Belkaリターンズ   作:てんぞー

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遭遇-3

 ―――戦闘とは初撃で決まる。

 

 相手を殺す時は一撃目で致命打を与える―――それは二撃目からは勝率が下がって行くからだ。戦いは早く終われば終わるほど、お互いの手の内を見せないで済む。その為、一撃目で先制を奪い、必殺を叩き込むのが必須になってくる。特にエレミア、つまりはエレミアン・クラッツは一撃で必殺する事に優れている動きだ。元々はそうでもなかったが、戦乱ベルカにおいては戦争という事象に対応する為、必殺しながら次を必殺する、という風に動く必要が出来上がり、そういう方向へと進化した。拳や得物に消滅効果を乗せて放つようになったのもそれが理由だったりする。

 

 ―――つまり、初撃必殺だ。エレミアン・クラッツにもこの技術はある。

 

 それが()()()()()だ。簡単に言ってしまえば相手の呼吸の間隔を認識し、吸うのと吐く、その間に絶妙な刹那の間、認識に生まれる死角へと潜り込む事によって察知が不可能、理解が不可能な攻撃を可能にするという理不尽な技術になる。同じ系統の技術を持っていない限り、絶対に回避できず、即死させる。

 

 先制必殺の技術。

 

 それをジークリンデと同時に行いながら拳と拳を受け流すように弾き合わせた。呼吸を同時に盗むという事は合わせる行為でもある。故に、同じ技術を持っている相手には無論、無力化される。それを知っていても使うのは―――ただたんに遊んでいるからだろう。

 

 殺す気で。

 

 右拳と左拳がぶつかり合い、体を横へと飛ばしながら袖を振り、アクセサリーを手のひらへと飛ばし―――魔力を流して待機状態からアームドデバイスの姿へと持って行く。それと同時に足を大地に付けたジークリンデがインファイトを仕掛ける為に踏み込んでくる。素早く、軽く、そしてエレミアン・クラッツらしく必殺を狙って拳にイレイザーを乗せて踏み込んでくる。

 

 迎撃する様に踏み込みながら()()で斬り抜く。

 

 それを目撃したジークリンデが迷う事無く飛び越える様に跳躍し、裏側へと回り込み、着地する。

 

「にーちゃんにーちゃん! 今の殴ってたら肩まで持っていかれてたんやけど!!」

 

「やったね! 義手を装備できるよ! 聖王(ナイチチ)と一緒っ!」

 

「テラ不敬やでにーちゃん!」

 

 罰せるものなら罰して見ろよ、と咆哮を住宅街に響かせながら笑い、踏み込んでくる。右へと薙ぎ払う斬撃をジークリンデが一本踏み込み、上半身を後ろへとスウェイさせ、その反動で動きを加速させながら更に深く踏み込んでくる。剣が入り込めない近距離へと、リアクションがとりにくい距離へと踏み込んで、拳を握りしめてくる。

 

 が、それよりも早く、片足を踏み込んだジークリンデの膝に乗せていた。

 

「―――」

 

 その状態から放たれた回し蹴りが拳を横から叩き、ジークリンデを後ろへとわずかながら押し込み、着地しながら斬撃を袈裟に放つ。横へと重心をずらし、それに引っ張られるように地面を削りながら移動するジークリンデが回避し、カウンターをすぐさま放ってくる。が、これも牽制打だと理解している。初撃で殺せなかった分、最後の一撃へと向けてそれ以外全てが牽制になるのだ。故に互いに殺す為の一撃を叩き込む為の探る状態に移る。

 

 それでも、放つ一撃は()()殺してもいい様に、必殺のままになっている。

 

 払う刃がジークリンデを強制的に後ろへと押し出す。その隙を狙って踏み込んでくるジークリンデに合わせる様に拳を左手で迎撃しつつ、右手の刃を逆手に握り直して踏み込み、首を刈る動きで素早く振う。攻撃の動作を阻害されたジークリンデが後ろへと押し出され―――その動きを追い詰める様に踏み込む。その一歩を踏み込んだ瞬間、

 

 ジークリンデが呼吸を奪って背後へと一瞬で回り込んだ。時間をかけても戦況がループするだけのだと数手先を読み、理解したのだろう―――既に拳は振り上げられており、叩きつける動作に入っている。合わせられた呼吸を外し、そしてこちらから合わせる様に呼吸を変える。直後、意識の合間から潜り込む領域を反射行動の領域へと切り替え、エレミアの神髄を封殺しながら反応できない速度で後ろへと向かって振り返る事もなく斬撃をバックハンドで放った。

 

「へぶしっ」

 

「安心しろ、みねうちだ」

 

 剣の腹を顔面から股下まで抜く様に叩きつけられ、蠅叩きによって潰された蠅の様な姿を見せながらジークリンデが地面に倒れる。倒れた愚妹の背中の上に腰かけつつ、宣言する。

 

「兄より優れた妹が存在するものか愚妹め……!」

 

「あぁーん、負けてもうたー」

 

 尻の下でジタバタするジークリンデから退く気配を欠片も見せずに、勝者の権利として妹を椅子代わりに使う事に愉悦を感じる。今、ここで、愚かな妹を倒して一家の最強の存在は己であると高らかに証明したのだ―――出来なかったらこの数年間、何のために武者修行に出ていたのだろうか、という話になるのだろうが。ともあれ、戦闘時間は長くても十数秒程度だった。ジークリンデと自分との戦いにしては()()()()()()というのが正直な感想だ。つまり成長したのは自分だけではなく、

 

「お前も強くなってんだなぁ」

 

「そらそーやで、なんて言ったって天下のエレミアやからな。まぁ、滅亡寸前に珍種やけど」

 

「絶滅危惧種だからプレミアがつくぜ」

 

「マジか。にーちゃん売りとばそ」

 

「先にお前が売り飛ばされろ」

 

 サングラスをかけ直しながら視線をジークリンデから外し、ヴィクトーリアの方へと向ければ、笑顔と呆れの様なものが返ってくる。だけどとりあえずは使っていたアームドデバイスへと視線を向ける。今、ジークリンデと戦うのに使っていたデバイス、その刀身は大きく抉れていた。攻撃を食らう刹那に消滅の特性を使って消し去って対処しようとしていたのだが、それが完了する前に叩きつけた為、中途半端に抉れたのだろう。まぁ、こうなってしまえばもう使う事も出来ない。安物、量産品だから再生能力もなく、これで完全に死んだだろう。投げ捨てる。

 

「ちょっと! 人の庭を汚さないでくださいよ!」

 

「悪い悪い―――特にそうとも思ってないけど」

 

「本当に屑ですね!」

 

 いえーい、と言いながら立ち上がると、その隙に抜け出してジークリンデが後ろから、首からぶら下がる様に手を回してくる。それを遊ぶように軽く振り回しつつ、ヴィクトーリアへと向けて歩きだし、彼女の前で動きを止める。

 

「さあ、第二ラウンドだ! 勝ったらなんでもいう事を聞かせるルールでな!!」

 

「勝てる気が欠片もしないので遠慮します。それに前見た時よりも鋭く、そして早くなっていますし筋肉もついているようですし―――本当にそれで魔法使っていないかどうか疑わしいんですけど……」

 

「ん? あぁ、前にも言ったけど俺は()()()使()()()()()()()()からな。魔法は完全に切り捨ててるわ。その方が強くなれるって解ったしな。実際、それで愚妹を何度も倒している訳だし」

 

「ほ、本気の本気ならう、ウチ負けないし……」

 

「声が震えてますよー」

 

 ヴィクトーリアの言う通り、俺は魔法を使用しない。別段無才という訳ではない。魔力量に関してはB+あるし、空戦適性とカートリッジに対する適正に関しては最高クラスの結果を出している。その代わり射撃系の魔法や支援は死んでいるが、強化の魔法などに関しては人並の才能はあるし、使えもする。別に出来ない訳じゃないのだ。ただ使わない、というか選択肢から除外している。相手が完全に魔法でのみ殺す事の出来る魔法生物でもない限りは、魔法は一切使わず、肉体とその時の武器のみで戦うと決めている。

 

 実際、そうやって自分の戦いを制限してから強くなっているし、これが一番自分に合うスタイルだと確信している。

 

 それに魔法に頼り過ぎるとそれがキャンセル、封印、破壊された場合に動揺したりパフォーマンスが落ちる。戦乱ベルカ時代では魔法そのものを封印する技術なんて存在した―――その記憶を持っている人間として、魔法に頼る事は純粋に恐ろしいのだ。何せ、魔力を操作できなくなるだけで封殺されるのだ。

 

 ―――だったら魔法を捨てれば良い。

 

 どんな環境、どんな状況でも手段を選ばずに、確実に必殺して戦場を蹂躙するのがエレミアン・クラッツだ。魔法を使った戦い方があれば、魔法を使わない戦い方もある。

 

「エレミアの500年を超える歴史、その経験の中には魔法での戦い方、魔法を使わない戦い方、体の動かし方、技術、判断―――様々なもんが叩き込まれてる訳だが、それ全部を適応するのって人間の一生は短すぎるんだよなぁ。だから俺はそこらへん、一番自分に必要とする奴以外は切り捨てて、必要な技術と経験を徹底的に体に馴染ませたからな。魔法を捨てたおかげで逆にスムーズに強くなれたわ」

 

「神髄はそこらへん、オートで適切な経験と技術をピックアップして体を動かすモードみたいなもんなんよやな。全てを体になじませるには一生は短すぎる、だから勝手に最適化して動くモード組み込めばいいやんけ! な感じで」

 

「狂気のベルカ技術だよな。次元一、狂ってる文化だわ」

 

「たぶんこの会話、初めて聞いた人は正気を疑うんでしょうねぇ」

 

 エドガーがヴィクトーリアにしっかり、とエールを送っている。だが考えてくれ、この地雷いっぱいの一族に生まれてしまった自分とジークリンデの事を―――と思ったが全力でタダメシ食って生活しているのでかなり良い人生を送っている事に気が付いた。

 

「女の金でメシ食って……女の家に泊まって……好き勝手女の金で生活している……」

 

「にーちゃん、なんかウチらヒモみたい!」

 

「マジか、実際ヒモだしな。雷帝ちゃん! ずっと前から好きでした!」

 

「えっ!? あの、その―――」

 

 突然話を振られたヴィクトーリアがその言葉に顔を赤くする。その姿を見て、ジークリンデと顔を合わせる。これ、押せばそのままいけるんじゃないのか? とたぶん同時に疑問に思ったところだが、エドガーがそれ以上は冗談では済まさない、と視線で警告を送ってくるので、これ以上はやめておく事にする。もし、本気になる時があったらその時にしよう、という事で、

 

「雷帝ちゃんよ、俺はお前がチョロイと色々と不安だぞ? お前、そこらへんのイケメンに好きです、とか言われて結婚詐欺に引っかからない? 大丈夫? エドガーも心配そうな表情浮かべてるよ? 本当に大丈夫?」

 

「も、もう! からかわないでください!」

 

 一応知っている女子の中では好感度ダントツである事は黙っておこう。このチョロさからすると本気にされかねないし、たぶん言ったら最後、エドガーが許してくれないだろう。そうなると好き勝手生きる事も出来ないし―――それにハイディやオリヴィエの件もある。恋愛やら恋人やら、そういう事は全部めんどくさい事にケリを付けてから考えたい。

 

 チラリとエドガーを見る。

 

 セーフサインが出た。良し、と心の中でガッツポーズを取っておく。

 

「しかし―――見ていたら少し闘争心を刺激されてしましましたね。ヨシュア、一手お願いできますか?」

 

 完全に汗の引いた状態でエドガーから数歩離れるとハルバードを此方へと向ける様に構えるので、無論問題ないと返答して新しくデバイスを取り出そうとして―――袖を振っても待機状態のデバイスが一つも出て来ないのを確認する。未だに首からぶら下がっているジークリンデがそれを見ながら口を開く。

 

「にーちゃん、いい加減まともなデバイスでも持ったら?」

 

「えー……」

 

 不満の声を漏らすと、ヴィクトーリアがそうですね、と声を盛らしながら持ち上げたハルバードを下げた。

 

「折角です―――帰還の記念にまともなデバイスを一つ、発注しましょう」

 

「えー……」

 

「なんでそこで不満そうなんですか……」

 

 まともなデバイスは割と高級品の部類に入る。それこそまともなものを要求するなら最低で数十万、グレードの高い物を要求すれば数百万、ハイエンドのカスタムタイプで数千万に突入するらしい。そこまで行くともはや兵器と呼べるクラスだが、

 

「量産品でカスタムされた専用のデバイスぶっ壊すのが楽しいんじゃん!」

 

「さ、専用を発注しに行きますよー」

 

 そんな風に、笑い、とぼけ、そして困らせながら、

 

 ―――再び、このミッドチルダでの日常に帰ってきた。




 若干ヤクザでどこか屑でなんかどっかが外道でベルカ。やはりベルカ。お前が立ちふさがるのかベルカよ。ちなみにこのお話は「てんぞーが自分向けのバトル解説している」という部分もあるのだ。今まで描写や詳細を省いてきた動きや技術を自分で納得できるように解説しているという部分もある。

 趣味の産物なのである。

 エリオが捕食されそうなのも趣味なのである。

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