やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

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今回、球磨川君は出てきません。


あと、いろいろと独自解釈やオリ設定などがでます。
原作と矛盾している場合は指摘するか、流してください。


やはり雪ノ下雪乃は辿り着けない。

 箱庭学園。

 生徒数およそ1200人以上の超名門私立校。

 

 

 『生徒の自主性を尊重する』というありきたりな校風を、まさに体現している学園と言える。

 生徒間で起きたもめ事や問題も生徒会や風紀委員会が間に入って解決するなど、とにかく生徒が何でもやる。

 

 

 そんな箱庭学園の最大の特徴と言えるのが、『特待生制度』だ。

 普通科、体育科、芸術科の他に、特別普通科、特別体育科、特別芸術科が設置されており、全国から選りすぐりのエリートが集められている。

 特別科はそれぞれ1つずつクラスが割り当てられ、そのクラスの席が埋まるほど特待生が集められているというのが、箱庭学園のネームバリューの高さを如実に表していると言える。

 

 

 上記の特待生制度だが、実はもう1クラス分枠がある。

 それは『特別特別科』。

 なんというか非常にしつこい名称だが、この『特別特別科』はそんな字面以上に異常だった。

 

 

 特待生として学園に招待された生徒は、学費の免除、練習などでの出席日数の融通など、数多くの特典があるのだが、『特別特別科』はそれらの域をはるかに超えていた。

 

 

 『登校義務の免除』。

 もう学校という施設の存在意義を根底から揺るがすような、一学校が生徒に与えていいような特権ではないようなものだが、それが認められている。

 つまり、授業に出なくてもいいし、行事に参加しなくてもいいし、何か実績を残さなくてもいい。ただ名簿に名前を載せるだけで卒業できるのだ。

 

 

 これほどの特権を学園側が提示するほどの人材。

 私には想像もつかない。

 

 

 これが私、雪ノ下雪乃が集めることができた箱庭学園の情報だ。

 

 

 中学3年生の頃、受験勉強をしつつ進学先を選んでいる私に1通の手紙が来た。

 進学先を選んでいたと言っても、その時は8割がた総武高校への進学を決めていたようなものだったが、そこに来たのは箱庭学園からのスカウト、要するに箱庭学園へ入学してくれないか、という誘いだった。

 

 

 私は特別普通科として、入学を誘われていた。

 

 

 学費の免除や出席日数の融通などは、確かに魅力的だったが、私の家は比較的裕福だったのと、単に私は出席日数を融通してもらうことなど全く望んでいなかったため、この誘いを蹴った。

 

 

 正直言って、後ろ髪引かれなかったか、後悔しなかったかと問われれば、私は首を横に振るしかない。

 箱庭学園といえば、日本でも屈指の名門校だ。そこに進学すれば、さらに自分を高めることができるだろう。

 

 

 しかし、私の両親と姉がそれを許さなかった。

 

 

 それはそうだろう。

 箱庭学園は、この千葉からはとても遠い。

 そんなところへ娘を行かせたくなかったのだ。

 

 

 今、親元を離れて一人暮らしをしているのだって、説得に多大な労力と時間を費やした。受験などよりこちらのほうがよっぽど大変だった。

 

 

 しかし、実家から近い場所に部屋を借りること、定期的に顔を見せることを条件になんとか許してもらった。

 

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

 

 なぜ私が、その箱庭学園のことを今更調べているかというと、ある男の正体を探るためである。

 

 

 その男の名前は球磨川禊。

 同じ部活動に所属している同級生である。

 

 

 この男は異常だった。

 本人の言に則れば、過負荷(マイナス)というらしいが。

 

 

 以前、私は球磨川君の正体を聞き出すため、直接問い詰めたことがある。

 

 

 結果は今、私がこんなことをしているのを見ればわかる通り、失敗に終わった。

 完全に論破し、完膚なきまでに叩き潰したはずなのだが、彼が負けを認めたことで安堵し、その後の主導権を握られてしまったのが良くなかったようだ。ヒントだけを言い残して、のらりくらりと躱されてしまった。

 

 

 そのヒントというのが、『普通(ノーマル)』、『特別(スペシャル)』、『異常(アブノーマル)』、『過負荷(マイナス)』という才能の区分。

 球磨川君によれば、私は『特別(スペシャル)』で、彼は『過負荷(マイナス)』というカテゴリーに入れられるようだ。

 

 

 その4つのキーワードを元に調べていくうちに、私は箱庭学園に行き付いた。

 箱庭学園は『過負荷(マイナス)』を除いた3種類の才能を研究する機関でもあるらしい。

 

 

 この事実を知った私はすぐに箱庭学園のことを調べ、2年前に届いた手紙を元に、箱庭学園理事長への対談を申し込んだ。

 

 

 そして私は学校を数日欠席し、自宅から遠く離れた地、箱庭学園へとやってきていた。

 

 

 思わず圧倒されてしまうほどの、箱庭学園は広大だった。

 一つ一つの建物が総武高校の校舎全てと同等の大きさを誇っており、道一つとってもそこらの高校では比較対象にすらならないだろう。

 

 

 現在の時刻は13時30分。

 ちょうど午後の授業が始まったころなのだろう。敷地内には生徒が1人もいないため、さらにこの学園が巨大に見える。

 

 

 これだけの広さなのだから校内地図があるはずだと思い、近くを見回してみると、案の定入ってすぐの位置に箱庭学園全体図が設置されていた。

 

 

 私はお世辞にも方向感覚が優れているとは言えないので、地図を携帯のカメラで撮影していつでも見ることができるようにした。

 

 

 ……念のため、理事長室のある本校舎までの道のりを確認しておく。

 

 

 こういう地図の読み取りなどは問題ないのだが、何故か実行しようとすると途端にわからなくなる。

 この間など、目的地とは真逆の方向へ自信満々に歩き出し、最後は必死に自宅へたどり着くなどということがあった。

 

 

「貴女が、雪ノ下雪乃さん?」

 

 

 校内図を見つめていると、不意に後ろから呼びかけられる。

 振り向くと、学校の制服と思しき服装をしている長身痩躯に長髪の男子が立っていた。

 

 

「今日の案内をさせてもらう、箱庭学園2年13組、黒神真黒です。どうぞよろしく」

 

 

 こちらの返答を待たずに自己紹介を始める黒神さん。

 私も慌てて自己紹介を返す。

 

 

「総武高校2年、雪ノ下雪乃です。本日は急な申し出を受けていただき、ありがとうございます」

 

 

 私は黒神さんに対して深々と礼をする。

 

 

 すると、黒神さんは気にしないでくれとほほ笑んだ。

 

 

「この申し出もこちらに全く利が無いというわけじゃないんだ。君にこの学園について教えることで、転校を考えてくれるかもしれないというのが、理事長の考えらしくてね」

 

 

 その期待には応えかねるので、若干の罪悪感を覚えながらもその厚意はありがたく頂戴しておく。

 

 

 理事長室に向かう途中、ふと気になったことがあったので、雑談がてらに訊いてみた。

 

 

「あの、黒神さんは授業に出席しなくてもよろしいのですか?」

 

 

「ああ、大丈夫だよ。僕は13組、つまり特別特別科なんだ。ここではそのまま『ジュウサン』って呼ばれてるけどね。僕たち13組生は登校義務や授業への出席は免除されているんだよ。普通の高校生には考えられないかもしれないね」

 

 

 この人が特別特別科の生徒だったのか。

 傍目には何の特徴もないごく普通の好青年に見えるのだが。特別特別科というのがますますわからなくなった。

 

 

 世間話をしているうちに、理事長室へと辿り着いた。

 その世間話のうちの7割ほどは彼の愛しい妹たちの話だった。あまり知りたくない情報であることは間違いなかった。

 

 

 理事長室に入ると、そこには高価な家具があるだけで箱庭学園理事長である不知火袴さんはいなかった。

 

 

「どうぞ、座っていいよ」

 

 

 黒神さんが私にそう促しながら高級そうなソファに座った。

 私も黒神さんの向かいに座る。

 

 

 それから数分待ってみても、不知火理事長は現れなかった。

 

 

「あの、黒神さん。不知火理事長はいつごろいらっしゃるのですか?」

 

 

 約束の時間はもう過ぎているというのに、案内役である彼にも連絡が無いとは。

 会議が長引いているとかだろうか。

 

 

「ああ、いえ。不知火理事長は来ませんよ。今日の雪ノ下さんの相手は僕が務めます」

 

 

「あの、どういうことでしょうか」

 

 

 無意識のうちに少し声に怒気がこもってしまった。

 

 

「勘違いしないで下さいよ、雪ノ下さん。別に『高校生ふぜいに時間は割けない』というわけじゃあない。むしろ、事前に伺った質問に的確に答えることができるのが僕、というわけなんだ。まあ、それにしても不知火理事長も顔くらい出すべきだとは思うけど、あれで多忙な人だから」

 

 

「そう、ですか。すみませんでした、生意気なことを言ってしまって」

 

 

「気にしないでってば。それに同い年なんだし、堅苦しいのとかは無しでいいんだよ?」

 

 

「いえ、そういうわけにはいきません。私はわざわざ時間を割いて情報を教えてもらう立場ですから」

 

 

「はあ、難儀な人だ」

 

 

 困ったように笑う黒神さん。

 黒神さんは笑顔がよく似合う。

 

 

「では、本題に移ろうか。1つずつ質問に答えていくとしよう」

 

 

「はい。私が教えていただきたいのは2つです。まずは『異常(アブノーマル)』とは何か。教えてください」

 

 

 私は黒神さんの目をまっすぐ見て問う。

 それに彼は、笑顔を崩さずに答えた。

 

 

「『異常(アブノーマル)』。それがなんなのかはわかっていないんだ。才能と言う人もいれば、行き過ぎた個性と言う人もいる。その超常的な結果から、スキルなんて言う人もいる。その『異常(アブノーマル)』も人によってまるで違う。確かに個性というのは間違ってないね。人によって千差万別だ」

 

 

「超常的……」

 

 

「うん。僕が知ってるものだと……。銃弾すら避けることができるほどの反射神経。抑えられないほどに溢れる殺人衝動。他人の思考全て読み取る。他人を意のままに操る、などがある。それらは決して理論や科学などでは説明がつかない。だからこそこの箱庭学園が必死になって研究を行っているんだ。だから、これ以上の説明はできないんだよ」

 

 

「そう……。ちなみに、あなたの『異常性(アブノーマル)』というのは何なのか、教えてくださいませんか?」

 

 

「あはは、僕のはそれほどでもないんだけどね。人よりマネージメント能力が優れていたらしくてね。つまり、他人を育てることに長けてる異常性、ということだ。一歩間違うと『特別(スペシャル)』に分類されそうだよ」

 

 

 ニコニコと笑う黒神さん。

 あまり自分の才能や周りからの評価に興味がないようだ。

 

 

 このやり取りだけをとってみても、彼が私などよりも上位の人間であることが思い知らされてしまう。

 一瞬頭をよぎった仕様のない嫉妬心を振り払い、私は次の質問をした。

 

 

「では、次の質問に移らせていただきます。『過負荷(マイナス)』とは、何ですか?」

 

 

 私の質問を聞くと、黒神さんは常に絶やさずにいた笑顔をふっと消す。

 

 

「……それを、『過負荷(マイナス)』という言葉を、どこで知ったんだい?」

 

 

「すみません……。言うつもりはありません。必要な質問なのでしょうか?」

 

 

「あ、ああ……。いや、答える必要はないよ。悪かったね」

 

 

 誤魔化すように黒神さんが笑みを浮かべる。

 しかし、心なしかその笑顔は先ほどよりも余裕のないものにも見える。

 

 

「『過負荷(マイナス)』は『異常(アブノーマル)』以上にわかっていることが少ないんだ。何しろサンプルが少なくてね。僕が知っている『過負荷(マイナス)』も一人しかいない。正直、『過負荷(マイナス)』が軒並みあのレベルだとは思いたくないよ」

 

 

 黒神さんのその言葉を聞いて、私は球磨川君を思い出す。

 やはり私も、あんな人間もどきがゴロゴロいるとは思いたくない。

 

 

「定義するなら、『欠点を武器に戦う者たち』といったところか。普通なら克服しようとするような欠点を彼らはひけらかす。その姿が、常人にはどうしようもなく気持ち悪く映るんだろうね」

 

 

 普通なら克服しようとする欠点……。

 それは、球磨川君を知る私には、何とも納得しがたいものだった。

 

 

 だって、彼はいつも勝とうとしているから。

 人として最低なやり方を用いてはいるけど、彼は『どうしようもなく勝てない』という自分の欠点に真っ向から立ち向かっているように思えるのだ。

 

 

 ……まあ、他にも数え切れないほどの欠点をほったらかしてはいるのだが。

 

 

「質問に答えていただき、ありがとうございました」

 

 

 黒神さんが回答を締めるのを見て、私は再びお礼を言った。

 それに黒神さんはなんとも申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「いや、こちらこそ。遠いところわざわざ来てもらったのに、大したことも教えてあげられなくて、申し訳ない」

 

 

 そんな挨拶もそこそこに、私は理事長室をあとにした。

 

 

 黒神さんに帰り道の案内を提案されたが、さすがにそこまで世話になるわけにはいかないと、丁重に断らせてもらった。

 

 

「それが裏目に出たわね……」

 

 

 うん、まあ、私は迷ったと言えなくもない。

 

 

 ただこの校舎の出方がわからないだけだ。

 

 

 とりあえず進んでみる。立ち止まっていては出られるはずもない。

 

 

「よお」

 

 

 歩いていたら、後ろから声が聞こえてきた。

 しかし、ここにそんな気安く声をかけてくる知り合いはいないはずなので、きっとわたしのことではないんだろう。

 

 

「おい。無視してんじゃねーよ。他校生のねーちゃんよ」

 

 

 どうやら私に話しかけているようだった。

 まあ、授業中のようなので私以外に声をかける相手などいないのだけれど。

 

 

 後ろを振り返ると、黒神さんと同じ制服を着た子供が腕を組んで立っていた。

 

 

「やぁっとこっち向いたか。で、お前誰よ? ここはお前の学校じゃないはずだぜ?」

 

 

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だと教わらなかったのかしら?」

 

 

「人に名前を尋ねられた時に、変な理屈こねて名前を答えないほうがよっぽど礼儀知らずだと思うがね、俺は」

 

 

 なんと生意気な子供なのかしら。

 まあいいわ。ここは年長者の余裕というものを見せてあげようじゃない。

 

 

「私は総武高校2年、雪ノ下雪乃よ。今日はここに用があってきたの。で、あなたはなんでここにいるの?」

 

 

「おう、雪ノ下か。俺の名前は雲仙冥利。1年13組だ。その顔から察するに、どうせどっかから忍び込んだ悪ガキだとでも思ったんだろ? 間違っちゃいねえけどな。確かに俺ぁまだ9歳だ。けどな、飛び級でこの箱庭学園に入学して、今じゃ風紀委員長まで任されてるんだぜ? すげーだろ」

 

 

 驚いた。こんな子供まで通っているのか。

 しかも特別特別科だ。

 この短時間で通常、登校義務のない13組生に2人も会ったというのはかなり珍しいことなのではないだろうか。

 

 

「で、お前は何の用だったんだ?」

 

 

 この少年……雲仙君はどうやら敬語を使うつもりはないようだ。

 

 

「あなたに教える必要はないわ。もう用も済んだのだしね」

 

 

「いいじゃねえか。教えてくれよ。何なら、この学園を案内してやるぜ?」

 

 

「余計なお世話よ。後は帰るだけなのだし、のんきに観光してるほど暇ではないの」

 

 

「でもお前、迷子だろ?」

 

 

 なぜバレたの。

 

 

「簡単だ。ここは外部の人間に用があるような場所じゃねえ。それにさっき話しかける前にきょろきょろしてんの見りゃ一発だろ」

 

 

 雲仙君はケケケと笑うと、こちらをじろじろと観察してくる。

 

 

「じゃあこういうのはどうだ? 帰り道を案内してやっから、その道すがら俺の雑談に付き合え」

 

 

 ……正直、雲仙君とは反りが合わないというか根本的に相性が悪そうだが、このまま一人で彷徨っていても、この学園から出られるというわけではない。

 

 

 それに、『異常(アブノーマル)』と『過負荷(マイナス)』について、もう一人の特別特別科から話を聞けるというのは、案外こちらにとって好条件なのかもしれない。

 

 

「わかったわ。道案内をお願いします。ただし、答えられない質問には答えないわよ」

 

 

「いいっての。そこまで興味があるわけでもねえし、流石に他校の生徒を取り締まるほど、風紀委員会も特権的ってわけじゃねえからな」

 

 

 取り締まる、という言い方から箱庭学園では風紀委員会は警察のような役割を担っているのだろうか。

 

 

 流石、『自由な校風』を地で行く学園だ。

 

 

 雲仙君が『ついてきな』と歩き始めるので、私もそのあとに続く。

 

 

「で、雪ノ下はなんでこの箱庭学園に来たんだ? ちょっとした用がある程度で他校の生徒が入れるほど自由じゃねえぞ、この学園」

 

 

「少し理事長にお話を伺いたかったのよ。『異常(アブノーマル)』と『過負荷(マイナス)』についてね」

 

 

「『異常(アブノーマル)』だと? なんでそんなことが知りてーんだよ」

 

 

「答える気はないわ」

 

 

「ケッ、そうかい。しかし『過負荷(マイナス)』なんてのは聞いたことがねえな」

 

 

 聞いたことがない?

 やはり、『過負荷(マイナス)』は『異常(アブノーマル)』と比べて数が少ないのだろうか。

 

 

 それとも、この学園が『異常(アブノーマル)』しか集めていないからか。

 

 

「あなたからも話が聞きたいわ。『異常(アブノーマル)』って何なの?」

 

 

 私の問いに雲仙君はどうでもよさげに答える。

 

 

「あ? 『異常(アブノーマル)』は『異常(アブノーマル)』でしかねえよ。それ以上でもそれ以下でもねえ。何かをすれば異常で気持ち悪い結果を出しちまう。それが『異常(アブノーマル)』だ」

 

 

「……? どういう意味なのかしら」

 

 

「こういう意味だよ」

 

 

 ケケケと雲仙君が笑いながら取り出したのは8つのサイコロだった。

 

 

 それをばらまくように廊下に放り投げる。

 

 

「出目を全部確認してみな」

 

 

 雲仙君に言われて、散らばったサイコロを全て確認すると、なんと8つのサイコロ全てが6の目を出していた。

 

 

「それが『異常(アブノーマル)』だ。これは俺たちの異常度を図るためのテストみたいなものでな。俺がサイコロをふれば必ずこうなる。何ならもう一回振ってみせようか? 6の8乗分の1の確率が連続して起こるぜ」

 

 

 信じられなかった。

 しかし、こうも自信満々で言っているのを見ると、嘘や見栄などではないのだろう。

 

 

「『異常(アブノーマル)』を理屈で考えようとすんなよ。現実になった結果が全てだ。報われなかった努力が何の意味も持たないのと同じでな」

 

 

 そう言い捨てて、雲仙君は立ち止まる。

 

 

「ほら、ここから玄関を出てまっすぐ進めば校門だ。これで俺の道案内も終わりだな」

 

 

 雲仙君はやれやれと言った風に肩を回す。

 

 

 自分から言いだしておいて、なぜ嫌々してやったみたいな雰囲気を出すのか。

 

 

「ありがとう、雲仙君。案内もだけれど、あなたの話もとても参考になったわ」

 

 

「いいって言ってんだろ。感謝されると俺の善行が見返り目当てみてえになるだろうが。あんま俺を貶めんじゃねえ」

 

 

 よくわからないことを言うわね。

 

 

 雲仙君は立ち去ろうとして、『あ、そうだ』とまるで思い出した風に呟くと、再びこちらに振り返る。

 

 

「正義の風紀委員として忠告しておいてやるよ。ありがたく聞け」

 

 

 ……実はこの子、球磨川君とよく似てるのではないだろうか。

 

 

「お前の正義は、いつか破綻するぜ。そんな感じの目だ」

 

 

「何を根拠に……」

 

 

「根拠なんてねえよ。勘だ、勘。ま、占い程度に思っておけ」

 

 

 そう言って、今度こそ雲仙君は去っていった。

 

 

 帰りの飛行機の中で、雲仙君に言われた言葉が脳内にこだましたが、結局私には何のことだかわからないままだった。

 

 




というわけで、『ゆきのん、箱庭学園に立つ』でした。

真黒さんはやはり妹がいなければただの好青年ですね。


雲仙君の異常性は何なんでしょう。
ガイドブックとかに載ってるんですかね。
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