球磨川君の過負荷もものともしません。
総武高校の体育は4週、つまり1か月に1つの競技を行う。
なので4月が終わり、5月に入ったことで僕たちのクラスも体育で行う種目が変わった。
今回はサッカーとテニスの選択で、どちらかを選んで授業を受けるのだ。
友達のいない僕はボールと友達になるためサッカーを選んだのだが、人数超過のため、選抜じゃんけんが執り行われた。
結果は言うまでもなく僕のストレート負け。
まさか20人以上いる中で僕が1人負けするとは誰も思ってなかったらしく、勝ったにも関わらず、皆が呆然としていた。
ちなみに、僕とペアを組もうと一緒にサッカーを選んだ材木座君は見事勝ち抜け。
涙目でドナドナされる材木座君を見送り、僕はテニスコートに向かった。
あそこで『あ、友達が抜けちゃったから僕も抜けるね』くらい言えるコミュ力があれば、材木座君もクラスのオタクグループに入れていたのだろう。
テニスコートに着くなり、準備運動をさせられ、体育教師である厚木先生がぼっちキラーELの威力を持つ一言を放った。
「うし、じゃあお前ら打ってみろや。2人1組で端と端に散れ」
まぁ、僕には何のダメージもないけどね。
当然のごとく、組んでくれる相手がいなかったので、僕は壁打ちを始める。
「おい、何やってんだ。早くペアを組め」
黙々と壁打ちをしていると、後ろから厚木先生に声をかけられた。
「『何を言っているんですか。僕は壁くんとペアなんですよ。僕がどんな悪球を打っても、それを文句も言わず打ち返してくれるあの度量。まさに人格者そのものです。人数が奇数にもかかわらず『好きにペア組め』なんていう無責任な他の誰かさんとは違いますね。あぁ、いえ。決して先生のことを悪く言ってるわけじゃありませんよ。ひとりぼっちの仲間はずれとその他大勢。どちらを優先するかなんて決まってますからね。大丈夫です。先生は正しい』」
あれ、先生が落ち込んだ。
材木座君の一件から僕もフォロースキルが向上していて、そろそろ『フォロ川君』と呼ばれてもおかしくない頃なんだけどな。
それから数分後、疲れたので休憩していると、他のペアないしグループの騒ぎ声が聞こえてきた。
『うらぁー!』だの『やばいわー』だのと聞こえてくる。
今の10秒で8回くらい『やばいわー』って聞こえたんだけど、ちゃんと会話成り立ってる?
そんなことを考えていると、そのグループからボールがこちらの方に飛んできた。
あー、近くに落ちるなー。
え、ちょ、僕にあた……。
当たった。
テニスボールってやっぱ痛いんだね。
「ごめん! 大丈夫かい? え、っと……クマガイくん?」
グループの中心にいた金髪の男子が走ってこっちに来た。
惜しい。1文字違いだ。
「『僕の名前は球磨川だよ。これなら大丈夫。慣れてるからね』」
「そうか、悪かった球磨川君。ボール取ってくれてありがとう」
ボールを手渡すと、彼は自分のグループに戻っていった。
よく見ると、彼のグループはすでに8人くらいになっていた。
コート2つくらい占領しちゃってるね。
彼のことはよく覚えていないので、きっと別のクラスの人気者だろう。
やっぱすごいなー。
そう呟いてから、僕は壁打ちを再開した。
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お昼休み。
僕は昼食を食べる場所を、数か所ローテーションを組んで選んでいる。
今日はここ、特別棟1階の保健室横、購買の斜め後ろだ。
ここにいると、自主練をしている女子テニス部が見えて、大変よろしい。
購買で買ったたい焼きの口の部分にストローを刺し、中からあんこを吸い出す。
屋外、というか受け皿がないところでは僕が好きなたい焼きの食べ方ができないため、仕方なく、こうしてちゅーちゅーと吸っているわけだ。
機会があればお見せしよう。
「あれー? クマーじゃん」
たい焼きの中のあんこが空になったころ、潮風に乗って知った声が聞こえてきた。
そちらを見ると、結衣ちゃんがスカートを抑えながら立っていた。
潮風が思いのほか強いからね。しかし、そんな短いスカートを穿いていたら、いつか中身が見えてしまいそうなものだ。
「こんなところで何してんの?」
「『お昼。ここは数ある僕の昼食スポットの1つなんだよ』」
「へー、そーなん。なんで? 教室で食べればよくない?」
だってお昼休みの間は僕の席が僕の席じゃなくなってるし。
結衣ちゃんに言っても仕方がないので話題を変える。
「『で、教室でご飯食べてるはずの結衣ちゃんはなんでここにいるんだい?』」
「それそれっ! 実はゆきのんとのゲームでジャン負けしてさー、罰ゲームってやつ?」
なるほど……。
僕はまだ食べていないたい焼きを後ろに隠す。
「へ? 何してるの?」
「『え、だって罰ゲームってどうせ『球磨川君のお昼ご飯を強奪してくること』とかだろ?』」
「違うしっ! どうしてそんな風に考えんの!? 負けた方がジュース買ってくるだけだよ!」
いや、油断ならない。
僕の
「ゆきのん、最初は『自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんなことでささやかな征服欲を満たして何が嬉しいの?』とか言って渋ってたんだけどね」
結衣ちゃんの、雪乃ちゃんのモノマネは死ぬほど似てなかった。というか似合わない。
「でも、『自信ないんだ?』って言ったら乗ってきた」
さすが負けず嫌いの残念完璧超人。目に浮かぶようだ。
「でさ、ゆきのん勝った瞬間に小さくガッツポーズしてた……。可愛かった……」
何それ超見たかった。
雪乃ちゃん僕に勝ってもドヤ顔するだけだしなー……。
「あ、おーい! さいちゃーん!!」
突然結衣ちゃんが僕の背後に向かって手を振った。
僕も後ろを見てみると、どうやらさっきまで自主練していた女子テニス部の子らしい。
彼女もこっちに気が付いたのか、とててっと走り寄ってくる。
「よっす! 練習?」
「うん。うちの部、すっごく弱いから、お昼休みも練習しないと……。由比ヶ浜さんと球磨川君は何してるの?」
「やー、別に何も?」
「『え、君罰ゲームの途中じゃなかったっけ』」
そう教えてあげると、『わ、忘れてたぁ!!』と、結衣ちゃんは慌ただしく去っていった。
「『やあ僕の名前は球磨川禊。君は?』」
「あ、戸塚彩加……です」
彩加ちゃんか。
僕がこんなかわいい子を見逃すはずがないから、おそらく国際教養科なのだろう。
あのレポートを書いてから色々あったため、リサーチをすっかり忘れていた。
「あ、あの……同じクラス……なんだけど……」
……なんだって?
いやいや、まさか、ありえない。
僕と同じクラスの女子なら既に身長体重スリーサイズBMI値まで頭に入っている。
こんなかわいい子を見逃すはずがない。
「体育一緒だよね……?」
「『ん? 体育は男女別でしょ?』」
そういうと、彩加ちゃんはしゅんとした。
「僕、男の子なんだよ……?」
ファーストインパクトが僕の中で起こった瞬間だった。
神様何やってんだよマジで。
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数日後、僕は彩加ちゃんから相談を受けた。
内容は『テニス部に入ってくれないか』というものだ。
体育での壁打ちですらまともにできていない僕を誘うなどおかしいなとも思ったが、どうやら狙いはその先にあるようだった。
つまり、僕と言う新たな刺激を加えることで弱小テニス部に発破をかけたいらしい。
ぶっちゃけ僕を入れるぐらいなら、女子テニス部と定期的に合同練習などを組めば部員たちのやる気や士気も上がると思うのだが。
彩加ちゃんの上目遣いには勝てなかったよ……。
とりあえず、返事は保留、ということにしておいてもらった。
そして、僕が受けた相談を雪乃ちゃんにも聞いてもらって、どうするべきかをアドバイスしてもらおうと思ったのだが……。
「無理ね」
雪乃ちゃんの言葉の日本刀は相変わらず切れ味抜群だった。
そろそろ名刀として名を馳せてもいいのではないだろうか。
「あなたがテニス部に入部したところで、状況が好転するとは思えないわ。むしろ数少ない部員がやめてしまうという事態になりかねないじゃない」
「『そうかもしれないけどさ、僕を共通の敵として部が一致団結する可能性だってあるわけじゃん?』」
「それはあなたを排除する努力はするでしょうけど、決して自分のことを高めようとはしないわ。ソースは私」
小声で雪乃ちゃんは『あの低能どもめ……』と呟いた。
聞かなかったことにした。
「『でも彩加ちゃんのためになんとかテニス部を強くしてあげられないかな』」
「あら、あなたが他人のためにそこまでしようなんて、珍しいわね」
失礼な。僕は弱い者のことは全力で応援する。
ただこの学校には僕が味方してあげようと思える同類がいなかっただけだ。
「『あぁいうか弱い子を見るとどうもね。余計なお節介をしてあげたくなっちゃうぜ』」
「ただの迷惑だから絶対にやめなさい」
ひどいことを言う。
「『じゃあ雪乃ちゃんならどうするの?』」
「そうね……。全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」
「『そんな僕じゃないんだから……』」
冗談にならない冗談を言ったところでガラッと勢いよく扉が開く。
「やっはろー! 依頼人連れてきたよー!」
頭悪そうな挨拶だなぁ。
そんな結衣ちゃんに続いておずおずと入ってくるのは我らが彩加ちゃんだった。
「あ、球磨川君!」
僕を見るなり、暗い顔をぱあっと輝かせる彩加ちゃん。
なんで女の子じゃないんだよ。
彩加ちゃんが男である事実をなかったことにできないかな……。
その場合、素直に女の子になるのか、はたまた男でも女でもない第3の性別になってしまうのか判然としなかったのでやめておいた。
「なんで球磨川君がここにいるの?」
「『僕ここの部員なんだよ。君こそどうしてここに?』」
と聞くと、なぜか結衣ちゃんがふふんと得意げに胸を張る。
「やー、ほら、なんてーの? あたしも奉仕部の一員じゃん? だから、ちょっとは働こうかなーって。そしたらさいちゃんがなんか困ってる風だったからさー」
「由比ヶ浜さん」
「ゆきのん、お礼とかそういうのいいから。部員として当然のことをしただけだから」
「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど……」
「違うんだっ!?」
違うんだ……。
もう当たり前のようにいるし、来れないときとか雪乃ちゃんに連絡してるからてっきり入部したものだと思っていた。
「ええ、入部届を貰ってないし、顧問の承認も貰ってないから部員ではないわ」
「書くよっ! 入部届くらい何枚でも書くから仲間に入れてよぉっ!!」
うわーんとカバンの中からルーズリーフを1枚取り出し、『にゅうぶとどけ』と書く結衣ちゃん。
まさか『入部届』を書けないんじゃないよね……。
それから数分。
彩加ちゃんのお願いを聞いたり、雪乃ちゃんが勘違いを訂正したり、結衣ちゃんが無意識に煽ったりと、色々あって最終的には『彩加ちゃんの練習を手伝う』という形で依頼を受けた。
「『で、どうするの?』」
「あなたさっきの私の話をもう忘れたのかしら?」
うん、いざというときは『
葉山との試合を期待していた人はすいません。
ちょっと長くなりすぎるのでここで切りました。
今日、明日はちょっと忙しいので次回の投稿は遅くなるかもしれません。
焦らされておいてください。