このすば世界で趣味と実益を兼ねた魔法武器屋を目指してみる(by元魔王)   作:北南西東

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プロローグなようなエピローグのような

 

 稲光が轟き、闇に包まれた城を照らす。その城は日食のみ姿を現すと言われた城であった。封印が解ける、と。

 だがそれは遠い昔の話だ。今は日食だろうが聖剣を持ってようが、勇者と呼ばれる連中が来る事は無い。来れないのだ。何故なら。

 

「世界征服達成なんてやるんじゃなかった……」

 

 城、魔王城の玉座に座る青年は頭を抱えて一人呻く。

 そう、彼こそは魔王。世界征服の野望を持ち、恐怖で支配する魔の頂点であった……十年くらい前までは。

 魔王として数多の配下と共にこの世界に宣戦を告げ、一大戦争を起こし――結果、成し遂げてしまったのだ。勇者全員を返り討ちにし、叩きのめし、国々を滅ぼして世界征服を完遂した訳である。

 さて、そんな恐怖の大魔王。彼は世界征服を完了し、後は好き放題出来ると思った。だが、世の中そんなに甘くは無い。

 溜息を吐き、ちらりと脇の机を見る。そこにはこれでもかと仕事の山ならぬ山脈がそびえ立っていた。

 国々を滅ぼし、征服が完了すれば、当然その国の王、つまり管理者は魔王となる。いくら植民地とした国だろうと放っぽり出す訳にもいかない。結果、この書類の山々であった。一応、文官も魔王の軍勢には居るが、最終的な采配は魔王が下さなければならない。当然、適当にする訳にもいかず、内容をしっかり見てサインをするまでが仕事な訳だ。……それが世界丸々分となると、魔王に休息など許される訳が無い。

 魔王は悟る。他の世界の魔王が何で世界征服をさっさとやらず、最後に勇者にやられるかを。仕事がしたくないからに決まっていた。

 

「ああ……休みが欲しい……ダラダラしたい……怠惰に暮らしたい」

 

 そんな魔王の呟きを、配下は綺麗に無視。社長の秘書の如く、淡々とスケジュールを読み上げていく。

 

「あちらの方面で川の氾濫があったと。その補償を求めて代表者が五分後に来ますので謁見を。それが終わりましたら、公爵殿と会談。十分後に会議――」

「……いつ私は寝れるのだ?」

「四時には」

「何時起き?」

「四十秒で起きて頂き、決済の書類に目を通して――」

 

 死のう。即座にそう決め、魔王は玉座から駆け出した。「魔王様!?」と叫ぶ声も無視し、一番に窓から空に飛び出ると飛翔を始める。

 魔王の肉体は不滅だ。元々魔王と言うのは一種のバグみたいなものなので、それこそ同じようなチート存在、勇者によってのみ倒される。だが調子こいて勇者を全滅させてしまい、それも叶わない。今や、この世界で魔王を倒そうとするものはいなかった。ならどうするか? 答えは簡単である。肉体を捨てればいい。

 

「肉体を全部、霊化してやる……! 転生だ! 次の人生にワンチャン賭けてやる!」

 

 質量を分解し、まるっと精神体に作り変える。変換した質量分だけドエライ霊力の魂となるが、そこはそれこれはこれだ。重要なのは魂となれば転生のチャンスがあると言う事である。そこでやり直すのだ。そう。

 

「二度と……! 二度と魔王なんぞやらないぞ私は! 次の人生こそは素晴らしい人生にしてやる――!」

 

 「魔王様――!」と事態に気付き、追っかけて来た配下の軍勢を無視し、魔王は呪文を唱え、己が術を完成させて行く。一世一代、最高の魔法だ――自殺の魔法なのが馬鹿らしいが、何解脱とかそんなもんだろう。

 宗教関係者が聞けば容赦無く罵倒されそうな事を思いつつ、魔法を極め、そして。

 

「さらば世界よ! 次は幸せになって見せるぞ――――――!」

 

 魔王は光となって散ったのだった。

 

 

「…………」

「…………」

 

 そんな訳で魔王は気付いたらそこに居た。豪奢な神殿のような場所である。そこで顔引き攣らせた白銀の髪の美少女と対面していた。

 暫く魔王は周囲を見渡し、よし上手くいったと頷く。

 

「さぁ女神よ私は不幸にも死んだぞ! 次の世界へ連れて行ってくれ」

「いや待って下さい!? 私何も言って無いですよね!?」

 

 意味不明な魔王の言動に少女、この展開なら女神か。彼女が慌てふためく。だが、彼は知った事じゃないとずずぃと詰め寄った。

 

「時間の無駄だそんなもの! 私は死んだ! なら天国――は無理か地獄か。まぁそれか、生まれ変わって人生やり直しだろう。だがどっちもお断りなので異世界に行かせろ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい待って下さい! 貴方よその世界の魔王ですよね!? て言うか正確には死んでませんよね!?」

「世間一般では死んだと同義なので問題無い! さぁさっさと特典を出せ!」

「特典持って行く気ですか!? 厚かましい!」

 

 魔王が厚かましくなくてどうすると言うのか。いやもう魔王辞めたけど。

 女神は混乱した頭を落ち着かせる為か一度深呼吸。そして、ふぅと息を吐いてこちらに向き直った。

 

「とりあえず自己紹介から。私は女神エリスです。貴方は――」

「元魔王だ」

「……元、ですか?」

「元だ。もう私は魔王をやらん。と言うか私と言うのも辞めよう。うん、俺、俺にしよう。ああ、なんか若返った気がする……!」

 

 魔王やってウン百年。その頃から私とか使っていたので俺と言うと新鮮だ。そんな魔王もとい元魔王をエリスはじぃと睨めつけ、嘆息する。

 

「まぁ嘘は言ってないみたいですね。では、貴方は異世界に行って何をすると?」

「そうだな……物作りがやりたいな。もう政治なんて真っ平ゴメンだ」

 

 ブラック企業も真っ青の魔王なんて喜んでやりたがる奴の気が知れ無かった。世界征服までは楽しいがその後は地獄である。

 それに戦ってばかりだった魔王人生である。物作りなんかやって平和に暮らすのも悪く無い。うんうんと一人頷く魔王にエリスはむぅと考え込み――やがて一枚の紙を渡して来た。異世界移住特典である。そこには『魔法武具作成能力』と書かれていた。

 

「これは?」

「貴方が魔王を辞め、戦いもしたくないと言うなら、この特典を差し上げます。これを持って、ある世界に行って欲しいのです」

 

 エリスはきりっとこちらを真っ直ぐに見て告げ、説明を始めた。何でも物好きな輩が魔王をやって、その侵略で世界がピンチらしい。その世界には数多の死んだ人間を特典付きで送り出しているのだとか。

 

「貴方には送り出した彼等のサポートをやって頂きたいのです」

「無償は断るぞ」

 

 何しろ新しい世界には人生をやり直すと言うか、幸せになる為に行くのだ。何が悲しくてボランティアせねばならないと言うのか。生憎、そんな慈愛精神は持ち合わせていない。

 

「もちろん商売としてで構いません。何せ、特典を持って向こうに行った方々ですから。お金には困ってないかと」

「それはそれでムカつくな。……まぁいい。面白そうなので乗っておこう。しかし、いいのか? 元とは言え、俺は魔王だが」

「いえ……貴方の経歴を見たのですが、世界征服をやった当時は酷いものでしたが、数年後には丸くなり善政を引いたと。出生率もぐんと上がってますし。……貴方、本当に魔王ですか?」

「いい事を教えよう女神よ。世界征服なんぞやったらな。勝手が出来なくなるんだ」

「何ですかその新説」

 

 エリスがくすりと微笑し、魔王は気に食わなそうに鼻を鳴らした。

 

「では行くとしよう。その門の向こう側か?」

「ええ。では――貴方、名前なんて言いましたっけ?」

「名前か……最近魔王としか呼ばれ無かったからな……」

 

 魔王は少し考え込み、ようやく思い出したのか、ぽんと手を打った。エリスへと振り返り、告げる。

 

「ブラウニングだ」

「……意外に普通の名前なんですね」

「知るか。名付けた奴に言え」

 

 ぶっきらぼうな魔王――ブラウニングに笑顔を向け、エリスが頷く。そして門がゆっくりと開いた。

 

「では元魔王ブラウニング。本来なら送り出す台詞もあるのですが、貴方は勇者でも無いので簡単に。次の世界では幸せになれるよう頑張って下さい。応援してます」

「それはどうも。ではな」

「はい。よい旅を」

 

 そうして元魔王ブラウニングは、異世界へと旅立ったのだった。

 

 

「……む?」

 

 門を潜った瞬間、ブラウニングは石造りの街中に居た。馬車が前を横切って行く。それを見送りながら、周りを見渡した。

 どこかの田舎町といった風情の町である。長閑な空気にブラウニングはすぅっと空気を吸った。

 

「異世界か……悪くない」

 

 ニヤリと笑い、道を歩いて行く。さて、これから何をどうするか――と言っても、もう決めてあるのだが。ともあれ。

 

「魔法武具作成か。ん……」

 

 呟き、ふとイメージすると光が手から溢れる。だが、それだけだ。何も起こらないと首を傾げていると、はたと思い付く。武器作成と言うなら――。

 

「材料が無いとダメと言う事か。なら」

 

 ぺたりと地面に手をつく。するとにょきにょきと棒状のものが出て来て、ブラウニングの手の中に収まる。それは剣だった。目を凝らすと、簡単な鑑定能力も付与されているのか大雑把な能力が開示された。

 

 スカ剣(地):何の能力も無い、ただの土属性の棒。叩くとそこそこ痛い。破壊確率100%。

 

「つ、使えん」

 

 どうも材料やイメージはしっかりしなければダメのようだった。あるいは製法も覚えなければならないかも知れない。嘆息し、ぺぃとその辺に捨てる。まぁ何はともあれ。

 

「金が居るな。店をやるにも何にしても」

 

 とりあえず働くかと、適当に人に声を掛けて見るのだった。

 

 

 

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