Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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どうも皆様、1年と五ヶ月半月振りでございます。殆どの読者の方には忘れられる、諦められていたでしょうが、感想欄で更新を期待されましたのでちょっとずつ書いていた物を時間も空いたので急遽完成させました。
 一年程放置、その後約半年かけて書いていったものなので文体等で違和感が見受けられるでしょうが、御容赦願います。


第21話 夜天に鶴が舞う

 

『第2小隊は突撃級の殲滅』

 

 

「第2小隊、了解!」

 

 

 唯依が小隊長を務める第2小隊に中隊長からの指示が下る。指揮下に入っている志摩子や和泉、安芸を代表して唯依が返答する。

 

 

『俺の率いる第1小隊は第3小隊を支援!第3小隊は要撃級を各個撃破しつつ光線級の撃滅を最優先とする』

 

 

『第3小隊、了解』

 

 

 第3小隊は上総と美与の小隊。唯依と同じく小隊長の上総が返答し、中隊全機が待機状態から機体を立ち上げる。地形の起伏を利用して潜んでいた場所から立ち上がると、目視出来る距離に土煙が上がっている。

 

 

「…来た。あれが、BETA!」

 

 

 忌むべき異星起源種。その生理的悪寒を掻きむしる異形が群を為して押し寄せてきている。先鋒は速力の最も優れた突撃級。

 

 

『迎撃シフト、アローヘッドワン!』

 

 

 中隊長により選択されたのは突破力を重視した陣形。第1小隊を先頭に第2、第3小隊が槍のように鋭く食い込む事の出来るように組まれた陣形を即座に組み上げる。

 

 

『全機、兵器使用自由!行くぞ!!』

 

 

 突撃砲と長刀、短刀。更には追加装甲の指向性爆薬。その全ての使用が許可され、中隊が一斉に進軍を開始する。跳躍ユニットの推進剤を温存するために主脚歩行による全力走行。訓練校での成果を発揮し、陣形を乱す事なくBETAの群に突撃する。

 

 

『う、うわああッ!!』

 

 

 BETAとの距離が縮まるに連れて恐怖心に駆られた志摩子が叫びを上げながら突撃砲を乱射する。その弾丸の全ては接近する突撃級に命中するが、そのどれもが装甲殻に弾かれてダメージを与える事が出来ない。

 

 

「訓練を思い出して志摩子!突撃級は!!」

 

 

 装甲殻が無く柔らかい背中を狙う。それが訓練校で教官に教わった突撃級との戦い方。

 突撃級の中でも先頭を走る個体との接触直前で跳躍ユニットを吹かして飛び越えるように地面を蹴る。突撃級に触れることなく上を取った唯依は即座に機体の姿勢を変えて真下を通り抜けようとする突撃級のその無防備な背中に36mm徹甲弾を一斉射。その結果を見ずに姿勢を戻して機体を着地させる。背後ではドウッという突撃級が倒れる音が響く。

 唯依の周囲でも同様の方法で先頭部隊を撃破した瑞鶴達が次々と着地していく。

 

 

『…やった!』

 

 

 そして唯依に注意された志摩子も上空から背中の兵装担架に積んだ状態の突撃砲による射撃で3体もの突撃級を屠っていた。しかし、

 

 

『レーザー注意!!』

 

 

 唯依の機体内に警報が鳴り響き、中隊長の警告が飛ぶ。ハッと上を見上げた唯依の視線の先では志摩子の駆る白の瑞鶴が未だに上昇を続けていた。

 

 

「駄目、志摩子!高すぎるッ!!」

 

 

 警報が鳴ったという事は光線級がその魔眼を此方に向けているという事。そんな状況下で迂闊に高度を上げれば…。

 志摩子にそう警告を発しようとする唯依の視界に突如として黒い影が割り込む。その影は跳躍ユニットの白い軌跡を引きながら志摩子の瑞鶴に猛烈な速度で迫る。

 

 

『えっ…』

 

 

 唯依の声に反応した志摩子。その眼前には黒い瑞鶴が命一杯に映っていて右腕を伸ばしていた。

 

 

『下がりなさい!』

 

 

『キャッ!?』

 

 

 そこからの一瞬の内に起きた事は見ていた唯依には信じ難い出来事だった。

 黒い瑞鶴が志摩子の瑞鶴の足を掴み、思いっきり下に向かって引き摺り下ろした。志摩子の悲鳴と中隊にたった1機の黒の瑞鶴を駆る美与の怒声が響く。志摩子を引き摺り下ろした反動で志摩子機と位置を入れ換えるように上空に姿を晒した美与機は上体を反らし、跳躍ユニットの向きを真上に向けて一瞬の停滞も許さずに落下する。しかし、既に光線級の魔眼は志摩子機を捉えていたようで、灼熱の光線が駆け抜ける。そして唯依には必殺の一閃が美与機を貫いたように見えた。

 

 

「美与さん!志摩子ッ!」

 

 

 思わず悲鳴にも似た声を上げてしまう唯依だが、美与と志摩子の2機は無事に着地を決めていた。志摩子の機体に外傷はなく、美与の機体に関しても左手に保持した盾の上半分と左肩の装甲の大半を失うという程度の損傷に抑えていた。

 

 

『早乙女少尉!無事かっ!?』

 

 

 中隊長が美与の安否を確認しようと通信を繋げると、美与機は半分以上が融解した肩部追加装甲をパージしながら機体を立たせる。

 

 

『こちら早乙女。問題ありません、戦闘続行可能です』

 

 

 指向性爆薬の装填された盾は防具としては役に立たなくなったが、まだ武器としては使用可能であるためか保持したままの瑞鶴からの通信に中隊一同の表情に安堵の色が浮かぶ。見敵からわずか数十秒で危うく1人欠ける所だったのだ。対BETA戦の理不尽さが全員の意識に染み渡る。

 

 

『甲斐少尉、早乙女少尉に感謝しておけよ。

 全機、仕切り直しだ!』

 

 

 今唯依達が居るのはBETA先鋒、突撃級とその後ろに続く小型と中型種の間なのだ。既に戦車級の紅い波が近くまで迫っていた。さらに背後には先ほど飛び越えた突撃級が唯依達に目もくれずに京都を目指している。唯依達第2小隊に与えられた任務はその突撃級の殲滅だ。即座に反転し、その無防備な背中に劣化ウラン弾を撃ち込んでいく。

 対人探知能力の低い突撃級は背中から撃たれて同族が次々と屠られているというのにも関わらず依然として前進を止めない。そんな突撃級の殲滅は難なく完了した。突撃級を追って中隊本隊との距離が開き過ぎていた唯依達は動いている突撃級の姿を確認した後、合流を図るべく跳躍ユニットを吹かした。

 

 

『こんのぉぉぉお!』

 

『はぁぁぁっ!』

 

 

 第1小隊と第3小隊が叫びながら突撃砲を撃ち、近接長刀を振り下ろしている。既に戦闘開始から5分。訓練学校で習った死の8分の半分を超えている。だというのに、新兵ばかりの中隊で1人も脱落者が居ない。死の8分など、結局は新兵の気を引き締める為の教官たちの脅しだったのかと通信の向こう側で安芸達の話が聞えるが、そうではないのだと小隊の中で先頭を行く唯依には見えていた。

 

 

「……凄い」

 

 

 黒い瑞鶴が全身からドス黒い液体を滴らせながら戦場を所狭しと飛び回っていた。指向性爆薬は早々に使い切ったのか、すでに盾を装備していない瑞鶴は右手に突撃砲を、左手に近接長刀を握ってBETAの群を引っ掻き回してヘイトを集めている。左肩の装甲がなく、重心のずれた機体の特性を上手く活かして唯依には予測不可能な機動を繰り広げる瑞鶴。安芸達もその姿に気付いたようで、その凄惨な戦いぶりに息を飲んでいた。

 

 

――旋回機動の途中で放たれた弾丸は適格に要撃級の腕や脚の関節を穿つ。

――振るわれた長刀の一閃は群がっていた戦車級を纏めて斬り裂いていく。

 

 

 到底、唯依達に真似出来るイメージの湧かない戦闘機動。第3世代機である不知火や開発途中の最新鋭である武御雷ですら可能かどうか怪しい。いくら訓練兵時代に斯衛に推薦される程であったとは言え、本当に唯依達と同期なのか。美与の鬼神の如き戦闘を見てそのように思ったのは唯依だけではなく、至近で見ていた中隊長もだった。他の第3小隊を置き去りに突出した美与のサポートに回っていた彼女は美与の戦闘能力に驚くとともにその視野の広さにも舌を巻いていた。最前線に1人立ち、ベテランである彼女ですら満足に援護出来ない程激しく動きながらも時折、部隊員の死角から迫っているBETAに向けて数発ずつ36mmを発砲している。仕留め切れてはいないが、それでも誰かがそれに気付いて止めを指している。11人の新兵全員が死の8分を乗り越えようとしている。その原因は間違いなく美与にあった。機体は全くの同じ筈、しかし何かが決定的なまでに違っている美与の機体。その何かが分からないが、いつか彼女の立つ頂に辿り着きたいと唯依は強く想った。

 

 

 

 

 

 

 

『くっ!マニュピレーターが…!』

 

 

 何度目か分からない剣撃を低空で掬い上げるように繰り出して要撃級の左足全てを切り飛ばした美与が悪態を吐きながら短距離跳躍で後退してくる。長刀はその場に取りこぼされ、隊長機の傍に下がって来た美与の機体を見れば左手の指が在らぬ方を向いていた。もともと両手で振るう事で十全の力を発揮する長刀を片手で何度も振り回したのだ。繊細な作りをした指に限界が来て当たり前、むしろ良くここまでもったものだ。

 

 

「よくやった早乙女!休ませてやりたいところだが次は私が前に出る、援護しろ!」

 

 

『…了解』

 

 

 呼吸を整えながら返答する美与に兵装担架の突撃砲を差し出す。数瞬躊躇いを見せた美与だったが、既に残りの武装が突撃砲と長刀が1つずつに短刀が2本で、尚且つ左手で武器を保持できない美与の手数を増やすには左の担架に誰かの突撃砲を装備するしかない。本来なら新兵に自分の武器を預けて自身の手数を減らすような真似はしないのだが、先ほどのような機動を見せた美与にならと中隊長は考えていた。

 

 美与に代わって前に出て思いきり暴れる中隊長。美与程強烈な機動ではないが、基本に忠実にサンプル映像のような理想的として訓練校で唯依達が教わった機動でBETAを屠って行く中隊長と右手と左担架の突撃砲で適格に援護していく美与。その2人だけ明らかに唯依達とは次元が違っていた。

 

 

『やった!やったよ唯依!』

 

 

 要撃級の腕を長刀で受け止めるのではなくいなし、反撃の一閃で撃破する。長刀を巧みに操り、機体に負荷を掛けないようにしてまた一体の要撃級を仕留めた唯依の背後を守っていた安芸が興奮した様子で声を上げる。切り方が浅かったのか、まだ動いている崩れ落ちた要撃級に何度も留めを突き刺す安芸。

 

 

『死の8分を乗り切った!私達これでついに……っ!?』

 

 

 戦闘開始から8分が過ぎ、中隊全員が死の8分を乗り切った。その事に気付き歓声を上げた安芸だったが、その瞬間に彼女の瑞鶴の脚部に突撃級がぶつかった。横っ腹に大量の風穴を空けた突撃級の死骸。安芸はおろか、唯依や近くに居た志摩子、和泉すら気づいていなかったその存在。既に死んでいるが、誰かが撃破してくれなかったなら今頃安芸は恐怖すら感じる事なく絶命していただろう。その事に気付いた安芸の顔が真っ青に染まる。

 

 

『石見さん、落ち着いて。平静を失えば今度こそ危ないですわよ』

 

 

 突撃級の弾痕から射撃された方位を算出して唯依達が視線を向けると、硝煙が立ち上る支援突撃砲を構えた上総の白い瑞鶴の姿があった。小高い丘に登って射線を確保した美与以外の第3小隊は全員存分に射撃と索敵に注意を割けていた。美与と中隊長が脅威度の高いBETAの集団を優先して潰して回っているため唯依達第2小隊と第1小隊だけでも充分対処可能な程度のBETAしか接近出来ず、ポジションを取った第3小隊に至っては殆ど散発的にしか接近されていない。そのため戦場全体を見渡す余裕が出来ており、上総は油断している安芸に突進している突撃級に気付く事が出来たのだった。

 

 

『ご、ごめん…ありがとう』

 

 

『どういたしまして。それより、引き続き護衛をお願いいたしますわ』

 

 

 唯依達の任務は上総達が安心して遠方の光線級や要撃級を排除するために集中出来るようにする事だ。寸でのところで命を救われた安芸も持ち直したようで長刀を構えて近くのBETAに斬りかかっている。その姿に先ほどのような興奮も油断も無い事を見てとった唯依もまた上総達を支援するべく戦闘行動を再開した。

 数十分後、皆懸命にBETAを倒して行っているが、その数は減るどころか益々増えてきている。倒しても倒しても一向に終わりの見えない戦闘に肉体的にも精神的にも疲労が溜まって来ている。もとより新兵であり、若干15,6歳でしかない唯依達の精神への負担は大きかった。集中の隙間を縫って数体のBETAが弾幕を抜けて損傷を受ける機体が出始めてきている。

 

 

『36mmラストマグ!』

 

『120mm残弾無し!』

 

『クッ、突撃砲オーバーヒート!』

 

 

 その上周囲から弾薬が底を尽き始めた報告が上がり、美与に至っては安全装置の発動を解除して強引に使用していた銃身が歪になった突撃砲を投げ捨てている。

 

 

「限界か…」

 

 

 部隊は小破した機体が数機居る程度で損耗は少ないが、衛士の疲労と残りの武装の量からしてこれ以上の戦闘継続は無理と判断し、中隊長は撤退の許可を取るために嵐山のCPに通信を繋ごうとした。

 

 

『左舷より敵増援有り!』

 

 

 狙撃仕様であるが故にカメラ精度が高い支援突撃砲のスコープを覗いていた上総からの悲鳴に近い報告に指が止まる。

 

 

「なんだと!?どうなっている!後続の報告は受けていないぞ!」

 

 

 即座に通信回線を開き、嵐山基地のCPへと繋ぐ。

 

 

「CP!応答せよ!どうなっている!正規部隊はどうした!CP!」

 

 

 中隊長は懸命に声を張り上げるが、返ってくるのはノイズのみ。重金属雲を展開していないため、通信環境はクリアな筈にも関わらずだ。それが意味する事は至極単純だ。

 

 

「壊滅したのか…基地も、正規部隊も…」

 

 

 基地は別ルートで侵攻したBETAに襲撃されたのだろう。正規部隊も、最精鋭とは言わずとも不知火を配備した精鋭部隊だったのだが、物量に圧殺されたのかも知れない。

 

 

「…基地が陥落した今、この場を死守する意味は無しか。

 

後退する!全機跳躍準備!」

 

 

 敵の増援に対処するには全機の残弾数から見ても心許無く、更には士気自体がこの増援で急落してしまっている。例え踏ん張らせても大した時間も稼げないと戦闘終了後の言い訳を考えた中隊長の指示の下、中隊全機一斉にBETAに背を向けて跳躍する。

 戦闘を行っていた地域を脱し、稲田の集中する農村部へ突入。光線級を警戒して高度を下げて連続跳躍で後退していく中、機体管制ユニット内にレッドアラートが木霊した。

 

 

『レーザー警報!?』

 

「案ずるな!この高度なら陵丘が楯になって照射は出来ん!」

 

 

 撤退時において最も恐ろしいのは光線級だ。他のBETAは速度の関係から全くの脅威では無い。光線級による戦術機の攻撃範囲外からの正確無比な狙撃により、背中から撃ち抜かれて撃墜される者は多い。ひよっこに全力後退しながら背後からの狙撃を回避しろなどと言う命令は無茶に等しい。中隊長自身も出来るか怪しいのだ。だからこそ陵丘という天然の壁を用いて光線級の射線を塞いだのだ。

 しかし、

 

 

『っ!まずッ』

 

 

 最後列を跳んでいた美与が切羽詰った声を上げ、瑞鶴を急上昇させた。

 

 

「早乙女!?」

 

 

 その美与の行動に驚いた中隊長だが、その次の光景に絶句した。

 

 

『美与さん!』『美与!?』

 

 

 美与と親しい唯依達の悲鳴のような声。中隊全員が、自分達の頭上で何本もの光の矢に撃ち貫かれた黒い鶴を見た。

 

 

 

 




更新が完全に停止してしまって申し訳ありませんでした。
この作品では読者の皆様の感想や、執筆時の気分で当初の構想から大きく変えた部分が多々あり、また長期の更新停滞によってこの後の展開の構想が頭から飛んでしまいました。ですので、誠に勝手ながら現在の京都防衛戦終了を持って打ち切りとさせて戴きたいと思います。
この場で明記した以上書き切る所存ですので、あと数話ですがよろしくお願いします。
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