Belkaリターンズ   作:てんぞー

27 / 30
修羅舞踏-3

 すべての悲劇、そもそもの始まりはオリヴィエが聖王核を母親から強奪する様に受け継いで生まれてしまったことが原因なのだろう。その時、全ての歯車が狂いだしたのだろうとは思う。少なくとも、それがエレミアとしての見解だった。当時の聖王はそれを酷く悲しみ、そしてそれを忘れる様に政治に埋没した。そうやって聖王家は、ひいてはベルカは更に大きく繁栄し、多数の国家の同盟盟主としての地位を入手するに至った。だがそれは性急なものだった。当時の聖王、たった一代でそれをなしたのだ。

 

 反発しない者がいないわけがない。

 

 見えないところでガスが蓄積され始めた所で―――王女としては欠陥品のオリヴィエはシュトゥラへと留学の名目で送り出された。シュトゥラは聖王家から見てもかなりの強国であり、若いうちにオリヴィエとクラウスを合わせておけば後に政略結婚でくっつける時楽になるのではないか、と聖王が判断したのだ。そして両腕のないオリヴィエに両腕を与える許可を出し、オリヴィエはシュトゥラへと人質に出された。

 

 そこでオリヴィエは得難い友を得る。武術と義手をくれたヴィルフリッド・エレミア、シュトゥラの王子クラウス・イングヴァルト、そしてシュトゥラの森に住まう魔女のクロゼルグ。彼らと共に留学という名目で騎士学校へ学びにきたオリヴィエはベルカの王宮では学ぶ事のできなかった、友と遊ぶ時間や、その楽しさ、そして()()()()()()()という気持ちを芽生えさせる。それはある意味、狙われた事だった。何もしない小娘が酷い世界から大事なものを得る様な事があれば、それに対して執着心を覚えるだろう、そういうやり口だった。

 

 だが当時、それを理解できる彼女の味方はいなかった。

 

 ヴィルフリッドはクラウスに恋心を抱きながらもオリヴィエとの友情を感じ、青春の日常を過ごしながらもオリヴィエの才能を認め、その拳を振るう術を教える事に楽しさを覚えていた。クラウスはその心がオリヴィエに惹かれて行くのを理解しつつも、まだ青年でしかなく、未熟である彼では政治の世界の闇は深すぎた。そしてクロゼルグは純粋に幼かった。幼すぎた。彼女は物語の犠牲者役でしかなかった。

 

 オリヴィエの近くにいて、彼女を理解する者がいても、シュトゥラから離れたベルカの地で彼女を理解し、守ってくれる存在はいなかった。だから悲劇の盤面はドンドン突き進んで行く。水面下でガスがドンドン蓄積されて行き、オリヴィエの見えない世界でそれは爆発した。

 

 聖王家に対して戦争を売る国家が出始めた。その同盟国であるシュトゥラは燃やされ、クロゼルグは怪我を負った。その事に対して心を痛めたオリヴィエはクラウスやヴィルフリッドの声を無視して即座にベルカへと戻り、父である聖王に対してゆりかごを使う事を求め、それに自分を使う様に頼み込んだ。

 

 ―――聖王は涙を流しながら笑顔でそれを喜んだらしい。

 

 この時点でオリヴィエの運命は確定した。

 

 もし、城に誰か、彼女の味方がいれば、聖王の意向を変えることが出来れば、説得することが出来れば、或いはオリヴィエを強引に連れだせるような人間がいれば、話はまた別だったかもしれない。だがそれに対して聖王は先手を打ってきた。

 

 オリヴィエが平和の願いと小さな不安を継げた相手、ヴィルフリッドを警戒してまず手練れの騎士で彼女を囲み、逃げ出せない様に適度に暴行を加え続けながら幽閉した。万が一オリヴィエを説得できる存在がいたとすれば、或いは彼女を武力で止める事が出来たのは、同じ流派を知り尽くしたヴィルフリッドだったのだろうから。だから聖王はまずヴィルフリッドを幽閉し、オリヴィエから彼女の存在を隔離した。

 

 次に聖王はクラウスを騙した。次に誰か、何かをするのであればそれは間違いなくクラウスだっただろうから。恋心とは時に人を大きく変える。それを聖王は自分自身で良く理解していた。だから聖王はオリヴィエは城でおとなしく警護されており、荒れている現状に対して非常に悲しんでいると虚報を流した。生来の正義漢であるクラウスは疑いもせずに、それが少しでもオリヴィエの慰みになるのであれば、という理由から最前線に出た。

 

 そこから地獄は始まる。

 

 先制攻撃でシュトゥラを焼き払ったのは禁忌兵器だった。現代のミッドチルダで禁止されている()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。例えば躯王。誰がそう名付けたか、始まりは一体のゾンビ。そいつが死ぬとき破裂した細菌によって感染が発生し、十数人がゾンビになって、そいつが次の犠牲者を生み中で、始まりの人は自分と殺した相手の死肉を集めて融合し、更に醜悪な怪物として肉を圧縮して人の形を保ったまま戦い続ける。何が酷いかというと躯王は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だろう。地獄の様な世界の中でも自殺してもそれで犠牲者が増えるだけ、安息の地は戦場で禁忌兵器によって焼却された時ぐらい。

 

 そんなレベルの兵器が普通にぶっ放されるのがベルカ騒乱だった。だがこれはまだ1戦場規模だったから()()()()()と言える。ゆりかごは禁忌兵器の中でも最悪と呼べる類の兵器であり、ロストロギアの製造を行っていたと言われる古代ベルカであってもロストロギアと言われていたブラックボックスの塊であり、

 

 聖王家はその破壊力を理解するも()()()()()()()()()のだ。

 

 着々とオリヴィエの生贄が決まって行く、一番最初に動いたのは怪我をしているクロゼルグだった。元よりクラウスやオリヴィエ、ヴィルフリッドという人体の限界に挑戦した武人達と一緒にいた彼女は強く、そして何よりも賢かった。故にクロゼルグは誰よりも先に、一番信頼し、そして好きだった男へ―――つまりはクラウスへと知っている事、

 

 オリヴィエがゆりかごに乗ろうとしている事を教えた。

 

 情報が規制されていたクラウスとは違い、クロゼルグは自由に話を集めることが出来た。それ故に、彼女はクラウスにその言葉を伝え―――悲劇の夜が訪れた。

 

 戦場からベルカへと直行し、ゆりかごへと到着したクラウスの前にいたのは完全に覚悟を決め、ゆりかごへと搭乗する段階だったオリヴィエの姿だった。ゆりかごへの適性の低いオリヴィエはゆりかごを動かせば最後、確実に死ぬと言われていた。そして聖王家には当時、もっと適性の高い人物がいたのは確かだ。だが聖王家の王女が命を使って戦争を止めた、という話題性は当時の聖王にとっては素晴らしい状況だった為、誰もオリヴィエを止める事をできず、実行に移されていた。

 

 オリヴィエの覚悟は決まっていた。

 

 だからクラウスもやる事を決めていた。

 

 暴力でオリヴィエを殴り倒し、連れ去って逃げる、と。完全に王子の立場を捨てるし、国を捨てるし、戦争からも逃げるだろう。だがクラウスはそれでもいいと判断した。オリヴィエのためなら自分の人生のすべてを投げ捨ててでも良いと思ったのだ。故に倒して、強引にに連れ去る。それを実行するためにクラウスは拳を作って、オリヴィエへと向き直り、

 

 ―――掠り傷さえ与える事も出来ずに敗北した。

 

 救国の使命を背負ったオリヴィエの覚悟は()()()()()()()()のだ。メンタル面ではクラウスの覚悟とそれこそ引けを取らないほどに。そしてオリヴィエの才能は軽くクラウスを凌駕しており、聖王の鎧と呼ばれるレアスキルの使い方を彼女は直感的に完全に理解していた―――初めからクラウスが本気のオリヴィエに勝てる様な道理は存在していなかったのだ。そして倒れたクラウスの前で、

 

 オリヴィエはゆりかごに騎乗した。

 

 ―――そして本当の意味でのベルカ騒乱が始まった。

 

 聖王家とゆりかごの参戦―――それは最悪クラスの禁忌兵器の実戦投入という結果だった。次元世界そのものを滅ぼすという兵器を前に恐れた敵対国家がとる手段は一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。ゆりかごの参戦前は戦場クラスの禁忌兵器だったのが、ゆりかごの参戦によって次元世界規模の禁忌兵器へとランクアップした。

 

 実質、戦争から歯止めが消えた瞬間だった。

 

 人を殺す事ではなく、()()()()()()()()を目的とした兵器が台頭し始める。その中でオリヴィエを救えなかった者達がそれぞれの動きを始めた。

 

 まずゆりかごの稼働によって価値のなくなったヴィルフリッドは解放された。オリヴィエの確定された死に涙を流しながらクラウスの結果を知り、恋心がありながらも何も出来なかった己にはもはや声をかける資格もないと、戦争を早期に終焉させる事を目的として敵対する指導者を皆殺しにする為に動いた。

 

 クロゼルグは終始子供であり、庇護される存在であり、悲劇の被害者だった。それを嘆いた彼女は魔術を磨き、それを遺伝的に伝えながら記憶を伝えて行き、今日にこういう悲劇が起きない様に子孫に伝えて行くシステムを生み出し、過去の幻想から逃げる様に姿を消した。

 

 そしてクラウスはキレた。王子という立場を利用した最前線に立ち、生き残る様にしながらも一番多く敵を殺せるように動き、帰り道のない修羅道へと堕ちた。相手がどんな達人、化け物であろうとも、手段を選ばず絶対に殺し、突破し、そして生き抜いた。

 

 そうやってオリヴィエと関わった、彼女の友人たち三人は全員人生が狂った。

 

 戦争はゆりかごが動いてから数年継続した。まずゆりかごが敵国を次元世界から消し去った。同時にベルカも新たな敵の禁忌兵器によって消し飛び、ゆりかごはその敵を消し飛ばし、報復にシュトゥラが地図から消えた。連鎖的に滅ぼし、滅ぼし返す流れでベルカの大地も、シュトゥラの大地も、跡形もなく消し去り、ゆりかごもすべての殲滅を終わらせると大地に落ちて眠りについた。クロゼルグは秘境で人にかかわらず生きる様になり、子孫を残すために男を見つけて孕み、ヴィルフリッドは一族の義務として一族の男と子供を作り、そしてクラウスは王族の義務として子孫を残した。

 

 文字通り、後に何も残さず、記録やそれを残す事の出来る人間のほとんどさえも滅ぼし、古代ベルカの騒乱は終焉した。

 

 残されたわずかな人々はゆりかごで敵を全て滅ぼし、そしてそれを成す事で死んだオリヴィエを最高の聖王として崇め、その言葉だけがオリヴィエに関して後に残った。

 

 

                           ◆

 

 

「―――子供を残した後のクラウスはそのあと、血の匂いが忘れられず、常に戦場を求めて放浪し、遺伝子にその全てを刻んでどこかで果てたとか。えーと……此方から補完できるのは大体これぐらいですね。ヨシュア、そっちはどんな感じですか?」

 

「お互いに確認できる事はこっちでも同じく記憶している。ヴィルフリッドは一族としての義務があった分自棄になったりする事はなかったけど、アレ以降は一度も笑みを浮かべる事はなく、死体の様に流されて生きてたな。クロゼルグは……まぁ、また会う時があったら聞いとけばいいか。まぁ、そんなことがあった俺らですが、こんなふうに時代を超えてまた仲良くなれました」

 

「……めでたしめでたし、ですね?」

 

 と、そこでホロウィンドウを通して情報共有しながら話をしていたのだが、機内を軽く見渡す。

 

 そこに広がっていたのは葬式会場だった。言葉のテロってここまでダイレクトアタックになるんだね、という感じだった。話を聞いていた者は誰もが俯くか涙を流し、ヴィヴィオやリオ、コロナに至ってはワンワン泣いてしまって年長組にあやされる最中だった。機内で盗み聞きしている乗客が他にも数人いたようで、同じように顔色を青ざめさせながら無言でうなだれている姿が確認できるし、これ、下手なテロよりもよっぽどテロいんではないのか、とテロの新機軸を切り開きそうになる。

 

「うむ、懐かしき地獄の風景を思い出すな。話を聞いている時に目をつむればあの頃の風景が思い出せる」

 

「あの頃は基本的に一撃で敵を殺しながら消し飛ばしでもしないと死体で邪魔しに来るからな、炎熱の変換資質を持つ者は結構重宝されていたな―――私とか」

 

「ヴォルケンリッターのメンタルはバケモノか」

 

 一部がヴォルケンリッターの慣れ切った様子に戦慄している中、ヴィヴィオがひときわ大きな声で鳴き声を響かせる。

 

「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛! よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛! 時代を゛超え゛て゛ま゛た゛仲良く゛な゛れ゛て゛良か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛!」

 

「お前はそろそろ煩い。てぃ」

 

「あだっ」

 

 椅子を軽く乗り越える様にヴィヴィオの額にデコピンを叩き込むと、ヴィヴィオがハンカチで目元を拭いながら片手で額を抑えていた。悲しんだり感動したり色々と忙しい奴め、と軽く溜息を吐きながら笑みを浮かべ、

 

「いいか、これに懲りたらオリヴィエの記憶があれば……なんて絶対思うんじゃねぇぞ? いろいろあったけど現代は比較的平和でやってるからな。拗らせてるのは俺たちで十分だ。記憶(こんなもの)がなくても笑って生きる事は出来るんだからな。それよりもほら―――」

 

 窓の方へと指させば、次元航行から通常航行空間へと出た窓の外にはカルナージの自然の姿が映し出されていた。どこまでも広がる蒼穹、大地を埋め尽くす緑、そしてそのままの姿で暮らしている野生生物たち。ほんの一部分だけ観測と生活用に開発されている以外は無人世界であるカルナージ、その美しい自然の姿が窓の外には広がっていた。

 

「滅びたクソの様な歴史よりも自然を楽しもうぜ」

 

 無人世界カルナージへ、こうやって俺たちは葬式の様なムードで到着した。




 このカルナージ行く流れが凄い修学旅行を思い出させる。何、てんぞーの修学旅行の思い出だって? 貴様らそんなことが聞きたいのか?

 パンツ一枚姿で頭にパンツを被ったポーランド人の後輩が夜、ベッドから抜け出して床を転がり始めながらピスタチオをスパイダーマンの糸発射のポーズで投げ飛ばし「ダーマ! ダーマ!」とか言いながら転がってたら教頭の足に転がりぶつかってそのまま連行された事かな……。

 転がりながら教頭の横を進んでゆく姿はまぎれもないキチガイだったてんぞーの修学旅行の思い出。まって、これ俺の思い出じゃなくて後輩の思い出だぞ。

 そんなことを言いつつまた次回。えぇ、ベルカは地獄でした。でもまぁ、終わった話なのでさっくり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。