IS 熾天の器   作:へタレイヴン

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5羽

食堂

 

「……あ、そう言えば、今日模擬戦だったか」

「あ、あなた忘れてましたの!?」

 

今思い出したと言わんばかりのアーウェンクルに、セシリアは鋭い突っ込みをいれる。既に一週間が経過して、今日が模擬戦だと言うのに、彼はいつもどおりに過ごしていた。

一夏は特訓に励み、箒はその付き添い兼指導を行っており、アーウェンクルはと言うと……密かに専用ISの動作チェックを行っていた程度だ。

相変わらずのマイペースな彼に、仕方が無い人と言った様子でため息を零し、セシリアはクスクスと笑みを浮かべている。

 

「忘れてたというか、実感が無いと言うべきか。毎日毎日、模擬戦相手と話して、顔を合わせていれば尚更だ」

「そ、それはそうですが……。何時も誘ってくださるのは貴方ですのに」

 

最近では、セシリアはこうして1人で食事を取らずに、アーウェンクルと一緒に食べる事が多くなってきていた。

何時も何時も、アーウェンクルが誘ってくれるのだが、誘われるのが少し遅くなるとそわそわしたり、他の女子生徒と話しているのを見ると、胸が苦しくなる。そんな自分の心の変化に戸惑いつつも、セシリアは彼と居る事を中々楽しんでいるらしい。

以前の彼女ならば、忘れているとは自分の事を相手にしていないのか、馬鹿にしているのかと噛み付いただろうが、彼の性格と雰囲気に徐々にトゲトゲしい感じは和らいでいるようだ。

 

「もう一人の方は特訓してるそうですが、貴方はどうなのですか?」

「ISの動作チェック程度か。後はデータ確認と適度な運動」

「はぁぁ~、本当に緊張感のカケラもありませんのね。それを余裕と捉えるべきか、侮られているだけと捉えるべきか、迷いますわ」

「別に侮ってはいない。国家代表候補まで上り詰めたセシリアを、そう捉えるほど馬鹿ではないんだが」

 

食後のコーヒーと紅茶を楽しみつつ、2人はクスクスと笑いあう。セシリアにとって、アーウェンクルの存在は、とても心が安らぐ。

マイペースで飄々として居ながら、話す言葉は心に染み込んで来る心地よいもの。彼女にとって、初めて意識する男性なのかもしれない。

 

 

 

 

アリーナ、第一出場ピット

 

「さて、これから模擬戦の訳だが……一夏、大丈夫か?」

「大丈夫と言えば、大丈夫なんだけど……ふ、不安だ。お前の言う通り、一週間剣道漬けだった訳だし」

「し、仕方が無いだろう、アーウェンクルの言う通りに、私は指導しただけだ!」

 

ピット内のベンチに座り、緊張した感じの一夏に声を掛けつつ、俺ははどうしたものか……と思考をめぐらせる。

模擬戦まで10分をきっており、俺と一夏はそれぞれが専用のISスーツに着替えを済ませていた。一夏は白の、俺は黒地に紅のラインが入った物を。

確かに、一夏の特訓に箒を指名して、剣道漬けの一週間を送らせた。一夏の隣で、箒が言ってる通りの事実。

必要最低限の知識は、俺が夜に教えていたし、授業でも説明を受けていた。だが、如何せん、こいつ専用のISが今届いたばかりで、動かしてすら居ないと言う現状。

 

「タイミングが悪いというか……ISがもう少し、早く届いてくれれば、違ったのだろうが。まぁ、一夏と箒だって出来る限りの事はしたのだろう?」

「あ、あぁ。剣道の腕に関しては、上がったと思うけどさ。基本的な知識だけだから……」

「一週間で出来る事なんて高が知れている。余計な事を詰め込むより、一つの事に集中したほうが良い」

「アーウェンクルのいうとおりだぞ、一夏!わ、私が指導したのだから、大丈夫だ!!」

 

不安そうにしている一夏を、何とか励まそうとしている箒に姿を見ていると、本当に一途だと痛感する。はぁ、それなのにこの鈍感男は……。

そんな箒にサンキューと返しつつ、一夏は俺を見つめてきた。

 

「ん、どうかしたのか?」

「いや、相変わらずお前は落ち着いてるなってさ。」

「俺まで不安になったり、取り乱したりしたら、誰がお前を安心させるんだ」

「は、はは。その通りなんだけどさ。……うっわ、なんか観客席、人が沢山居る気がするんだけど」

「あぁ、一年生期待の新人、織斑一夏とイギリス国家代表候補生、セシリア・オルコットの模擬戦だからな。みんな注目してるんだろう。」

「あのさ、アーウェンクル。余計にプレッシャー掛けないでくれるか……?」

 

そんなつもりは無かったんだが……余計な事を言ってしまったか。だが、実際に観客席は学年を問わず、女子生徒達で埋め尽くされている。

世界初の織斑一夏の存在は、彼女達にとっても注目すべき事なのだろう。

 

「2人とも準備は出来ているか?」

「やっほ~、アーウェン君、一夏君。今日は楽しませてもらうよ」

 

そう言って入ってきたのは、織斑先生と春秋の2人。恐らく、観戦兼データ収集で来たのだろう。

若干、逆行メガネの春秋に呆れつつも、何時ものように苦笑を浮かべておく。

 

「2人とも、ここで観戦ですか?」

「あぁ、観客席は生徒達で埋まっているからな。それに、春あ……夏冬先生が、こちらの方がデータを取りやすいと」

「うんうん、ほら、この方がモニターは大きいし、各種情報が表示されるからねぇ。……あ、山田先生、そっちはどうですか?」

『はい、問題はありません。……えっと、そちらに映像はとどいていますか?』

 

ピット内に備え付けられている大型モニターに、山田先生の不安そうな顔がアップで移る。後ろを見る限り、アリーナの管制室か?

そして切り替わった映像には、アリーナの中央で専用IS、ブルー・ティアーズを纏っているセシリアの姿が映し出される

 

「オルコットの準備は出来ているようだな。織斑、最初の相手はお前だ」

「は、はい!!……箒、アーウェンクル、行って来るよ」

 

そう言って立ち上がる一夏の表情は、先ほどの不安そうなものから一変して、立ち向かう勇気の表情に変わっていた。

箒は、見とれつつも、頑張ってこいと声をかけ、俺はと言うと……笑みを浮かべ右手を掲げる。それを見て、一夏も右手を掲げて……パン!!とハイタッチを交わす。

そして、純白のIS、白式を展開して、飛び立っていった。

 

 

一夏とセシリアが、何かアリーナ内で会話しているが、生憎こちらには届いていない。そうこうしていると、山田先生の開始の合図が響き渡り、両者が交戦を開始した。

俺の予想に反して、スターライトmkⅢは最高出力でなければ、連射が可能であったらしく、甘い考えが悔やまれる。

だが、一夏も流石と言うべきか、俺の指示通り、最初は回避に専念して、虎視眈々と接近するチャンスを狙っているようだ。あいつ、見かけによらず、冷静だな。

しかし、セシリアも至って冷静のようだ。……おかしい、これだけ回避されれば、頭に血が昇ると思ったが……。

なんにせよ、一夏は回避、セシリアはそれを追う形でレーザーとミサイルでの波状攻撃を繰り返している。

 

 

「しかし、予想以上と言うべきか……一夏め、能ある鷹はなんとやらか?」

「アーウェンクルの指示通り、回避に専念しているな。……なぁ、本当に私が教えても良かったのか?…お前が教えたほうが……」

「生憎だが、俺は人に教えれるほど、説明が上手くない。なにより、箒のほうが、一夏の事を良く知ってるだろう?」

 

そう聞けば、隣でモニターを見ていた箒が、そうだと答える。……やれやれ、一夏がよほど心配か。

 

「安心しろ。勝てないまでも一夏だって、そう簡単には負けないさ。……お前が、一夏を信じずに、誰が信じるんだ?」

「そ、それは……。そうだな、私が一番信じなければいけないんだ」

 

不安そうな表情を消し去り、箒はモニターに視線を戻す。――良い表情だ、これだから人間とは興味深い――

 

「っ……。なんだ……?」

 

突然、頭にノイズが走る。なんだ、先ほどの言葉は……?左目の奥が疼き、慌てて抑える。まるでそこに心臓があるかのように、脈打っている感じがする。

だか、痛みは治まるどころか、徐々に左目……いや、眼球や瞳が熱を持ち始める。なんだこれは……!?

 

「おい、ランガード?…おい、どうした、大丈夫か!?」

「大丈夫と聞かれると、そうでもないと答えるしか……!!」

「こんな時までふざけるな、馬鹿者!!春秋、直ぐに医務室に運べ!!」

 

俺の異変に気がついた織斑先生が、慌てて駆け寄ってくる。はは、冷静な先生でも、取り乱す事はあるんだな。あと、夏冬先生じゃなくて、春秋って呼んでますよ。

痛みに耐えかねて蹲る俺の、春秋は静かに歩み寄ってきた。

 

「はいはい、こういう時は慌てちゃ駄目だよ、千冬ちゃん。……さ、アーウェン君、立てるかい?」

「な、なんとか……な。しかし、この後模擬戦が……」

「後日行えば良いさ。それより、今は君の体調が心配だ。ほら、医務室に……」

 

そう言って、春秋が俺を助け起こそうとした瞬間、突然大きな揺れがピット内部……いや、アリーナを揺らした。

慌ててモニターに視線を戻すと……天井が崩れ落ちているではないか。交戦していた2人も、なんだ!?と言った表情で大穴が開いた天井を見つめていた。

そこには、紺色の影が紅い眼で、2人を見下ろしている。あれは……ISか……?

 

「馬鹿な、遮断シールドを貫通するだと……!?まずい、2人とも、直ぐに非常用シェルターに退避しろ!!」

『そ、そんな事を言われましても……きゃぁぁ!?』

『セシリア!!こいつ、攻撃してきた!?』

 

紺色のISの持つライフルから放たれたレーザーが、セシリアに直撃する。それが始まりだといわんばかりに、紺色のISは2人に襲い掛かった。

一夏はともかく、セシリアは直ぐに体勢を立て直して、ミサイルでけん制し、ライフルで撃ち返すが、全て回避されてしまっている。

どうやら、避難する暇さえ与えるつもりは無いらしい。セシリアと交戦している隙を突いて、接近しようとした一夏に、背部に装着されていた砲門が火を噴き、直撃する。

小型グレネードランチャーだと……!!??このままでは、2人とも撃墜されてしまう。外部障壁も下ろされ、恐らく外からの救援は期待できない。

ならば……ここは俺が行くしかないか?

 

「織斑先生、俺が行きます」

「馬鹿な事を言うな!病人を、出撃させれるか!」

「ですが、このままでは一夏とセシリアが墜とされます。……友人が落とされるのを、黙ってみていられるほど、出来た人間ではありません」

 

真っ直ぐに織斑先生を見つめて対峙する。彼女だって、2人を見殺しにはしたく無い筈だ。左目の痛みも、何時の間にか消えうせている。

 

「……やれやれ、一度言い出したら、聞かないからねぇ。……ピットゲートの開放、30秒あれば終わらせれるよ」

「春秋!?」

「現在の最高戦力は、アーウェン君だけ。なら、彼を出撃させるべきだ。大丈夫、彼は財団の秘蔵っ子だ。得体の知れない機体に負けるような子じゃないよ」

 

ため息を零しつつ、春秋が物凄いスピードでキーボードを叩いて操作を始める。恐らく、ゲートのシステムに強制侵入しているのだろう。

 

「……無理は戦闘は禁ずる。危険だと判断したら、直ぐら撤退しろ、良いな!!」

「了解です。春秋、ゲートは!!」

「後10秒~。アーウェン君、戦果を期待しているよ!!」

 

 

 

 

 

 

「く……こいつ、なんなんですの!?」

 

セシリアが悪態をつきつつ、目の前のISを睨みつける。いきなり襲ってきたかと思えば、尋常ではない強さ。隣では、満身創痍の一夏が、肩で息をしている。

 

「織斑さん、大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だけど……さっきの直撃で、エネルギーがごっそり削られた」

 

明らかに人間の反応速度を超える勢いで振り返ったISかに放たれた砲弾は、白式のエネルギーを一気に削り取っていた。ただでさえ、燃費が悪いのに、それは致命傷だ。

無駄口を叩いている暇は無いぞ、と言うように、紺色のISの眼が光り、背部に装着されていた球体から、小型兵器――ビット――が射出され、2人に襲い掛かる。

 

「ビット兵器まで搭載していると言うのですか!?」

 

ビット兵器ほ搭載している事に驚くと同時に、凄まじい精度で襲い掛かってくるビットに、セシリアも回避に専念するしか出来なくなった。

一夏をビットに任せて、紺色のISは脅威度の高いセシリアに狙いを定め、ブースターを噴かして高速で接近。そして、左腕に装備されていたブレード発信装置から生み出された高熱の刃――レーザーブレード――でスターライトmrⅢを両断する。爆発する銃から慌てて手を離し、後方に飛び下がるが、狙っていたかというように、紺色のISの肩が開き、インサイドミサイルとエクステンションの追加ミサイルが一斉に発射された。恐らく直撃すれば、無事では済まないだろう。だが、回避するにはタイミングが遅すぎた。

ここまでなのね……と何故か安らかな表情で、セシリアは襲ってくる衝撃に備えたが……襲ってきたのは、爆風だけ。

 

「ミサイルの排除を確認。護衛目標、健在。任務を継続する。……無事か、セシリア?」

「貴方は……ら、ランガード……さん?」

 

セシリアを庇うように立ちふさがる人物。顔は見えないが、セシリアの耳に届く優しげな声は、確かにアーウェンクルのもの。

全身を覆う装甲には、鮮やかな紅と艶のある漆黒の塗装を施され、背部には折り畳まれた大型グレネードランチャーとチェーンガンが装備されている。

左右の腕の部分には、黄金に輝くブレード発信装置――WL-MOONLIGHT――が装備されている。

両の手に持たれたマシンガン――03-MOTORCOBRA――の銃口からは、硝煙が昇っているので、それでミサイルを全て撃墜したのだろう。

非固定浮遊パーツなどは一切存在せず、スマートでありながら圧倒的な存在感を醸し出すIS。そして、左肩には弾丸で撃ち抜かれたような9のエンブレム。

頭部のメインカメラには蒼い色が灯り、紺色の無人機を捕らえている。

ナインボール・オニキス。セシリア達は知らないだろうが、とある場所では、紛い物でありながら、最強とも呼ばれた機体。

オニキス――漆黒の宝石であり、迷いの無い信念を象徴するような強さ、そして、魔よけの護符として扱われている。

 

「大丈夫のようで安心した。……一夏と一緒に避難用シェルターに撤退しろ」

「ら、ランガードさんはどうするのですか?」

「俺は、こいつの相手をする。……一夏とセシリアを傷つけたんだ。それ相応の報いを、受けてもらおうか」

 

呼び戻された紺色のISのビットをMOTORCOBRAで撃ち抜き、撃墜するとアーウェンクルは紺色のISに突きつける。

後ろで、護ってくれたと言うことと、心配してくれたと言う事で、顔が紅く染まり、心臓が高鳴るのを感じながら、セシリアはお気をつけて……と彼に言葉を送り、後方に下がる。

 

【H-1デバイスを確認。ターゲットを変更。これより選定を開始する】

 

本体より指令を受けた紺色の無人IS――実働部隊IS――は、不気味にメインカメラを赤く光らせて、アーウェンクルに襲い掛かった。

それを頭部パーツの下で、口元に笑みを浮かべて、迎え撃つ。それは、絶対的な自信に満ちた笑み。

 

「ターゲット確認。排除、開始」

 

 

 

 

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