Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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今回は作戦後の忙しいゼロ、といった内容になります。



第9話 オリジナルハイヴ攻略作戦報告書

1996年1月2日。完全破壊した月面オリジナルハイヴの安全確保を研究素材の採取が続けられている中、ゼロはクォーター艦内にあるバーのような造りをした休憩室で報告書に目を通していた。マクロス2隻の被害状況や未帰還機とその搭乗レアリエンのプロフィール、消費した弾薬や戦闘態勢を整え直すのにかかる予測日数など。分かりやすく、簡潔に纏めてあっても、その量はA4用紙20枚に及ぶ。

自軍のことだけでこの量だ。まだこれに加えてBETAの調査結果も明日明後日の内に届けられる。

 

 

 

「……はぁ、今回は出撃しなくて良かった。とてもじゃないが身がもたん」

 

 

 

資料を手放し、眉間を揉んで一息吐く。利便性を優先した身体、ということで体力や身体能力に関しては同年代の人間と比べると遥かに勝っている。しかし、それでも年齢的にはまだ少年と言えるようなもので、消耗は早い。体力的に夜更かしや徹夜が出来ないため、日中にやるしかないのだが、如何せん量が多い。資料の内容上他人に任せるわけにもいかず、ただひたすらにもくもくと資料に目を通して内容を把握していき、問題の解決策や今後の予定を組み立ててパソコンに記録していく。

冷めたコーヒーを飲み干し、コーヒーメーカーからお代わりを注ぐ。地球では高級品となってしまった天然物のコーヒーだ。存分に香りを楽しみ、一口口に含み飲み込む。

 

 

――これは香月博士との交渉カードにはなるかな?

 

 

あまり詳しいほうではないが、純粋に美味いと思えるこのコーヒーなら簡単な情報操作の依頼の報酬としてなら喜ばれるかと思うが今はまだ彼女との接触は避けたい。

目を閉じ、天井を仰ぐ。光州作戦で降りるか、日本本州侵攻で降りるか…。どの道あと3年後にクォーターだけでも降ろす予定だ。船団本隊には簡易の月基地の建設やBETAやG元素の解析といった仕事が詰まっている。あまり身動きはとれないが、地球の詳しい情勢のデータも欲しい。現地の市民難民の状態が届かないのだ。一応、各国の通信やラジオ等は傍受しているのだが、貧困層の国民のことはほとんど取り上げられず、たまに上がっても明らかな脚色が加えられている。

 

幸いというか、現在はどこの国も難民の受け入れや治安の悪化で入国や戸籍に関する管理が甘い。密偵でも送り込むべきか。どうやら先の戦闘の光は地球からでも観測出来たらしく、監視衛星がかなりの数月に注目している。調査隊の編成も行われているらしいが、現在の地球の技術力ではどれほど急いでも調査隊の月到達は数か月後になるだろう。それまで監視が続くとして、代償として月と反対側の監視が疎かになっているらしい。全方位を監視していた衛星のほとんどを月側へ集めたのだから当然とも言える。無謀、としか言いようがない。取りあえず、監視の薄い宙域にフォールドアウトしてバルキリー単体で何人か降ろしたほうがいいか。

 

 

 

「……となれば善は急げ、だな」

 

 

 

思考を切り上げ、密偵に関して簡単に決めた内容をメモしておく。密偵に関しては後回しだ。まずは今回の報告書を始末しなければならない。

と、ゼロが気合いを入れ直していると、休憩室の扉が開いた。

 

 

 

「あ、ゼロ。コーヒーでしたら私が淹れましたのに……」

 

 

 

胸の前に大量の白い紙を抱えたナターリアが入室して来た。ゼロのコーヒーの湯気の具合から淹れて然程経っていないと気付いたナターリアが申し訳無さそうにするが、その時は居なかった上にナターリア自身の仕事もあったのだからゼロは気にしていない。寧ろ、ナターリアの抱える紙の束を見て冷や汗を流して思考の余裕を無くしている。

 

 

 

「ナターリア……、それは…?」

 

 

 

「あ、はい。今回の作戦で交戦したBETAの種類や攻撃・行動パターン、移動速度など現在判明した部分の纏めです。もう1時間もすれば回収したBETA残骸の解析結果やG元素のデータも届きます」

 

 

 

A4用紙40枚ぐらいだろうか。まだ最初の報告書すら目を通し終わっていないというのに。さらにあと1時間でまだ増えるという。

 

 

 

「レアリエンの処理能力をあまく見ていた……」

 

 

 

「あ、ゼロ!?ゼロ!」

 

 

 

フラッと、意識が遠のくような感覚とともに背後の椅子に崩れ落ちる。すぐにナターリアが駆け寄って揺さぶってくれたお陰で事なきを得たが、精神的にかなり追いつめられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして5日後、ようやくすべての報告書を読み終えたゼロだが、かなり疲弊していた。しかし、かなりの体力を消耗したのに見合うだけの情報も得ていた。

それらをまとめると下記のようになる。

 

 

 

・戦死者18名。全部隊残弾20%。

稼働機体マクロス級2隻、バルキリー86機、デストロイド38機

一時撤退を推奨

 

・重頭脳級の完全破壊。サンプル回収不可。

 光線級、重光線級、兵士級は未確認

 新種1種確認。攻撃方法及び特徴は光線級と類似するも、短射程低出力・高精度高燃費と違いあり。また、照射時間が長く、照射しながらの移動も可。光線級の原種と推測される。初見でバルキリー20機が撃墜もしくは被弾。

 

・G元素と思しき未知の物質を大量に入手。現在総量約220t

 フロンティア船団研究機関では受け入れ準備完了

 

・米国のシャトル打ち上げ施設の活動が活発化

 

 

 

という事だった。

光線級の原種と思われる新種が少々厄介そうだが、短射程のためバルキリーのレーザー機銃で充分射程外から駆除出来るとのことだ。

そして考えていた密偵だが、トランスジェニックタイプという限りなく人間に近い肉体を持ったレアリエンを30名ほど地球の重要拠点となっている都市に下ろし、一般市民の生活に紛れ込ませることとなった。戸籍管理がズサンになっているため、案外簡単に潜り込めそうだ。ナイトメアプラスを改修して通信能力とステルス能力を向上させた機体を与え、リペアツールも持たせておけば多少の問題なら自力で対処してくれる。ジャマ―も持たせておけば検査も潜り抜けられる。問題はナターリアのようなESP発現体だが、ソ連の機密区画にでも近づかない限り今のところは平気だろう。

 

 

 

 

今は1996年。人類の存続か滅亡までの分岐点までは4年と10ヵ月。

第4計画に協力するか、独自に動いてオーバーテクノロジーで殲滅戦を行うか。最低でも2年以内には方針を確定しなければならない。それまでは月の完全奪還や兵力の増強、資源の回収とBETAの研究などをやって過ごす。

報告書を厳重に保管し、ゼロはようやっと落ち着いた時間を手に入れ、艦内の自室へと戻った。

 

 




以上第9話でした。
閲覧いただきありがとうございました。

次話でもまた少し時間が飛び、あの娘登場します。
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