Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

6 / 22
ふぅ、小説執筆って難しいですね…。


第5話 数字の少女

ドゥヴェースチ・ビャーチェノア。

 

200と5。すなわち、第5世代の200番目。

生まれた順番がそのまま呼称となった少女はボパールハイヴの下層を目指すフサードニク中隊の中に居た。マインドシーカーの前部座席に座り、ただ命じられたままにBETAに対し『リーディング』と『プロジェクション』を繰り返す。

ソ連製の衛士強化装備に起伏の少ない小さな身体を包まれ、ただ祖国への忠誠と任務遂行の手段のみを教えられた少女はふと、首を回して背後を見やる。誰かの、何かの視線を感じて仕方が無かった。『リーディング』で探そうとしても、ドゥヴェースチの能力の範囲外に居るらしく見つけることが出来ない。

 

 

 

「何見てやがる化けモンが…。こっち見んじゃねぇ!」

 

 

 

「……すいません。」

 

 

 

マインドシーカーを操縦していた衛士がドゥヴェースチの様子に気付き、ドゥヴェースチの座るシートの背もたれを蹴りつける。成長するに当たって感情というモノを得る機会を与えられなかったドゥヴェースチは淡々とした声で謝罪しながら前を向きなおす。

 

 

 

「ケッ…。命令じゃなかったらこんな気味わりぃ化けモン即行処分してやんのによぉ……。いやぁ、まずは『お楽しみ』が先か?フヒヒ…!」

 

 

 

『お楽しみ』とは何か、何故後ろの衛士は笑っているのか。何も分からないまま、ドゥヴェースチは無表情のまま前を向き自分の任務を果たすべくBETAとの接触を待つ。

 

ちょうど、その時だった。地面が振動し始め、マインドシーカーの強化されたレーダーがBETAの反応を捉えた。管制ユニット内に警報が鳴り響く。特殊部隊隊員だけあって、その瞬間即座に10機となった中隊は慌てることなく密集陣形をとる。

 

 

 

「し、震動探知……。た、隊長!デカいですよ!」

 

 

 

ドゥヴェースチの後ろの衛士が上ずった声でフサードニク1に言う。振動計の針は既に振り切れ、感知した振動がとてつもなく大きいことを知らせる。この場合の可能性は2つ。1つ目は接近するBETAの数がとてつもなく多い事。もう1つはBETAがすぐ近くまで来ているという事。

しかしレーダーにはBETAの分布が表示されていない。つまりはBETAはまだ近くに居ない。2つの可能性のうち、今回は前者だ。そう、フサードニク中隊の全員が思った。

 

だが、ここはハイヴ。人類の常識が一切通用しないBETAの巣だ。

 

警報が五月蝿く鳴り響く中天井が弾け飛び、大量の土砂が降りかかる。

 

 

 

「くっ…!隠し縦坑か…!全機、離れろ!」

 

 

 

フサードニク1が咄嗟に叫ぶ。それを聞いてすぐに飛び退く者が大半を占める。が、いくら特殊部隊に選抜されるほどの人材とはいえ所詮は人間。突発的な出来事に弱い者も居る。ドゥヴェースチの後ろの衛士もそんな人間だった。降り積もる土砂の中、ただ狼狽えるのみ。そしてその土砂と共に落ちて来たBETAの1体がマインドシーカーの背後に着地した。

サソリのような外見をしているが甲殻ではなく肉のようなモノに覆われた巨体。両腕の鋏に当たる部分にはダイアモンドよりも固いナニかを纏い、尾節には歯を食い縛ったかのような醜悪な面が浮かんでいる。要撃級と呼ばれる種だ。

 

 

 

「…ヒッ!」

 

 

 

それが衛士の断末魔だった。着地の勢いのまま要撃級の腕が振るわれ、マインドシーカーの背中を抉り取る。衛士の身体は後部座席ごと持って行かれ、管制ユニット内にハイヴの空気が流れ込む。舞う粉塵と機械の破片がドゥヴェースチに降り掛かる。マインドシーカーは倒れ、その衝撃でドゥヴェースチは管制ユニットの前部に顔から叩きつけられた。ぶつかった場所が悪かったのか、打ち付けたというよりも何かが刺さったような鋭い痛みを一瞬だけ感じたドゥヴェースチは意識を手放した。薄れ行く意識の中最後に見えたのは、一目散に奥へ逃げていく9機のマインドシーカーの後ろ姿だった。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 

 

 

 

頭上からの偽装縦坑による奇襲を1機脱落という形で脱したフサードニク中隊がハイヴの奥に消えるとゼロ達は即座に行動を開始した。ファストパックに装填してあったミサイルを12機が一斉にばら撒き、脱落したマインドシーカーに群がるBETAを吹き飛ばす。足場を確保したゼロとカナンのエクスカリバーがマインドシーカーの傍にガウォーク形態で着陸し、キャノピーを開く。

他の10機がマインドシーカーを中心に円を描くように展開し、BETAの接近を食い止めている。そんな中にゼロとカナンは身を翻して機体から飛び降り、大破したマインドシーカーに駆け寄る。

 

 

 

「ゼロ!危険だ!お前は戻れ!」

 

 

 

ハイヴ内にほぼ生身で降りたゼロの身を案じてカナンが声を張り上げる。BETAに対して生身の人間は無力だ。強化外骨格なりEXギアなりの補助機械無しでは3年後に発見される全BETA中最小かつ最弱の兵士級にすら勝てない。

 

 

 

「悪いな。だが、これは1人ではキツイだろう。」

 

 

 

ハンドガンを腰のホルスターから抜いたゼロはミサイルによる攻撃の残り火を避けてマインドシーカーに辿り着き、スイスイと突起に手をかけて登って行く。既にここまで出て来てしまっては下手に1人で帰すほうが危険は高い。普段は慎重に慎重を重ねる指揮官の無茶な行動に溜息を1つだけ吐き、カナンも急いで追いかけた。

背中の大きな穴に辿り着くと管制ユニットの内部が見えた。後部座席は丸ごとごっそり削り取られていたが、幸いにも前部は無事だった。カナンが適当な突起に腰に固定していたワイヤーを外れないように縛り、内部に潜り込む。そこでは1人の銀髪の少女がぐったりとして倒れていた。出血しているらしく、頭の付近に紅い水溜りが出来上がっている。狭い空間の中でゆっくりと刺激しないように少女の身体を起こし、傷口を診る。

 

 

 

「…これは、酷いな。ゼロ救急セットを貸してくれ。」

 

 

 

強化装備に守られていた部分には目立った外傷はないが、剥き出しだった顔の傷が酷かった。飛び散った破片による切り傷が多数。これはまだ治療すれば傷跡も残らないだろう。しかし、『左目』は完全に潰れていた。装甲の裂け目のささくれが刺さったらしく、傍に紅く染まったささくれがあった。

 

 

 

「カナン!どうだ?」

 

 

 

自分用の、人間用の救急セットをワイヤーで結んで下しながらゼロが訊ねる。

 

 

 

「医療は専門じゃないから詳しくは分からん。だが急いでクォーターで処置すれば助かるはずだ。」

 

 

 

救急セットのポーチを開き、医療用ナノマシンの入った注射器を取り出す。このままでは強化装備の保護被膜のせいで注射が出来ないので、レスキューパッチを探し出して押し込む。すると保護被膜が分泌された薬品によって溶かされ、素肌が現れる。加減が効かないためほぼ生まれたままの姿だが、小さな少女に欲情する暇なんぞないし、そもそも対象外だ。

手早く消毒と注射を済ませると強化装備のプロテクターを全て外し、抱き上げて上で待つゼロに渡す。カナンも素早く上に上がると、カナンがもう一度少女を受け取り、ラペリングの要領でマインドシーカーから降りる。ゼロのほうはワイヤーは使わずにひょいひょいと適当な足場に飛び移りながら降りた。

 

 

 

「…カナン!BETAの増援が近づいているらしい!」

 

 

 

ヘルメットに内蔵されたスピーカーから一通りのBETAを撃破し終え、増援を警戒していた百式から通信が入った。

全裸の少女をお姫様抱っこで走るカナン。もし今が平時であったならからかっていただろうが、残念ながらそんな暇はない。それぞれの乗機に飛び乗り、キャノピーを閉めつつ起動シークエンスを開始する。

機体のエンジンが充分に加熱されるまでの僅かな時間を使ってカナンはパイロットスーツを脱ぎ、少女に着させる。と言っても、サイズが違い過ぎるため寝袋のようになってしまっているが。

 

 

 

「ナイト1よりナイト2。1個小隊とともに先に離脱しろ。」

 

 

 

機体を浮かび上がらせ、バトロイド形態へ変形させたゼロがカナンに通信を繋げる。

 

 

 

「いや、俺一人でいい。4機も抜ければお前の護衛がままならなくなる。」

 

 

 

「ここで命を張る気は毛頭ない。危険と判断したら即座に撤退する。

 

 それと、お前の連れている子が今回の目的なのだ。国連が追撃をかけて来る可能性もある。

 

 さらに言うと、ガンポッドの残弾が12機で使うには乏しい。なら弾薬を集約した少数で作戦を継続した方が戦闘時間が延びる。」

 

 

 

「…ッ、分かった。ガンポッド、ラスト2マグだ。受け取れ。」

 

 

 

あまり時間をかけていては膝の上の少女の容態が急変しないとも限らない。医療用ナノマシンのお蔭で出血は落ち着いているが、だいぶ血を流している。急いでちゃんとした設備で処置しなければならない。

1個小隊で抜けることに納得は出来ないものの、今回は身を引いてガンポッドの残りのマガジンをゼロに差し出す。そのカナンに従いナイト10から12までの3機が他の機体にマガジンを渡し、ガウォーク形態へと変形する。

 

 

 

「じゃ、また後で。」

 

 

 

「あぁ。」

 

 

 

ゼロはカナンに手を振り、通信を切る。マガジンを交換し、先ほどBETAの空けた天井の穴を見上げる。エクスカリバーのレーダーでは増援はそこから来ているとのことだった。

 

 

 

「ナイト1、フォックス1!」

 

 

 

エクスカリバーの肩に装備された改良型ファストパックから大量の小型ミサイルが射出され、天井の縦坑に吸い込まれていく。目視は出来ないが、そのミサイル達は縦坑内と落下するかの如く勢いで疾走するBETA群先頭集団に着弾し、吹き飛ばす。狭い縦坑内では爆炎の動きは制限され、通常空間とは比べ物にならない勢いで縦坑内を焼き尽くす。と言っても爆炎による攻撃が有効打と成り得たのは戦車級以下の小型種のみで、突撃級と要撃級に対しては僅かに侵攻を遅らせることも出来なかった。

そして、その間にカナン達1個小隊は離脱しており、縦坑の出口の先ではBETAを打ち払うべくミサイルポッドを開いた8機のエクスカリバーが待ち構えていた。

 

 

「…つまらないものですが、どうぞッ!フォックス1!」

 

 

 

ゼロが叫ぶとともに8機のエクスカリバーから小型ミサイルが発射される。1機の最大同時発射可能数は12発。それが8機分。過剰とも言えるほどの火力が一瞬にして縦坑から飛び出したBETAを薙ぎ払った。

 

 

 




以上第5話でした。閲覧ありがとうございます。

世の中、なかなか、思い通りにはいかないものですな。
妄想を文章に起こすのがきつくなってきました。まぁ、まだ諦めませんけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。