メカクシティアクターズ   作:natsuki

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第十一話 ロスタイムメモリーⅡ

「五月蝿いな」

 

 そう言って俺は、アヤノの手を払って少し前を歩いた。

 アヤノはそのまま立ち止まっていたが、それでよかった。

 それだけで、よかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ご主人?」

 

 エネの声でシンタローは我に返った。

 エネは溜息をついて、

 

「ご主人ったら、どうしてこうも何度もあれなんですかねえ?」

「……は?」

「だーかーらー、夢想病? 夢遊病? よく解らないですけど、それっぽい何かになっているといいますか? どうしてかなーって自分でも思いませんか?」

 

 エネという存在はこんなに苛立ちを覚えるものだっただろうか。

 シンタローはふと思った。

 

「……お前には解らないだろうよ、そんな電子の身体でふわふわ浮いているお前にはな」

 

 シンタローは呟く。

 エネは頬をふくらませて、答える。

 

「……なんかその言葉すっごくむかつくんですけど」

「真実だろ」

「そうかもしれないですけど……」

 

 シンタローは無造作に立ち上がった。

 

「あれ、どうしたんですかご主人。ご主人?」

 

 その言葉。猫なで声。凡て、凡て気に入らなかった。

 

「ご……主人?」

 

 それを終わらせる。

 もうこの声を聞かないように。

 

「何を……」

 

 シンタローは、エネの声を聴ききる前にエネの首を掴んだ。

 

「ご、ご主人?!」

 

 シンタローは笑っていた。こんな状況にもかかわらず、笑っていたのだ。

 

「どうして……!」

 

 シンタローは答えない。

 そしてシンタローはエネの首にかける力を強めていく。

 

「……」

 

 エネが静かになったのを見て、シンタローはそれを放り捨てた。

 漸く静かになった。うるさかったものが消えたのだ。

 シンタローはせいせいした。笑ってしまうほどだった。

 

「ああ……もう疲れた」

 

 シンタローは彼女に会いたかった。

 シンタローは彼女に会おうとした。

 シンタローはそのために、エネを殺して、彼女を選んだ。

 シンタローは――。

 

 

 

 

 

 目の前にある、カッターナイフを手にとった。

 そして、自らの首を躊躇なく切り裂いた。

 シンタローは声にならない声を上げて、その場に倒れこむ。喉を裂いたから、そこから血が流れ出る。それに息もできないから、とても苦しかった。

 でも、シンタローはこれでよかったのだ。

 これでシンタローはアヤノに出会える。

 そう思ったのだ。

 

 ――目が見えなくなる

 

 視界も暗くなり、そして――彼の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――少年、見苦しいな。そこまでして、『あの子』に会いたいのか」

 

 シンタローは暗闇に立っていた。

 

「何が言いたいんだよ」

「答えろ、少年」

 

 どうやら質問している相手は、自分の質問に答えないと気がすまないらしい。

 

「……ああ、そうだ。俺はアヤノに会いたい。だから――」

「――死んだ、と?」

「さっきから何なんだあんたは――!」

 

 シンタローは声が聞こえる背後を見るため、振り返った。

 そこに居たのは――大きな蛇だった。

 その大きさはシンタローの背の高さをゆうに超えるほどだった。

 

「なんだよ、これ……」

「私はあるときは『世界』、あるときは『少女』、あるときは『闇』……あるときは『蛇』とも呼ばれている。まあ、具体的に私の名前はついていない」

「名無し、ってことでいいんだな」

 

 蛇は答えない。

 

「……じゃあ、お前は何でここに居る。というか、アヤノには会えないのか? そして、そもそもここはどこだ」

「ここは位相空間で考えれば、負の値を取る空間だ。まあ、厳密に言う必要もないからざっくりと言えば……この空間はどの世界にも該当しない空間だ。これでいいか」

「じゃあ何でお前はここにいる」

「お前を『ある世界』に入れる手引きをするためだ」

「手引き?」

 

 シンタローは首を傾げる。

 

「そうだ。その世界は――いや、お前の『目』で確認すればいいだろう」

 

 そう、蛇は溜息をついて、シンタローの目の前にまで近づいた。

 

「俺を食べるのか」

「違う。お前は別の世界へ行くだけだ。そして、私はその交通手段……みたいなものだよ」

「……ああ、そうかい」

 

 そして、蛇はシンタローを丸呑みにした。

 

 




シンタロー編

ROUTE 02

END


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【NEXT EPISODE】
ROUTE 03

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