「うう…酷い目にあったです。でも、美味しかったなぁ…」
バックショットで焼かれた身でありながら、先ほどの余韻に浸る鼠小娘。その思いは先へと向かっていた。そう、再現である。
彼女は目的を僅かばかり達成したため、今はその僅かの障壁を越えようと考えていたのだった……とは言っても、先ほど追い返されたばかりの身で、再度突撃をかますような猛進は持ち合わせていない。多少の善悪は心得ていたのだった。
「やっぱり、思い出したら食べたく…」
そう呟いた彼女は、ポケットに手を突っ込み中身を引っ張りだした。その手に在るのは、今は冷めてこそいるが、香ばしさの詰まった向日葵の種……しかし、5粒しか無い。
それを見た彼女はガックリと一度項垂れると、口を締めその手を握る。
「コレは貯蓄するです! 集めて山にしてやるですよー!」
自身に言い聞かせるようにして、再度ポケットに仕舞いこみ。辺りを見渡すと、種 種と考えすぎたあまり、見慣れない地へ迷い込んでいた。しかし、彼女には定住地なんてものはない。木に登って寝たりもするし、洞窟にも泊まる。とにかく先客さえいなければ彼女は何処にでも居るかもしれない存在だった。
そんな彼女でも、此処は居心地が悪かった。木々はブヨブヨとした何かに覆われているし、奇妙な風船が萎んだり膨らんだりして、何かを撒き散らしている。
その存在に対する知識を、彼女は持っていた。あくまで知っているだけで、本当にどんなものかは知らないと言ったほうが正解だが、その正体不明な存在の中で、一際存在感の放つそれを鬱憤ばらしにと蹴飛ばし始める。
「胞子放ってんじゃ、ねぇです!」
比較的手頃な大きさから始まって、最後には等身大の物を蹴飛ばした。それは外傷によって破れて、景色の色を変えるくらいの粉を放ち、異臭を撒き散らす。
「うっ…余計に撒き散らしやがったです……それに、体が…重く……」
やったことでの後悔を言葉にするが、意思持たぬ生態に何を言おうが無意味で、空気となり害を振りまく。幻覚すら覚え始めた彼女の元へ、何者かが近づいていた。
「悪くない瘴気だなーこれなら良い材料にって…大丈夫かお前?」
黒を基調とした服装に金髪覗く三角帽。ここら付近に住む普通の魔法使い、霧雨 魔理沙であった。
彼女は見慣れない人影と、あたりの様子から何があったのかを推測して、声を掛けた。大丈夫なら放っておく、危ないなら助ける。もっとも、決めるのは彼女ではないが……ピンチに陥る彼女は、糸に捕まる思いで叫んだ。
「体が重いですー……!? 助けて欲しいですー……!!」
その言葉を聞くやいなや、魔理沙は直ぐに立ち寄り持ちあわせの解毒剤を飲ませた。その手口からして別段珍しいことではないのだろうが、この薬によって治療が出来るのは、初期症状の緩和のみで。場合によっては強力な薬が必要となる状態であった。
一方、初期症状の緩和によって、一旦の平常を取り戻した彼女は口に残る薬を味わっていた。
「甘いです…」
「これで、初期症状は緩和されるぜ。 だが、その様子じゃ重体か?」
魔理沙はそう言うと、横たわるきのこ類を眺める。
その様子に良い念を抱かない鼠小娘。内心、そんな気味悪いものをよく見ていられると思っていたが、先の言葉を思い出すと顔色を変えた。
「げぇ?! 重体ですか?」
驚く彼女、無理もない。怠さが消えた以外変化なく、消えたことで平時と同じ身体状況。言われても実感が沸かないというのが彼女の率直な感想であった。
それを、理解してか。魔理沙は状況確認を進める。
「この匂いはマスタード種だな…良かったな。 解毒剤なら、ちょうど家にあるぜ」
二カッと笑い振り向いた魔理沙。その表情は自信と確信にあふれていた。
その表情にに釣られ、彼女は魔理沙の後をついて行くことにしたのだった。
名もかわさず、お互いに初見の身でありながら。善意に与ろうと無言で続いた彼女の目に写ったのは。黒い屋根に、見たことが無い物が積み上げられた屋敷であった。
しかし、彼女は外界の珍品に興味を持っていない。むしろ、歩いて腹が減るばかりでポケットに手を突っ込み、道中考えてばかり……そんな彼女が考えるのは、先の甘いものと種の存在だけであった。
そんな考えばかりとは知らずに、魔理沙は自宅の扉を開け、お客を迎え入れた。
振り向く魔理沙、その目先には不思議な顔をする鼠小娘。
「涎垂らしてどうしたんだお前? って、そう言ってる場合じゃないな、くすり薬は……あった、ほら飲め」
その様子を見た魔理沙は、言葉通り。急ぐように薬を見つけると、彼女の手へ乗せた。
それは赤い半透明で、先ほどの解毒剤と似たような色をしていたため、彼女は迷うこと無く――むしろ、喜んで口に含んだが……
「うっ…苦いー…」
そう言って、直ぐに口から吐き出した。
「こら、吐き出すんじゃねぇ。 例え妖怪でもコレばかりは死ぬぞ?」
「へ? 死ぬ? そんなまさかぁ?」
魔理沙の注意は、やはり実感が沸かないのか。疑いの笑みを浮かべながら言う彼女。その目はこんな苦いものより、さっきの甘い方を寄越せと要求していたのだった。
しかし、その目がよく喋り、意思を無意識に伝えたのか。魔理沙はヤレヤレと首を振る。
「その様子じゃ全然わかってないな……鏡見てみろ、あっちにあるから…」
呆れられたからか、少しの勘に触ったのに乗じて、言われ指を指された先にあった鏡を見る彼女。鏡を見るやいなや……体を固めた。
そこに映った彼女の姿は顔面が土色になり、隈の出来た目元。まるで疲労に疲労を重ね続けた人の顔をしていた。それとは逆に、体は特に異常は……そう思っていると、またも気怠さが彼女を襲う。
「ガスタケつってな、胞子は匂いの有るやつから無い奴まで様々だが、言えることは全部猛毒で。今のお前みたいに顔色が悪くなって、最後は死に至らしめる危険なキノコなんだぜ?」
未だ、自身にまさかまさかと暗示を掛けようとする彼女に、魔理沙は止めと言わんばかりに吸い込んだキノコの説明を始めた。 それで、やっと納得したのか。彼女は頷く。
その心は、キノコに関しては博識な印象というもの。逆に自身の博識を比べているが……それはを魔理沙が知る術はない。
ともかく、彼女は魔理沙へ感謝の念を伝えると薬を飲もうとするが……やはり、苦手なのか。一歩前で立ち往生してしまう。
それを見かねて、魔理沙はまた声を掛けた。
「早く飲んで、横になってな。 迷った奴を返すのも、この魔理沙様の役目だしな」
予想外の自己紹介に、自身が紹介をしていないのを思い出し。目が覚めた時、驚かせてやろうという楽しみを胸に、薬を飲み込むと。言われた通り横になって、目を閉じたのだった。