Belkaリターンズ   作:てんぞー

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遭遇-7

 管理局の取調室、ハイディと横並びに座りながら、ため息を吐きながら盛大にだれていた。少し前まで正面にいた橙色の髪の執務官の姿はない。呼び出され、この部屋から出てしまったからだ。魔封錠を装備されている手前、脱出不可能と考えているのは実に甘いとしか言えないが、無駄に管理局で何かをしたい訳でもないし、だらだらと目の前の鉄のテーブルに上半身を倒してだれていた。あの殴り合いからそれなりに時間が経過しており、喰らったダメージ等は管理局付の治療型魔導士が一気に回復してくれた。砕けた骨以外のダメージはほぼ元通りになっている。ハイディの手首の方も、二日ぐらいで直るだろうとは思う。欠伸を軽く漏らしながら、ぐだぐだとやっていると、ハイディがあの、と声をかけてくる。

 

「……全く不安心配なさそうな姿しているけど、大丈夫ですか?」

 

「ん? まぁ、確かに一般的に見るとかなりオーバーな感じに殴り合ってたけどな―――ぶっちゃけヒートアップすればこれぐらい、そんな珍しい事でもないからな。殺していないし、お互いに納得している部分があるだろ? こういうのは相手に対して損害賠償を要求してくるから拗れるんだよ。適当な理由をでっち上げて、それを通せば管理局もそれ以上追及は出来ねぇよ」

 

 無論、言葉はすぐ横に座っているハイディにのみ聞こえる様に放った―――それぐらいの余裕はある。だからハイディも成程、と言いながら顔を赤くし、俯く。

 

「だ、だから言ったんですか―――その、痴話喧嘩だった、って」

 

「まあの」

 

 カップル扱いにして、痴話喧嘩の結果ガチの殴り合いに発展した―――そういうケースは別段珍しい話ではない。今もどこかで起きている事だ。何よりミッドチルダ、ひいては次元世界という存在そのものが()()()なのだ。潜在的にリンカーコアと魔力を保有する次元世界の住人は魔法という技術を使用する資格を保有している。それ故に、人の本能として、力を振う事を恐れない部分がある。力を使う事に快感を覚える。この次元世界の住人達はなんであれ、魔法という技術を使いたくてしょうがないという性質を持っている。だから割とあるのだ、傷害事件は。そしてだからこそ、管理局の仕事は減らない。

 

 ご愁傷様、無作為に領域を広げるからこうなるのだ、盛大に苦しめ。

 

 そんな馬鹿な事を考えつつ、年ごろの娘らしく顔を赤くしたり、様々な感情を見せるハイディを横目に見る。こういう姿を見てしまうと、殺す気が失せるから困ってしまう。実際、殺して終わらせる、なんて手段はちょっと()()()()様な気もしてきた。困った。殺せる時に殺せばそれで解決だった筈だったのだが―――こうなったら別の手段を用意するべきかもしれない。

 

「しかし初心というかなんというか……ハイディちゃん、もしかして恋愛経験とかないの?」

 

「ま、まだ十六歳ですよ、私」

 

「結婚できるじゃん」

 

 結婚というワードに再び顔を赤くして、それを隠すように両手で顔を隠す。ここまで初心というか、色ごとに対して苦手な娘は久しぶりに見るからなんというか―――心が浄化される。ジークリンデは普通に一緒に風呂に入るし、ヴィクトーリアもヴィクトーリアでそこらへん、普通に恋人になってもいいって感じのオーラがあって困る。やっぱり美少女と言ったらこういう初心で恥じらいのある子がいいよなぁ、何て思ったりする。エロを求めるのは正直風俗にいけばいいんじゃないかなぁ、と思う。

 

 と、軽くハイディをからかって遊んでいる間に取調室の扉が開く。中に入ってくるのはティアナ・ランスターと名乗った執務官だった。溜息を吐きながら中にやってくると、此方へと視線を向けてくる。

 

「親族が迎えに来たから帰っていいですよ。ただしもう二度とこんなレベルまで痴話喧嘩を発展させないでください……いいですね?」

 

「仲がいいほどなんとやら、という事で許してくださいな」

 

「それで許せるなら法律はいらないんだよ」

 

 ティアナの言葉にごもっともです、と答えながら欠伸を軽く漏らし、椅子から立ち上がりながらハイディと共に取調室から出て行く。そのまま、止められることも注意される事も、怪しまれる事もなく取り調べに使っていた管理局陸士隊の支部の外へと出ると、入口正面にはジークリンデの姿があった。その横には公園の駐車場に置いてきたバイクの姿もあり、しっかりと回収してきたらしい。片手を上げて挨拶を送れば、ジークリンデが中指を向けてくる。ナイスガッツしている妹分だ、と改めて思う。

 

「にーちゃーん! どこで女の子ひっかけたん? 騙すのはあかんよ? もしかして寂しかったん? 大丈夫? 結婚する?」

 

「一応血の繋がりがあるっての忘れるなよお前」

 

 立って待っているジークリンデへと接近し、デコピンをその頭に叩き込み、軽く怯ませながら頭を撫でる。そのままハイディへと振り返る。

 

「こいつは俺の妹分のジークリンデ―――ジークリンデ・エレミアな。んでこの緑髪のがハイディちゃん―――」

 

 軽くジークリンデとハイディの事を紹介しながら、視線を空へと向ければ、空は暗くなっており、月が浮かび上がっている。日中はぶらぶらして、昼過ぎには公園でやらかしていたのだから、もうこんな時間にもなるか、と納得する。今日も今日で色々と楽しかったな、と思いつつジークリンデが引っ張ってきたバイクに乗る。慣れた様子でジークリンデも後ろに乗り、腰に手を回してくる。魔道エンジンが搭載されているバイクは燃料として魔力のみを要求してくるため、非常にクリーンなエネルギーによって動いており、振動も少なく、快適な乗り物だ。最もこのご時世、快適じゃない乗り物の方が少ないんだろうが。

 

「っと、そうだった。ハイディちゃんどこに住んでるよ。3ケツになるけど送ってくぜ」

 

「3ケツは事故率高いけど我慢してーな!」

 

「事故前提ですか―――というか陸士隊の人睨んでますよ」

 

「いいんだよ。これぐらいだったら誰だってやってるし、注意したところで減らないって解ってんだから」

 

 2ケツ、3ケツなんて法整備を行っても消える事のないヤンキー魂さえあれば即座に実行に移されるのだから、注意したところでどうしようもない。それに今のシステマライズされた環境で、事故は機械的に回避が可能なので、3ケツしたところで事故は起きない―――普通は。そう、普通は。意図的にそこらへんのセーフティを全部切っている我がバイクに関しては当たり前の様に事故を起こしてくれるのだ。まぁ、意図的に起こしたい訳ではないのだが。

 

「んで、どうする?」

 

「……えーと、ではサウスグラノス駅まで宜しくお願いします」

 

「あいよ。ジーク、メット取ってもうちょい詰めろ」

 

「あいさー!」

 

 ジークリンデがバイク後部座席からスペアのヘルメットを取っている間にハンドルに引っ掛けてあるヘルメットを手に取り、サングラスと交代する様に被る。ヘルメットをかぶり、後ろに乗るジークリンデとハイディが身を寄せる様に後ろに乗ったのを確認してからバイクのエンジンに魔力を注ぎ込み―――動かす。

 

 エンジンの音を一切響かせずに静かにバイクに命の火が灯る。蹴り出す必要もなく、両足をバイクに乗せてハンドルを握れば加速しながら前進し始める。管理局前から公道に出て、バイクに搭載されているナビゲートシステムを起動させる。片手でホロウィンドウを操作して目的地のサウスグラノス駅をマーキングしたら、そちらへと向けてスピードを上げながら一気に突き進んで行く。

 

 春とはいえ、夜になると少しだが涼しく感じてくる―――特にバイクで夜風を全身で浴びていれば、それも強く感じる。だがその感触に心地よさを感じる。それが好きで、風を体に感じるのが好きで風圧無効化の術式がバイクには搭載されていない。少しでも長く夜風に当りたいと感じつつも、やるべきことがあるし、十分に遅い時間だ。

 

 ハイディを送り届ける為に真っ直ぐと最初の目的地へと向かう。

 

 

                           ◆

 

 

「―――本日は色々とお世話になりました」

 

「おう、俺も楽しかった。手首が治ったらまたデートしようぜ」

 

「その時はまた全力でお相手させていただきます―――おやすみなさい、ヨシュア」

 

「おやすみハイディ」

 

 駅前から手を振りながら、定期券を使って駅の中へ向かうハイディの背中姿を見送る。その姿が完全に駅の中へと消える前に、ハイディが一度振り返って手を振ってくる。それに対して軽く手を振り返し、完全に姿が言えなくなるまで待ってから駅から視線を外し、バイクの方へと視線を戻す。バイクを椅子代わりに座っているジークリンデが軽く胡坐を組む様な姿勢を取っており、膝に頬杖をついている。その表情は若干つまらなさそうなものだった。

 

「―――で、にーちゃん、あの子、なんなん?」

 

「お前が本人がいなくなるまで待つというデリカシーが存在しているとは割と驚きだったわ」

 

「にーちゃん」

 

 少しだけ、真面目な色を含んだジークリンデの声だった。どう答えたものか、そう軽く悩みながら歩いてジークリンデの方へと近づくと、言葉が続いてくる。

 

「別にさ、にーちゃんが何をしようが拘束したい訳やないからあまり口を出したりせーへんよ。にーちゃんはなんだかんだで大人やし。ウチが心配するだけ無駄な所があるし。―――でもな、にーちゃん血の匂いしてると心配するで、ウチ? もう家族もにーちゃんとウチしか残ってへんし。そこらへん忘れんでほしーな」

 

「……」

 

 ジークリンデのその言葉に軽く息を吐きながら近づき、そして優しく、頭に触れ、撫でる。そうだ、もう一族―――いや、家族で残っているのは自分とジークリンデの二人だけだ。何をどういおうとも、ヴィクトーリアは血族の者ではない。ジークリンデにとって純粋に家族と呼べるのは、自分、一人だけなのだ。だから俺が死ねば―――天涯孤独の身になる。

 

 だから頭を撫でながら言う。

 

「どうしたジーク―――生理痛か?」

 

 無言の腹パンがカウンターに帰ってきた。割と本気だったらしく、凄まじい衝撃が腹に伝わり、思わず腹を押さえて蹲る。片手でタンマのサインをジークリンデへと向けつつ数秒間、蹲ったまま腹を押さえ、呼吸を整え、

 

「良し! ふぅ! ふぅ! 復活! ふぅ!」

 

「にーちゃん、真面目な話やで、一応。デリカシーっちゅうもんがないんか」

 

「ババァもジジィも死んで誰がお前に性知識のアレコレを教えたと思ってんだよ」

 

「そういやぁ今更やったな」

 

 エレミアは放浪の一族だ―――つまり学校とかには行かないし、必要な知識は先祖の記憶を継承し、継承されなければ親から教わる。親は全員死んでいる。戦闘能力のみを継承したジークリンデには生活に関連する知識が全く存在しなかったため、それを教えたのが自分だったりする。なので超今更なのだが―――まぁ、少しだけ、真面目な空気は紛れたから、それでいいだろうと思う。

 

「ふぅ……あんな、愚妹よ。お前、にーちゃんに勝てた事あるのかよ」

 

「この前早食いで勝ったやん」

 

「そういう話してるんじゃねぇよ……! 面倒くせぇから正直に言うけど、アレ、イングヴァルト」

 

「お、イングヴァルト(ヘタレ)の血筋、現代まで残ってたんか。ヘタレ過ぎて告白出来ずに戦場で死んで血筋が途絶えるんじゃないかなぁ、ってウチ思ってたんやけど」

 

「お前、時々俺よりも酷い時があるよな。俺は将来が心配だよ」

 

 ため息を履きながらヘルメットをバイクから取り、ジークリンデのも取って、その頭にかぶせる。自分のヘルメットも装着してからバイクにまたがり、しっかりと腰を掴んでおけ、と指示を出しておく。背中に抱き付くジークリンデを感じつつ、

 

「まぁ、まかしとけ―――俺は夏休みの宿題は初日に全部燃やすタイプなんだ」

 

「それ、安心してえんやろか。……まぁ、いいや! にーちゃん楽しそうやし。楽しいなら悪くはないんやろな。ただ、あんまし怪我して可愛い妹を心配させたらあかんよ?」

 

「へいへい」

 

 もう少し家族サービスをするべきかどうか、そんなくだらない事を悩みながらバイクのエンジンを起動させ、

 

 そして帰るべき場所へと向かって、姿を進めた。




 ハイディちゃんもノリが良くなってきたな。一番ノリがいいのは愚妹ちゃんだけど。某ランスター氏とは長い付き合いになりそうな気がする……逮捕的な意味で。

 これをvivid作品と言い張る勇気。ベルカ二次と言った方が納得しそう

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