メカクシティアクターズ   作:natsuki

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第二話 想像フォレスト

 とある森の中にある、とある小さな家。

 そこにはひとりの少女が住んでいた。

 名前はマリーという。

 少女が本を読んでいると、夏の爽やかな風が、窓をノックした。

 

「なんだろう?」

 

 そう思ってマリーは窓を開けると、部屋に鳥の声が響いた。何羽もやってきて、まるでマリーと話をしたがっているみたいで。

 マリーはそれに気づき、読みかけの本を置いて、

 

「どこからきたんだい?」

 

 と笑ってみせた。

 鳥はその方には居なかった。

 だって、マリーは目隠しをしているから。

 古いのっぽな時計は午後三時を報せる鐘を鳴らしていた。

 

 

 

 

 

 

 世界は意外とシンプルに出来ている。0と1だけで……表現は難しいかもしれないけどそれくらいで表現できそうなくらいだ。世界なんて複雑に出来ていれば恐らく単純な人間は生きていられないだろう。

 だが、単純になりすぎるが故の、出来事だって起きる。

 彼女は複雑に怪奇した存在だった。複雑だからこそ、誰にも理解されることもなく、昔から彼女は独りだった。

 だが、そんな彼女を優しく諭すのもいた。彼女の母親である。

 彼女の母親はいつも彼女の頭を撫でて、

 

「大丈夫だよ」

 

 と楽しく話してくれた。

 マリーは町外れにある森の奥深くにひっそりと佇む家で暮らしていた。ずっと一人暮らしだけど、誰もやってこないから慣れてしまったらしい。せいぜい鳥たちが毎日マリーの焼くクッキーを目当てにくるくらいだろうか。

 

「さあさ。クッキーあげるよ」

 

 そう言ってマリーはクッキーの欠片(それは事前に準備してある)を窓際に置くと、鳥達はそれに群がって食べている。音で何となくわかるからだ。

 きっと鳥は美味しそうに食べているんだろうか。マリーは思ったがそれをマリー自身が見ることは出来ない。だけど、鳥達の楽しく食べている表情を想像するだけでもそれって、結構楽しいことである。

 

「ふわぁ……。もうこんな時間かぁ」

 

 どうやら、マリーは眠っていたらしく、気づいたら鳥は居なくなってたし、日は傾いていた。目隠しを外し時計を見ると4時を少し回っていた。

 マリーは立ち上がってさっきまで読んでいた本を本棚にしまった。いろんな本があるけどまだ読み終わらない。マリーが死ぬまでに読み終わらないんじゃないかな、とか思ってしまうくらいだ。

 マリーはこういう体だから、目に写った無機物≪モノ≫にしか安堵することは出来ない。外に出たらすぐ理解されなくて、排斥しようとする。だからマリーは外になんて出たくない。出ようとは思わない。

 

「アラビアンナイトかぁ~……。

 いいなあ、私も旅がしたいなぁ……」

 

 だから、彼女は物語の中でしか知らない色んな世界に、少し憧れる。

 別にそれくらい。

 許してくれる、よね? と。

 彼女は毎日そんな理不尽なことを思い浮かんでしまう。

 けど彼女の中じゃ、案外それが人生として成り立ってしまう。

 いつか突飛な未来を想像して、膨らむ世界がノックするのはありますか?

 出来れば、今日か明日にでも。

彼女は、そんなことを思って、一日を終えるのだった――

 あの日がくるまでは。

 

「ほんとにこんな山奥にいるのか? キド」

『そんなめんどくさいことでいちいち通信するな。“ヤツラ”にバレてしまうだろう』

「そんなこと言っても、バレないさ。きっと、ところで本当にこんな山奥に家なんてあるんだろうな?」

『なかったときは私が責任をとろう』

「……体で?」

『〇すぞてめえ』

「すいません許してくださいリーダー」

『最初からそう言ってればよかったんだ。んで、家は見つかったか?』

「……ああ、あれか」

 

 少年は立ち止まった。

 そして、そこにあったのは――

 マリーの住む家だった。

 

「ここか……」

 

 少年の呟きを聞き取ったマリーは、

 

「!!」

 

 驚いて飲みかけのハーブティーを机中に撒き散らした。もし、鳥がいたら驚いて逃げてマリーがここにいるのがわかってしまったのかもしれない。だが、疑問点が浮かぶ。なぜ少年(マリーにはどんな存在かはわかっていない)がここに来ているのか、マリーには不思議でならなかった。

 

「どうしよう……」

 

 とりあえずマリーは下に降りて、ドアの向こう――きっと、その声の元がいる――を見つめた。対策なんて、考える暇すらない。

 

「目を合わせると、石になってしまう」

 

 ふと、マリーは母親から聞いたことを思い出す。

 

「私たちの目は成長すると赤くなる。

 その赤は見るものを凍りつかせて、石にさせてしまうの」

 

 マリーの目もそうなっているらしく、時折鏡を見つめていると、写っているのは、赤い目。普通の人間とは違う、真紅の目。

 だから物語の中じゃマリーのような存在は、怖がられる役ばかり、「仲良くしてくれるなんてないんだ」ってことはマリー自身理解していて、それで怖がっていたのかもしれない。

 トントン、とノックがドアのむこうから響いた。そんなのは初めてで、緊張なんてもんじゃ足りないくらいだった。なんだろう、マリーの目には『恐怖』すら浮かんでいたのかもしれない。

 想像していた突飛な世界はマリーが思ったよりも、実に、実に簡単にドアを開けてしまうものだった。

 

 

 人間が嫌いだった。

 母親が、死んだ訳を私は目の前で見たから。

 私が数年前、人間に虐げられた。恐らく……珍しい存在と思われたから。

 そしてそれに気づいた母親が私を守ろうと“力”を使って――死んでしまった。

 だから、私はずっと一人。ずっと、ひとり。

 

 

 扉は唐突に開かれて、誰かが入ってきた。マリーはただ、目を塞ぎ蹲っていた。

 その人は驚いていた。だから、マリーは言った。

 

「目を見ると、石になってしまうんだ」って。

 

 その人が、微笑んだのを、覚えている。

 

「僕だってさ、石になってしまう、と怯えて暮らしてたんだ。

 だけどさ、世界は案外怯えなくていいんだよ?」

 

 その人はそう言ってマリーに服を着せた。なんだろう、この服は? とマリーがつぶやこうとして。

 

「これはパーカーっていうんだ。

 君も、メカクシするんだろう?

 これはそういう人にいい服だよ」

「……ありがとう」

「うん。お礼はいらないよ。

 そうだ。君って世界がわからないんでしょう?

 教えてあげるよ。うーんと、ちょっと待ってね」

 

 そう言ってその人は薄い栞に近い何かを取り出した。

 

「これは、iPodだね。

 いろんなことがわかるんだ……。

 ほら、これを耳に当てて……」

 

 その人は、紐みたいなものをマリーに差し出す。彼女は言われるがままにつける。

 そして。耳に音が響いた。

 世界は、やっぱり想像よりも素晴らしかった。

 心の奥に溢れていた想像は、世界に少し鳴り出していた。

 突飛な未来を教えてくれたあなたが、もしまた迷ったときは、私がここで待っているからね?

 

 彼女はそんなことを思うのだった。

 

 

 

 外を出て、少年。

 

「ああ。キド。確かにメデューサはいたな」

『だろう? 私の調査通りってわけだ』

「キド。それじゃこれでいよいよ……」

『ああ』

 

 キドと言われた少女はうっすらと笑みを浮かべて。

 

『――救いに行くぞ。“彼”をな』

 

 

 

 

 

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