【凍結】ひとりぼっちのせんそう   作:帝都造営

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沖縄での一件が政府より報じられる。私の勘は正しかったようで、これは有史以来の大事ではないだろうか? 一日で百万近い(越える?)犠牲が出たなんて、信じられるはずがない。
ともかく、準備のおかげでお得意さんに素早く安否情報を流せたのは幸運だった。これで私の株も上がってくれるといいのだが……無理か、今回の件に関しては、私の情報はダメ押しでしかなかった。



02_中央《ジジョウ》

 ――――西暦2022年3月2日。沖縄沖――――

 

 

 

 時代区分。それは様々な基準で誰かが決めるものである。とある国の政権が倒れた日で、もしくは大国同士のパワーバランスが傾いた日、あるいは戦争が終わった日で区切ったりするかもしれない。

 だが恐らく、もっとも多くの人間が疑いなく受け入れてくれる時代の区切れ目は、やはりその時代を象徴する技術、テクノロジーであるはずだ。蒸気機関や内燃機関、原子力といった新しいエネルギー。そういうもので人々の生活は大きな影響を受けてきた。

 

 では、現代を象徴するテクノロジーとはなんだろうか?

 

 それは間違いなくインターネットであろう。インターネットとはそこに物質として存在するものではない。電子回路の組み合わせによって作られた計算機であるコンピューター、それを幾重にも接続し、拡張することで組み立てられた広大な通信網のことである。

 その網は架線ゲーブルを、海底ケーブルを、もしくは衛星通信を用い……まさに網のように広げられている。世界中を覆っている。

 

 

 とはいえ、そんな今では日常と化したインターネットも、元はといえば軍事目的の情報共有システムであった。インターネットが民間向けに解禁された今でも、その性格は変わらない。

 

 

 

 だから、『彼女』は念じた。

 

 

 『彼女』には確信があった。海軍にも情報共有システムが存在する。各艦艇の所在地や、またレーダーに映し出された未確認もしくは敵性の飛行物体。それらを瞬時に共有し、そして海という余りに広すぎる戦場を一人の指揮官が把握できるようなシステムが存在する。

 

 そのシステムに、無論駆逐艦「雷」も参加していた。だから()()()()()()()()()()()()()()()。海の上に立ち、そして()()()()()()()()()という確信がある以上、出来ない訳がない。そう考えたから念じたのだ。

 

 

 果たして予想通りになった。日本国が保有する幾多の衛星、そのうち最も近い衛星との通信が開始され、『彼女』は瞬時に詳細な現在地、友軍艦艇の配置……。

 

 

 

 そしてなにより、自身が所属していた「第二機動艦隊」の居場所を把握することが出来た。

 

 

 

 『彼女』はどう考えても特異な存在である。

 

 そして『彼女』もそれを認識しつつあったし、それを認識するにつれ、ますます自身だけが出来ること、また自身には出来ないことを自覚していった。

 

 

 海に立ち、そして駆逐艦「雷」としての機能も持つ。なにより()()を、駆逐艦「雷」を沈めた奴らが()()()()()()()()()()()()()()()()……これほど特異な存在なのだ。出来ることは多々あるに違いない。

 

 しかし一方、『彼女』は駆逐艦でしかない。つまりどういうことかというと、補給を受けなくてはならないのだ。

 艦を動かすために必要な燃料弾薬、あと水・食料も必要だ。

 

 それが意味することは、支援が必要であるということ。祖国の支援が必要なのだ。

 

 

 とはいえ、『彼女』の見た目はどこからどう見ても小さい女の子。果たして『彼女』の台詞に耳を傾ける阿呆がどれほどいるだろうか?

 

 そう考えたとき、()()()()が出した結論は自身の所属部隊、第二機動艦隊であった。

 

 話を聞いてもらえる可能性は低い。だが身内なら、自身の喪失を嘆いているであろう仲間なら、少しは耳を傾けてくれるかもしれない。

 

 

 その可能性に、賭けよう。

 

 

 そう決めた『彼女』は、南国の海を離れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――西暦2022年3月2日。高知沖――――

 

 

 

 呉を母港にし、主として沖縄諸島からマリアナ諸島までの制海任務を担当している日本国自衛海軍の第二機動艦隊。沖縄での戦闘――――政府はこれを、琉球諸島事変と呼称することにしたらしい――――から早くも17時間。大量に救出した避難民を志布志湾で降ろした各艦艇は、見かけ上は平穏な航海を続けている。

 

 とはいえ母港の呉に帰るわけにはいかない。なんせこの艦隊はなんの反撃も行えずに「雷」の喪失を許してしまったのだ。いかにその後精力的に働こうと、その事実は覆らない。

 

 今の時代、駆逐艦は立派な主力艦である。今の時代の駆逐艦はすごい、最高だ。そんな駆逐艦を損失、それも一方的に損失したというのだから、これは大問題である。

 

 

 このまま呉に戻れば、まず間違いなく批判の嵐に晒される。

 だから、ともかくは民間の目に付きづらい場所へ。第二機動艦隊は目下、上層部が指定した辺境の海軍基地へと回航中であった。

 

 

「幽霊?」

 

 そんな二機艦(第二機動艦隊)の旗艦、航空母艦「日向」、その士官食堂。既に避難民のために解放されていた艦内の片付けは係の手によって終わっており、一等客室を思わせる内装は落ち着いた雰囲気を放っていた。

 

「ええ、幽霊です」

 

 そう言うのは二機艦の通信参謀である。この部屋には司令の片桐少将以下司令部要員が勢揃いしており……艦長などと共に談笑しつつの昼食時であった。

 いきなり何変な話をしているのだ……と怪訝な表情を浮かべる「日向」艦長に対し、通信参謀はいやいや、と弁明するように両手を軽く上げる。

 

「幽霊っていってもあくまで比喩表現ですって、まあ聞いて……」

「比喩にしたって不謹慎だ」

 

 話を続けようとする通信参謀を遮る声。それを発したのは航空参謀だった。食事の手を止め、そしてトントンと苛立たしげに机をナイフの持ち柄で叩く。

 

「これだけの犠牲者が出た直後だ。それだから幽霊が出ると? 犠牲者の方々を馬鹿にしてるんじゃないのかね?」

 

「……不謹慎などと言う前に、航空参謀にはまずテーブルマナーを守っていただきたいものですね」

 

 話を遮られたのが不愉快なのだろう。通信参謀はせせら笑いを浮かべながら指摘する。

 言うまでもないが、火に油を注ぐ行為だ。

 

「不謹慎発言の次はいちゃもんか、なにが言いたい」

 

 航空参謀と通信参謀の間に流れる剣呑な空気。やれやれといった様子で参謀長が仲裁に入る。

 

 

「おい津島、気持ちは分かるが一旦落ち着け……河凪も、なんでだって幽霊の(オカルト地味た)話をするんだ。ここは海軍だぞ?」

 

 

 なんだか悪い雰囲気。高級士官でなかったゆえに別の卓にいた尉官達はその空気を飲み込まないように食事を摂り、同じ卓に居合わせてしまった艦長以下の佐官たちは関わりを持たぬように目を逸らす。

 

 軍隊組織を動かすために絶対欠かせない士官。彼らの間に漂うこの雰囲気は、つまり空母「日向」の士気が最低であるということを示していた。

 

 

 と、そこで一つの影が食事の手を静かに止める。彼は手に持っていた食事器具を置き、そして言い放つ。

 

 

「……作戦の失敗は、ひとえに指揮官の責任」

 

 その横からの声に航空参謀と通信参謀は、驚いた様子でその声の方を見る。卓の最上位が座るべき場所に陣取った彼は、それから続ける。

 

 

「艦隊の士気に関してもそうだ。これは指揮官が管理すべき重要事項……即ち、私の責任だ」

 

「片桐司令」

「司令、滅多なことを仰らないでください」

 

 二人の参謀に参謀長、そして沈黙を保っていた補給参謀までも彼を止めようとするが、しかし二機艦司令を務める片桐少将は言葉を止めない。

 

「沖縄の防衛命令が出され、我が艦隊はそれに参加した……」

 

 なぜここまでも空気が険悪なのか。それには理由がある。それは通信参謀が口にした幽霊ではないし、もちろん航空参謀のテーブルマナーでもない。

 

 沖縄陥落。

 

 

 周囲の島もいくつか落とされ、行方不明者は数える気も失せるほど。この事実は、第二機動艦隊司令部に大きすぎる衝撃を与えていた。

 今朝までは避難民への対応に追われるばかりで気にかける時間もなかったが、一通り終わってしまえば仕事もなくなる。司令部要員それぞれが事実を飲み込む頃には……司令部の空気は最悪なものとなっていたのだ。

 

 

「……」

 

 食器の横に沈黙が並んだ卓。この状況の責任が片桐少将にあるとして、だから何だというのだろう。そんな責任を告白したところで何も改善しないし、それどころか上官の評価が下がることで余計に士気は下がる。

 

 だから、片桐少将の告白がこれで終わるはずがなかった。

 

 

「……諸君には、今のうちに話しておこう」

 

「片桐!」

 

 遮ったのは参謀長。片桐は参謀長を一瞥。しかし呼び捨てを責めることはしない。どころか片桐も参謀長を呼び捨てで呼んだ。

 

平垣(ひらがき)……艦長“たち”にはもう話してある」

 

「……そうか」

 

 顔色を変えたのはそれを聞いた艦長だ。

 “艦長たちには話してある”この言葉を理解するのに、大して時間はかからなかっただろう。

 

 

 片桐は立ち上がった。

 

「今回の我が二機艦の派遣、その異常性に気付いている者も多いことだろう」

 

 その場の全員が片桐へと注視したのは当然のことだろう。一言も発せず次の言葉を待つ。

 

「我が自衛海軍は今回の件を事前に察知。保坂連合艦隊司令長官より鎮圧命令が下った」

 

 これがすべてだ。片桐はそう言って座り、参謀長は両手を結んで目を伏せる。極秘であったとはいえ命令は命令。突発的戦闘ではなかったのである。場の反応を見る限りでは“知っていた人間”は片桐司令のほかに参謀長と補給参謀、このぐらいだろうか。

 

「……全て、ね」

 

 吐き捨てるように言ったのは航空参謀だった。すぐに参謀長が応じる。

 

「津島航空参謀、何が言いたい」

 

「発言しても?」

 

 航空参謀は参謀長を無視する形で艦隊司令……片桐少将を睨み付ける。本来の艦隊司令は中将であることからも分かるように、片桐が司令職に就いているのはあくまで一時的な措置に過ぎない。そこに津島航空参謀は典型的な空母主兵派、対する片桐司令は水雷決戦派寄りであることも相まって、両者の関係は決して良いものではなかったのだ。

 派閥を職務態度に影響させないのは無理な話だろう。だがそれでも、こういったところで噴出されると困るものである。

 

 片桐は仕草で許可を出した。

 

「極秘司令であった……なるほど説得力がある。あなたが司令職に就いているのも、義兄弟にあたる保坂長官の手回しという訳だ」

 

 その言葉を聞くと片桐は、その首を僅かに傾げた。

 

「もう少し……かみ砕いて説明してくれないか?」

 

 対する津島は俄かに語気を強める。

 

「えぇもちろんですとも、あなたの奥方は保坂GF(連合艦隊)長官の実の妹であらせられる。そしてあなたの例外的人事を押し通したのも、今回の極秘命令も、いずれも保坂長官によるもの」

 

「つまり?」

 

 続きを促す片桐を、津島は鼻で笑った。

 

「ここまで説明してまだ分かりませんか……保坂長官の意向は“それで全てではない”と言いたいんです――――あなたが貰った極秘命令とやらは、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 今度は片桐が笑う番だった。

 

「いや? 鎮圧命令だけだが?」

 

「それはないでしょう……あり得ない」

 

 

 片桐と津島。二人の間で視線が交錯。微妙な間を置いてから、片桐は小さくため息をついた。

 

「保坂長官だって、そのくらいは弁えているヒトだろう……もう少し意味のある発言を期待したんだがな、君の言っていることは憶測まみれ……」

 

 まるでさっきの幽霊の話じゃないか。そう続けられた言葉に、津島は顔を歪めた。バツが悪そうに立ち上がると、カツカツと扉の方へ向かう。

 

「……食欲がなくなった。従兵(ボーイ)! あとで私の部屋に何か持ってきてくれ」

 

 

 扉がバタムと閉まる。

 

 

「司令……」

 

 参謀長は咎めるような口調。終わった後に命令のことを言うのが片桐の考えであったが、平垣参謀長はこれに反対だった。今しがたの会話はまさに、平垣の予感が命中した形だろう。

 

「いや、これでいい」

 

 片桐は両目を閉じると椅子に座りなおす。そして閉じた目を開く。

 

「うちの司令部要員が恥ずかしい姿を晒して済まないな、艦長」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 と言いつつ艦長の思考はそこになかった。先日緊急で開かれた艦長会議。片桐少将は極秘命令のことを彼の指揮下にある九隻の艦長に明かした。また今後この第二機動艦隊が“この戦争”の尖兵となり、恐らくは最前線に立つことになるだろうとも。

 ……そしてまた、必要あらば尉官以上にはこのことを話しておくように。そう伝えたのだった。

 

 

「この場にいない当直の士官たちには、私から話しておこう」

 

「分かりました。司令」

 

 

 最前線というのがどこなのか。それは分からない。

 

 

「……ところで通信、さっき言いかけた幽霊って何なんだ?」

 

「え、その話まだするんです?」

 

「話題がなければ暗いままだろうが」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

 

 しかしこれだけは確実だ。

 

 どうも、戦争が始まったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――西暦2022年3月2日。東京――――

 

 

 

 都市の光。それは即ち文明の光でもある。世界に数箇所しか存在しない千万人を超えるメガロポリス、東京。内湾の奥という安全保障上の利点はもちろん、干拓が容易という理想的な立地。周囲に大河川を抱え、洪水に悩むことはあれど水不足にはそうそうならない関東平野。徳川氏がここで隆盛を極めたのは偶然か……はたまた必然か。そんなことも考えてしまうほど豊かな土地。

 

 しかしもはや土壌などは関係ない、現代における繁栄とはすなわち都市化。東京がいかなる土壌の上にあろうと人はそこに家を建て、アスファルトで無造作に舗装してしまう。かの新宿が半世紀前チョイまで田んぼの広がるのどかな田園地帯だったといえばどれほどの若者が信じるだろうか。

 まあ何はともかく、それほどに繁栄を謳歌している街、それが東京であった。

 

 

「……あぁ、話はキレイに纏まった。何の心配もいらない」

 

 

 しかし、そんな東京の街並みを眺める男の表情は暗い。室内の照明は落とされ、外の光が彼を照らす。

 手に持っているのは携帯電話……いや、今の時代あんなデカイ携帯電話なんてない。あれは衛星電話だ。ともかく電話先には相手が居るのだろう。呟くように台詞を吐くと、相手の返事を待つ。

 

『そうか、それはよかった』

 

 もちろん状況は何一つ良くなどないのだが。しかしそれでも言いたくなってしまう「よかった」という言葉。

 だから男は返事をせず、沈黙で答えた。

 

『……それにしても、残念だったな』

 

「何がだ?」

 

 男は眉をひそめる。残念、沖縄が化物に占領されたことが残念? いや、違うだろう。そんなことで残念だったなと言うような奴ではないはずだ。

 電話先がため息の気配。

 

『松原のことだ、計画に引き込むつもりだったんだろう?』

 

「あぁ、それか……」

 

 

 松原とは、駆逐艦「雷」の艦長のことである。

 「雷」は沈んだ。化け物どもの餌食になった。

 

 

「……確かに残念だった。確かにな」

 

『どうするんだ?』

 

 どうする、ね。男は考え込むように一度目を閉じる。外のネオンの輝きは瞼程度の薄い部位なら容易く通過し、目を閉じても光が入ってくる。

 男は目を開いた。視界に入り込む景色は当然ながら寸分も変わらない。

 

「代役は、なるべくならば若い人間がいい。かといって若すぎはダメだ……松原の二期上である西園(にしぞの)か、もしくは松原(アイツ)と同期の飯田(いいだ)だな」

 

 そう男が言うと、電話先は数瞬ほど沈黙。それから尋ねるように返事が返ってきた。

 

『……「新水研」以外のメンバーから抽出する手は?』

 

「不可能とは言わない」

 

 対する男は即答であった。

 

「だが身内なら素早く動ける……確かに化け物どもは海から来る。しかし、(おか)にだって敵がいないわけじゃない」

 

 分かりきったことを言わせるな。そう言う男。

 「新水研」とは、彼が中心人物を務める海軍の有志による集まりのことだ。正式な名称は「新時代水雷戦の研究会」。表向きも裏向きもただの新戦術、特にミサイル艇を用いた戦術の研究会だが、男が信頼に値すると見た将校が集まっている場所でもある。

 

『まあいい。君が問題ないと思うようやれ……』

 

 二人の付き合いは長いし、別に仕事だけでの付き合いというわけでもない。男は諦め半分様子の電話相手が、その実全く納得していないことに勿論気付いていた。

 とはいえこればかりは仕方がない。一年以上その片鱗を見せ隠れしつつ進んでいた事態は、沖縄への攻撃という確かな事象によって新たなステージへと移ったのだ。

 これからが肝心なのだ。

 

 内部崩壊だけは避けねばならない。

 

 だがしかし、ここで親友の忠告に耳すら傾けないのもアレである。男は口を開いた。

 

「……飯田のことを懸念しているんだろう? あいつは優秀だ。十分に役立つし、陸軍(りく)とのパイプも強い……表の長は彼でいいと、君も言ってくれたじゃないか」

 

『だからこそだ。()()飯田啓介の息子だぞ?』

 

 計画本体に引き込んでみろ、泣きを見るのは明らかだ。と電話の相手は言う。

 

「……」

 

 中東戦線で名を挙げた飯田啓介(けいすけ)退役陸軍少将。そんな親の七光りを避けるように海軍に入ったその息子こそが今話題に上がっている「雷」艦長(まつばら)の同期で、新水研に属する――――つまり、男が信用している――――若手将校、飯田孝介(こうすけ)であった。

 

『……僕だって彼が優秀なのは把握している。この件は後日話そう』

 

「そう、だな……」

 

 

 そして男はもう一度外に意識を飛ばす。よくよく目を凝らしてみると、窓ガラスには自分の姿も映っていた。何列にも並んだ略綬はこれまでの名誉を示す。帝国海軍から自衛海軍への体制改革期に採用された幹部用常装第一種軍装ならばネクタイもきちっと締められ、金のボタンも鈍く光る。袖の甲種階級章には桜と太い金章。

 

 その本数の多さが示すのは、「統合・海軍幕僚長たる海軍大将」という特殊な階級であった。

 

 

『それにしても……始まったな』

 

 男の沈黙をどのように捉えたのだろう。電話相手はどこか感傷を漂わせるように行った。

 

「あぁ始まった。我々の最後の、そして最大の奉公が」

 

 決意を再確認するように言えば、向こうも頼もしげに笑う。

 

『ふん、これのために僕はGF(連合艦隊)長官を一度は断っているんだからな? しっかりやってくれたまえよ』

 

「言われずとも、だ」

 

 

 

 

 それから二人は二三言葉を交わし、そして通信は終わる。

 

 

「……最後の奉公、か」

 

 男は自身の言葉を笑った。最後にするつもりなど毛頭ない。これは副産物に過ぎないのだ。予想より遥かに状況は悪いが、副産物は副産物。さっさと終わらせ、そして本当の奉公を完遂せねばならない。

 

 

 だから男……大迫(おおさこ)海軍幕僚長は自信気に笑うのである。

 

 

 

 

 

 

 




やけに登場人物が多い……すまぬ。
後に説明いれるので覚えなくても大丈夫です。

ちなみにストックはここまでです。ここからは週一程度を目安とした不定期更新となります。
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