小鼠道中 ~彼女は種が食べたいだけ~   作:馬鈴薯

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どもども、芋です。
幻想郷一おっきい屋敷、ただそれだけ。


5話:大きな屋敷

「失敗したです……」

 追手から逃げ延び、恐らく森を抜けたであろう場所で一人呟く。彼女の言う失敗。それはほんの一握りで持てたはずの、向日葵の種を日の場所に置いて来てしまったことであった。

 たかが、種。されど種。彼女にとっては集めるべきものであり、貴重な数少ない食料。それら全てを失った彼女に、食料と呼べる代物は持ち合わせていない。故に、空腹は未だ蝕むように無意識に音をあげさせた。

 そんな彼女へ奪還という2文字が浮かぶが、即座に首を振り払う。理由は言うまでもない、三度目の鉢合わせに置けるデメリット、リスクが明確に見えていたからだった。もっとも、場所も見た目も分かっている以上。能力を使えば済む話なのだが、彼女はそこまでに至るほど知恵が回るわけでもなかった。

 

「はぁ……」

 自然と零れ出る溜め息。しかし、意を決したのか右手を握りしめ持ち上げる。その目は前へ前へと向いており……

 

「おっおおおおぉ!」

 その声を発すると共に遠目にて屋敷を見つけ。運がいいとばかりにガッツポーズ。

 そんな彼女の目に写った屋敷。外観はいうなれば赤一色に、所々洒落た装飾。彼女が普段事を起こしていた人里では決してお目にかかる事がない規模と豪華さ…そして、なんとも言えない禍々しさを纏っていたのだが。目先の事に目を奪われた彼女に禍々しさというものが見えているのか居ないのか……一瞬の自問にて何をするのか決めると。

 そこへと向かうため、目の前に広がる水辺りを散策し始めたのだった。

 

 

 

 やっとの事で館前へ辿り着いた彼女の目に写ったのは、屋敷自体とそれを取り囲む鉄柵。そして鼻提灯を膨らましながら船を漕ぐ、緑色を基調とした服装の誰かであった。

 そんな人物を見て、彼女は優越感を感じたのか、少しうれしそうである。その心情は――私ですら、今盗みに入ろうと起きているのに…情けないといったもの。

 ともかくその人物は目に入る門に、もたれ掛かっており船を漕いでいるわけで。彼女は寝ているならばと正面から入ろうと歩き出した所。

 

「……う~ん、良く寝た。 そろそろ咲夜さんが見回りに来ますから起きとかな い と!?」

 目と目が会う。彼女は誤魔化しとばかりに適当な声を掛けた。

 

「どうも、お早いお目覚めで……」

 

「あっはい…おはよう御座います……で、貴方は?」

 そう、尋ねられたことで見栄か何かを張りたい性格なのか。彼女は反射的に腰へ両手を当て、自己紹介を始める。

 

「聞いて驚くな! かのねずみ小僧の末裔、鼠小娘とは私のことです!」

 しかし、言ってからしまったという表情へ変わり。鍵の掛かっていなかった門を突破し、花々の咲き乱れる花壇を駆け抜け屋敷の中へと走る。

 その屋敷は規模が規模で、入り込んで潜伏するという手段が取り易いからの行動であった。

 

 走り続ける彼女の背後で先程の声とは違う声が響いた。

 

「美鈴、またサボってたわね……」

 

「そんな!? 咲夜さん、ちゃんと発見したじゃ――」

 

「中に入れてちゃ意味ないのよ」

 

「ぎゃーっ!」

 先の人と新たな人物による茶番を聞くこと無く、彼女はひたすらに走る。そして、大きな扉が目の前へときた時…… カッという音をたて、前の扉へ何かが刺さった。

 

「ちっ外した……」

 聞こえた冷たい声と視線を遮るように、扉を開き中へ逃げ込んだ彼女。しかし、先に居たのは緑ではなく、俗にいうメイド服を纏い、片手に先ほど見た刃物を盛持った女性だった。

 彼女にとって後ろから聞こえたはずの声が正面から響く。

 

「お嬢様が妖精が紛れ込むと言っていたので、見てみれば。全然妖精じゃないのね……」

 

「押し通る! とあっ!」

 しかし、言葉とは違い。目の前の人物は残像となって消え失せた。煙のようにブレるのではなく、居たような気がするといった不思議な感覚だけを残し、消え。彼女はチャンスとばかりにその人物が居たであろう場所を駆け抜けた。

 彼女が目指すのは一階横に広がる廊下。まずはそこに逃げ延び、撒くことができれば一段回目はおおよそ終わり。二段階目はアノ場所を探しだして頂戴するだけのことだ、見つかれば同じことの繰り返し。しかし、振り切れればの話であった。

 

 

「鼠の始末を承った以上、此処で始末させて頂きます……館に入ったが運の尽き、紅魔館の名に相応しく、紅い華を散らして下さいませっ!」

 足元や壁に刃物が刺さる。音だけに続いて自身より先に飛んだ刃物が脇目に見え、彼女は後方に注意を移す。なんせ声がしたのは後方だ、物が飛んで来るのも後方。そして、少なかれ多かれ飛来時には刃先が空を切る音も聞こえなくはないための対応だった。

 前方は視覚、後方は聴覚をもってして死角を潰そうと考えたのだ。それは、正面と後方にのみ長く続く廊下において、最適な方法かもしれない。

 しかし、彼女は知らない。咲夜と呼ばれる人物がどんな能力を使い、自身を追いかけているのを。

 それでも逃げ延びようと、彼女は背中の袋へ手を入れ球状の何かを取り出し、振り向くこと無く後方へ落とす。それは、赤煙を放ち後方はたちまち煙に包まれた。

 自身で作り出したチャンスに、彼女は自身が思う最大限の行動をした。

 少し速度を落とし、右手に見えるドアノブを捻り開ける。しかしこれは陽動、そのまま突き進み先程投げそこねた物を足元へ落とすと、、目の前にあった扉をゆっくりと開いて、音もなく閉めた。

 

「はぁはぁ…逃げ切ったですか?」

 

「流石鼠ですね、すばしっこい…それによく避ける、それならば――」

 投げるような動作を一連やった咲夜の後方には、瞬間的に宙へ浮かぶ大量の刃物が現れた。もちろん、彼女は先ほど開けたばかりの扉を返すように開け払いバタンと閉めた。

 

「針鼠は勘弁ですー!?」

 その言葉が咲夜へ聞こえる前に大量の刃物が閉めたばかりの扉を突き壊し、砕いた。それは刃物が集まり突く要素を持ちながらも同時に命中することで槌としての要素を示したからだった。

 またも始まる、廊下での逃走劇。だが、彼女とて学ぶし、得た知識で対処する。

 

――能力発動、万スティール 右に掴むは無数の刃 左に掴むは――先の人物に宿る、事象の根本と私に対する認識……

 

「手応えありっ」

 そう叫んだ瞬間、追手の動きが止まる。それはもう何が起こったのか分からないといった様子ではなく、自身が背を向けて離れていく者を、何故追いかけていたのかと言う疑問が浮かび上がっただけである。

 そして、その背はドンドン離れていく。しかし、咲夜は動けなかった。招かれざる客かどうかの認識がポッカリと抜け落ち、再認識するためしばしの思考が必要だったからだ。

 

 

「貴方は……っ侵入者!? なっ…ナイフが無い…ならば…えっ?」

 

「事が済むまで、預かるですよー」

 

「なっ!? ちょっと待ちなさい!」

 しかし言葉では言えたが、咲夜に彼女を追い駆ける術はもうない。純粋な脚力に限ってはアチラのほうが分があったし、それを補うものは使えない。ましてや、最後の望みとなりうる物体も、普段ある場所から姿を消し、無く。咲夜に現状の彼女を追い詰めるというのは、協力者でも居ないかぎり不可能なことになっていたのだった。

 また、逃げる事に全力な彼女は、自身の背中が重みを増したというのに、気付くこと無く廊下を走り続けた。




鼠は彼女に会う運命
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