なかなか時間がとれないのと、話の書き方に悩んで遅くなってしまいました。
美与が斯衛軍衛士養成学校に転入してから半年が経った1998年の3月。ある晴れた日に、唯依は志摩子や上総、和泉、安芸、美与の6人で昼食を摂っていた。昼休みの桜の木の下でマットを広げ、宿舎で作ったお弁当を広げて突く6人は他愛のない話をして盛り上がっていた。
転入早々の一騎打ち以来、唯依は美与と互いに戦術機機動を相談し合うぐらいに親しくなった。そして、もともとライバルであり意見の交換を行っていた上総も加わり、その後に他の3人も混じるようになっていた。結局そのまま美与が唯依達のグループに加わるという形で6人は一緒に行動するようになった。
「……そう言えば皆さん、『光州の奇跡』…聞きました?」
「…え?」
箸を一旦休めた上総が全員を見渡しながら訊ねた。唯依や志摩子、和泉、安芸は黙って頷いたが、美与だけは知らなかったらしく疑問の声を挙げた。
「あぁ、早乙女さんはご存知ないのも当然ですわ。私も斯衛軍に努めている父から伺った話ですから」
「そう…。あ、謝らないでいいわよ。
それで?『光州の奇跡』って何があったの?」
家族は居ない、と言っていた美与の前でやむを得ず家族の話をすると上総はすぐに美与に謝ろうとする。美与もそのタイミングを分かっているので、上総が頭を下げようとする前に止めた。そして頭を上げた上総は、唯一知らない美与に周囲との情報の誤差がないかを確かめながら説明を始めた。
「先日行われた光州作戦はご存知ですわよね?その作戦の途中、帝国軍司令官彩峰中将が独断で帝国軍の1部を移動させたのです。逃げ遅れた一般市民を救助するために。
ですが、帝国軍が抜けたために戦線が瓦解。危うく各国の派遣軍に多数の死傷者が出るところでした。しかし、瓦解した戦線に所属不明機が現れたのです」
「6年前のスワラージ作戦でも確認された変形する青い戦闘機と3年前の月面事件で確認された深緑の戦闘機。1個師団規模のそれがいきなり現れて戦線を押し上げたとお父様と叔父様から聞きました。本当はいけないのですが、写真も、ここに」
上総の説明を引き継いだ唯依が制服のポケットから写真を4枚取り出し、全員に見えるように置いた。
写真に写っていたのは何れもどこの国の戦術機とも似つかない人型と戦闘機の軍団。跳躍ユニットも無しに宙に浮き、信じられないほど小型のミサイルを何十発とバラ捲いている。映っているのは2機種で、それぞれ3つの形態を見せていた。
「うっわ、唯依こんなのどうしたの?」
「よくこんな写真貰えたわね。機密とかじゃないの?」
安芸と和泉が身を乗り出して写真に釘付けになっている。志摩子や上総も安芸達ほどではないが興味深そうに見ていた。
「えぇ。叔父様が、ね。他の人の意見も聞いてみたいって。お父様は反対してたけど…」
「叔父様って技術廠の巌谷中佐よね?唯依に激甘の…」
「あ、あはは……うん」
志摩子が唯依に訊ねると、唯依は困ったように笑った。唯依の父親の親友である巌谷榮二は未婚で子どもがいない。そのせいか、親友の娘である唯依を溺愛していた。普段は公私の区別を付けるのだが、時たまやらかす。この写真もそうだった。
「それで、この機体の主翼のところ。何かマーキングされてるの…分かる?」
そう言って唯依が1枚の写真を指差す。その写真には青い戦闘機が旋回運動をしている姿が映っており、機体を上から見たように見えた。そして唯依の指先には確かに白い文字のような物が見て取れた。
「拡大したら『VF-19 Excalibur』って書かれていたみたい。……たぶんエクスカリバーっていうのが機体名だと思う」
「エクスカリバーって確かアーサー王伝説に出て来る聖剣の名前よね……」
「え?じゃあEUの新型?」
「ですが機体の形式番号の付け方は米国に似ていますわ」
「えぇ。お父様達も米軍の新型の線で調査を進めてるって。
射撃による制圧で近接兵装を持っていないし、近接戦を軽視している米国が怪しいって。レーダーにも映らないらしいし、ステルスを研究してるのは今のところ米国だけだから」
唯依達が互いに意見を交換し合っている中、美与だけは黙って1枚の写真を見ていた。メインとして映っているのは深緑の戦闘機だが、その奥に小さく映っている青い人型を注視している。追加ブースターの形状がその機体だけ違うのだ。レドームと組み合わせた特異な形状をしており、パッと見の配置だが、他の機体はその機体をカバーするように展開しているように見える。
「…はぁ」
「――で、この機体は作戦を……って、美与?どうかした?」
突然溜息を吐いた美与に気付いた唯依が話を中断して不思議そうに訊ねた。そんな唯依に何でもないわ、と答えて美与は唯依に続きを促す。
「そう?なら、進めるわね。
えっと、この機体が支援してくれたお陰で被害は最小限に抑えられたの。それどころか、侵攻してきたBETAを全滅させちゃったし。彩峰中将が助けようとした避難民も全員無事に逃げ切れたの。彩峰中将は独断で軍を動かした罪が問われたんだけど、不明機のお陰で被害は少なかったから1階級の降格処分と半年間の謹慎で済んだらしいわ。
で、これら諸々合わせて、全体として人類がBETAに対してこれまでで最小の被害で撃退出来たから『光州の奇跡』って呼ばれるようになったの。
……って、あれ?ごめんなさい、山城さんが説明してたのに盗っちゃった…」
一通り説明を終えた唯依がふと、初めにこの話題を出して説明を始めたのが上総だったことを思い出して顔を赤く染めながら謝った。どうやら、他人の説明を盗ったのははしたないと思ったらしい。
「別に構いませんわ。それに、やっぱり篁さんのほうが知っている内容は多かったみたいですし。
早乙女さんも、理解出来ましたか?」
「えぇ、お陰様で。それにしてもそんな事件が起こっていたなんてねぇ」
「今はまだ情報規制が掛けられている状態ですから。もう少ししましたらニュースでも報道されるでしょう」
光州での出来事は一旦ここで置き、昼休みも少なくなってきたために6人は急いで昼食を食べ始めた。
そして夜。日付も変わり、寮に住む者達が寝静まった頃、美与は1人トイレの個室に入っていた。持ち運び可能な小型の通信機のアンテナを伸ばし、イヤホンを耳に着けてマイクを持っている。
「――はい、此方スカル5。報告します。光州作戦での機体画像を篁唯依により拝見させられました。VF-19はマーキングから機体名が知られましたがVF-171はまだ判明していない模様。――はい、はい。彼女達は米国の新型の線が濃いと判断しているようです。――は?宇宙人?未来人?いえ、そのような話は……あぁ、EU軍内の話ですか。惜しい線ですね」
外の気配に気を配りながら、美与は何者かと交信を続ける。その目は訓練生の物ではなく、一流の軍人の目つきだ。
「――はい、あと4か月も無いのですね…。――守ります、必ず。死なせたくない、そう思うようになりましたから。
――はい。ありがとうございます、ゼロ。それと、あまり無茶はなさらないよう。ではまた、次回の定時連絡の時に」
通信を切り、通信機をポケットに回収した美与はトイレの個室から出て暗い廊下を歩いて割り振られた自室へと静かに帰っていった。
第11話閲覧ありがとうございました。
今回は光州作戦について、又聞きといった感じで書いてみました。
次話はBETAの京都侵攻になるかと…。