やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

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あまり間をあけずに投稿できて嬉しいです(小並感)


俺ガイルとめだかボックスのキャラでダンロンパロやろうかと思いましたが、中途半端になりそうなのでやめました。

むしろ設定渡すんで書いてくれる人いないですかね。
|д゚)


相も変わらず球磨川禊は愚者に甘い。

「『恋は下心、愛は真心。とかいったりして、世間では恋は愛より劣ってるみたいなイメージですけど、何か納得できませんよね。僕的には万人を愛せて、1人にしか恋できないって方がいいと思うんですよ。恋は時間を経て愛に変わっていくんでしょうけど、正直、経年劣化にしか見えませんよねー』」

 

 

「球磨川、その話を私にするのは貴様の両親よりも年上のくせに独身である私への当てつけか? 喧嘩なら買うぞ」

 

 

 平塚先生がタバコを灰皿に押し付け、右手に握りこぶしを作る。

 それ気にしてたのか……。

 

 

 夏休みが開けて1週間が経った日の休み時間。

 僕は文化祭関連の連絡ということで平塚先生に呼び出されていた。

 

 

 それにしても平塚先生との職員室のオープニングってかなり久しぶりだよな。

 何話くらいぶりなのかは暇な人が数えてみてね。

 

 

「『仕方ありませんって。お父さんとお母さん、幼馴染同士だったらしいですし。出会いの差ですよ』」

 

 

「それ以上言うとお前の身の安全は保障出来んぞ」

 

 

 はあ、とため息をついて平塚先生はプリントを一枚僕に差し出す。

 

 

「お前がサボってた時に決まった役割分担だ。球磨川は相模と一緒に文化祭実行委員だな」

 

 

 サボってた、と発する際の平塚先生の目はとても直視できるものではなく、僕も反射的に目を逸らした。

 

 

「『実行委員かぁ。でもこれであの演劇に出なくてよくなったのはありがたいですね』」

 

 

「海老名か……。最近のオタク文化は私にも理解できんよ。生徒指導としての演目のチェックで最初に見た時は目まいがした」

 

 

 僕は断固としてあのBLステージに立ちたくない。

 

 

 いい機会だから言っとくけど、僕に男色の気はこれっぽっちもないからね!!

 高貴ちゃんとか真黒ちゃんとかと恋愛関係になることは一切ございません!

 

 

 女子の裸エプロンが大好きなんだ!!

 

 

「じゃ、ちゃんとやれよ」

 

 

 平塚先生はそう言って僕の頭をガシガシ撫でる。

 

 

 ……くっ。

 これが身長格差か……。

 

 

「『また勝てなかった……』」

 

 

 言い知れぬ敗北感に打ちのめされながら、僕は職員室を後にした。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

 その翌日の放課後。

 

 

 今日から早速文化祭実行委員会の活動が始まる。

 今回のミーティングは役割分担などを決めるものらしい。

 

 

 時間ぎりぎりに来たせいか、既に多くの実行委員で会議室は賑わっていた。

 

 

 どこかに座れる場所はないかと辺りを見回すと、見覚えのある顔が目に入る。

 

 

「ていうか、ゆっこも委員でよかったー。うち、なんか委員にされちゃってどうしようと思ってたんだよねー」

 

 

 夏休みの花火大会で偶然会ったクラスメートが何人かで集まって談笑していた。

 

 

 なるほど。

 あの人が平塚先生の言ってた『相模』って人か。

 

 

 会話の内容を聞く限り、初めて会った人と仲良くなるのが上手い。

 結衣ちゃんと似たタイプかな。

 

 

 まあ同じクラスだからって近くに行こうとは思わないので再び自分の居場所を探す。

 

 

「『あっ』」

 

 

 見回していると、雪乃ちゃんを見つけた。

 周りがクレーターみたいに人いなくなっててすごい。

 

 

「『雪乃ちゃーん』」

 

 

 座って読書している彼女に声をかけながら近づく。

 

 

「あら、球磨川君。ご無沙汰ね」

 

 

「『夏休み終わってから毎日顔合わせてるはずなんだけど』」

 

 

「そうだったかしら? ごめんなさいね。私、嫌なことはすぐ忘れることにしてるの」

 

 

「『そんな!? それじゃあ君の記憶はすっからかんになってしまうじゃないか!!』」

 

 

「あなたに関しての記憶が抹消できるなら安いものね」

 

 

 そんな感じで雪乃ちゃんと談笑していると、あっという間に開始時刻が迫っていた。

 

 

 何気なく入口の方を見ると、扉が開かれてプリントの束を抱えた数人の生徒と平塚先生他一名の教師陣が会議室に入ってきた。

 

 

 入ってきた生徒たちは何やら準備を手早く終えると、1人の女生徒が全員の注目を集めるように声をあげた。

 

 

「それでは、文化祭実行委員会を始めまーす」

 

 

 その人は何というか、ゆるふわ? みたいな感じで僕の周りにはいなかったタイプだ。

 

 

 結衣ちゃんよりピンク髪似合いそうだなぁ。

 

 

「えっと、生徒会長の城廻めぐりです。皆さんのご協力で今年もつつがなく文化祭を開催できるのが嬉しいです。……え、えっと、皆で頑張ろう! おー!」

 

 

 生徒会長だったのか。

 その割には何とも頼りなさげだが、得てして組織のトップというのは庇護欲をそそられる方が向いているのかもしれない。

 

 

 僕とかね!!

 

 

 めぐり先輩の掛け声には誰もついてこなかったが、生徒会のメンバーが拍手するのにつられて会議室中で拍手が起きる。

 

 

 それに満足そうにめぐり先輩が頷いて、さらに会議を進行させる。

 

 

「ありがとうございます~。それじゃあ早速実行委員長の選出に移りましょう!」

 

 

 会議室の空気が一気に緊張するのを感じた。

 

 

「あ、えっと、知ってる人も多いと思うんだけど、例年、文化祭実行委員長は2年生がやることになってるんだ。私はほら、3年生だから」

 

 

 なるほど、確かに受験とかあるし、あんまりこっちに労力は使えないんだな。

 

 

「というわけで、立候補する人はいますか?」

 

 

 しーんと静まり返る会議室。

 ところでしーんっていう擬音すごいよね。

 

 

 あれ、前にも言ったっけ。

 

 

「誰かいませんかー?」

 

 

 めぐり先輩が困ったような声を出しても立候補者は出ない。

 

 

 うーん、僕がやってもいいんだけど、何か大変そうだしなあ。

 今回は雑用に徹する気分。

 

 

「うーん……。えっと、そうだ。実行委員長やると結構お得だよ? ほら、内申とか上がるし。推薦狙ってる人とかには有利だよ?」

 

 

 実行委員長のメリットが語られてもなお、誰も手を挙げようとしない。

 

 

 さっき平塚先生じゃない方の先生が雪乃ちゃんが雪ノ下陽乃の妹であることに気が付いたが、言外に期待された実行委員長就任も同じく雪乃ちゃんが言外に拒否してしまうことで振り出しに戻る。

 

 

 めぐり先輩がちらちらと雪乃ちゃんを見ているが、我関せずの雪乃ちゃん。

 

 

 人の上に立つのが得意なくせに人の前に立つのは好きじゃないんだもんなー。

 

 

「あの……」

 

 

 そろそろみんなの額に変な汗が滲んできた頃、どこかから自信なさげな声が上がる。

 

 

「誰もやらないなら、うち、やってもいいですけど」

 

 

 声の出所を探すと、相模ちゃんがおずおずと手を挙げていた。

 

 

「本当? 嬉しいなー。じゃあ、自己紹介してもらえる?」

 

 

 めぐり先輩が心底嬉しそうな顔をして、相模ちゃんを前の方へと誘う。

 

 

 相模ちゃんはめぐり先輩の隣に立ち、少し息を整える。

 

 

「2年F組の相模南です。こういうの、興味あったし……、うちもこの文化祭を通して成長したいっていうか……、あんまり前出るの得意じゃないんですけど、あれうち何言ってるんだろじゃあやるなって話ですよね! あ、でもそういうの変えたいと思うし。何て言うんですか? スキルアップのチャンスだと思うんで頑張りたいと思います」

 

 

 おー、いいこと言うなぁ。本音かどうかは別として。

 

 

 読点で繋げてだらだら喋る奴にろくな奴はいない。

 例は皆の学校の校長でも思い浮かべてくれたまえよ。

 

 

「うんうん、いいと思うよ。大事だよね、ステップアップ」

 

 

 小声で『やったー』と言いながら実行委員長の欄に名前を埋めていくめぐり先輩。

 

 

 やべえかわいい。

 ちょっと奉仕部の面々が目じゃないくらい可愛い。

 

 

「さ、じゃあ後は書く役割を決めます。議事録に簡単な説明書いておいたから、読んでください。5分後くらいに希望を取りますね」

 

 

 そう言われて僕は先ほど配られた議事録に目を通す。

 

 

 ここで決められる役割は宣伝広報、有志統制、物品管理、保健衛生、会計監査、記録雑務の6つだ。

 

 

 まあ、無難に記録雑務かな。『雑』って字が入ってるのが僕向きだ。

 

 

「ノリで実行委員長になっちゃったよー。どーしよー」

 

 

「大丈夫だよー。さがみんならできるってー」

 

 

「そうかなー、できるかなー。ていうか、うちめっちゃ恥ずかしいこと言ってた気がするんだけど。無理じゃない?」

 

 

「そんなことないってー。それにうちらも手伝うし」

 

 

「だよだよー」

 

 

「ほんとにー? ありがとー!」

 

 

 近くでは実行委員長に就任した相模ちゃんグループが結束を新たなものにしていた。

 

 

 うんうん。実にぬるい友情だ。

 彼女たちには頑張ってほしい。

 

 

「そろそろいいかなー?」

 

 

 ちょっとして、めぐり先輩の小さいながらも良く通る声でシンキングタイムは終了した。

 

 

「みんな何となく決めたかな。それじゃ相模さん。あとよろしくっ」

 

 

「え、うちですか?」

 

 

「うん、ここからはもう委員長さんの仕事だと思うし」

 

 

「はい……」

 

 

 めぐり先輩からバトンのようにペンを渡され、相模ちゃんは再びおずおずと前に出る。

 

 

「そ、それじゃあ決めていきます……」

 

 

 先ほど友達と喋っていた時の元気はどこへやら、消え入りそうなほどか細い声で相模ちゃんは進行を始めた。

 

 

 ぬるま湯から引っ張り出された彼女はとても弱々しい。

 

 

「まず、は……宣伝広報、やりたい人……」

 

 

 徐々にしぼんでいく声に反応して挙がる手は皆無だった。

 

 

「はい、宣伝広報だよ。宣伝だよ。いろんなところにいけるよ。テレビとかラジオにも出れちゃうかもだよ?」

 

 

 見かねためぐり先輩からのフォローの成果か、ちらほらと手が挙がる。

 

 

 人数と氏名が確認されると、次の役職決めへと移った。

 

 

「じゃ、じゃあ……有志統制」

 

 

 さっきまでの静けさは何だったのかというくらいバッと手が挙がった。

 

 

「え、え……」

 

 

「多い! 多いよ! じゃんけんじゃんけん!」

 

 

 その後も相模ちゃんの拙い進行をめぐり先輩がいい感じにフォローして、役職決めは進んでいった。

 

 

 全ての役割決めが終わった後、それぞれで集まって自己紹介という流れになった。

 

 

 僕にしては珍しく希望通りに記録雑務に納まることができた。

 じゃんけんが無かったのが大きい。

 

 

 それにしても、決まったのが順番的に最後だったからか、はたまた業務の性質上か物静か(良心的表現)な人の集まりになった。

 

 

 ちなみに雪乃ちゃんもここにいた。

 

 

 軽い自己紹介の後、リーダー決めのためのじゃんけんで案の定僕が負けて、リーダーになってしまったことをついでのように報告しておく。

 

 

 各役割ごとにリーダーが決まれば今日は解散、ということだったので我ら記録雑務は僕の締めの挨拶と共に解散となった。

 

 

 雪乃ちゃんと一緒に帰ろうと思ったら、すでにいなくなってた。

 しょんぼりと自分も帰り支度を進めていると会議室の隅で僕以上にしょんぼりしている相模ちゃんが視界の端に映った。

 

 

 その周りには彼女の友達二人と、なぜか平塚先生とめぐり先輩もいる。

 

 

 何とはなしに見ていると、平塚先生と目が合った。

 ばちこーん☆とウインクが飛んできた。

 

 

 ……。

 安心院さんの横ピースを思い出した。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

 文化祭まで残り一か月を切った総武高校はまさにマックスボルテージを迎えていた。

 多分文化祭当日には息切れを起こすんじゃないかというくらい学校全体のテンションが高い。

 

 

 準備のための教室残留が許可され、どのクラスも慌ただしい。

 

 

 それは僕のクラスも例外ではなく、今日は演劇のための配役や役割の設定会議である。

 

 

 その結果。

 

 

 監督:海老名姫奈。

 演出:海老名姫奈。

 脚本:海老名姫奈。

 

 

 最も握ってはいけない人物が最高権力を握ってしまった。

 

 

 ……いやまあ、なら他に誰がやるんだって話なんだけどさぁ……。

 

 

 その他にも裏方が次々と決まっていく。

 

 

 演者は全て男子なので他のとこは女子がやるのが自然な流れなんだけど。

 

 

『……』

 

 

 男子のテンションの下がりっぷりがやばい。

 僕もその一人である。

 

 

「えーっと、この間のキャラの説明文は皆気にしなくていいからな? そういう描写をあからさまにはしないから」

 

 

 葉山君のフォローも虚しく誰一人立候補する男子はいない。

 

 

「仕方ない……」

 

 

 業を煮やした製作総指揮が腐敵に眼鏡を光らせる。

 そこから阿鼻叫喚のキャスティングタイムが始まった。

 

 

 こちらを全く見ず、男子の悲鳴を意にも介さず、海老名ちゃんは役名の下に犠牲者となる名前を書きだしていく。

 

 

 クラスのあちこちから宣告を受けた男子の断末魔の叫びが響く。

 

 

 しばらくして脇役が一通り埋まり、メインキャストが発表される。

 

 

 王子さま:葉山。

 

 

 女子からの色めき立つ声を背に、葉山君は青ざめていた。

 まあ、それがプラスの宿命だ。

 

 

 ふっ、と笑おうとした僕は、もう一人の主役の発表で息を呑む。

 

 

 ぼく:球磨川。

 

 

「『異議あり!!』」

 

 

「却下します。『それは違うよ!』じゃなかったから30点減点」

 

 

 速攻で却下された上に理不尽な理由でよくわからない減点を食らった。

 

 

「『いや、その、ほら……。僕文実だし……』」

 

 

「そ、そうだな。球磨川君には文実やってもらってるわけだし、演劇だと稽古とかも必要になってくるからあんまり現実的じゃないな」

 

 

 ナイス! 葉山君ナイス!!

 

 

「そっか……。残念……」

 

 

「そう、だからさ、一度全体的に考え直した方がいいんじゃないか? ……王子さま役とか」

 

 

 普段見せない彼の本心を覗いてしまった。

 それが狙いか。

 

 

 そして書き直された配役がこちら。

 

 

 王子さま:戸塚。

 ぼく:葉山。

 

 

「やさぐれ感は減るけど、まあこんなところかな……」

 

 

「結局俺は出なきゃいけないんだな……」

 

 

「お、そのやさぐれてる感じ、いいね~」

 

 

 肩を落とす葉山君にグッジョブと親指を立てる海老名ちゃん。

 

 

「これ、すごく難しそうだけど、僕でいいのかな?」

 

 

「『んー、まあ。海老名ちゃんの目に狂いはないと思うけど』」

 

 

 原作の『星の王子さま』は読んだことないが、脚本を読む限りイメージはあってると思う。

 

 

「そっか……。わからないことだらけだからよく調べないと……」

 

 

「『なら原作は読んでおいた方がいいんじゃない? 多分図書室に置いてあると思うよ』」

 

 

 彩加ちゃんがいろいろ調べて、万が一目覚めてしまった場合、抗いようのないナニカが生まれかねない。

 僕はまだ女の子を好きでいたいんだよね。

 

 

 役割決めが終わり、うちのクラスも本格的な準備が始まった。

 

 

 演者たちは海老名監督と打ち合わせ。その他の裏方たちも自分たちの作業について話し合っている。

 

 

 僕はクラスで何の仕事も与えられなかったのでやることがない。

 委員会にもまだ時間あるし。

 

 

 手持無沙汰になってしまったので教室を出ると、後ろから聞き覚えのある足音がこっちへむかって近づいてきた。

 

 

「クマー、部室行くの?」

 

 

「『ん、いや、そんなつもりはなかったけど。でもそうだね。これからは忙しくなるし、今日のうちに顔出しとこうかな』」

 

 

「そっか、そだね。あたしも行くよ」

 

 

「『仕事はいいのかい?』」

 

 

「うん。あたしが忙しくなるのって実際に動き始めてからだと思うし」

 

 

「『そっか、制作進行だもんね。じゃあお手て繋いで行こっか』」

 

 

「つ、繋がないしっ!」

 

 

 伸ばした手を払われて、僕たちは馴染んだ部室への道を進んだ。

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

「やっはろー」

 

 

 奉仕部室に到着し、結衣ちゃんがお馴染みの挨拶をしながら扉を開ける。

 

 

 そこにはいつも通り、窓辺で読書をしている雪乃ちゃんがいた。

 

 

「こんにちは」

 

 

「『こんにちはーっ』」

 

 

 僕たちもいつも通りあいさつし、いつも通りの席に座る。

 

 

「『そういえば、文化祭は奉仕部で何かやらないの?』」

 

 

「この部活に文化祭で出せるようなモノは無いと思うのだけど」

 

 

「んー……。お悩み相談とか?」

 

 

「『擦りガラスとボイスチェンジャーだね!』」

 

 

「……その予定はないわ。由比ヶ浜さんもクラスの仕事で忙しいでしょうし、文実もこれから忙しくなるでしょうから文化祭が終わるまでは部活を中止にしましょう」

 

 

 雪乃ちゃんが読んでいた本を閉じて、姿勢を正す。

 

 

「あれ、ゆきのんも文実だったんだ。なんか意外だね」

 

 

「そうね……」

 

 

「『あれじゃない? クラスの出し物に巻き込まれたくなかったとか』」

 

 

 あ、目逸らした。

 

 

「あなたと一緒にしないでくれるかしら」

 

 

「い、いやー……。あれはちょっとクマーの気持ちもわかるかも……」

 

 

「『百歩譲っても僕と彩加ちゃんのカップリングにしてほしいよね!』」

 

 

「そこで妥協できちゃうんだ……」

 

 

「では、今日は解散と……」

 

 

 雪乃ちゃんが言い終わらないうちに、扉がコンコンとノックされた。

 

 

 なんだろ、他のクラスが人手が足りないとかかな。

 

 

「どうぞ」

 

 

「失礼しまーす」

 

 

 入ってきたのは最近よく見る顔。

 文化祭実行委員長に就任した相模南、そして愉快なお友達2名だった。

 

 

「って雪ノ下さんと結衣ちゃんじゃん」

 

 

 入ってきた相模ちゃんは目を丸くして二人を交互に見ていた。

 

 

「さがみん? どしたの?」

 

 

 結衣ちゃんの疑問には答えず、相模ちゃんは部室をぐるっと見回す。

 

 

 その後に僕と結衣ちゃんを交互に見て、薄い笑みを浮かべる。

 

 

「何かご用なのかしら?」

 

 

「あ、急にごめん、なさい」

 

 

 雪乃ちゃんの冷たい声音に相模ちゃんも思わず語尾を正す。

 

 

 初対面にはあたりが強いなあ。

 

 

 立ち話もあれなので余っている椅子に座ってもらい、僕たちとそれぞれ面と向かう状況を作る。

 

 

「じ、実はちょっと、相談があって……」

 

 

 相模ちゃんは雪乃ちゃんと目を合わそうとはせずに、ぽつりぽつりと話していく。

 

 

「うち、実行委員長にやることになったんだけどさ、こう自信が無いっていうか……。だから、助けてほしいんだ」

 

 

 相模ちゃんの相談は大方予想通りだった。

 

 

 昨日の委員会が終わった後に平塚先生と話してたのもここを紹介されたのだろう。

 

 

 それにしても。

 

 

「自身の成長、というあなたが掲げた目標とは外れるように思うけど」

 

 

「『それに、流れで不本意ながらやることになっちゃったーみたいな言い方してるけど、君が自分から進んでなったんでしょ』」

 

 

 僕と雪乃ちゃんの言葉に一瞬言葉が詰まったように見えたが、顔色を変えずに薄い微笑みを浮かべ続ける。

 

 

「そうなんだけどぉ。やっぱりみんなに迷惑かけるのが一番まずいって言うか、失敗したくないじゃん? それに誰かと協力して成し遂げるのもうちの成長の1つだと思うし、そういうのって大切じゃん?」

 

 

 言葉を途切れさせることなく、まくし立てるように相模ちゃんは弁を振るう。

 

 

「それにうちもクラスの一員だしさー、やっぱりクラスの方にもちゃんと協力したいっていうかさ。全然出ないっていうのも申し訳ないし。ねえ?」

 

 

 突然話題を振られた結衣ちゃんは、びくっと反応してから答える。

 

 

「……うん、そだね。あたしも、誰かとやる方が好きなタイプだし……」

 

 

「だよね~! そういうイベント通して仲良くなりたいし、そのためにはやっぱ成功させなきゃ!」

 

 

 相模ちゃんの言葉に横の二人も相槌を打つように『だよね~』と言う。

 

 

 そのとき、結衣ちゃんが一瞬渋い顔をしているのが視界に入った。

 

 

 まあ、快く思わないのも無理はない。

 結局相模ちゃんはこの奉仕部を利用しに来ただけなのだ。

 

 

「『じゃあ、その横の二人と力合わせればいいんじゃない?』」

 

 

 そういうと、相模ちゃんが出していた楽しそうな雰囲気が一瞬にして引っ込む。

 

 

「『いやいや、素晴らしいと思うよ。皆で協力して何かを成し遂げるって。でも、それって僕たちじゃなくてもよくない? 横の二人、友達なんでしょ? そういうときこそ助け合わなきゃ』」

 

 

「いやー、ほら、知らない人と協力するのも大切じゃん。普段から仲いい人以外とも助け合ってこその成長だと思うし?」

 

 

「『だからさ、その対象が奉仕部である理由とかあるの? 君の知らない人なんて文実に一杯いたでしょ。まずはそこと協力しないと』」

 

 

 相模ちゃんが押し黙る。

 その後ろで側近二人が僕のことを見ながらひそひそと何かを喋っていたが、どんな話なのかは聞き取れなかった。

 

 

「な、ならあんただって文実じゃん! 手伝ってくれんのが普通なんでしょ!?」

 

 

「『そりゃ君がここに来るまでは僕も雪乃ちゃんもそれなりにサポートするつもりだったけどさぁ。奉仕部に依頼しに来るとなったら話は別だよ。僕たちにだって依頼を受けるか受けないかの自由くらいあるんだから』」

 

 

 僕の言葉に、相模ちゃんはわかりやすく動揺する。

 

 

「『何? 話が違うとでも言いたげだね。当たり前でしょ。奉仕部って別に慈善団体じゃないし、給料が発生してるわけでもない。君の依頼が君のためにならないとか単に気に食わなければ普通に断るからね。ていうかさ、さっきから人に物を頼む態度じゃないよね? 君一人の依頼なんだから、横の二人は帰ってもらっていいかな。僕って数に頼るやり方が嫌いなんだよねー。ほら、強い奴ほど群れたがるし』」

 

 

「そんなの関係……」

 

 

「『あるよ。こっちのモチベーションの問題。君たちがとれる選択肢は二つだよ。2人で帰るか、3人で帰るか。さ、どっちかな』」

 

 

 相模ちゃんはしばし考えた後、結局二人を帰らせた。

 帰り際に睨まれたり舌打ちされたりしたが、そんなことでは僕は泣かない。

 

 

「それで」

 

 

 側近二人を帰し、再び相模ちゃんが椅子に座ったところで今まで口を挟まなかった雪乃ちゃんの目が開いた。

 

 

「あなたの依頼は文化祭実行委員会であなたの補佐をすればいいというわけね?」

 

 

「あ、はい……」

 

 

 仲間を失って目に見えて萎縮している相模ちゃん。

 

 

 彼女が本来の依頼人の立場になったところで、僕もいじわるはやめてあげよう。

 

 

「『条件は一つ。僕たちが手伝ったことによってもたらされた成功も失敗も全て君の物だ。成功した手柄も失敗した責任も僕らは一切負わない』」

 

 

「それと忠告が一つね。私たちの力は決してあなたの力ではないわ。ゆめゆめ過信することの無いように」

 

 

「はい……よろしくおねがいします……」

 

 

 相模ちゃんはとぼとぼと部室を出ていく。

 多分想定と違ったんだろうな。

 

 

 彼女はおそらく集団の力と空気の圧力があれば通せない要求はないと考えているタイプだろう。

 なまじ2位カーストにいるだけにその力に屈した経験からの裏付けが相模ちゃんの中でなされている。

 

 

 だから一人ぼっちの彼女はあんなにも無力。

 

 

「今回の依頼は文実の中での仕事が主だから、私と球磨川君で当たるわね。由比ヶ浜さんはクラスの仕事に集中しててちょうだい」

 

 

「え、大丈夫なの? みんなでやったほうが……」

 

 

「部外者が関わる方がややこしいことになるわよ。気にしないでいいから」

 

 

「そっか……」

 

 

 雪乃ちゃんのクールな分析にしょんぼりとする結衣ちゃん。

 

 

「『ま、何かあったら頼るからさ。その時が来るのを祈っててよ』」

 

 

「それ何かあたしがヤなやつみたいじゃない!?」

 

 

 その後僕たちは解散し、文化祭前最後の奉仕部は終了した。

 

 

 




ちなみに、この話では被害者が忽然と消えてしまった交通事故はゆきのんにとってそれほど重大なものではありません。だから原作と違って通常運転なのですねー。


他に理由とかあって7巻以降で判明するようならごめんなさい。
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