やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

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最初はこれまで通り球磨川先輩視点ですが、途中からゆきのん視点となります。



ていうか3回連続でサブタイトルがゆきのんですね......

あと球磨川先輩のあだ名のコレジャナイ感がパない。



ルーキー日間ランキング12位に入りました。
皆さまありがとうございます。


ついに雪ノ下雪乃は思い知る。

「『古今東西のアニメにはオープニングテーマがありますが、それって果たして必要なんですかね? エンディングテーマはわかりますよ。寂しげなメロディで、今週も終わっちゃったなぁ、次回も楽しみだなぁっていう、本で言う読後感的なものを与えてくれますからね。しかし、しかしですよ。平塚先生。オープニングテーマ。あれなんなんですか? 貴重な放送時間を削って壮大なネタバレを食らってるようなものじゃないですか。何が悲しくてネタバレを見なければいけないんですか。その5分後には本編始まるのに。ボタンだかスイッチだかいうオタクさんは「オープニングを見ると見ないとでは始まった感が違う」とか言ってましたが、僕はそれに異を唱えますよ。オープニング見ればだいたいどんなキャラがどんな役回りでどんな能力を使うかとか一発でわかってしまうじゃないですか。城之内、死すどころじゃありませんよ。あれ結局城之内死にませんでしたし』」

 

 

「待て、落ち着け。急に早口でまくし立てるな」

 

 

 先生が僕に向かって制止を求める。どうどうと、まるで動物を相手にしているかのようだ。

 僕は今、平塚先生に呼び出されて職員室にいた。

 

 

「君は私がなぜ呼び出したか聞いていなかったのか?」

 

 

「『え、オープニングテーマの是非について朝まで生討論するんじゃないんですか?』」

 

 

「違うに決まってるだろう。君と朝まで付き合っていたらこっちの身がもたない」

 

 

 先生は頭を抱えて項垂れる。

 あの番組は学生の身分である僕には少し難しすぎてまともに見たことはない。しかし最後のあの打ち切りっぷりが好きなので、一時期ハマッていたことがあった。

 

 

「調理実習をサボった件についてだ。君はあれか? 調理実習に嫌な思い出でもあるのか?」

 

 

「『あれ、なんでその件について国語教師の平塚先生から呼び出されるんですか? 家庭科教師は確か鶴見先生でしたよね?』」

 

 

「生活指導担当として呼び出したんだ。鶴見先生は私に丸投げしてきた。さっさと質問に答えろ」

 

 

 これが最近噂の圧迫面接か……。

 職員室を見回すと、僕についての面倒ごとを丸投げした鶴見先生は観葉植物に水をやっていた。

 

 

「『いえ、ただトイレの個室に入ったら出られなくなってしまって。まぁ幸い週刊少年ジャンプを持っていたので退屈しませんでしたがね。一通り読み終わったところで体当たりをしてこじ開けました。もうその時間には調理実習は終わっていたので僕は悪くありません』」

 

 

「誰かに閉じ込められたのか?」

 

 

「『違いますって。鍵が錆びついていたようで、閉めたはいいんですけど開かなくなってしまって。ぶっ壊してしまいましたので修理をお勧めしますよ。場所は2階トイレの奥から2番目の個室です』」

 

 

「そうか……」

 

 

 安心したように息を吐く先生。まあ壊した方法についてはちょっと嘘をついたが、大した問題ではないので黙っておこう。本当に虐めとかではなかったみたいだし。

 

 

「まあいい。やむを得ない事情があったのなら仕方がない。しかし、問題は補修のレポートだ」

 

 

 先生はそう言って1枚のレポートを読み上げる。

 

 

「『これで安心、安心院さん流おいしいカレーの作り方。1.材料を用意する。2.完成。これで君の食卓も華やかになること間違いなしだぜ』……まず安心院さんとは誰だ」

 

 

「『友達ですよ』」

 

 

「嘘をつけ。君に友達がいないことはわかっている」

 

 

 最近先生の僕に対する扱いが酷い気がする。最近というか先週はもうちょっと優しかったんじゃないかな。

 

 

「次に、なぜ材料を揃えてから次の瞬間にカレーが出来上がってるんだ。写真を見る限りめちゃくちゃ美味そうじゃないか。これを作った手順をそのまま書けばいいのだぞ?」

 

 

「『なぜと言われましても、僕だってびっくりしたんですよ? 安心院さんに教わったら本当にこんな感じだったんです』」

 

 

 僕にしては珍しく嘘はついていない。あの人はどれだけどうでもいいスキルを持っているんだろう。『ジャガイモを切るスキル』とか、全くいらない。

 

 

「レポートは再提出だ。その安心院さんとやらに頼らず、自分でカレーを作るんだな。これで私の用は終わりだ。奉仕部に向かいたまえ」

 

 

 しっしっ、と僕を追い払うようなジェスチャーをする平塚先生。

 この人ちょっと教師として問題があるんじゃないかな。

 

 

 ま、いいや。

 悩みごとの後に『ま、いいや』って言うとたいていの悩みごとは無くなるから、よかったら試してみてね。無くならない悩みごとは近いうちに解決するからがんばって。

 

 

 僕は雪乃ちゃんが待つであろう部室に向かうため、職員室を後にした。

 

 

__________________________________________________________________

 

 

 私、雪ノ下雪乃は考えていた。

 

 

 何について考えていたかといえば、2日前に平塚先生が連れてきた新入部員についてだ。

 名前は球磨川禊。

 

 

 最初はただの劣等生だと思っていた。どこにでもいる不真面目な生徒。

 私が最も嫌いな、自分を高めようともせず、優秀な人間の足を引っ張る愚かな人たちの1人なのだろうと思っていた。決めつけていた。

 

 

 その通りならどれだけよかっただろう。

 

 

 彼は最低だった。

 

 

 その辺の女子が気軽に言う『ちょっと嫌』という意味ではない。

 正真正銘、心の底から彼のことを最低だと思った。

 

 

 球磨川禊に比べれば、今まで私に嫌がらせをしてきた女子たちが全員まともだったのではないかと思わされてしまった。

 そんなことを思ってはいけないのに。

 私だけは彼女たちの行為を肯定してはいけないのに。

 

 

 もし、私がそれを肯定してしまえば。

 私という存在はたちまち存在意義を見失ってしまうだろう。

 

 

 球磨川禊は危険。

 それが私の最終的な結論だった。

 

 

 今、私は奉仕部の部室で本を読んでいる。

 自分でも無駄な時間だとは思うが、奉仕部の活動は依頼が来なければ始まらないので仕方がない。

 こうして部室で待つのも立派な活動だ。

 便りが無いのはいい便り、というように依頼が無いのは生徒が健全に過ごせている証拠だ。警察の仕事など無い方が平和なのと同じだろう。

 

 

「『こっんにっちはー!』」

 

 

 そんなことを考えながら読書をしていると、入り口から大声の挨拶が聞こえてきた。

 球磨川禊だ。

 想定し、確実に起こるだろうと思っていたとはいえ、やはり彼との遭遇は少しクるものがあった。

 昨日の彼とのやり取りの後から、身体は鉛のように重く、考え事がまとまらない。病気にでもかかったのではないかというほどの体調不良を私は起こしていた。

 いっそ本当に体調を崩してしまえば、彼と会わなくて済んだのだが、残念なことに発熱もなく身体自体は健康そのものだった。

 

 

「……こんにちは、球磨川君。耳障りだからあまり大声を出さないでもらえるかしら」

 

 

 これは紛れもなく本心。

 人に好かれる必要はないからと少々ひどいことを他人に言ってしまうことは自覚しているが、さすがに耳障りなど他の人には言わない。

 

 

 本心から、彼のおぞましい声を聞きたくないのだ。

 

 

「『あはは、雪乃ちゃんは手厳しいね』」

 

 

 そう言うと彼はいつも自分が座っている席に座り、漫画雑誌を読み始めた。

 昨日も同じものを持っていたが、飽きないのだろうか。

 

 

 漫画は読書に含まれない、なんて狭量なことを言うつもりはない。

 私も試しに読んでみたことがあるが、肌に合わなかっただけだ。

 だが、週刊の漫画雑誌を何日もかけて読むものなのだろうか。

 

 

 つい球磨川君の観察に夢中のなっていた私を弱々しいノックが現実に引き戻してくれた。

 

 

「ど、どうぞ」

 

 

 突然だったので少しつっかえてしまったが、球磨川君に動揺を気取られないように姿勢を正す。

 彼に弱みを見せるのはやはり危険だと思うからだ。

 

 

「し、失礼しまーす......」

 

 

 まさに恐る恐るといった風に依頼者の女子は背を丸めながら入ってきた。

 肩まで伸びた茶髪に軽くウェーブをあてていて、頭の上の方で髪を少しまとめてお団子のようにしている。

 服装は短めのスカートに、ボタンを3つほど開けたブラウス、胸元のネックレスなど校則違反も甚だしいが、それを注意するのは私の役目ではない。

 平塚先生に言われてここに来たのなら、注意くらいされているだろう。

 

 

 彼女はゆっくりと部室内を見回しながらこちらへ進んでいたが、球磨川君と目が合うなり『ひっ』と小さく悲鳴を上げた。

 

 

「な、なんでクマーがここにいるの!?」

 

 

「『なんでも何も、僕はここの部員だからね。あとクマーって僕のこと?』」

 

 

 あぁ、確か彼女は球磨川君と同じクラスだったか。

 なら彼らがすでに知り合いなのも頷ける。

 

 

「とりあえず座ったらどうかしら。球磨川君、椅子を用意して頂戴」

 

 

 私が指示すると球磨川君は『はーい』と気だるげに返事して椅子を運んでくる。

 読まないときくらいジャンプは置いたらどうなのだろう。

 

 

「あ、ありがと......」

 

 

 私の正面に置かれた椅子に彼女は勧められるがままに座った。

 

 

「由比ヶ浜結衣さんね」

 

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

 

 由比ヶ浜さんの表情が少し明るくなる。

 知らない人に名前を憶えられてるのは嬉しいのかしら。

 

 

「『へぇ、クラスも違うのによく知ってるね。もしかして雪乃ちゃん全校生徒の名前覚えてるんじゃない?』」

 

 

「そんなことないわ。現にあなたのことなんて初めて会うまで知らなかったもの。別に落ち込むことではないのよ? これは私のミスだもの。あなたの矮小さに目もくれなかったことが原因だし、なによりあなたの存在から目をそむけたくなった私の心の弱さが悪いのよ」

 

 

「『そっか! じゃあ、その心の弱さを鍛えるといいよ! 同じ失敗を2度するのは愚か者の所業だからね!』」

 

 

 皮肉が通じないのかしらこの人。暖簾に腕押しというような感じで全く効いている様子が無い。

 なるべく優位に立っておきたいのだけれど……

 

 

「なんか......楽しそうな部活だね」

 

 

 由比ヶ浜さんが信じられないことを口走った。

 

 

「どこをどう見たらそんな風に思えるのかしら。その勘違いはひどく不愉快だし、ある種侮辱とも言えるわよ」

 

 

 私の言葉に由比ヶ浜さんは慌てた様子で首と両手をぶんぶん振った。

 

 

「い、いや、その、なんてゆーか......自然な感じで......。ほら、クマーもちゃんと喋るんだーって思って」

 

 

「『そりゃ喋るよ。結衣ちゃんってば僕のことキュートな熊のぬいぐるみと勘違いしてない?』

 

 

「してないしっ! ってか結衣ちゃんとか呼ぶなっ! クマーキモい!!」

 

 

 由比ヶ浜さんが立ち上がって怒ってみせても、球磨川君はその貼り付けたような笑みを続けるだけだった。

 

 

「ほら、クマーってばいっつも教室で漫画読んでるじゃん。始業式の時に一回話しかけてみたけど、いきなり号泣して引いたし」

 

 

「『あー、それはあれだよ。女子から話しかけられるなんて滅多にないからね。感極まっちゃって。ていうかその時、やっと涙止まったら結衣ちゃんいないんだもんなー。何かの罰ゲームだったの?』」

 

 

「違うしっ!! もうどうしてそんなこと言うかなぁ!」

 

 

「『あ、じゃあその始業式の日に泣きながら考えてた質問していい?』」

 

 

「え、あ、うん。いいよ」

 

 

「『結衣ちゃんって処女?』」

 

 

 瞬間、由比ヶ浜さんの顔が真っ赤に染まった。

 

 

「な、なな、何聞いてるの!? 意味わかんない!!」

 

 

「『えー、何かイマドキの女子高生って感じだし、遊んでそー』」

 

 

「遊んでないし! あたしはまだ処……うわわ、なんでもないっ!」

 

 

「恥ずかしいことではないでしょう。この歳でヴァージ......」

 

 

「わーわーわー!! ちょっと何言ってんの!? 高2でまだとか恥ずかしいよ!? 雪ノ下さん女子力足んないんじゃないの!?」

 

 

「くだらない価値観ね......」

 

 

別に結婚するまで貞操は守るべきとまでは言わないが、見栄のためにそういう行為をするのは後々後悔すると私は思う。

 

 

「『まあまあまあ、落ち着いて落ち着いて。価値観の相違による喧嘩はなるべく避けるべきだ。決着がつかないうえにどちらが正しいというわけでもないからね。というわけで結衣ちゃん! 処女が恥ずかしいというなら僕が貰ってあげよう! なあに、遠慮する必要はないよ。僕はこれでもこの奉仕部の一員なんだ。依頼人のためを思って一肌脱ごうじゃないか!』」

 

 

「は? マジキモい。死ねば?」

 

 

 先ほどまでの由比ヶ浜さんからは考えられないような真顔と冷たい声だった。

 まあ、10割で球磨川君の自業自得なのだが。普通初めて話す相手への質問にヴァージンかどうかを聞くだろうか。

 

 

「『ふっ......。最近の若者は怖いね。すぐに死ねとか言っちゃうのはどうかと思うよ。命に関する暴言は慎むべきだと忠告しておこう。まぁでも、それが君みたいなかわいい子だったら僕も強くは言えないな』」

 

 

 そう言いながら球磨川君は立ち上がり、窓のそばまでゆっくりと歩いて行った。

 

 

「『それが僕が奉仕部に入部して初の依頼人だったのなら尚更だよ。うん、依頼人が言うなら仕方ない。この球磨川禊。全力を以て結衣ちゃんの望みを叶えよう!』」

 

 

 球磨川君は芝居がかった大げさな口調で、まるで演説でもするかのように高らかに言うと、窓をガラッと全開まで開けた。

 

 

 ちょっと、彼は何をするつもりなの......!?

 

 

 私が気付いた時にはもう遅く、球磨川君は自分で開けた窓から飛び降りていた。

 

 

「............え?」

 

 

 由比ヶ浜さんの呆然とした声を無視し、私は急いで窓から身を乗り出して下を覗き込んだ。

 

 

 奉仕部室は特別棟3階の教室だ。無事では済まないが命は助かる可能性もある。

 

 

 

 

 

 ............そんな私の希望も眼下の光景に打ち砕かれた。

 

 

 窓の下では、球磨川君と思われる総武高校の男子制服を着た少年が、血だまりの中で倒れていた。

 

 

「......あ、あう......」

 

 

 言葉が出ない。

 

 

 めまいがする。

 

 

 吐き気がする

 

 

 脚に力が入らない。

 

 

 お尻に軽い衝撃が走る。

 どうやら座り込んでしまったようだ。

 

 

 そうだ、由比ヶ浜さんは大丈夫だろうか。

 

 

 自分のことで精いっぱいのはずなのに、今の状態から少しでも逃げたくて、由比ヶ浜さんの方へ顔を向ける。

 

 

 由比ヶ浜さんは放心していた。開いた口が塞がらず、目は見開かれている。

 

 

 酷い顔だが、おそらく自分も同じような顔をしているのだろう。

 

 

 人間、身近な人の死に直面した時には、悲鳴すらあげられないことを思い知った。

 そんなの、知りたくはなかったのに。

 

 

 そうして時間だけが過ぎていく。

 

 

 どのくらい経ったかわからないが、体感的には5分もしないうちに、入り口の扉ががらりと開いた。

 

 

 そうだ、誰かに知らせないと......!

 

 

 そう思い、鉛のような身体を起こして入ってきた人物に駆け寄ろうとすると。

 

 

「『あ、こんにちは。雪乃ちゃん』」

 

 

 そこには窓から飛び降りたはずの球磨川禊が、まるで何事もなかったかのように立っていた。

 

 

_______________________________________

 

 

 あれからのことはよく覚えていない。

 

 

 気が付いたら私は、自室のベッドで横になっていた。

 私はどうやって帰ったのか。

 由比ヶ浜さんはどうなったのか。

 

 

 そして何より、球磨川君はなぜ無事だったのか。

 死ななかったというだけならわかる。

 校舎の3階というのは転落死するには微妙な高さだ。

 もちろん死の危険もあるだろうが、重傷で済むという可能性も高い。

 

 

 しかし、無傷というのはいくらなんでもありえない。

 それどころか、血だまりの中にあったはずの衣類には血が全くついていなかった。

 

 

 まるでそもそも飛び降りていないかのような。

 放課後、部室に入ってきた時と同じ状態だったのだ。

 

 

 全て夢だったのだろうか。

 

 

 そう思いたい。

 

 

 夢であってほしい。

 

 

 だってあのできごとは......私たちの生きてきた世界を根本から否定してしまうのだから。

 

 

 心身ともに疲れ切っていた私は、やがて深い眠りへと落ちていった。

 

 




(当人たちにとって)超鬱回でした。

予定ではさらっと流してクッキー作り始めるつもりだったんですけど、ガハマちゃんの加入すら疑わしくなるレベルにまで発展してしまった......

どうしてこうなった......
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