前回、「次回は京都防衛線!」と予告したのですが、トータル2話の資料が不足していることに気付きました。
そこで急遽予定変更で船団の様子を少し……
1998年3月。地球に潜入させたレアリエン達から現地の生の声を報告してもらい、情報を集めている中ゼロはフロンティア船団最大の規模を誇る居住艦・アイランド1内の北京エリアにある中型会場に来ていた。最大収容人数は2000人をゆうに超え、現在の船団の大半が入る事が出来る。この会場の使用用途は様々で、自動で客席を動かすことが出来、屋内スポーツやショーを観るために建築されている。
そして今日、この会場内には1500人を超えるレアリエン達が集まっていた。工業用や農業用、果ては戦闘用まで幅広く、男性型女性型問わずに観客席に入っていた。多くのレアリエンがラフな私服で来ている中目立つのはやはり舞台のすぐ前に集まった一団であろう。ピンクの法被を羽織り、同じくピンクの鉢巻を巻いている。両手にはなにやら棒を握っており、人によって色は様々だ。
そしてゼロが居るのは舞台脇の映像記録室。そこには大量の画面が壁いっぱいに並べられており、舞台や客席の様子を生中継している。
「5番カメラ、右に15度上に5度修正!
48番!レンズに埃が着いてる!取っておけ!」
「…楽しそうですね。ゼロ」
「あはは…そうですね。でも、ゼロさんも今まで忙しかったでしょうし、今日ぐらいは…」
ヘッドホン一体型のマイクで各カメラを操作している映像係のレアリエンに事細かく指示を出すゼロの後ろでナターリアとモモがゼロに聞こえないよう小声で話している。その表情や声音が困惑気味なのは気のせいではないだろう。2人の抱いていたゼロのイメージを軽く粉砕するぐらいに今目の前に居るゼロは楽しそうにはしゃいでいた。と言っても、はっちゃける訳ではなく、飛ばしている指示は真面目なモノばかりで妥協を許さない辺りはまだゼロらしい。
アイランド1の他に31隻ある環境艦や、各戦闘艦の視察や司令塔を失った月のBETAの動向調査等の事務的な仕事に加えて密偵達の報告を聞いたりバルキリーの操縦訓練を受けたり、生身での戦闘訓練を受けたりと多忙だったゼロにしてみれば今日は久々の休暇みたいなモノだった。
「1分前!準備は!?」
「「「完了です!」」」
音響、照明、舞台スタッフのチーフ達の自信に満ちた返答をヘッドフォン越しに聞き、ゼロは口元に笑みを浮かべた。
そして、
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…!」
小声でハンドサインも合わせてカウントダウン。0になるタイミングで客席を照らしていた照明が落とされ、ステージにライトが集中する。白い光の照らす中に立つグリーンのショートヘアーの少女の姿に注目が集まり、一瞬の静寂が訪れる。
「みんな!
抱きしめて!銀河の!果てまでぇ!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
ステージに立つ少女の一言で客席が一気に弾けた。続いて流れ出すリズミカルな音楽に合わせて少女が躍り出す。
そして前奏が終わり、淡いイエローの衣装を着た少女が歌い出す。色取り取りのライトがステージの少女を照らす中、客席でも様々な色のスティックライトが振られている。
曲が進むにつれて客席のテンションも上昇していき、熱気が上がる。
「「「う~、おいっ! う~、おいっ!」」」
と言いながら腰だめから拳を振り上げて合いの手を入れて盛り上がる者達も居れば、
「「「L・O・V・E・ラ・ン・カ!」」」
ピンクの法被集団の猛者達が曲の邪魔にならないようにステージ上の『星○飛行』という歌を歌う少女――ランカを応援する。
そして曲がサビに入ると会場内はより一層の盛り上がりを見せ始めた。ランカの背後の大型スクリーンが起動し、夜空と流星群を映し出す。ファンシーな容姿で描かれた二頭身ランカのキャラが絵の星に乗って飛び回るという立体映像をフルに活用した演出に客席ではさらに歓声が上がった。
そんなテンションが続き、およそ4分間の曲が終わりを迎えた。そして客席の熱気が収まらないうちにランカは汗を光らせたまま華のような笑顔で一礼し、パタパタと舞台袖に駆けて行く。そして入れ替わりに次の歌い手が舞台中央の床から姿を現す。
現れたのは何処か子どもっぽい少女のランカとは違い、同年代ながらも女性と言える風格とも言える雰囲気を持ったストロベリーブロンドの長髪の美女だった。ランカが妹キャラとするなら、さしずめ彼女は姉キャラと行った所か。
軍服に似た衣装に身を包んだ彼女は自信に満ちた表情でハンドマイクを握った。
「さぁ!続けて行くわよ!
あたしの歌を聞けぇ!!」
そして始まる2曲目。それは1曲目のランカの曲とは違った激しい曲調だった。
――『射手座午後○時D○n't be late』。それが曲のタイトルだ。
客席が再び盛り上がっていく。ランカの時とはまた違った盛り上がり。同じ歌手であっても2人は違うタイプであるということがはっきりと表れている。
そして曲調が変わればバックの演出も当然変わる。今、舞台の上空では4人のレアリエンが曲に合わせて飛んでいた。『跳んでいる』のではなく、『飛んでいる』のだ。EXギアというパワードスーツの一種で、自立飛行が可能な上大型銃器の軽快な運用が可能である点からバルキリーパイロットの緊急脱出装置として採用され始めた軍事品である。そんなものがコンサートで使われることは本来ありえないのだが、今回のコンサートは船団を挙げて開催しているため設備をフルに活用していた。
そしてランカと2人目の歌手であるシェリルの2人が交互に歌っていくのをゼロはモニター越しに見ていた。今回のコンサートの主催者は彼である。そのゼロは現在コンサートの映像を録画しているカメラの映像を同時に見ながらそれらをどの様に編集するかを真剣に考えていた。
レアリエンとはいえ感情がある。そして感情があるということは不満が溜まれば不具合が生じるのだ。反乱というのはリミッターが掛けられているため不可能だが、土壇場でミスをされては適わない。そこで考えたのが今回の慰問コンサートだった。当然の如く、ランカとシェリルはレアリエンである。戦闘用でも農業用でもなく歌唱用。『歌を歌う』というのは通常の発声とは異なる方法が必要だったため設計に時間がかかったものの、今はこうして問題無く歌えている。
今まででは船団内での娯楽と言えばレジャー施設の使用しかなかったのだが、ランカ達を皮切りに文化によって生み出された娯楽を普及させていきたいのがゼロの心内である。
「そういえば、兄様はFire Bomberというバンドのファンだったのですよね?
彼らは造らないのですか?」
身体を左右に揺らして曲に合わせてリズムをとっていたナターリアがふと思い出したようにゼロに訊ねた。
このフロンティア船団の研究施設の1つにはランカやシェリルを始めとして『マクロス』の世界で歴史に名を連ねるほどに有名な人物のデータが保存されている。それも聖人悪人問わずだ。そのデータを基にレアリエンの肉体を造り出し、性格のデータを打ち込む。当然、性格はデータ入力のため改竄が可能である。
「まぁな。確かに俺はあのバンドが好きだが熱気バサラがな……。
気を抜いたら勝手に飛び出してハイヴとかで歌い出しそうで怖いんだよ」
戦場でも歌うバサラならやりかねない。寧ろ、やる。
死んだなら造り直せばいいのだが、どうもそういった行いは好かない。死んでしまったならそれでお終い。造り直すというのはやろうとは思わなかった。
「でしたら、その辺りの部分を矯正すれば……」
「そんなことしたらもうそれは熱気バサラじゃねぇ。
性格の改竄は美与だけで充分だ」
「…そうですか。でも、確かに美与さんは市民から戦闘員に変えたお陰で軍部に馴染むのに時間がかかりましたしね」
いまのところ、レアリエンの中でデータから起こして性格を変えたのはスカル5として帝国の衛士養成学校に潜入している早乙女美与だけだ。
その美与も、性格を変えた際の肉体との不具合で調子が悪かった。現在はその頃の不調は収まったが、性格を変えたレアリエンを生み出す度に何度も再調整するのは骨が折れる。
「……ですが、せめてボビーさんだけは変えて欲しかったです」
マクロス・クォーターの操舵手として生まれた肌黒の身体は男、心は乙女な人物を思い出し、ナターリアは溜息を吐いた。
メイクアップアーティストとしても優秀な、今現在もランカ達のメイクを担当している彼(?)はよく嫌がるナターリアに強引に化粧を施す。可愛くなるのはいいのだが、可愛すぎる気がするのだ。いい人ではあるのだが、そんなこんなでちょっと苦手なナターリアだった。
以上、閲覧ありがとうございました。
今回はコンサート会です。
京都防衛線については4月になればブルーレイ1巻の置いてある下宿に帰れるので、それ以降になります。
ごめんなさい…。