Belkaリターンズ   作:てんぞー

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現代の王達-6

 視界が良く通る屋上の上、目の前には剣が床に刺してある。塗装さえ施されていない、安物のストレージデバイス―――アームドですらない、使い捨てが出来る安物のデバイスだ。それが目の前に突き刺さっており、その前に胡坐をかいている。空は青く澄み渡っており、空気に湿気の気配はない。良い日だと思う。そして楽しい日に成るだろうとも思う。瞑想している訳ではない―――そもそも瞑想が必要な人間ではない。そういうのは所謂悟りを開くタイプの人間がとる行動であり、修羅道に落ちた者はそんな事をしなくても良い。

 

 日常を闘争で彩れば、それでいいのだから実に簡単だ。戦いは呼吸であり、そして日常である。ただそれを理解し、そして実践していればそれだけでいいのだ。それだけで修羅の心は出来上がる。だから息を吐きながら立ち上がり、目の前の床に突き刺さった片刃の片手剣のストレージデバイスを抜き、肩に乗せる様に握って、構える。峰の部分で軽く肩を叩く様にリズムを刻みながら、視覚ではなく感覚、気配を追えば、正面、その先に一点の白が見えてくる。

 

 飛行しながら接近してくるそれは人の形をしており、此方が相手を目視するのと同時に、魔力による回線、念話による通信回線が繋がってくる。

 

『色々言いたい事はあるけど―――君の様なタイプの人は言葉で語るよりも、一回敗北を認めさせた方が遥かに早いよね』

 

 此方側の人間の心理をよく理解している彼女の―――高町なのはの言葉に笑い声を零しながら同意する。そう、暴力のない言葉になんて意味はない。特に関係が敵である以上、言葉には暴力が必要とされるのだ。それを高町なのはは良く理解していた。それは経験から来る言葉なのかもしれない。幼少期、友人であるフェイト・T・ハラオウンを止める為に何度もぶつかった事。或いは闇の書事件で体当たりでぶつかって行きヴォルケンリッターに言葉と信念を通した事。調べれば彼女の経歴、或いは遭遇した事件は()()()()()()()()()()()()。俺もチキュウのウミナリでもっと早く生まれたかった。

 

 そうすればもっと面白い戦いが出来たかもしれないのに。

 

 それだけは、高町なのはに嫉妬している事だった。

 

 ―――だけど、それだけだった。

 

「良くご存じでらっしゃる―――ま、俺は暴れたいだけなんだ。お互い、ぶっ壊れるまで派手に()りあおうぜ。俺も窮屈だった人生が自由になったおかげではっちゃけたい気分なんだ―――!」

 

 言葉を念話として叩きつけた直後―――閃光が空を抜けた。

 

 高町なのはが得意とするアウトレンジからの長距離砲撃が空を焼きながら直線上を薙ぎ払う様に真っ直ぐ、屋上そのもの消し飛ばすように放たれた。チャージする姿さえ見せなかった初手での必殺の一撃はおそらく()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう、最初から最大級の収束砲撃が放たれてきた。それに対応する様に、

 

 跳躍した。

 

 やる事は変わらない。砲撃そのものを飛び越える様に、いつも通り重力を殺して大跳躍する。同時に砲撃を放ったなのはに対して攻撃を放つ為に握っていた剣を落としながら体を捻り、柄を足の甲に当て、そのまま回転を乗せて全力で蹴りをなのはへと向けて放ち―――剣を弾丸代わりに射出した。即座に最高速度に乗ったそれが結果を生み出すのを確認する前に、体が下へと向かって落下して行く。が、同時に放った攻撃の影響で砲撃が切り上げられ、消えて行く。

 

 体が完全に落下を始める頃には砲撃が消えている。袖を振って新たな待機状態のデバイスを取り出し、展開する。

 

 大型ライフル銃へとデバイスが変化する。落下しながらそれを一回大地へと向けて放ち、その反動で小さく浮かび上がる。結果、落下したままであれば体を貫いたであろう魔力の球体が足元を抜けて行った。それを知覚した瞬間、ライフルを捨てる様に足場に跳躍。

 

 刹那の時間を駆け抜けて最寄りの屋上へと鉄柵を蹴り飛ばしながらスライドして着地する。が、スライドしながら体は前へと向かって走り出す。それに合わせる様にレンジを変えない為になのはがデバイスを構えながら移動を開始するのが見える。徹底的にアウトレンジから此方を磨り潰すという意図が見えている―――実際正しい。此方が接近に失敗すれば予想通りの展開になる。

 

 その為にも、瞬間加速を行いながら跳躍し、速度を一切劣化させない等速移動で屋上から屋上へと素早く移動する。その姿を追うのを止めたのか、砲撃がなくなる―――その代わりに桜色の魔力から生み出された魔力弾が追いかけてくるように正面から迫ってくる。それを目視しながら、迷う事無く屋上から飛び降り、ビルの壁を蹴る。()()()()()()()()()()()()()()()()()という矛盾した行動を行う。体を縮地の要領で打ち出すのと同時に、壁に引っ掛けた足で体全体を引っ張り上げる事によって一瞬だけ体を上へと持ち上げ、高度を落とすことなく落下する。故に壁を蹴り、壁を蹴り、ビルとビルの合間をジグザグに壁を蹴り、跳躍しながら加速して移動する。

 

 人間の出せる知覚外の速度に、魔力弾が追い付けず、置いて行かれる。

 

 それに反応する様に放たれた砲撃は薄く―――そして広がっていた。

 

 広範囲殲滅型の砲撃魔法。それは足場であるビルを破壊しながら確実に飲み込む範囲に広がりながら接近してくる。迫ってくる光の壁に対してやれることは、

 

 何もない。

 

 蹴った壁で体を前へと叩きだしながら新しく握りなおした剣を投擲する。正面の光壁にぶつかりながら一点の歪みを生んだその地点へと向かって全力で拳を叩き込んで合流すれば、僅かに砲撃が揺らぐ。その地点を中心に、加速した勢いに任せて強引に体を砲撃の向こう側へと押し出すように叩きだす。その向こう側に見えるのは、

 

 接近した高町なのはの姿だった。

 

「君みたいなタイプは身内にいるから良く知っているよ―――」

 

 悪鬼の様な笑みと共になのはが此方の頭上を取っていた。それは直接足場が下に来ない限りはどうしようもない位置で、陸戦魔導士最大の弱点とも言える場所だった。つまり空戦魔導士が陸戦魔導士に対して得られる最大のアドバンテージ、それが頭上という足場がない限りどうしようもない位置の確保だ。正面ならまだどうにかなる、背面も対応できる。だが頭上が一番対応においては面倒が多い。

 

 故に、専用の対策が必要とされる―――。

 

「ハ―――」

 

 投石した。屋上に着地した時、スライドしながら削った屋上の床、握りしめていたその破片を手首で反動を付ける様に投擲する。魔力を込めるアクションよりも一呼吸早く投擲された破片はまっすぐ、吸い込まれるようになのはの目へと向かって飛翔し―――体を横へとズラすことによって回避された。その瞬間、コンマ数秒程だが、時間が生み出される。その瞬間に両袖の中から次のデバイスを引き抜く。待機状態を解除した出現するデバイスの姿は―――ハンドガンとライフル。

 

 下へと向けて射撃した反動で体を打ち上げるのと同時に、ライフルを足場に乗り捨てながら一気に跳躍する。そのまま頭上で構えたなのはへと蹴りを叩きこむ。

 

 バスターを放つ直前の動作に回し蹴りを叩き込んでその発射先を横へと蹴り飛ばす。そのまま足をデバイスの先端、突起している所の返しに引っ掛け、足の筋力のみで全身を支えながら体を折るよう捩じりながら―――なのはに肉薄した。零距離でハンドガンを喉に突き付け、そのままノータイムで射撃を叩き込む。

 

 乾いた銃声が響くのと同時に、カウンターの拳が此方の腹に突き刺さった。視線を喉へと向ければ、なのはの喉がバリアジャケットによって保護されているのが見える―――おそらくは此方が急所を狙うと理解していて重点的に保護したのだろう。喉を潰すには至っていない。腹を貫く拳の感触を感じながら内功を練って衝撃に耐え、

 

 片手で頭髪を掴み、今度は額へと銃口を向け、トリガーを引いた。

 

 空中で射撃の音が響くのと同時に、足からデバイスが解放され、その先端が腹に叩きつけられ、零距離から砲撃を食らう。だがそれでも手も意識も手放すことなく、魔力ダメージによる意識の混濁を意志の力でねじ伏せながら、連続で射撃する。故に一瞬も銃口をブレさせる事もなく、自分の指を髪の毛に絡めるように掴み、そのまま銃口から魔力によって無限に生成される弾丸を発射する。

 

 砲音と銃声が響く。空を駆け抜ける戦闘の音に空気が震え、そして痛みが体を満たす。口の端から血を流すのを理解しつつも、一歩も動く事もなく、そのまま引き金を引き続ける。

 

 そのまま十数秒間、空中で上がる事も落ちる事もなく引き金を引き続ければ、なのはの眉間が切れ、赤い滴が流れ―――その視界を奪う様に目の中に入った。その瞬間、僅かにその視線がぼやけるのを理解し、動く。

 

 顔面に叩きつける様に銃を投げつけながらデバイスの切っ先を蹴り回し、回転させる体をそのまま相手の側面へと叩きつける。視界が原因でなのはの反応が鈍い。故に蹴り飛ばしながら体を引っ掛け、自分の体を引き寄せる様に前進しながら、

 

 空中を蹴り進む。

 

 高町なのはという足場を使って、蹴り飛ばしながら踏み進む。素早く、連撃を叩き込む様に蹴りを動きの基点となる肘や膝を中心に叩き込み、動きを封殺しながら、

 

 最後に大きく蹴りを叩き込み、姿を大きく吹き飛ばしながらまだ健在だった廃墟ビルの壁を貫通する様に中へと叩き込み、前転する様に追従し、壁に開いた穴から中へと侵入する。蹴り飛ばされたなのはが既に立ち上がり、デバイスを構えている。着地と同時に新しく袖の中からデバイスを抜く―――今度はダガー型のストレージデバイスを待機状態を解除して持ち出し、その二つを逆手に握りながら、

 

 荒いなのはの呼吸を読み取って、縮地を使って床に傷を一つ付ける事もなく加速し、その背後へと一歩で到達する。なのはには知覚する事の出来ない動き、無意識という察知できない領域での動き。

 

 ―――その動きをなのはは呼吸を外して目で追った。

 

 人間の無意識という領域、その領域に踏み込んで動くという事はほぼ無敵だと表現しても良い動きだ。なぜなら無意識を人間は察知する事は出来ない―――ただ一つの例外を抜いて。

 

 ()()()()だ。無意識に、経験からなされる直感と理解から、反射的に行動を視線で追い、そして反応している。故になのはは目で動きを追っていた。理解ではなく反射的に動く事によって対応する事を選んだ為に。おそらくはどこかで見たのか、或いは使われたことがあるのか、その経験を通してなのはは対応し、動く。

 

 故に()()()()()()()()、動いた。

 

 視線で追いかけてくるのを理解して、反射的に行動できる範囲を見極め、そのギリギリ外側を意識しながら動く。難しい話ではない。()()()()()()()()()()()からだ。数百年間の累積された殺人と鍛錬の記憶と経験。それはエース級との戦いの記憶でもある。人間がどういう状況でどうやって動くかなんて腐る程体に刻み込んできた一族。

 

 ―――無意識を超えて反射で反応する人間なんて腐るほど見てきた。

 

 だから、なのはの反射行動を見切る。

 

 回り込んだ動きに対して追従する様に振り向く体とは逆方向へと進む。逆時計回りに踏み込む此方の体に対して反射の行動で時計回りに動くその体に対して、すり抜ける様に左手の刃でバリアジャケットごと肩口から腰まで刃を斬り抜き、斬撃を刻み、その振った刃を骨に当る感触で引き戻しながら、

 

 逆の手の刃で全面でXの字を描く様に逆側の肩口から腰まで斬撃を通した。物理法則が速度に追いついて鮮血が溢れ出す瞬間、なのはの腹を蹴り飛ばすのと同時に、突き出されたデバイスが槍の様に左肩に突き刺さり、腕の動きを奪う。だがそれと同時に新しく抜き出されたライフルのデバイスが蹴り飛ばされたなのはを追撃する。

 

 ―――切り裂かれたことによって保護がなくなった肩の傷口に素早く射撃し、その姿を奥の壁まで吹き飛ばす。

 

 空中に血の軌跡を描きながらその姿が壁に叩きつけられ、動かなくなったのを確認してから左肩に突き刺さったデバイスを引き抜く。最後の最後で失敗したな、と口の中に溜まった血を横へと吐き出しながら、なのはのデバイスをその足元へと投げて転がす。

 

「よぉ、また俺の勝ちだな。無理に頭上を取ろうとせずに延々とアウトレンジからネチネチやってりゃあ勝てただろうに」

 

「そうしてたら……それで別の手段を使ってた、でしょ?」

 

 なのはのその言葉にまあな、と答える。今いるビルも、周辺のビルにも実は爆薬を仕込んである。もし徹底的にアウトレンジから戦うつもりだったらビルを一斉爆破させ、舞い上がった粉塵とビルの破片を足場に、空に強制的な足場を作り、落下する数秒間の間に接近、そのまま大地に叩き落とす予定ではあった。が、なのはがそれではなく頭上を取る事を選んだ為、その必要もなくなった。

 

 ふぅ、と息を吐きながらビルの天井を見上げ、息を吐く。

 

 楽しかった。凄く、楽しかった。

 

 だけど―――死ねそうな恐怖は感じられなかった。

 

 だからどうすべきか、その判断に関しては一瞬で答えが出た。

 

「で、エースさん生きてる?」

 

 言葉をなのはへと向ければ、少々苦しそうに言葉が返ってくる。

 

「トドメを刺されていないからね」

 

 意識はあるし、致命傷でもない。ただ、戦闘を続けるには少々厳しい怪我だろう。高町なのはにこれ以上の戦闘は無理だろう。だから、もう脅威ではない。だから警戒心を解きながら近づき、感じた事をそのまま、言葉にした。

 

「なんか……色々と疲れたわ。もういいや―――俺を逮捕してくれ」




 お兄ちゃんが神速でNDQしているのを目撃したために反射行動で対応出来たなのはさん。その経験はきっと無駄じゃなかった……。

 そしてヨシュアさん自首。次か次くらいで歴史は繰り返すかねー


 あとこのお話とかで使ってる技術云々、気に入った人がいれば、まぁ、使ってもいいんじゃないかなぁ、って。理屈通ればもっと描写しやすい! って人はいるだろうし。

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