メカクシティアクターズ   作:natsuki

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第一話 カゲロウデイズ

 八月というのは夏で言えば折り返し地点みたいなもので、だけどもその暑さに耐え切れず毎日、様々な人間がプールなりなんなりと涼しさを求めている時期である。

 例えばここにいる少年――ヒビヤもその一人である。

 

「暑いな……。いや、全く」

 

 夏は暑い。だからあまり好きじゃない。さて、とヒビヤはiPhoneを眺め見る。

 

「……もう十二時半かよ……。急がなきゃな……!!」

 

 彼はとある人間と待ち合わせしていた。その人間と言えば。

 

「おっ、待ってたよっ」

「ごめんごめん。遅れちゃって」

 

 ヒビヤは目の前にいた少女に笑って謝りながら近づく。

 少女とは幼馴染の関係で、いつもよく遊んでいる。今日も朝メールが来たので、彼女が待つ公園へとやってきた次第であった。

 

「今日どうする?」

「なに、決まってなかったの」

「うん。ヒビヤがきたら決めちゃおうと思って」

「なんじゃそりゃ……」

 

 ただ、そんな感じに会話を続けている。それはただの八月の普通の風景であった。

 

「あのさ、ヒビヤは夏は好き?」

「夏?」

「そう、夏」

「僕は別に……。でもまあ、アイスとか食べられるし、特にいいと思うけどね」

「そっか……」

「君は?」

「私もアイスが食べれるからいいけど……」

「けど?」

「でもまぁ、夏は嫌いかな」

 

 彼女は猫を撫でながらふてぶてしくつぶやいた。ちなみに撫でている猫は僕の飼い猫でもなく、彼女の飼い猫だ。なんでも3日前に拾ってきたんだとか言うけど最近猫にばかり寵愛している気がして、あまり僕はこの猫を好きになれていない。猫はうらやましいだろうと言わんばかりに少年の方をみて嗤う。

 

「……ブランコもあきたし……、どっかぶらっとしようか?」

 

 彼女が提案して、ヒビヤは頷く。

 しかし、猫は嫌がって(まるで「俺に先に行かせろー!!」と猫が言ってるみたいに)彼女の手からするりと抜け出して道路を渡っていった。

 

「危ない……っ!!」

 

 それを見て、彼女も道路へと向かう。やれやれ、とか思いながらヒビヤがふと空を見上げた。

 その目に、飛び込んできたのは。

 赤に変わった――信号機だった。

 

 

 刹那、 道路を横切ったトラック。

 それに引かれ、悶え苦しむ彼女。

 轢きずられていって、まるで地獄の賛美歌のような泣き、叫び声がヒビヤの耳へしっかりと響いた。

 ヒビヤはそれを見て辺りに散った血飛沫の色と、彼女の――たった今まで生きていた人間の――香りとが混ざり合った独特な空間に噎せ返ってしまった。

 そして、ふと向こうを見ると。

 嘘みたいに、陽炎が浮かんでいた。それはまるで成長した彼自身に似ていて。

 そして、陽炎は嗤って、言った。

「嘘じゃないぞ」って。

 その声が、ヒビヤに届いたかは解らない。なぜなら――ヒビヤはその後すぐに夏の水色を掻き回すような蝉の音を最後に、意識が途絶えてしまったからだ。

 

「……!!」

 

 そしてヒビヤは、自分の部屋のベッドで目を覚ました。

 

「……夢だったのか?」

 

 そんなことを思いながら、部屋では時計の針が沈黙をかき消すかのように鳴り響いていた。

 8月14日の午前零時を回った辺り。

 なぜ覚えているかと言えば、その時も蝉の声がやけに煩かったからだ。

 

 

 

 

(でもさぁ、少し不思議だな……)

 ヒビヤはこの前と同じブランコに座って、少女の話を聞きながら、思い出した。

 思い出したことは、同じ公園で昨日見た夢。

 でも、考えても解ることじゃないな、と思っていた。

 

「もう今日は帰ろうか」

「そうだね」

「ねえ。今日は別のルートで帰らない? 今日は暑いから日陰の多いルート通って帰ろうよ」

「えっ?」

「ね? いいでしょ?」

「うーん……。ま、いいか」

 

 こうして、少女を助けることにとりあえずは成功した。このままあの信号を渡っていたらまたあの惨事が起きてしまうのを、彼は知っていたから。

 とりあえず向かうところは遠回りして、歩道だけで帰れるルート。大きいビルもあるし道も細かいからさっきみたいにトラックがどうこうなるってこともないだろう。

 そして、大通りに抜けたとき。

 周りの人は、ただ何も言えず、皆上を見上げ口を開けていた。

「なんだろう?」と呟く暇すら与えられなかった。

 そう。

 上から落ちてきたのは、鉄柱だった。

 

 

 そして、少女を貫いて地面へ突き刺さった。

 周りのギャラリーもどきの耳に劈く悲鳴と、どこかのかき氷屋さんに置かれて風に靡いて鳴った風鈴の音が、木々の隙間で空回りしていった。

 そして、ギャラリーのところから離れていく人間がいた。

 揺れるからだ。ふわふわとしている。そうだ。

 ヒビヤは、崩れ落ちる自身の身体を考えることもせず、呟いた。

 あいつだ。カゲロウ。あいつがやったんだ。

 それを知っているかのように、カゲロウは嗤って。

 

 

「夢じゃないぞ」

 

 って、呟いた。

 そして、また視界が眩み始めて、ヒビヤは無意識に少女の――鉄柱が貫かれもう生きていない少女の――横顔を見た。

 どことなく、横顔は笑っているような気がした。

 

 

 

 

「おい」

「……」

「おい!」

 

 ヒビヤはその声ではっと目を覚ました。

 

「どうした?」

 

 隣にいるのは、先程会った少女、キドだ。ヒビヤはどうやら眠っていたらしく、そして夢を見ていたらしい。

 

「ああ。すいません。夢を見ていました」

「その割にはずいぶんと魘されていたな。大丈夫か?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか、ならいいんだが」

 

 キドはそれ以降は冷たく突き放した。

 

「ところで、キドさん。どこへ向かうんですか?」

「どこへ、か。面白いことを聞く」

「――?」

「メカクシ団の本部だ」

 

 キドは嗤って、言った。

 

 

 

 

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