IS 熾天の器   作:へタレイヴン

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過去

どこにでもある平凡な幼稚園。だからこそ、そこでは彼女は異質であり、異端の存在であった。

彼女――篠ノ之束も、自分が他の子供と違うと言う事は、理解していた。だからこそ、誰とも関わらない為、何時もパソコンや分厚い参考書を見ることで眼を閉ざして、過ごそうと決めていた。だが、ある意味でその行為自体、目立つものには変わりない。幼稚園児がパソコンを持ち歩く姿なんて珍しい。そんな事も気にせずに、束は幼稚園の門をくぐる。

家に帰る気分でもないし結局は何時もの様に、公園の木下でパソコンをパチパチと叩いていると、なにやら上でガサゴソと音が聞こえてくる。

なんだろう?と上を見ると、少年と少女が、そこじゃない方が……とか、こっちの方が良いだろう!!とか口論をしているらしい。その内、一際大きな音を立てて、少年が落ちてきた。

 

「は、春秋、すまない!!だ、大丈夫か!?」

「いたたた。千冬ちゃん、大丈夫だよ。……もう、直ぐに手を上げる癖は治した方が良いよ~?」

 

頭に大きなたんこぶを作っておきながら、落ちてきた少年はあははは。とにこやかに笑い、上に居る幼馴染に手を振って見せた。

いきなり上から誰かが落ちてくれば流石の束も驚き、眼を丸くして驚くしかない。ん?と少年も束に気がついて、ジーっと視線を合わせてみる。

 

「…………な、なに?」

「いや、ほら、猫って視線を反らすと負けって言うから」

「わ、わたし猫じゃないもん!!」

 

慌てて否定すると、少年はキョトンとした後に、そうだね、とまたニコヤカに笑みを浮かべて見せた。その笑みは、暖かく優しい物。

その笑顔を見て、束も少しだけクスリと小さく笑ってしまう。なんだろう、随分と不思議な少年だ。

 

「は~る~あ~き~。私を放って置いて、見ず知らずの女子と話すとは、良い度胸だな……?」

「あ、あははははは。千冬ちゃん、ぼくむずかしいことばわからな~い」

「お前という奴は……。そこに直れ、愛木刀【妖刀・正宗】で叩き斬ってやる!!」

「ストップストップ!!見ず知らずの女の子の前で、そんなの振り回したら危ないって!!」

 

落ちてきた少年と違い、スタッと華麗に上から降りてきた少女が、何処から出したのか木刀を構え、少年を睨みつける。

後ろでゴゴゴと言う効果音と、紅蓮の炎が燃え盛っているのは、眼の錯覚かな……と思いつつ、目の前で始まった追いかけっこを束は声を出して笑いながら、眺めているのだった。

 

 

 

10分ほど続いた追いかけっこは、少年が少女に膝枕をするから、と言う提案で終わりを迎えた。……少年、それで良いのか。

 

「そうか、お前が隣のヒマワリ組の篠ノ之 束か」

「ち、千冬ちゃん、そんなに睨んだら、怖がっちゃうよ」

 

ただでさえ、目つきの鋭い少女――織斑千冬が眼を細めると、本当に睨んでいるようにしか見えない。案の定、怯えた様子の束を背中に隠しながら、少年は更に鋭くなった彼女の絶対零度の視線を受け止める。……まぁ、視線が鋭くなった理由は、千冬の物である筈の少年が、束を庇ったから、なのだろうが。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。僕は、コスモス組の夏冬春秋って言うんだ。よろしくね」

「なつふゆはるあき?……すごく、変わった名前だね」

「あはは、みんなにそう言われるよ。けど、良い名前でしょ~?」

 

少年――夏冬春秋――なつふゆ、はるあき――は先ほどと同じように、あははと笑みを浮かべると、先ほどまで鋭い雰囲気だった千冬も、仕方がないと言った様子で視線を緩めた。

 

「同じくコスモス組の織斑千冬だ。……お前が越してきた近所に暮らしている」

「僕は少し離れてるかなぁ。……そう言えば、束ちゃんは何を見てるの?」

 

ヒョイっと束の持っているパソコンの画面を春秋が覗き込む事、数秒。意味不明な文字の羅列に、引きつった笑みを浮かべながら、束に視線を戻した。

 

「え、ええっと~。……文字化け?」

「ううん、違うよ。これは数学の公式で……」

 

なにやら熱く語り始めた束の数学講座を、春秋と千冬は何とか理解しようとするが……無理な話である。

春秋は乾いた笑みを浮かべながら、隣で煙を頭から噴出しそうになる千冬をなんとか支えている状態だ。

どの位時間がたったのだろうか。ハッと我に返った束は、恥ずかしそうに俯いて、小さくごめんねと謝って来た。恐らく、1人で喋りすぎたと思ったのだろう。

 

「気にしなくても大丈夫だよ。そっかぁ、束ちゃんは頭が良いんだね」

「……あの、私の事、おかしいって思わないの?」

「なんで?束ちゃんは、沢山お勉強したから、頭が良いんでしょ?だったら、僕も見習わないとなぁ」

「おかしいと、思うほうがおかしいと思うがな。春秋も、本ばかり読んでるから同じようなものだ。」

 

 

ポカーンとする束とは裏腹に、春秋と千冬はなんでもないという様子で、頷いている。それは、彼女にとって始めてだった。

同い年の子供でも、本能的に自分と違うと感じ取り、束からは距離をとり、見ず知らずの大人達も自分の事を不気味な者を見る眼をする。

それなのに、この2人は普通に接し、普通に話を聞いてくれた。嬉しくて、嬉しくて泣きそうになるのを我慢して、束は笑った。

 

「2人とも、ありがとう。えっと、春秋君と千冬ちゃん……?」

「なんでお礼?あと、別に君付けなくても良いよ~。」

「私も同じだ。その代わり、こっちも呼び捨てにさせてもらうぞ」

「うん、良いよ!!それじゃ、はるくんとちーちゃん!!」

 

これが後に天災と呼ばれる篠ノ之束と世界最強、織斑千冬、そして天才、夏冬春秋の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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