Q.Dependence=Like or ×××?   作:crooze

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EpisodeⅠ- I and you
Prologue


 

――紅の夢。

――覚める事のない、悪夢のような正夢。

 

 それはいつも、わたしを蝕んで離れない。

 

 吸血鬼と言う悪魔。

 家族と言う、共依存の形。

 

――depend。dependence。dependent。

 

 なら貴方の関係は、何によって表されるのだろう。

 きっと、「アイ」なんて、陳腐な言葉では言い表せない。

 

――I need your......?

 

 わたし自身の気持ちでさえも、満足に分からないというのに。

 

――他人(貴方)の気持ちなんて、わたしに分かる訳が無い。

 

 

 

 

 

――吸血鬼であり、現スカーレット家の当主であるレミリア・スカーレットには二人の妹がいた。

 

 

 気がふれていて、狂った少女――フランドール・スカーレットと、もう一人。

 

――フランドール・スカーレットの対のような少女が。

 

 その能力、容姿全てが対のような、美しいスカーレット家の三女――レミリア、フランドールの妹と呼ぶべき存在がいた。

 

 ルーマニアにある、紅の屋敷――吸血鬼の家に生まれた少女。

 母親の遺児となった、月の女神を冠した名前を持つ少女。

 

 

「――この子は危険だ。このまま放っておく訳にはいかないんだ」

「地下に幽閉だなんて……!フランはまだ、小さいのよ!それなのに……」

 

「――■■■……この子に似合ってるわ、とても綺麗な名前ね」

 

「――■■■は私のよ。私のもの」

「――■■■を渡せ」

 

「――ねえ■■■、お前はずっと私と一緒にいるんだよ」

 

「――■■■を……フランと一緒に幽閉する」

「そんな――」

 

 

「――■■■――」

 

 

 運命を操る姉と、あらゆるものを破壊する姉。

 屋敷の地下に、破壊する姉と諸共幽閉された、一人の吸血鬼の少女。

 全てを創り出す、人形のようなスカーレット家の三女。

 

――名を

 

「――ねえ"セレネ"聞いてる?」

 

――セレネ・スカーレット、とそう言った。

 

 

 

 

 世界は狭い。

 物心ついた時から見慣れている、真っ暗な紅に染まった部屋は、呆れる程にいつも通り。

 

 これが、「わたし」の目に映る世界の全てだ。

 たった一部屋しかない、小さなわたしの世界にいるのは、わたしがこの部屋にいる原因となった姉――フランドール・スカーレット。

――わたしの半身、らしい。

 らしい、というのは、わたしもよく知らないからだ。

 物心ついた時から一緒に居た、わたしとは正反対の能力を持つ少女である。

 

 地下だから、窓も無いし勿論外も見えない。

外の景色なんて生まれてから無縁であり、きっとこれからもそれが変わる事は無いのだろう。

諦観なんて、もうとうの昔に無くなった。

 

 暇潰しに近くに落ちていたびりびりに破けたテディベアをそっと拾い、新しく創りだす。

――わたしの生まれながらにして持つ力。

こんな場所では、こういう事にしか使う時は無いけれど。

 

「――セレネ!」

 

 何時までも反応しないわたしに痺れを切らしたのか、姉がわたしからテディベアを取り上げた。

 わたしの力によって創り出された、真新しくて綺麗なテディベアだ。

 

「……おねえちゃん」

「また創ったの?セレネは創るのが好きね」

 

 紅の部屋の真ん中に置かれている寝台で、フランドール――姉の手がわたしの創ったテディベアを触る。

 それをぼんやりと見つめるわたし。手持無沙汰になってしまったから、代わりに姉に話しかけた。

 

「……何か屋敷が騒がしいね」

「珍しく客人が来たらしいわ。魔法使いだったっけ?セレネが寝てた時に嬉しそうに話してたわ」

 

 そう言う姉の顔を、じっと睨む。

 

「……起こしてくれなかったの?」

「とても気持ちよさそうに寝てたから。文句はお姉さまに言って」

 

 顔をふくらませるわたしを見て、お姉さま(・・・・)は苦笑するようにわたしの頭を撫でた。

 

――かつてない程、穏やかな時間。

 過去のフランドール・スカーレットを知る者なら、仰天するであろう変化だ。

 

 あれ程狂気に染まり、気がふれていると称されたフランドール・スカーレットはここにはいない。

 ……確かにかつてはそうだったらしいが……わたしには分からない事だ。

 

 何もかも全て――わたしが物心つく時には終わっていたのだから。

 両親がどうなったのかも、わたしは覚えていない。

 

 お姉さまが狂っていたという時も、何も覚えていない。

 わたしにとってお姉さま――フランドール・スカーレットという存在は優しくて素敵な姉――「お姉さま」だったのである。

 

「……お姉さま、わたしも会いにいきたいな」

「……セレネは、ここから出ようというの?」

 

 でも偶に――お姉さまはおかしくなる。

 今の、ように。

 

「……お姉さまも、一緒に行こうよ」

「駄目。セレネも私も、ここから出てはいけないの」

 

――何回も繰り返した会話。

 何時だって、お姉さまの返す言葉は変わらない。

 

――わたしも外に出てみたい。

 

 どんなにそう思っても、わたしがここから出ようとすればお姉さまが逃げ道をふさいでくる。

 まるでわたしを逃がさないと言わんばかりに実力行使をして、この部屋に閉じ込めてくるのだった。

 

 どんなタイミングでもだ。例えお姉さまが寝ていたとしても、何故か気付かれてしまう。

 

 それが何回もあって――わたしはここから出る事を諦めた。

 

「……お姉さまは、お外が嫌いなの?」

「……そうじゃないわ。私が外に出ると、お姉さまが困ってしまうから」

 

 困った様に笑うお姉さま。

 はずみでサイドで結んだ、わたしの髪色と同じ金が揺れた。

 

 紅を基調としたワンピースに、黄色のタイを結んでいるいつもの恰好だ。因みにわたしは、お姉さまの色違い。黒のワンピースに白のタイという、結構地味な格好である。

 偶にはレミリアお姉さまの様な、豪華で綺麗なワンピースドレスでも着てみたいなあ。レミリアお姉さまはこの家の当主だから、いつも立派な恰好をしているのだ。ちょっと羨ましい。

 

「セレネ」

 

 そう考え込んでいたら、急にお姉さまに名前を呼ばれた。

 

「こっちに来て。喉がかわいたわ」

「……お姉さま。吸血鬼でも貧血はあるんだから――あんまり吸い過ぎないでね」

「頑張るわ。セレネの血、美味しいから、つい吸い過ぎちゃうの」

 

 吸血鬼が吸血鬼の血を吸うって、一般的にはどうなんだろう。

 

 お姉さまはいつもわたしの血を「美味しい」って言って吸うんだけど……いっつも吸いまくるから、気が付いたら意識が無いんだよね。

 レミリアお姉さまも、お姉さまのように血を吸ったりするのかなあ。お姉さまは「お姉さまはいつも血をこぼしちゃうから、そんなに沢山吸えないのよ」と笑っていたけど……

 

 寝台に血が染みていく。

 わたしの金髪と混ざって、まるで浸食していくかのように紅が広がっていった。

 

 

 

 

「セレネ・スカーレット?」

「私のもう一人の妹よ。フランドールと一緒に地下にいるわ」

 

 屋敷のある一室にて、二人の少女が向かい合って座っていた。

 

――1人は、桃色を基調にしたドレスを着る、少し蒼に染まった銀髪の少女。見た目はまだ幼い子供にしか見えないが、実は数百年を生きた吸血鬼である。背中から生える蝙蝠の翼と、口から覗く牙が何よりの証拠である。

 

 もう一人は、紫色の長い髪をした、ネグリジェにしか見えないようなゆったりしたワンピースを着ている少女だ。物静かな雰囲気を持つ、落ち着いているという印象が強い少女で、片手に分厚い、大きめの本を抱えている。吸血鬼に会って物怖じしない彼女もまた、「魔法」という力を扱う人外じみた存在……「魔法使い」であった。

 

 屋敷にある、大量の本を求めてやってきた魔法使いと、それを許可した吸血鬼。

 魔法使い――パチュリー・ノーレッジと、吸血鬼――レミリア・スカーレットである。

 

 傲岸そうに座っている、向かい側の吸血鬼を見てパチュリーは溜息をついた。

 

「……地下に居る、って……それ、危ないって事じゃないの?」

「セレネは危なくないわ。まあ、セレネに手を出したらフランが襲ってくるから、あながち間違いでもないかしら?」

 

 どこまでものんびりとしたように言うレミリア。

 言っている事は結構重要なのだが、言っている本人がどうでもよさそうなのでそう思えない。

 

「……フランドールは、セレネがいないと困るのかしら?」

「さあ。あの子はセレネを自分から離そうとしないし、セレネ自身も離れようとしないからね。運命はまだ、先なのよ」

 

 そう言って、レミリアは口を手で押さえて優雅に笑った。

 

 




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