やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

14 / 31
お久しぶりです

更新に間が空いてしまってすみませんでした。


執筆にも間が空いてしまったので、所々おかしいところもあるかもしれませんが、ご容赦ください。


では、葉山君回始まります。


決して葉山隼人は転ばない。

「『最近、漫画やアニメキャラの武器にも斬新さが欠けてきましたよねぇ。戦場ヶ原さんの文房具とか、初めて見た時には感心したものですけど、それも最近見ませんしね。この辺で一周回ってトランプを武器に戦うキャラが出てきてもいいんじゃないでしょうか。このままいくと、自転車とか炊飯ジャーで戦うキャラが出てきかねませんよ。確かに意外ですけど、そこまですると流石に迷走していると言わざるを得ません』」

 

 

「君のその感じも久しぶりだな」

 

 

 というわけで、お馴染み職員室からの平塚先生と二人でオープニングだ。

 

 

 前回の時にマンネリだとか言っちゃったせいか知らないけどしばらく違ったオープニングだったし。

 

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。最近の奉仕部はどうだ?」

 

 

「『いたって平和、という名の閑古鳥が鳴く状態ですね。彩加ちゃんの依頼でテニスの練習は継続的に続けてますが、それだけです。放課後なんて雪乃ちゃんは読書、結衣ちゃんは携帯、僕は週刊少年ジャンプといった感じで』」

 

 

「何事もないようだな。依頼人なら近日中にでも私が見繕ってきてやる。しかし、君の更生の方は進んではいないようだな」

 

 

「『何を言っているんですか。奉仕部のおかげで僕の人生は劇的に変わりましたよ。これからは心を入れ替えて生きていきます!』」

 

 

「誤魔化す気さえ感じられない嘘をつくんじゃない」

 

 

 はぁーっと深いため息とともに先生は煙草を取り出す。

 そういえば学校内って禁煙じゃなかったっけ。

 中学で生徒会長してる時に、煙草を吸った教師が謹慎処分になった気がする。

 チクッたの僕だけど。

 

 

 あとで確認してみよーっと。

 

 

「まあいい。君の更生がそんなに簡単に終わるとは思っていない。さあ、今日も元気に奉仕活動に勤しんで来い。雪ノ下は今日から私用で数日欠席するから、しばらくは君が鍵を取りに来るんだぞ」

 

 

 そう言って先生は机の引き出しから鍵を取り出して、僕に手渡す。

 

 

「『え、じゃあ僕も私用があるんで休んでいいですか?』」

 

 

「ダメだ」

 

 

 即答だった。ひどいや。

 

 

「『差別は良くないと思いますよ』」

 

 

「差別ではなく区別だ。君と雪ノ下を同じ待遇にしては、生徒への示しがつかん」

 

 

 この人、最近過負荷(マイナス)がかってきてないかな。

 僕みたいなこと言いだしやがる。

 

 

「ああ、それとな。ホームルームでも言われていたはずだが、今度の職場見学は3人1組で周ってもらうことになっている。早いうちに決めておけよ」

 

 

「『大丈夫ですよ。余った人と組むんで、僕には関係がないことです』」

 

 

「君……言ってて悲しくならないか?」

 

 

 そう言われても仕方がないじゃないか。

 

 

「『では、失礼しますね。結衣ちゃんを1人ぼっちにするのもかわいそうですから』」

 

 

 僕はそう切り上げ、職員室を出る。

 今日は久々に怒られなかったな。

 

 

 いつものパターンだと、職場見学希望書の件で怒られるのだが、『集英社のジャンプ編集部』と書いた僕に死角はないんだぜ。

 

 

 職員室を出た僕はまっすぐ部室には向かわず、鍵を持っていつもの自販機に寄った。

 

 

 結衣ちゃんを待たせてしまうかもしれないが、まあいいや。

 

 

 ここの自販機ではいつもブラックコーヒーとMAXコーヒーを買う。

 それを混ぜて飲むのがお気に入りだ。

 

 

 部室でも飲みたくなるので、最近マグカップを常備し始めた。

 

 

 2つを買うと、向こうから結衣ちゃんが走ってきた。

 

 

「あー! こんなとこにいた!」

 

 

 なんで怒ってるんだろ。

 

 

「超探したんだからね! 誰かに聞いても全然クマーのこと教えてくれないし!」

 

 

 結衣ちゃんは頬を膨らませながら腕を組んで見せてくる。

 どうやら僕のことを探していたらしい。

 

 

「『ごめんごめん。先に部室行っててもよかったんだぜ?』」

 

 

「部室鍵かかってたんだよ! 平塚先生はクマーに鍵渡したって言ってたし!」

 

 

 入れ違いになってしまっていたようだ。

 

 

「『それは手間かけさせたね。お詫びに何か奢ろうか?』」

 

 

「え、いや、いいよ! その代わり……その……」

 

 

 さっきまでの元気はどこへやら、急にもじもじと大きな胸の前で指をからませる結衣ちゃん。

 

 

「け、携帯教えて? ほ、ほら! わざわざ捜して回るのもおかしいし、恥ずかしいし……。 どんな関係か聞かれるとか、ありえないし……」

 

 

「『いいよ』」

 

 

「軽っ!」

 

 

 驚いてる結衣ちゃんをよそに、僕は制服のポケットを弄る。

 

 

「『あれ、どれがまだ使ってない携帯だったかな』」

 

 

 目当てではない携帯をその辺に放り、調べ続ける。

 少し待って、と言おうと結衣ちゃんの方を見ると、ポカーンとしてた。

 

 

「く、クマーなんでそんなに携帯持ってんの?」

 

 

「『ふ、愚問だね。僕の名前は球磨川禊。携帯電話を全機種持つ男だよ』」

 

 

「意味無っ! クマーそんなに友達いないじゃん」

 

 

 悪気も無しに人の急所を抉ってくる子だ。

 

 

「『意味無いことなんてないぜ。こっちはamazonからのメールを受け取る用で、こっちは楽天からのメールかな』」

 

 

「家族ですらなかった!?」

 

 

 などという楽しいやり取りの末、僕は結衣ちゃんの連絡先を手に入れた。

 

 

「『結衣ちゃんまだガラケーなの? おっくれてるぅー』」

 

 

「うっさいし! スマホとか意味わかんないもん! 使い慣れてる方が絶対いいし!」

 

 

「『食わず嫌いはいけないぜ。ほら、僕のiPhone貸してあげるから、ちょっと使ってみな』」

 

 

 結衣ちゃんにiPhoneを渡し、結衣ちゃんのガラケーを預かる。

 

 

 そのまま廊下を歩いているわけだが。

 

 

 結衣ちゃんがすっかりスマホに夢中になっている。

 前とか見えていなさそうだ。

 

 

 試しに歩く速度を落として結衣ちゃんを1人で歩かせてみる。

 

 

 あ、先生にぶつかった。

 

 

 それから結衣ちゃんは先生から5分ほど説教を受け、ぷんすこ怒りながらこっちに向かって走ってきた。

 

 

「クマーなんで逃げてんの!!」

 

 

「『僕が逃げたことと結衣ちゃんが先生に怒られたことは何の関係もないじゃないか』」

 

 

「あるよ! クマーが止めてくれたらぶつからなかったじゃん!!」

 

 

「『ものすごい責任転嫁だね。僕もびっくりだよ』」

 

 

 なんて、僕と結衣ちゃんはやかましくも微笑ましい、毒にも薬にもならないような会話をしながら部室に向かった。

 

 

 部室に着いてからもいつものように依頼が来ることはなく、僕たちはそれぞれ思い思いの時間つぶしをしながら、たまに思い出したように談笑をして過ごした。

 

 

 唯一いつもと違うことがあるとすれば、それは窓際で静かに読書する雪ノ下雪乃が今日はいなかったことだろう。

 

 

 結局、今日も活動らしい活動はせずに日が傾いてくる時間になった。

 グラウンドから聞こえてくる部活動の掛け声なども次第に聞こえなくなってきていて、校内に残った生徒もじきに帰宅するだろう。

 

 

 そろそろ僕も帰ろうかと週刊少年ジャンプを閉じた時、コンコンッと小気味のいいノックが聞こえた。

 

 

 平塚先生がついにノックを覚えたのだろうか。

 

 

 ……ないな。

 

 

「『どうぞー』」

 

 

 雪乃ちゃんがいないので僕が声をかけると、扉が開けられて訪問者が部室に入ってきた。

 

 

「お邪魔します」

 

 

 そこにいたのは、いつかの爽やかイケメン、葉山隼人君だった。

 

 

「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」

 

 

 イケメンオーラを振りまいて、葉山君は近くの椅子に腰を掛ける。

 そして部室内を物珍し気にきょろきょろと見回していた。

 

 

「雪ノ下さんはいないのか?」

 

 

「『雪乃ちゃんは今日は休みだよ。彼女に用があるのならまた出直してきてくれていいし、僕たちでも力になれるのなら、喜んで相談に乗ろう。それとも……』」

 

 

 葉山君の肩がびくっと震える。

 

 

「『僕がいない方がいいなら、席をはずそうか?』」

 

 

「……いや、君にも話を聞いてもらいたい。相談相手を選んでいられるほど余裕があるわけじゃないんだ」

 

 

「『……そう』」

 

 

 いいね、すごくいい。

 君の君らしからぬその苦悶の表情を見れて、僕は満足だ。

 

 

 ここで君が僕にもあの爽やかイケメンスマイルを向けてくるようなら、僕はその顔に特大のプレゼントを螺子こんでいたところだ。

 

 

 君が聖人君子なんかじゃなくて本当によかったぜ。

 

 

________________________________________

 

 

 

 葉山君の相談というのは、最近クラス内で流行っているチェーンメールのことらしい。

 今日結衣ちゃんにアドレスを教えたばかりの僕の元へは回ってくるはずもなかったので、気付かなかった。

 

 

 確かに最近クラスの様子がどこか変だとは思っていたが、どうでもよかったので気にも留めていなかった。

 

 

 そのチェーンメールの内容はというと、葉山君グループの葉山君以外の男子三人を貶める噂が書かれていた。

 

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』

『大和は三股かけている最低の屑野郎』

『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』

 

 

 多少言葉などに差異はあるが、大体の内容はこんな感じだった。

 

 

「『で、このチェーンメールを何とかしてほしいっていう依頼なんだね?』」

 

 

「うん、その通りだ。止めたいんだよね、こういうの。あんまり気分がいいものじゃないしさ」

 

 

 あ、でもね。と葉山君は明るく付け足す。

 

 

「犯人捜しをしたいんじゃないんだ。丸く収める方法が知りたいんだ。頼めるかな」

 

 

 ふむふむ。丸く収める方法、ねえ。

 

 

「『あ、じゃあこんなのはどうかな? その三人だけがチェーンメールで悪口を書かれているから角が立つんでしょ? ならクラス全員分の悪口が書かれたチェーンメールを拡散させれば皆平等だ!』」

 

 

 あれ、結衣ちゃんと葉山君が信じられないものを見る目でこっちを凝視しているぞ。

 やっぱり雪乃ちゃんがいないとイマイチしまらないなあ。

 

 

「……一応言っておくけど却下だ。そんな方法は認めるわけにはいかない」

 

 

「『ま、だよね。僕も言ってみただけだよ。でもそれならどうするんだい? チェーンメールを止めるなんてのは実際不可能だよ。犯人はその匿名性を利用して手を出したんだろうし、君が犯人捜しをしないと言ったからねえ。これは君から依頼を受けるにあたって訊いておきたいんだけどさ。『丸く収まる』って具体的にどういう状態なんだい? 僕たちは何を目標に依頼を遂行すればいいんだい?』」

 

 

「そうだな……。まずはチェーンメールのこれ以上の拡散の阻止。それから新たな内容のチェーンメールが回されるのも止めたい」

 

 

「『それだと君が最初に言った『犯人捜しをしない』という要望を守るわけにはいかないよ。その目標はどちらも『犯人がこれ以上チェーンメールを流さない』という状況を作らないといけないからね。どうしても犯人を突き止める必要が出てくる。これ以外の方法となると、もう僕には『クラス全員の携帯電話をぶっ壊す』くらいしか案がなくなっちゃうんだけど。犯人を捜す方向でいいかい?』」

 

 

 僕がそう言うと、葉山君は仕方ないとでも言うようにため息をついて頷いた。

 

 

「『じゃあまずは犯人の動機を考えよう』」

 

 

「どーき?」

 

 

 さっきまで会話に入れずにオロオロしていた結衣ちゃんがようやく口を開いた。

 

 

「『動機っていうのはね、何かをするための理由のことだよ。ミステリードラマとかで良く使われる言葉だね。今回の件で言えば、『犯人がチェーンメールを流した理由』だ。これがわかれば、もしかしたら犯人を見つけなくてもこの件は解決できるかもしれないよ』」

 

 

「犯人が目的を達成できれば、チェーンメールも収まるというわけか」

 

 

「でもどうやったら犯人の動機なんかわかるの? 犯人もわかんないのに、犯人の考えてることなんてわかんなくない?」

 

 

 まあ、確かにね。これが普通のチェーンメールならそんなの推測しようがない。

 

 

「『でも今回はうちのクラス内でのみ流行ってるチェーンメールだからね。チェーンメールが送られ始めた時期に何か変わったことがあれば、それが原因の可能性もある。結衣ちゃんや葉山君はクラスの上位カーストに属してるから、チェーンメールも割と早い段階で受け取ったんじゃないかな。よければどの時期からチェーンメールが流行りだしたか教えてもらえない?』」

 

 

 あれ、どしたの。2人ともポカーンとして。

 僕が首をかしげると結衣ちゃんが気にしないでと大げさに首を振った。

 

 

「ちょっとクマーがそんなに考えてるなんて意外だったからさ。こーゆーのはゆきのんの得意分野かなと思ってたし……」

 

 

「『普段は雪乃ちゃんがいるから僕がこんなことをする必要がないだけさ。雪乃ちゃんのロジックに僕が太刀打ちできるわけないからね。で、そろそろ教えてくれる?』」

 

 

「あ、ああ、そうだね。俺が受け取ったのは確か……、先週末だな。その辺りから戸部たちの様子もおかしくなったし、その頃に送られ始めたと考えていいはずだ」

 

 

「『じゃあ、次の段階。チェーンメールが送られ始めた時期、またはその直前にクラスで起こった変わった出来事は?』」

 

 

 うーんと考え込む僕たち三人。

 

 

 数分考えたのち、結衣ちゃんがあっと声をあげる。

 

 

「そういえばちょうど先週末じゃない? 職場見学のグループ分けしろって言われたの」

 

 

「『あー、僕まだ決めてないや。ま、余った人と組むかな』」

 

 

「そういえば俺もまだだったな。球磨川君、どうせなら俺と組むか?」

 

 

「『心にもないこと言っちゃって。君はあのグループ内で……。あー、なるほどね』」

 

 

 手をポンと叩いて納得する。

 

 

 葉山君はピンと来てない表情だが、結衣ちゃんはわかっていたようだ。

 

 

「『えー、そんなことで?』」

 

 

「いやー、こういうイベントごとのグループ分けってその後の関係性に関わるからねー。結構ナイーブになる人もいるんだよ……」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。2人で納得してないで、俺にも教えてくれないか!?」

 

 葉山君が声を荒げる。

 ま、仲間はずれはよくないね。

 

 

「『結論から言うと、チェーンメールを送り始めた犯人は、そのチェーンメールで悪口を書かれていた三人である可能性が高いってことだね。動機は職場見学のグループ分けでハブられないため。グループは三人一組だからね。どうしたって四人一緒にはなれない。自分がハブられないために一人を蹴落とす必要があるのさ』」

 

 

「待ってくれ!俺はあの三人の中に犯人がいるなんて思いたくない。それに、メールの内容は三人それぞれを悪く言う内容なんだぜ? あの三人は違うんじゃないか?」

 

 

「『おめでたいね、葉山君や。そんなの自分に疑いがかからないようにするために決まってるじゃないか。ま、僕なら自分の分の悪口だけ書いて被害者ぶるけどね。被害者の発言権は絶対だ』」

 

 

「うわ、クマー最低……」

 

 

 失敬な。

 僕が身を削ってるだけじゃないか。

 

 

「『とりあえず、君のグループの男子三人について教えてくれない? 人となりというか』」

 

 

 僕は葉山君に情報を求める。

 

 

 当の葉山君はというと、悔しそうに唇を噛んでいたが、意を決したように顔を上げる。

 

 

 その目には、『仲間の疑いを晴らしてやろう』という信念と言うか決意と言うか、そんな感じのものが宿っている。

 

 

「まず戸部は。俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目は悪そうに見えるけど、1番ノリのいいムードメーカーだ。文化祭や体育祭でも積極的に動いてくれる。いい奴だよ」

 

 

「『スリルを求めて万引きをするタイプだね』」

 

 

 葉山君、その顔今日何度目だい?

 いい加減見飽きたぜ。

 

 

「え、ええと…….。大和はラグビー部だ。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりしたマイペースさとその静かさが人を安心させるって言うのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ」

 

 

「『友達が万引きをしているのを見て見ぬふりするタイプだね』」

 

 

「…………」

 

 

葉山君が苦々しい顔で沈黙しているが、諦めたようにため息をついて続ける。

 

 

「大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの味方をしてくれる気のいい性格だ。上下関係にも気を配って礼儀正しいし、いい奴だよ」

 

 

「『周りに流されて万引きするタイプだね』」

 

 

『…………』

 

 

 いつの間にか結衣ちゃんも揃ってしーんとしていた。

 

 

 それにしてもしーんって効果音すごいよね。

 無音の音なんて、勝利した球磨川禊くらい矛盾している。

 

 

「『どの人が犯人でもおかしくないね』」

 

 

「正直、俺は君が犯人ならどれだけいいかと考えているよ……」

 

 

「『なんなら携帯を調べてみるかい? ま、ここで話し合えるのはこのくらいかな。あとはちょっと調べてみないと何とも言えないね。話し合いだけで犯人を決めつけるわけにもいかないし』」

 

 

 葉山君の視線を振り払うように僕は立ち上がって軽く伸びをする。

 部室での会話パートは動作の描写が少なくていけないね。

 会話文がほとんどを占めちゃうよ。

 

 

「『んじゃ、明日は葉山君の愉快な仲間たちについて調べるね。葉山君からの情報じゃ、皆いい奴になっちゃいそうだし。僕が直々に調査しよう』」

 

 

「クマーなんか偉そう!! じゃあ私も友達とかに訊いてみるよ。クマーだけに任せるのもあれだし……」

 

 

「『そ、助かるよ。じゃあ今日のところはこれで解散ね! どうせ明日教室で会うんだし、僕平塚先生に鍵返さなきゃいけないからさ!』」

 

 

 窓の外を見ると、すでに日も落ちて真っ暗になっていた。

 時刻は午後7時ちょっと過ぎ。じきに完全下校を促すチャイムがなるだろう。

 

 

「『葉山君は結衣ちゃんを送ってあげてよ。僕は本屋さんでエロ本買う予定だから!』」

 

 

 それじゃ、また明日とか。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 時間は飛んで翌日の放課後。

 

 

 奉仕部室には僕と結衣ちゃんと葉山君という昨日のメンバーが揃っていた。

 今日は葉山君も無理を通して部活を休んだらしい。

 

 

 で、肝心の情報収集の成果はと言うと。

 

 

「ごめん! 女子に訊いてみたけど何もわかんなかった!」

 

 

 ご覧のとおり結衣ちゃんは撃沈。

 

 

 まあ仕方なかったと言えるだろう。

 結衣ちゃんは同じグループで葉山君たちとも仲のいい三浦ちゃんと海老名ちゃんに話を聞いたのだが、三浦ちゃんは興味なし、海老名ちゃんは貴腐人コースまっしぐらの腐女子だということしかわからなかった。

 

 

 その後の休み時間も結衣ちゃんは葉山君狙いの腐陣の良さを結衣ちゃんにマシンガンの如く語り、それに結衣ちゃんもあうあうと言っているしかなかった。

 

 

「『ま、それだけ近い女子たちに訊いてその情報量なら、今回の件に女子が噛んでいる可能性もないでしょ。ますます三人への容疑が強固なものになったと見るべきだね。ご苦労様、結衣ちゃん。『何もわからない』という情報も貴重な情報には変わりないんだぜ』」

 

 

 僕はそう慰めながら結衣ちゃんの頭を撫でる。

 

 

 その時にさりげなく『大嘘憑き(オールフィクション)』で結衣ちゃんの記憶からBL関連の情報をなかったことにするのも忘れない。

 ただでさえ標的にされるからね、僕。

 

 

 海老名さんの口から『とつくま』という単語が聞こえたのを僕は忘れられない。

 僕受けなの?

 

 

「球磨川君は何かわかったことは無かったのかい?」

 

 

「『うーん……。僕は聞き取り調査に向いてないから、ずっと君たちを観察してたけど、特に新しく分かったことは無いなあ。葉山君とあの三人は本当に仲がいいなと思ったくらいかな。まるで青春ドラマのワンシーンみたいだったよ』」

 

 

「まあ、あいつらはクラスの中でも特に仲がいいからな。それにしても、青春ドラマってのは言い過ぎだろう」

 

 

「『いやいや、謙遜するなよ。本当にドラマや舞台を見ているみたいだったぜ』」

 

 

 だってさ。

 

 

 

 

 

 

「『主役が舞台から降りたら途端に演技をやめるとか、まさに茶番劇みたいで微笑ましかったよ』」

 

 

 

 

 

 

 おや、今日はその顔初めてだね、葉山君。

 

 

「どういう事だ……?」

 

 

「『要するに君の友達三人組は、1人と1人と1人というわけだ。葉山君は友達だけれど、他の奴は葉山君の友達。つまり君を介してしか繋がってなかったということだね。事実、君が先生に呼ばれたとかで席を立つと、途端に黙り込んでたよ』」

 

 

「あ、ああ~。それすごいわかる……。会話回してる人がいなくなると何していいかわかんなくて、つい携帯とかいじっちゃうんだよね……」

 

 

 結衣ちゃんがため息をつきながら共感している隣では、葉山君が苦々しい顔をしていた。

 衝撃の事実が信じられないようだ。

 

 

「『この情報にしても彼らの容疑がより固まっただけで犯人は絞り込めないんだよなー。もう推理に切り替える? 僕は戸部君が怪しいと思うなあ。だって他の2人は完璧にマイナスな悪口なのに一人だけ『喧嘩が強い』っていうプラス評価が貰えそうな悪口だし、他の2人を蹴落として、なおかつ自分が疑われないギリギリの線じゃない?』」

 

 

「えー、でもとべっちそんなに考えてるかなあ。性格的にもそんなことしなさそうだし、そーゆー微調整みたいなのできないと思う」

 

 

「さりげに戸部のこと低く見てるね、結衣……」

 

 

 葉山君が呆れたように呟く。

 しかし、ツッコミにしてはやはり元気が足りない。

 

 

 そろそろ葉山君もメンタル的に限界っぽいな。

 

 

「『じゃ、ここらで解決策の話をしようか』」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

 二人が揃えて素っ頓狂な声をあげる。

 

 

「解決方法わかってたならさっさと教えてくれてもいいじゃん!」

 

 

「『いやいや結衣ちゃん。ここは奉仕部だぜ? 持ち込まれた悩みに無条件で解決法を提示したら本人のためにならないじゃないか。確かに二次創作で『面倒だから』と描写を省かれそうではあるけど、『飢えている人に魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える』のが奉仕部のモットーだぜ』」

 

 

 あー、そんなのもあったねー、と結衣ちゃん。

 雪乃ちゃんが聞いたら罵倒の雨霰だよ?

 

 

「『今回は、葉山君が自分の周りの状況を理解すること、だ。ちゃんとわかったよね?』」

 

 

「あ、ああ……。確かに俺一人じゃ気付けなかっただろう。ありがとう」

 

 

「『お礼は丸く収まってからでいいよ。さて、この球磨川禊の解決法。心して聞くといい』」

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 さらに翌日、グループ決定当日。

 

 

 僕の心中は穏やかではない。

 

 

 なぜかって?

 先の件が丸く収まったからさ。

 

 

 僕が葉山君に教えた解決法は『全員が別々のグループに入ること』だ。

 グループから一人だけハブられるのが嫌だから起こったチェーンメールなら、三人ともハブればいい。

 

 

 そうすることで、チェーンメールは何の意味もなかったものになるというのが僕の筋書きだった。

 

 

 しかし、あの幸せ者(プラス)の権化である葉山君は、僕の案を幸せ(プラス)なものに昇華させてしまった。

 

 

 それは『戸部、大和、大岡でグループを組む』というものだ。

 

 

 これにより、僕が期待していた殺伐としたものが一気に青臭いものになってしまった。

 

 

 けっ。

 

 

「みーそーぎっ」

 

 

 手元の週刊少年ジャンプから顔を上げると、そこには戸塚彩加ちゃんがいた。

 

 

 そういえば、彩加ちゃんが男だって判明したけど、ずっとちゃん付けで呼んでたな。

 変えた方がいいかな。

 

 

「ね、ねえ……。もう、職場見学のグループ、決まった……?」

 

 

 ごめん無理変えられない。

 

 

 だって、手を後ろに組んで上目遣いだぜ。

 男であることが唯一の欠点だろ、この生命体。

 

 

 生まれた時から間違ってるとか何それ悲しい。

 

 

「『んーん。僕は余り待ち。こういうのはあまり得意じゃなくてね』」

 

 

「そっか! じゃあ僕と組もうよ!」

 

 

 ぱああっと顔を輝かせる彩加ちゃん。

 煩悩が頭をF-1並みに過って会話に集中できません。

 

 

「そのグループ、俺も入れてもらっていいかな」

 

 

 と、そこで現れたるはクラスカースト頂点に君臨する葉山君だった。

 

 

「『あれ、もしかして戸部君たち以外に友達いなかったり? プークスクス』」

 

 

「そんなことはないさ。ただ、球磨川君と組んでみたいなと思っただけだよ」

 

 

 戸塚とも仲良くしたいしね、と繋げる。

 

 

「『僕のこと嫌いなんじゃないの?』」

 

 

「これから好きになるかもしれないだろ?」

 

 

 はふ、と僕は大きなため息をつく。

 何気に僕がため息つくのって珍しい。

 よくつかれてるからね。

 

 

「『君は根っからのいい人(プラス)だね』」

 

 

「ならお前は根っからの悪い人(マイナス)か?」

 

 

 

 

 

 

 そうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作とは少し違う『ゆきのんのいない奉仕部』でした。

ゆきのんはもちろん箱庭学園に行っております。


活動報告ってあんまり見られないんですね。
そちらで番外編のアイデアを募集しておりますので、なにかあればぜひ教えてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。