Belkaリターンズ   作:てんぞー

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修羅舞踏-1

「―――ちゃんとパスポートは持ちましたか? チケットも忘れちゃだめですよ? 無くしたら困りますからちゃんと解る場所にしまっておいてください。あと浪費もダメですからね。そこらへんはあまり心配していませんが、それでも何か困ったことがあったらちゃんと電話してください……いいですね?」

 

「オカンか」

 

「ただのメスだよ」

 

 愚妹に無拍子で腹パンを注入にしてから、旅行用のショルダーバッグを片手にバイクに跨り、股の間に転がりこむ様に猫が座る場所を見つける。そんな姿を完成させたら視線をダールグリュン邸へと向け、サングラスをかけ直してからヴィクトーリアと大地に倒れている愚妹(ジークリンデ)に軽く手を振り、数日の別れを告げてバイクを走らせる。住宅街を出たら真っ直ぐ高速道路に乗って、全身で風を感じながらバイクを走らせ、そしてクラナガン国際空港へと向けてただまっすぐ、走って行く。

 

 空へと視線を向ければまだほのかに暗い朝の空が見える。だが既に地平線の向こう側から朝の陽ざしが見え始めている。バイクについているラジオの電源をオンにすれば、かかっているチャンネルから一昔前の曲が流れてくる。それを猫と共に聞きながら、今日は晴れだったな、なんて昨晩確認した今日の天気を思い出し、軽く欠伸を漏らしながらバイクを前へ、前へと向かって走らせてゆく。クラナガンへの道のりは、空港へとつながる高速道路の道は初めてじゃない。何年も前、武者修行のためにミッドを出て、その時もこの道を通った。

 

「……ま、今回は俺一人じゃねぇんだけどな」

 

「なぁご」

 

 猫の返答を聞きながらそのまま真っ直ぐ―――オフトレのために合流すべく、クラナガン国際空港へと向かう。結局、ヴィヴィオに押し切られる形でオフトレへと参加する事に了承してしまった。あまりにも自分らしくない……そう思うとやはりオリヴィエの血には勝てない運命なんじゃないだろうか、とどこか苦笑しながら思ってしまった。それともなんだろうか、ハイディも何故か参加してしまっているこのオフトレ、

 

 また覇王と聖王と黒を寄せ集めるような引力が、運命が残っているのだろうか。

 

「―――どうなんだろうなぁ、猫。俺たちの因縁って本当に終わったのかね? そう思えるかぁ?」

 

「なぁごぉ」

 

 知るか、という返答を猫から返してもらいながら、それもそうだよな、と朝焼けが見えてくる早朝の空に笑い声を響かせながら、ほぼ無人の高速道路を駆け抜けて行く。不承不承で参加しているはずだったオフトレが、なぜだか妙に楽しみだった。ヴィヴィオの陽気さに頭をやられでもしてしまったのだろうか。まぁ、偶にはそれも悪くはない。

 

 人生は短い。ひょんなことで死んでしまう事だってある。

 

 だったら生きている間に出来る事はやった方がいいのだ。

 

 飲み、食らい、抱き―――そして戦う。自分の人生に求める事はこれぐらいだった。だから今もそれだけでいいと、その程度にしか思ってはいないのだが、どうだろうか……答えは出ない。人よりもはるかに多くの知識を持って、経験を積んでいようが、結局は自分も18のガキであることに過ぎないのは事実だ。他人の靴を履いて威張っているだけのガキだ。与えられたものに甘んじて胸を張りたくない。

 

 まぁ、どうでもいい話だ。

 

「あー……巨乳美少女が目の前にいて抱けないってのはこう、もやもやするもんだなぁ。こう……アレ、反則的だと思わないか? あの年齢でアレはさすがにちょっと凶器すぎるだろ! クラスメイトだったらガン見してる自信があるけどお前どうだ? ん?」

 

「……」

 

 返答すら返さないほどに飽きれている猫の存在にもう一度大笑いを空に響かせ、サングラスの下から登り始める太陽を眺め、視線を外し、一気にアクセルを踏み込んで加速しながら空港へと向かって速度を上げて行く。

 

 

                           ◆

 

 

 空港に到着し、預かりサービスにバイクを預ける。これでミッドチルダに帰ってきたとき、バイクを受け取ることが出来る。しっかりと認証ナンバーを携帯端末と頭の中に記録しておきつつ視線を、空港のゲートの一つへと向ければ、そこには多数の女性と、そして少数の男性によって構成されるグループがあった。見覚えのある顔がいくつかある為、即座にそれが目的のグループである事に気付くが……なんだか妙に帰りたくなってきた。俺はエレミアの本能に逆らうぞと決意をした瞬間、集団の中に居心地悪そうに混ざっていた緑髪姿の女が見えた。

 

 その視線が此方へと向けられた。

 

 やばい、と思った瞬間には高速歩法で緑髪の―――ハイディの姿が此方へと向かって既に踏み込み終わっており、目の前にその姿が瞬間的に出現した。

 

「おはようございますヨシュア。貴方の事を待っていたんですよ」

 

「あぁ、生贄としてなぁ!」

 

 逃げようかと思ったが腕を組まれ、ガッチガチに拘束されていた。腕に当たる胸の感触は役得なのだが、それ以前に腕を締める力がそれこそ折る様なレベルなので、そんな場合じゃなかった。内功を練りつつ腕を固め、ハイディの万力の様な締めをこらえながら、半分引きずられるように集団へと合流する。それを見ていたのか、集団の中から進み出たヴィヴィオが小さく笑いながら手を振ってきた。

 

「おはようございます! なんか先生とアインハルトさんって凄い仲良しですね」

 

 ヴィヴィオのその言葉にお互いに顔を見合わせて、ハイディが抱き付いている腕へと視線を向ける。素早く離れたハイディは一歩だけ横へと離れ、こほん、と小さい声で咳払いをする。そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいのに……なんてことを思いながらも、かわいらしいリアクションが見れただけよしとするか、と己の中で処理する。ふぅ、と息を吐くと足元に近づいてきた猫にハイディの視線が奪われ、膝を折ると何時の間にか握っていた猫じゃらしで猫と戯れ始める。

 

 そんなだからお前ぼっちなんだよ。

 

 思っていても、口にはしない。

 

「んま、俺も世話になるわ。そういう訳でマナーを解さない野蛮人だけど、カルナージのオフトレに参戦させてもらうぜ」

 

「どうぞどうぞ、知り合いが多い方が楽しいですから!」

 

 屈託のない笑顔で迷う事無くそう言う事の出来るヴィヴィオはまさに純粋無垢とでも言うべきなのだろうか、こういう少女が少しずつ世俗に染まって汚れてゆく姿は興奮するものがある、なんてくだらない事を考えながら視線を外せば、なのはの姿の他に、有名人の姿を見かける。金髪の女はフェイト・T・ハラオウン、あのポニーテール姿は烈火の将シグナム、あっちは普段お世話になってるおまわりさん、と割と知るだけなら知っている人の割合が多いな、とは思う。ともあれ、知っている顔に挨拶する前に、先に代表者としてなのはに挨拶をしておく。

 

「っつーわけで、今回は宜しくな」

 

「うん、此方も宜しく。君の持っている技術もこっちは興味であるから」

 

「まぁ、俺も教導技術に興味がないと言えばウソだからな。そこらへん、技術交換を交えながら色々と進めていこうぜ……っと、この場合は久しぶりって言えばいいのかねぇ、烈火のに守護獣」

 

 なのはから視線を外し、視線をシグナムともう一人、狼の耳を生やした男の姿へと向ける。その言葉で此方の存在に対して確信を抱いたのか、あぁ、と口を開いてから笑みを浮かべてくる。守護獣の方は腕を組んだ状態で頷き、

 

「久しいなエレミア。姿形、性別さえも変わっても気配だけは変わらんか」

 

「ま、うち等の特性みたいなもんよ……つーか俺はまた会えるとは思いもしなかったんだけどな。ま、お互い平和な時代に生きる事が出来たんだ、昔の話で盛り上がるのはいいけど―――」

 

「足元を掬われぬ様に、だろ? それは我らも心得ているから心配する必要はない」

 

 そういってシグナムが小さく笑みを零す。合わせて三人で軽く手を叩いて数百年ぶりの旧交を温める。昔の事を知っている、経験していると面白い事も起こり得るよなぁ、なんて事を思いつつ、視線をヴォルケンリッターの二人から外せば、ヴィヴィオの視線が真っ直ぐ此方へと向けられているのが解る。それも軽いジト目で。

 

「どうしたヴィヴィオちゃん」

 

「いや、なんか先生とシグナムさん達と仲が良いなぁ、って」

 

 なのはのあらあらという微笑ましそうな表情に一発顔面に叩き込んでやろうかとは思ったが、それを我慢しながら年長者の矜持で抑え込んでおく―――少なくとも主観経験だけならこの集団の中でぶっちぎりどころか次元世界でもぶっちぎりの自信はあるのだから。ともあれ、んとな、と言葉を前置きして視線をヴィヴィオへと向ける。

 

「俺たち戦友。な、ザッフィー」

 

 ザフィーラを肩を組む。その言葉にヴィヴィオが首をかしげるがザフィーラは頷き、肯定する。

 

「ここにいる誰もが生まれる前の話だ。まだ古代ベルカと言われていた時代に我々は肩を並べて戦っていた。だがザッフィーは止めろ」

 

「ザッフィーやシグシグとはその時代戦友よ、戦友。俺たちエレミア一族は親から子へと記憶と経験を継承させるから、基本的に先祖のやった事ややらかした事は全部覚えているから、究極的に言えば”今も生きている”って半分は言えるようなもんさ。んでずっと昔にザッフィー達と肩を並べて戦ってた時があったのさ、当時のウチの一族がな」

 

「懐かしい話だ……あの頃は本当に地獄だったな―――あとザッフィーは止めろ」

 

 肩を組んだまま過去を想起する。いきなり爆ぜる人体。訳も分からなく切り殺される戦友。虚空から出現して爆撃を行う戦艦。時間の壁を越えて発生する狙撃。お前らちょっとヤバすぎるもん戦場に投入してない? 本当にそれでいいの? とか思ってしまうが全員、狂ったようにブレーキが消し飛んでいた時代だ。基本的に正気が残っている人間数名が味方とかいう状況になってた。正気を失った奴は片っ端から禁忌兵器に手を出して大地を滅ぼすだけだ。

 

 アレは、ほんと酷い時代だった。

 

 もしかして裏に黒幕がいて、時代をそういう風に流れさせていたのではないか? と思ってしまうほどには。まぁ、ただ間違いないのは火種を用意した奴、そしてそれを燃え上がらせた奴がいる事なのだが。惜しむべくはその連中を見つけられなかったことだろうか。

 

「そんなわけで俺とザッフィーはマブよ、マブ」

 

「マブは言い方が古いのではないかザッフィーは止めろ」

 

 その言葉にほえー、と声をヴィヴィオが漏らし、そして少し悔しいなぁ、と声を零す。その反応に軽く首を傾げれば、ヴィヴィオが答えてくる。

 

「え、だってアインハルトさんや先生の様に過去の記憶が、オリヴィエさんの記憶が存在していれば私だって同じような話題で盛り上がれたり、懐かしい話をできたじゃないですか。だから私も欲しかった―――」

 

「あ、それがあると私やヨシュアが酷く拗らせるのでやめた方がいいです」

 

「オメー、既に割と拗らせてるの気付いてないの???」

 

 ハイディが此方へと鋭い視線を向けてくるので、ザフィーラを正面に押し出してその大胸筋でガードする。ノリがいいのか軽く大胸筋をピクピクさせているあたりがポイントになっている。ただヴィヴィオは拗らせる、という言葉の意味をよくわからないらしい。なるほど、と思いながら頷き、フェイトを指さす。

 

「ああいうのは百合を軽く拗らせて男が見つかってない女って言うんだ」

 

「え、そこで私を例に出すの? 初対面なのに!? というかこじらせてなんか……待って、なんでヴィヴィオはそこでなるほど的な表情を浮かべてるの! ねぇ!」

 

「だってフェイトママ彼氏の一人もいないでしょ」

 

 ヴィヴィオの言葉がフェイトを殺した。そのまま崩れ落ちるフェイトの姿を誰も助ける事はなく、合流の時間は少しずつだが迫って来る。その度に新たな顔があらわれ、

 

 そして、カルナージでのオフトレへと向けた移動が始まる。




 息抜きに更新。最近はクッソ真面目に一次の設定資料を構成中でそれに時間を取られている感じで。興味のある方は活動報告を確認な感じ。カクヨムでやるか、なろうでやるか実際悩みどころ。

 それはそれとして、ベルカ大集合

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