「あ、なのはさん、こんにちわ!」
「こんにちわ!」
ヴィヴィオに見つかったからか、なのはが三人娘の下へと回り込んで近づいて行く。それに反応したコロナとリオの二人がなのはへと手を振り、それから此方へと視線を向け、首を軽く傾げていた。見慣れない男がいるから当然だろう。なのはの数歩後ろ、サングラスで視線と顔を軽く隠すように、影の中を歩きながら近づく。真っ先に主人にじゃれ付く子犬の様な様子でヴィヴィオがなのはへと近づいた。
「なのはママ!」
「あはは……流石に年齢的にはお姉ちゃんの方が良いんだけどなぁ」
なのはが少し困った様な表情を浮かべるが、それに気にすることなくヴィヴィオはなのはへと近づき、そして本当に大丈夫かどうか、それを確認している。なのはも致命傷からは程遠いが、十分なダメージを短期間に二度も受けている。それを考えれば親族が心配するのも普通の事なのだろう。自分の場合は―――考える必要もない。自分が負けて死ぬ何てことをジークリンデは絶対に考えないし、勝利を疑わない。それと同様に、自分もジークリンデが敗北するなんて事は想像できない。つまり、心配する必要は欠片もない。会わなければ勝手にどっか、好き勝手に生きているという認識で済むからだ。
それはそれとしてリアクションは取るが―――そんな事を考えている内にヴィヴィオの視線がなのはから此方へと向けられる。人を疑う事のない、純粋な瞳だった。おそらくは此方が襲撃犯の片割れだと気付いてすらいない。
『解っていると思うけど、君の事は内々で処理してあるから、真相を知っている人は限られているよ』
『あいよ』
拒否権がある訳でもない。なのはの言葉に念話で答え、なのはが此方へと視線を集中させるように、一歩横へと退き、ヴィヴィオが正面から捉えられる様に道を作る。そうする事で相手は此方を良く窺え―――此方もヴィヴィオの姿をよく見る事が出来た。St.ヒルデに下見でヴィヴィオの姿を確認する事は何度もあった。だがこうやって正面から見ると、妙な罪悪感が胸の内を絞める様な、そんな感覚がある。それは高町家に対する申し訳なさから来るものではない、というのは解っている。そんなものを感じるなら最初から暴れない。だからきっと、
これはエレミアの―――ヴィルフリッドの置き土産なのだろう。
「えーと、なのはママの知り合いですか?」
「―――」
恐れる事もなく話しかけてきたヴィヴィオの姿に凍り付き、どう答えたものか、と一瞬だけ悩み、小さく息を吐きながら頭の裏を掻き、どうしようもない所でつまってんな俺、と自嘲する。女の相手なんてのは慣れているくせに、ここに来て急に初心な少年の様なリアクションは流石にないだろう、そう聞こえない様に呟きながら、愛想よく笑みを浮かべる。
「―――おう、まぁ……うん、お仕事でお世話になった関係かな!」
『間違ってない』
『うるせぇ』
念話で入ってくる茶々にツッコミを返しつつも、そこから言葉を引き継ぐ様になのはが口を開いた。
「実はね、この人……ヨシュアは私が知っている中では一番格闘技に詳しく、強い人なんだ。スバルやギンガにも負けないかな。色々困っている様だし、ちょっと連れてきたんだ」
「おい」
すぐさまなのはに言葉を向ける。だが視線だけを返してきたなのはは”別にいいだろう?”と視線だけで伝えてくる。まるっきり話を了承したわけでもないのに強引に進めてくるからどうしたものかと悩む。が、既に三人の娘たちからは期待の視線の様なものが送られてきている。それを前に、普通に断るのは男子としては如何なものだろうかと思い、即座に断るのを何とか止めながら溜息を吐きながらしょうがない、と呟く。
「
「ありがとうヨシュア。……という訳でヨシュアお兄さんに存分に話を聞いたりしてもいいよ? 一切遠慮なく。それこそぼろ雑巾になるまでサンドバッグにするぐらいなら」
「お前、笑顔の裏で実はネチネチ恨んでるだろ……ま、ご紹介に預かったヨシュアだ。この先どうするかは未定だとして、とりあえずお前さんがたの保護者のちょっとした知り合いだ。というか何度か勝ってる。殴り合いに関してはそこの砲撃脳よりは遥かに賢い所があるから遠慮なく話を聞きに来るといいぞ。何せ歴史に名を残すファイターを育てた
「寧ろネチネチ恨みを抱いているの君の方なんじゃないかなぁ」
ヴィヴィオが二歩後ろに下がるのと同時になのはへとガンを飛ばし、なのはが半ギレの様子で笑顔を浮かべながら首を傾げ、
「あ゛ぁ゛……?」
「やんのかよ、コラ……!」
軽く萎えていた状態だったが、漫才を通してモチベーションというべきものか、或いは活力と呼べるものが漲ってくるのを感じ取る。数秒間、無言のままなのはとガンを飛ばし合うが、やがて意味はないと悟り、互いに視線を外す。ともあれ、怯えた姿を見せている三人娘へと改めて視線を向けなおす。
「まぁ、なんだ……聞きたい事は自由に聞け。嘘はつかない」
「ガラは悪いけど、悪い人じゃないからね」
「男は少し悪い方がかっこいいんだよぉ!」
何か文句でもあるのだろうか。エレミアと言えば
―――良し、なんとかテンション充填できた、頑張ろう。
「という訳で質問カモォ―――ン!!」
「テンションの落差が激しい人だなぁ」
「それ言っちゃ駄目だよ……あ、でもなのはさんに勝てたって話本当ですか?」
ツインテールの少女と、コロナの質問に対してサムズアップを向けると、視線が此方からなのはへと向かい、なのはが頷きで返答を返す。先ほどの発言はネタとして捉えられていたのか、まぁ、初対面だからしょうがないよな、と自分に対して言い訳を放ちつつ、少しだけ寂しく思っていると、じゃあ、とヴィヴィオが片手を持ち上げながら此方へと視線を向けてくる。
「じゃあ質問です。ヨシュアさんってなのはママやスバルさん達よりも強いって言ってますけど……具体的にどういう事が出来るんですか? えーと、教わるにしても何が出来るか解らないと具体的な事が聞けなくて」
その質問は実に難しい質問であり、そして同時に簡単な質問でもある。
「ぶっちゃければこうだ―――
「なんか最後おかしいの混ざってた気がする」
「シッ、見ちゃいけません」
見てはいけないというランクまで来てしまったか。割とテンション上げて頑張っているが駄目なのだろうか―――まぁ、いいや、そう結論付けながら視線を三人娘のレスポンスを待っていると、じゃあ、という言葉をヴィヴィオが放ってくる。この変人の塊のような存在に臆する事もなくまだ話しかけようとするとは対した奴だと素直に評価しておく―――或いはただの箱入り娘なのかもしれないが。
「えーと、じゃあ……圧倒的に格上の人を倒すにはどうしたらいいか解りませんか? えーと、相手はおそらくストライクアーツの達人で、一撃の重さが凄いタイプなんですが―――」
―――あ、これハイディちゃんの事だな。
これで確信した。ヴィヴィオはハイディに負けたが、諦めてはいないのだ。昔、とある魔王少女が戦い、そしてリベンジを果たす事によって友情をはぐくんだように、それをヴィヴィオが成そうとしている。そしてその為に必要な最大のパーツをなのはは理解している―――即ちエレミアン・クラッツだ。聖王が覚え、そして覇王流を生み出す前のクラウス・イングヴァルトを無傷で粉砕した最強の組み合わせ。それを再び再現しようとしているのだ。
この女、全力で此方側のトラウマを抉りに来ているのだが、畜生過ぎるんじゃなかろうか。
―――それでも乗り越えた話だから、そこまで心に響くものはない。
「誰を相手にしているかはわからんが、勝つだけならメタれ。相手が何を得意とし、何を苦手とするかまず理解して、そっから戦術の構築を始めるんだ。徹底的に相手の土俵をぶっ壊して自分のペースに持ち込んで、実力を発揮させずに封殺する。たとえば砲戦の魔導士なら即座にショートレンジに潜り込んで最大の武器を封じるとか、魔導士全体は魔法が使えなくなると木偶になるから割と対処しやすいのもあるな……まぁ、そういうのが知りたい訳じゃないんだろうけど」
「ねぇ、会話の間にちょくちょく私に対するディスり入ってないかな?」
なのはの言葉を完璧に受け流しつつ、そうだな、と言葉を置く―――改めて考え、そして判断するにはもっと時間が必要だと結論付ける。本格的に教える事に関しては自分の覚悟、そして
「―――一足跳びに結論から
体を軽く持ち、左半身を前に、左腕を軽く持ち上げ、右腕を後ろに引き、拳は前へと向ける。基本的な、特に何かある訳でもない、普通の構えだ。構えながら、ヴィヴィオに言葉を贈る。
「一々説明するより一回経験した方が早いだろう。ちと構えて、打ち込んで来い」
「え、あ、はい」
言われたヴィヴィオが少しだけ焦る様に左半身を前にするように、拳を構え、ストライクアーツで教えられる基本的な構えで此方と相対する。その姿を見て、言葉を告げる。
「んじゃあ
仕方がない、と言い訳をしながらも―――なぜか妙な充足感を感じていた。
なのはさんが何やら何時ものノリにのってきたようです。
という訳で次回、てんぞー式天才・英雄の殺し方。これを読んで君も経験を積んだ努力型凡人キャラで英雄や天才を一方的に惨殺しよう!
次回、英雄完全殺害マニュアル。