・春秋・
IS学園、職員室
「本日付でグローバルコーテックスより、整備士兼保険医として派遣されてきました夏冬春秋です。よろしくお願いします」
何時も通り、にこやかな笑顔での当たり障りのない挨拶。僕的には、満点で花丸を貰いたいくいだ。
財団本部のあるアイザックシティからこうして、IS学園に派遣されてきたのは良いものの……何というか、女性の視線には中々なれない。
名前の如く、IS操縦者を重点的に育成するこの学園は、生徒と職員が全て女性で構成されているから、男性である僕は異端なんだろうねぇ。
この学園内に居る男性のうち、他の2人は同じクラスだから、良いんだろうけど、生憎男性職員は僕だけ。いやはや、これは医務室に篭るしかないかな。
「皆さんもご存知の通り、グローバルコーテックスは我がIS学園の出資者の1つでもあり、夏冬先生もIS武装開発に関しては、多大な貢献をなさっています。」
「なるほど、彼がマイスター春秋。噂で聞いてたより、ずっと若いのね」
「他にも月面開発に携わってるらしいわよ」
「武装研究、整備の腕に関しては、世界トップクラスだそうよ。学園の整備能力がまた上がるわね」
学園長、僕の事を説明してくれるのありがたいのですが、他の女性職員の視線がつらいです。なんて事は、口が避けてもいえない僕はヘタレなんだろうか。
まぁ、大半の視線は友好的なもので、ホッとするよ。……マイスター春秋って渾名は本気で止めて欲しい。僕自身、名乗ったわけじゃなくて、周りがそう言ってるだけなんだから。
……ところで、さっきからこう……グサリと、音を立てて突き刺さってくるこの視線は誰のものなんだろうね。背中に、冷や汗がびっしょりな訳なんですが。
視線で人が殺せたら、僕は何回殺されてるんだろう?なんて、のん気に考える僕も僕か。
「では、夏冬先生には医務室勤務となりますが、一応はこちらにも机をご用意しております。勿論、常に医務室待機でもかまいませんが、会議の際はこちらに来てください」
「あ、わかりました。整備のほうに関しては?僕でよかったら、何時でも整備しますけど」
「学園所属の整備士のスケジュールに合わせる予定ですが……」
「学園長、出来ましたら、夏冬先生には早めに整備のローテーションに入っていただきたいのですが」
「はい。マイスター春秋と異名をとる夏冬先生の手並みを、早く見たいものです」
あの~、僕としてはそんなにハードルを上げないで欲しいんですけど。……いや、僕の腕を信じてるって言う事は判るけどね。
「学園長、そろそろ授業が始まる時間です。彼のスケジュールに関しては、後の会議で決めましょう」
「あ、織斑先生の言う通りですね。整備、医務室管理のほかに、出来ましたら新武装の設計も、と財団より頼まれているそうですか」
「え、あ。あははは、そうなんですよ。汎用武装の開発とか、新型シールドの設計ともありまして」
そんな話、聞いてない!!なんて、言えない僕はチキンなんだろうさ。くっそ~、ようやく研究から解放されて、のんびりと過ごせると思ったのに。
「それでは、織斑先生、夏冬先生のことを医務室まで案内お願いします」
……え゛?ちょ、まっ……。それはまずいです、学園長。僕の命に関わることだと思います。
いや、千冬ちゃん……じゃなくて、織斑先生もはいって言ってるけど、ニヤリっと一瞬笑ったよね?…ごめん、アーウェン君、僕はここまでかもしれない。
医務室
「ここが医務室だ。それなりの機材も揃っているから、有事の際は活用してくれ」
「は、はぁ。確かに、色々と揃ってますね。……あ、財団で作った設備もある。……そして、これが……」
織斑先生に案内されて医務室に到着したわけなんだけど、廊下を歩くときは無言。話せる雰囲気じゃなかったし……すれ違う女子生徒からの視線があるわけで。
そんな雰囲気をごまかす為に、医務室内に配置されている各種設備をチェックする。うん、流石はIS学園、充分過ぎる医療設備だ。
これなら、よほどの大怪我じゃない限りは、充分対処が出来そうだ。そう、満足している僕の後ろから、なにやらガチャリと言う施錠音とピっと言う電子ロック音が聞こえてきた。
「……織斑先生。何をなさってるんでしょうか」
「よし、これで出入りは出来なくなったな。さてと……」
あの~、なにが、さてと、なんでしょうかね!?ロックをかけてどうするつもりなんですか!?こちらに振り返った、織斑先生の目付きは…や、刃の如く。
「夏冬先生。いや……夏冬春秋、覚悟は出来てるだろうな?」
「か、覚悟って何ですか!?ちょ、まってくださ…!!」
最後まで言う前に、織斑先生の平手が僕の頬に炸裂した。うん、恐ろしいくらいのフィンガースナップをありがとう。軽く星空を越えて、月まで見えたよ。
いたた…と呟きながら、頬を押さえるて、椅子に座り込む僕のネクタイをグイっと引っ張って、織斑先生は眼と眼を合わせて睨みつけてくる。
「さて、春秋。なにか弁明はあるか?あるのならば、一応は聞いてやろう。勿論、許す気など皆無だがな」
「それ、聞く気は無いって言ってると思うんだけどさ……千冬ちゃん」
「っ!!こ、この歳になってちゃん付けで呼ぶな、馬鹿者」
「いやぁ、僕にとって、千冬ちゃんは千冬ちゃんの訳だし……一夏君も箒ちゃんも、大事な弟妹な訳だしね」
「……貴様という奴はとことん、救いようの無い大馬鹿者だな。2人の為に、自分を差し出したと聞いたが」
「親の愛情を受けれない子供は、歪んでしまうよ。…週に数回程度でも、話せるのなら、大丈夫。一夏君だって、話したかっただろうからさ」
掴んでいたネクタイを話して、織斑先生……いや、千冬ちゃんは怒気を緩めて、今度は呆れたようにため息を零した。心底、呆れてるって感じだね。
保護プログラムという名の軟禁。家族とも会えずに、各地を転々とする生活なんて、僕には許せなかった。だったら、せめて週に数回程度でも連絡を取り合えるように出来るのなら、この身を、頭脳を捧げるのだって厭わなかったさ。
「貴様らしいと、言えば、貴様らしいがそのせいで、私がどれだけつらい想いをしたか、貴様はわかってるのか?」
「あはは、そりゃ……あれだけ泣かれて、あれだけ一緒に居て欲しいとか言われたらいてててて!!!」
「それを今言うな!!」
ぐに~と両頬を引っ張る千冬ちゃんの顔は真っ赤に染まってる。相変わらず、恥ずかしがりというか意地っ張りというか。何時までたっても代わらない彼女に安堵した。
丁寧に、たてたてよこよこと引っ張りまわした後に解放された頬は、見事に赤くなっている。……勿論、最初に平手を貰った右頬には紅い紅葉マークが生まれている。
「しかし、一夏君が世界初の適性者だったとはねぇ。……束ちゃんの気まぐれか、天からの贈り物か」
「確実に束だろうな。だが、グローバルコーテックス財団にも居たとはな。そちらは、お前の気まぐれか?」
「さてさて、僕からなんとも。……唯一いえることは、彼は財団の秘蔵っ子で、総帥夫婦の義息子だ。甘く見ないほうが良いかもね」
「ふん、ラナ・ニールセンの義息子か。私と同い年の癖に、子持ちとな。だが……そうか、元気そうで何よりだ」
「今でも君との試合が、一番楽しかったって話してるよ。」
ラナ・ニールセン、現在はラナ・アークフェザー。レイヴン総帥の奥方にして、自他共に認める千冬ちゃんのライバルだ。
まぁ、ライバルと言っても現役当時、しかも第一回大会限定の筈だったのに、なぜかそう呼ばれている。まぁ、整備ピットから見てた僕でも、凄まじい激戦だった事は判るからね。
「…しかし、これで貴様は私の元に帰った着たわけだな」
「あはは、そうなるのかなぁ。…んじゃまぁ……ただいま、千冬ちゃん」
「ふん。……おかえり、春秋」
「1年1組は……あぁ、ここか」
教室の扉を前にして、アーウェンクルは安堵のため息を零す。こうして、学生生活を送るのは、彼には初めての体験であり、1つ1つが新鮮で仕方が無い。
教室の場所を誰かに聞こうにも、女子生徒ばかりと言う事もあり、聞きにくい。多少、迷った挙句どうにかたどり着いたのだ。
まぁ、IS学園はIS操縦者育成機関と言っても良いのだろう。そんな所に、男子用制服を着ている彼が居たら、誰でも驚く。
とりあえず、静かに扉を開けて中に入ろうとするが……なぜか中にいた女子生徒たちの視線が、一斉にアーウェンクルただ一点に集中した。
その視線に、一瞬たじろぎながらも、とりあえず自分に割り当てられている筈の席に座り、外を眺める横顔にも、視線を感じる。
そこまで自分が珍しいのだろうか……?と疑問に思っていると、誰かに肩を叩かれた。
「な、なあ、もしかして、あんたがもう1人の男性IS操縦者か……?」
「ん?あぁ、そうだが。……あぁ、お前が噂の世界初、織斑一夏?」
「うぐ……あんまり噂とか世界初とか言わないでくれ。あんまり良い心地がしないんだよ」
「っと、それはすまなかった。悪気は無かったんだ。俺はアーウェンクル・ランガード。よろしく」
「いや、良いよ。けど、本当によかったぁ。俺以外にも同い年の男子が居てさ。1人で心細かったんだよ!」
「それは、わかる気がするな。現に話してるだけで、注目されている」
くくっ……と小さく喉を鳴らして笑うアーウェンクルに、だよなぁ……と一夏はげんなりしたように肩を落とした。
先ほどまで嬉しそうな表情を浮かべていたのに、直ぐに落ち込むようにコロコロと表情が変わる彼に、早速アーウェンクルは好印象を抱いていた。
何処か人を惹きつける真っ直ぐで裏表の無い人柄なのだろう。
「しかし、初対面の気がしないな。あの人から、良く話を聞いていた」
「あの人?……あ、予鈴だ。席に戻らないと」
「あぁ、それじゃ、また後で」
「…あぁ、また後でな!」
また後で、それだけの言葉だが、男1人だけかもしれないと覚悟していた一夏にとって、とても心強いものであった。
「みなさん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田真耶です。一年間、よろしくお願いしますねー」
そう言って教卓で挨拶する副担任こと、山田真耶。……しかし、小柄でぽやぽやした雰囲気はどこか幼い感じがする。
まぁ、ああ見えても、ISのスキルに関しては何気に高く、元日本代表候補生でもある。
簡単な自己紹介と、簡単な説明を終え真耶がにっこりと笑みを浮かべる頃には、何処か緊張感に包まれていた教室の雰囲気も、随分と和らいだ。
「それでは、次は皆さんの自己紹介をお願いします。それでは~、あの人からはじめましょう」
あから始まると言う事は、自分は最後の最後かと思いつつ、アーウェンクルは一夏の後姿を眺める。彼と真耶の雰囲気のお陰で、随分と緊張が和らいでいるようだが、まだ硬い。
「それじゃ、次は織斑君お願いします。……あれ?織斑君?……おりむらく~ん?」
「え、あ。はい、なんですか!?」
「あのね、今、自己紹介で織斑君の番なんだけど、自己紹介してくれるかな?……お願いできないかな?」
(そこでどうして涙目になるんですか!?)
内心で突っ込みを入れつつも、一夏は慌てて、真耶に謝ると立ち上がり、意を決して後ろを振り返る。
やはりと言うべきか、あるのは女子生徒達からの熱い視線。マジかよ……と冷や汗をたらしながらも、窓辺のアーウェンクルに眼を移すと「頑張れよ」とエールを送ってくれた。
「えっと、織斑一夏です。よろしくおねがいします」
短くて、簡潔すぎる挨拶。ただ、緊張していた彼にしては、上出来だろう。しかし、あと一言二言あると期待している女子生徒達の視線に、一夏は答えようとするが……
「……以上です」
ガックリ!!と音を立てる女子生徒と苦笑を浮かべるアーウェンクル。なんと言うか、とても初々しくて見ていて楽しいのだろう。
笑うなよ!!と言った眼で見てくる一夏に、無理だと返しておく事も忘れない
そうこうしていると、ガラッ教室の扉を開けて、スーツ姿の女性、織斑千冬が入ってきた。
「すまない、山田先生。挨拶を任せてしまったようだな」
「あ、織斑先生。医務室への案内は終わったんですか?」
「あぁ、一応は終わった。…さてと、諸君、自己紹介の所悪いが、先に名乗らせてもらう。このクラスの担任を務める織斑千冬だ」
(彼女が織斑千冬。ラナさんと対等に戦ったIS操縦者にして、世界最強か)
眼を細めて、アーウェンクルは教卓で挨拶する千冬を観察していると、その視線に気がついた千冬が視線を返してきた。
なるほど、この程度の視線すら感じ取るか……と内心冷や汗をたらしつつ、小さく頭を下げておく。
千冬も、一夏以外の男子は1人しか居ないし、義母のライバルを見ていたのだろうと考え付けて、何も言わない。
「これから一年間、私の言う事はきっちりと聞いてもらう。良く見て、良く学び、よく動け。理解できないことがあったら、直ぐに聞け。……以上だ」
「きゃ~~!!千冬様素敵」
「ほほほ本物の千冬さまよぉぉ!!」
「……ええい、馬鹿者が多くて困りものだな。」
なんか良く判らない歓声に、呆れたように千冬は静かにしろと言って、生徒達の自己紹介を促す。
その後も、自己紹介は滞りなく進み、最後のトリはラの付く苗字、アーウェンクル・ランガードになってしまった。
さて、何を言ったものか……と考えながら、椅子から立ち上がり口を開く。
「グローバルコーテックス財団及び、国際宇宙開発プロジェクト所属、アーウェンクル・ランガード。月面開発に従事していたので、こちらでの生活に不慣れですが、よろしくお願いします」
「宇宙開発プロジェクトって、すっご~いエリートじゃない!」
「はぁ~、凛とした声で切れ長の目……素敵~」
「一夏君も素敵だけど、彼も良いなぁ。どうしよう、アタックかけようかな」
何処か人を惹きつける魅力を持つ黒髪の少年、一夏と少しミステリアスな明るい蜜色の髪の少年、アーウェンクルは、結構目立つようだ。
休み時間
「……随分と疲れてるな、一夏」
「アーウェンクルか……いや、なんつうか緊張感が半端ない」
「はぁ、慣れないとその内、胃に穴が開くぞ?あと頭、大丈夫か?」
机に突っ伏している一夏の肩を、アーウェンクルはポンポンと叩いておく。先ほどのIS基礎理論の授業を聞く限り、理解できてなかったのだろう。
なにより、重要な基礎理論書を電話帳と間違って捨てたと言った一夏の頭に振り下ろされた、千冬の出席簿は物凄く痛そうだった。
たんこぶが出来てないか、一夏の頭を撫でつつ、周囲に眼を配ると、教室内だけでなく、廊下からも女子生徒達の視線を一身に浴びる。
……とりあえず、愛想笑いを浮かべると、頬を紅く染めるので害意は無いだろうと無視しておく。
「なんとか……あ~、本当にお前がいてくれて助かったよ。俺1人だけだったら、孤独な学園生活だったなぁ」
「そうなってたら、卒業までには胃潰瘍になってただろうな」
「ありえるから、困ったな。……けど、月面開発に従事してたっと本当なのか?」
「嘘を言っても仕方が無いだろう?向こうで基地建設をしていたよ」
「すごいな。……やっぱり、月から見た地球で、すっげぇ綺麗なのか?」
「さて、それは秘密だな。見たいのなら、卒業したら一緒に月に良くか?IS操縦者なら、大歓迎だぞ?まぁ、地球の偉大さが良く判るといっておこうか」
「うっわ、それ言われると、滅茶苦茶行きたくなるだろう!!」
すっかりと打ち解けたようで、2人は笑い声を上げる。その姿は何処にでもいる少年だ。
「一夏、少し良いか」
「ん?おぉ、箒。どうかしたのか?」
「いや、さっき千冬先生から聞いたんだが……」
「あ、アーウェンクル。こいつ篠ノ之箒。俺の幼馴染なんだ」
「そうなのか。知ってると思うが、アーウェンクル・ランガードだ。よろしく」
「篠ノ之箒だ。話しているところすまない」
ポニーテールの女子生徒、篠ノ之箒はアーウェンクルに小さく頭を下げるので、彼も小さく礼を返しておく。
しかし、篠ノ之と言うからには、かの天災篠ノ之束の関係者なのだろうと思いつつ、そう言えば、彼から聞いていたのは彼女の事かとアーウェンクルは思い出した。
「あぁ、なるほど。篠ノ之箒、春秋の言っていたのは、君と一夏の事だったわけか」
「え、アーウェンクルは春兄を知ってるのか?」
「なんだ一夏、知らなかったのか?兄さんは、ネスト財団に所属してたらしいぞ。それで、整備士兼保険医として派遣されてきたらしい」
「マジでか!?春兄に会えるのか!?」
よっしゃぁぁ!!とガッツポーズをとる一夏を見て、箒はやれやれと肩をすくめているが、彼女の表情も嬉しそうだ。
以前から、一夏達の事を春秋から聞いていたアーウェンクルは、彼のことを覚えていてくれよかったと、安堵する。
「俺のISは春秋の設計だからな。医務室にいるそうだから、今のうちに会って来たらどうだ?彼も会いたがっていたぞ」
「そっか。よし、今から会いに行って来る。箒も行くんだろう?」
「勿論だ。兄さんには、礼を言わなければならないからな。アーウェンクルはどうするんだ?」
「俺は今朝まで一緒だったから、良いさ。折角の再会に水のさすのも悪い」
ヒラヒラと手を振って一夏達を見送ると、自分の席に戻り海を眺める。箒が言っていた礼とは、連絡を取り合えるうに取り計らってくれたことに関してだろう。
現に、一週間前だが、一夏と箒は再会できたわけだ。最初こそ、ギクシャクしたが手紙でやりとりしていたので、直ぐに元の関係に戻る事は出来たらしい。
「少しよろしいかしら?」
「ん?君は……セシリア・オルコットだったか?」
美しい金髪と、可愛らしい顔をした少女、セシリア・オルコット。アーウェンクルが知ってる限りでは、イギリスの国家代表候補生であり、名門オルコット家の令嬢だ。
「えぇ、そうですわ。グローバルコーテックス財団のアーウェンクル・ランガードさん。一応は、我がオルコット家と提携関係ですので、挨拶をさせていただきますわ」
「ご丁寧にありがとう。これから一年間、よろしく頼むよ」
「それは貴方の態度次第ですわね。まぁ、ネスト財団所属の貴方と国家代表候補の私では、色々と違いがあると思いますの。それでは、失礼しますわ」
言う事だけ言って、自分の席に戻っていくセシリアの後姿を眺めつつ、アーウェンクルは小さくため息を零した。
月にはなかった女尊男卑をこんな所で目の当たりにするとは、思っていなかったのだろう。
面倒な事にならなければ良いんだが……と左耳に付けている紅いイヤリングに触れるアーウェンクルであった。
一日掛けてこの程度、文才が無くて泣きたくなる今日のこの頃。