり食卓に上がらない寿司という食べ物について、二人の知識は乏しく。好みを聞かれても答えられなかった。

「何が良いとかと聞かれてものぉ…お勧めとかはないのじゃろうか?」

「そうですね…それじゃあ、サトミ様。お任せしてもよろしいでしょうか?」

最も妥当な方法として、ティアとルースは選択を孝太郎に委ねる。

先導してきた日本人として二人の願いを受け入れると。孝太郎は基本的なものからチョイスすることにした。

「分かった。それじゃあやっぱり鮪かな。サーモンも良いけど最初はこいつだろ」

『あっ!!待った孝太郎!!』

孝太郎が流れてくる鮪の列に手を伸ばすと、早苗が慌てて止める。

「どうしたんだ早苗?」

目の前を鮪が流れていくのを見送りながら訊ねると、早苗は注文パネルへと指を伸ばした。

『ルースはともかく、大人の味はティアにはまだ早いんだと思うな~』

「ああ、そう言えばそうか。こっちでサビ抜きを頼んだ方が良さそうだな」

早苗の意見に同意しながら、孝太郎はサビ抜きのボタンを押す。

 

そんな一連のやり取りを見ながら、ムッとしてしまったのは当然の如くティアだった。

「コータロー。わらわもそなたと同じ物で良い!!」

「いや、でもなぁ…」

不機嫌さを滲ませる声のティアに、孝太郎は渋る。

「良いと言っておるっ!!」

「……分かった。知らないからな」

渋った孝太郎だったが、ティアに再度怒鳴られてサビ抜きの表示を消して注文した。

 

 

SLの台に乗って鮪の皿が届き、ティアとルースの前へと並べられる。

二人の横からは、三枚目の皿が積み上げたキリハが面白そうに覗き。

二人の前では、鮪とは違う黄色いネタばかりを食べて、八枚目に到達したゆりかが見つめる。

「本当に大丈夫か?」

『無理はしない方がいいと思うんだけどな』

「大丈夫と言っておるっ!!わらわは子供なんかじゃないのだっ!!」

心配する孝太郎と早苗に更なる敵愾心を抱きつつ、ティアは目の前の食べ物に箸を伸ばす。

普段ならこんな過剰な反応を見せる彼女ではなかったが、ティアとルースにだけ子ども扱いをした孝太郎に腹を立てたのだ。

除け者にされたという気持ちと、ゆりかよりも子ども扱いされたという侮られた気持ちで、意固地になったティアには、心配すらも馬鹿にされているように聞こえていた。

 

「無理はするなよ」

「くどいっ!!」

孝太郎の最後の心配を一言で叩き切ると、ティアは鮪の寿司を口へと運び入れた。

柔らかな鮪の肉が切れ、鮪の甘みと酢飯の酸味が広がる。

絶品とは言わないが、美味しいと言える味を味わいながら二度目三度目とティアは咀嚼した。

 

(まあまあじゃの……だがコータローめ、この程度のどこが食べられぬと―――っ!!)

 

心の中で自分の事を侮った孝太郎に文句を言おうとした途中。その味に変化は起きた。

舌の上に今まで無かった辛味が現れ、痺れる様なツーンとした痛みが鼻の上まで駆け抜ける。

「なっ?!こっ!!うっ―――っっっぅぅぅっ!!」

思わぬ痛みにティアは箸を放り投げて鼻を押さえるが、劇物は口の中に未だ残っており、通り抜ける痛みは続いていた。

「おっ、おい!!早くこれを飲め!!」

「う――うむっ!!」

孝太郎が差し出したお茶を受け取り、口の中の劇物を喉の奥へと流し込む。

劇物本体と、劇物が残した刺激の残滓を流し終えると、ティアはようやく落ち着くことが出来た。

 

「ほら、言わんこっちゃない」

「何を言うコータロー。こんな物ぜんぜん平気じゃ――」

目端に残った水滴を溢さないように気を付け、ティアは気丈な笑みを浮かべる。

「わらわは大人じゃからな!!」

どう考えてもやせ我慢のその言葉に、ルースとキリハは微笑み、他の皆は困ったように顔を顰めた。

 

 

回る寿司屋からの帰り道。ティアやゆりかを見守るように一番後ろを歩くルースに、孝太郎は歩調を合わせて歩く。

視線の先は彼と彼女が尊敬して止まない殿下だったが、その瞳は未だに充血しているはずだ。

「あいつも本当に頑固ですよね」

そう言ってルースへと話しかける。しかし文句を言うその口調は、心配を掛ける妹に向けるような優しい物だった。

「ふふっ、殿下はサトミ様とは対等の立場にいたいと思ってますから」

孝太郎の気持ちが分かっているため、ルースは優しく笑った。

「対等の立場ですか…」

対等の立場に居たい。その気持ちも孝太郎には理解できたが、それでも限度はあるはずだと思う。

辛いのを堪え、涙を堪えて、そんな所で無理をする必要は無いはずだ。

あの後ティアは、ワサビ入りの寿司を食べ続けた。

食べ続けたと言っても五皿で終わってしまったが、いくらサビ抜きを勧めても頷かなかった。

そんな所で意地を張って、対等になっても仕方ないのではと、孝太郎は疑問に思う。

けれどもその疑問は、ティアと同じ立場のルースさんによって簡単に解決されるのだった。

 

「それにきっと、殿下はサトミ様と同じ物を感じたいのだと思います」

「同じ物を、感じる?」

「はい。サトミ様が食べてきた物を食べたり、見てきた物を見たり。感じ方は違っても、そう言ったサトミ様のことを知りたいんじゃないでしょうか。私も殿下と同じですから」

そう言って微笑むと、ルースは孝太郎の腕へと絡みつく。

 

孝太郎はその腕を払おうともせず、逆の手で鼻の頭を掻くと、

 

「そんな風に思われてるなんて……なんだかむず痒いな」

 

先程よりも優しい視線を、愛しき皇女殿下の後姿に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで?ゆりかは孝太郎と同じ物を食べようとは思わぬのか?」

「えーワサビなんて、そんな辛い物食べれるわけ無いじゃないですかぁ。ってムリムリ!!カラマちゃんコラマちゃん!!早苗ちゃんを止めて~っ!!」

『無理かどうか試してみなきゃわかんないって!!行け、サイキックワサビ寿司~っ!!』

 

後日孝太郎の居ない106号室で、ワサビだけが乗った寿司が飛び回ったとか、飛び回ってないとか。

その真実はゆりか(被害者)だけが知っているのであった。

 




というわけで六畳間ネタ第三弾です。
ひなまつりの散らし寿司かいてるときに思いついたネタでした。
本当はワサビを食べて悶え苦しむティアってギャグネタですが、うまく落ちなかったのでちょびシリアスでw
オチはいつもどおりのゆりか選手でした。皆さん、食べ物で遊んではいけませんよー!!

それでは、お目汚しありがとうございました。これからもどうぞ良しなに。
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