袖のない黒いインナースーツを上に着る。下は動きやすさと機能性を重視して黒のカーゴパンツを、そしてインナースーツの上からハーフスリーブの黒に紫のラインの入ったミリタリージャケットを着て、両手に手を保護する事を考えてのオープンフィンガーグローブを装着する。焦げ茶色のコンバットブーツに足を通し、しっかりと紐を結ぶ。最後に小さく、丸い黒レンズのレトロサングラスを取り、それを装着する。鏡の前に立って軽く自分の姿を確認し、頭の後ろで長く伸びている尻尾の様な髪を一回解いてから今度は軽く、編む様に整える。普段は服の下に入れて隠している為、ほぼ目立たず、気付きすらされないものだが―――。
「ま、こんなもんだろ」
ジーンズとパーカー姿と比べればかなり変わっただろう。あの恰好は町中、誰にでもまぎれることが出来るような恰好だった。パーカーもすぐに顔を隠せられる為であり、サングラスも顔の形を見られない為だ―――だからそれを取っ払った結果、大分すっきりしたようなイメージがある。少なくとも別人のような恰好になった。鏡を見て、緩く編まれた髪が首の後ろで揺れるのを見て、悪くないと思い、
自分の部屋から出る。新しい靴を足に馴染ませる様にしっかりと踏みながら前へと進もうとすると、後ろで扉の開く気配がする。振り返り、気配の方へと視線を向ければ、予想通り下着姿のジークリンデが目を擦りながら昨夜放り込んでおいた彼女の部屋から出てきていた。兄としてはいろいろと複雑な気持ちになるその恰好を見て溜息を吐くが、愚妹の方は一切気にする様子はなく、
「にーちゃん、まだ朝早いんけどなにしてるん……? かっこ、気合い入れてるぅし」
眠そうにそう投げかけてきていた。左手の腕時計を確認すれば、現在の時刻はまだ朝の五時―――朝日が見え始めた頃になったばかりだ。定職も、教育の義務も存在しない自分達エレミアの兄妹に朝早く起きて鍛錬を始める必要なんてない―――一日、自由に暮らし、自由に鍛えればいいのだから。ただ、これからは義務と使命がなくなったからどう活動するかは考え直さなくてはならないが、それにしたってこんな時間に起きる意味はない。それを解っているからジークリンデが確かめに来たのだろう。
「兄ちゃん、ちぃとバイト始めたかんな」
「え、今度は誰を消すの?」
「お前、ナチュラルに人を暗殺者扱いするの止めない???」
「にーちゃん人を消すこと以外になんか特技あるん???」
「こんな
「きゃー!」
襲い掛かるようにわしゃわしゃとジークリンデの髪をかきまぜ、そのまま流れるように部屋へと蹴り戻す。楽しそうな悲鳴を漏らしながらスキップするようにベッドへと飛び込んだジークリンデは少しだけ転がってから、視線を入り口にいる此方へと向けてきた。
「なんかにーちゃんいい顔しとる」
「そっか」
「あとヴィクターはメスの気配を漂わせてる」
「言葉には気を付けろよ居候」
行ってらっしゃい、と言って再び毛布の中に突撃するジークリンデの姿を背に、そのままダールグリュン邸の一階へと降りれば、包みを片手に立つヴィクトーリアの姿が昨夜、帰ってくるのを迎えてくれた玄関ホールと同じ場所にいた。近づいて朝の挨拶を行うと、そのまま包みを此方へと渡してくる。
「それではこれ、朝ご飯ですから、どこに行くかは解りませんけど、不健康な事はしてはダメですよ? と、エドガー―――」
「―――はい、此方に」
音も気配もなく出現したエドガーがいつの間にか自分の部屋からショルダーバッグを持ってきており、それを此方へと渡してくる。それを受け取った瞬間、再び音もなくエドガーの姿が消える。本当に従者の鏡だよな、と思いつつヴィクトーリアから弁当を受け取り、それをバッグの中に入れて背負う。そのまま背を向けて出ていこうとしたところで一回足を止め、そして首だけを動かし、片目でヴィクトーリアへと視線を向けておく。
「……夕飯までにゃあ帰ってくる様に頑張るわ」
「えぇ、久しぶりにいっしょに夕飯を食べるの、楽しみにしてますね」
首の後ろを軽く掻きながら、ダールグリュン邸を出る。
◆
―――高町なのはの連絡先は持っている。だから引き受けると返答すれば、すぐに会う場所をなのはが指定してきた。場所はミッドチルダ北部―――聖王教会ミッドチルダ本部、そこだった。ヴィヴィオの立場、そしてなのはが聖王教会と持つ繋がりを考えれば簡単に場所を借りることが出来るのは解っていた。が、こうやって露骨に嫌がらせを入れてくるあたり実にいい根性をしていると思う―――知らないで借りたとも考えられるが。
ともあれ、場所はダールグリュン邸からそう遠くはない、そもそもからしてダールグリュン邸もベルカ自治区、つまりはミッドチルダ北部に存在するのだから。直通のモノレールに乗って一時間と少し、それで聖王教会ミッドチルダ本部に到着することが出来る。場所に関しては非常に憂鬱だが、帰りは一時間と少しで戻れる事を考えれば、そう悪くはないと、自分を慰める。
そんなモノレールの中で、ヴィクトーリアが作ってくれたらしい弁当を朝ご飯代わりに胃の中に流し込み、時間をかけずに聖王教会の巨大な入り口の前に到着する。駅まで歩いた時間や、駅からここまで歩く時間を入れるともう十分に朝と呼べる時間になっている。そして、予想したように門前には二つの姿があった。
「あ……おはよう、ヨシュア。姿が全然違うから一瞬誰かと思ったよ」
「あ、おはようございます。今日も宜しくお願いします」
なのはとヴィヴィオの姿だった。なのはは肩出しのカットソーシャツ等のカジュアルな格好、ヴィヴィオはすでに運動する気満々なのか、スポーツウェア姿になっていた。とりあえず片手を上げて挨拶をしながら近づき、聖王教会の姿を見て少しだけ嫌な顔を浮かべ、それをすぐさま消す。
「つーわけで、教える事になったヨシュアなんだが……本当にいいんだな?」
「私は問題ないよ。もう一度言うけど、私の知り合いの中ではおそらく一番強いインファイターだしね。否定する要素はないよ。正直人格に関しては欠陥しか見えないけど」
「お前の脳味噌も一回洗った方がいいと思えるぐらいにはクソだけどな……えーと、で、ヴィヴィさ―――はっくしゅん! ヴィヴィオちゃんも本当にいいんだな?」
なのはと繰り広げる言葉のジャブに軽い困惑を見せつつも、ヴィヴィオは頷く。
「あ、はい。ヨシュアさんの実力は感じ取ったばかりですし、こう―――どうあがいても絶対に勝てない、という感じがひしひしと伝わってきました。多分魔法を使って全力で打ち込んでも、あっさりと利用されて負けます、私」
「その直感、大事にせなあかんよ。割と生死を分けるから」
「否定しないんですね……」
ほかの人間には悪いが、自分の様に屍の山の上に生み出された怪物がこの次元世界にほかに存在するとは到底思いたくない。存在するとして、ハイディが最後であって欲しいと思っている。ついでにこの特性が自分に子供が出来るとして、遺伝しないことを祈っている―――ともあれ、合流したので、そのまま聖王教会の中へと進んで行く。とはいえ、進むのは聖堂とかの方ではなく、騎士の訓練用に存在する訓練場の方である。今日に限ってはなのはの伝手があるらしく、それを完全に貸切にしているらしい。
さすがミッドチルダを救った英雄は違う、今度殺そうと思い、少しだけ不機嫌になりながら、訓練場へと向かう。それを横に眺めていたヴィヴィオが口を挟んでくる。
「ヨシュアさん……もしかして無理やりなのはママが頼んじゃったとか……?」
「ん? あぁ、いや、聖王教会って組織がクソと同じレベルで嫌いってだけだから気にする必要はねぇよ。まぁ、信じている人間に害悪はねぇけど組織はクソだな、組織は。うん、組織はクソ」
「え、えぇ……」
「歴史家の連中は無駄に聖王家の活躍を美化しすぎなんだよ。ただそれだけの話だ。お前に関しては特に思うことはないから安心しろ。おう、そっちのお前は覚悟してろよ、また近い内に撃墜記録伸ばしてやるから」
「大丈夫、超高高度から引き撃ちでリンチするから」
この女絶対殺す、と心の底で新たな誓いを追加しつつ、訓練場へと到着する。内観は先日のスポーツコートとそう変わりはない。必要なのは広さ、そして頑丈さなのだから、当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが。
訓練場はなのはが言った通り完全に貸切状態で、人影どころか気配すらなかった。良い場所だと思う。最終的には経験を積む為に多くの見知らぬ者といろんな手合わせをする必要がある、それが目的で自分は武者修行をしてきた。だがヴィヴィオは現在、その前の段階だ。まず最初に、教える前にいろいろと把握しなくてはならないことがある。
「とりあえずウォーミングアップを兼ねて柔軟を始めてくれ。誰から教わったとか、何ができるとか、拘りとかポリシーがあるなら教えてくれ」
「はーい!」
そういいながらヴィヴィオがさっそくウォーミングアップを柔軟体操を始める。日常的にこなしているのか、その動きには淀みがなく、慣れた様子で体を解す。それを確認しながら自分もこっそりと手の開け閉めを行い、手足の調子を軽く動かすように確かめる。少なくとも今日の調子は悪くなく、筋を痛めるようなことはないだろう。
「んーと、格闘技はスバルさんやギンガさんに教わりました! 基本的にあちらの専門がシューティングアーツで、ストライクアーツではないので本格的な部分は無理ですけど……その代わり基本的な動きだったらずっと打ち込んできました」
「ちなみに体作りと魔法に関しては私が担当したよ。基礎体力をつける為に日常的にランニングさせて、理想的な体型を維持してるよ。おかげでちょっとというか年の割にかなりうらやましい形になってるよね……」
「な、なのはママ? ちょっと目が怖いんだけど……」
ゆっくりと柔軟体操を続けるヴィヴィオの姿を見る。ウェスト、ヒップ、バスト、そして身長ともに、女性として非常に魅力的で理想的だといってもよい領域にヴィヴィオの姿はある。これでまだ十六歳だというのだから、末恐ろしい。女の体はそれなりに見ているし、知っている、そんな身からしても非常に魅力的な体をしている―――しかし体を伸ばすたびに主張してくる胸のものは非常に青少年の目には凶器として映るな、と思う。
「まぁ、変にクセとかがない方が教えやすいからいいんだけどさー本当にいいのか? 聖王教会にはちゃんと格闘技教えられる奴いるだろ?」
「でも君の方が強い―――そしてヴィヴィオに合う一番の格闘技を教えられるのは君だけだよ」
なのはの言葉は正しい。聖王家の人間は一種の才能の化け物だ。それこそ一度見たことのある動きや魔法はコピーして使用できる、なんてことができるぐらいには。まさしく天才の領域に立つ存在だ。だから、そんな聖王の血筋と一番相性が良いのがエレミアン・クラッツだと思っている。特定の型が存在せず、手段、道具を選ばずに戦う技術なのだ。なんでも覚えられる聖王の血筋と、何でもやるエレミアン・クラッツ―――相性が良いのは明白だ。
しかし、その情報をいったいどこから仕入れてきたのかが非常に気になる。割と未公開の情報は多いのだが―――気にするだけ無駄だろう。
と、考え事をしている内にヴィヴィオの柔軟体操が終わり、ウォーミングアップも完了する。普通は体力作りのためにランニングでも入れるのだろうが、それは激しい運動の類を入れない場合の話だ。組手や長時間の型稽古を入れる場合、体力の消耗が激しいので、あらかじめランニングをさせると途中でバテかねない。なので、
あらかじめ仕込んでおいた掌に収まるサイズの黒い長方形―――待機状態のデバイスをカーゴパンツとジャケットのポケットから抜き、それを訓練場にばら撒く様に投げる。
投げられるのと同時に待機状態が解除されたデバイスたちはそれぞれの姿に戻り、床に突き刺さったり、転がったりする。そうやって剣、銃、メイス、槍等の様々なストレージデバイスが転がる戦場が出来上がる。
とりあえず一番近くに刺さった剣のところへと向かい、その柄を片足で踏み、柔軟を終えてやる気満々のヴィヴィオへと視線を向ける。
「よし、ヴィヴィオちゃん」
「はい、ヨシュアさん」
「―――今からいろいろと調べるから、全力で生き延びて」
ヴィヴィオがえっ、という言葉を放った瞬間、
足を滑らせて剣の切っ先を床から引きはがし、回転させるように刃をヴィヴィオの方へと向けた。そのまま低い位置にある剣、その柄を蹴り飛ばし、弾丸のごとく射出する。体全体を支える役割を保有する足はその性質、構造上腕よりも肉が付きやすく、縮地等の移動術を多用する都合上、かなり鍛えられている。そのため、弾丸を銃から放つのと遜色のない破壊力を持った剣は一直線に駆け抜けてゆき、ヴィヴィオの右頬を裂いて後ろの壁に刀身の半ばまで突き刺さった。
余談だが、非殺傷設定とは
「じゃあ、頑張ってね。一切躊躇とか手加減しないけど。あ、倒れたら無理やりでも立ち上がらせるから」
「あっ、あっ、あっ―――」
引き攣った様な笑みを浮かべるヴィヴィオに対して、遠慮なく
やるなら徹底的にだ―――中途半端はない。
絶望の表情を浮かべてるヴィヴィ様(AA略
そして実はここまで主人公の容姿に関する描写はなかった事実。
というわけで全自動英雄殺害マシーンの育成ゲー始まるよー。ちなみに気になっているヒロインに関してですが、vivid娘共(ベルカ三人娘+雷帝)以外は特に考えてないです。最後は一人に絞るだろうけども。ツイッターでアンケ取るのも悪くなさそうかなぁ、と(事前調査で圧勝のハイディちゃん)。
でも最終的に金髪巨乳の子勝ちそう(どれとは言わない