Q.Dependence=Like or ×××? 作:crooze
わたし達が住んでいる紅の屋敷は、名を紅魔館という。
その名の通りに相応しく、屋敷は全て紅に染まっていた。ずっと見ていると、目が痛くなる程に紅しか存在しない。
そんな屋敷だが、今は亡き両親はとても気に入っていたらしい。
わたし自身は、物心ついた時にはもうあの地下室にいたものだから、地上にある屋敷の部屋の内装なんて、数える位しか目にしたことは無いのだけど。
わたしの二人の姉の内、わたしがここにいる原因となった姉であるフランドールは、滅多に外に出る事は無い。偶にこの屋敷に居着いた魔法使いであるパチュリーのいる大図書館に、魔道書を読みに行く程度だ。
お姉さまはパチュリーに頼んで魔道書を借りて、地下室まで持ってきてわたしに魔法を教えてくれる。
わたし達は吸血鬼。悪魔の一種だから、魔力だって強い。お姉さまは見た目からは想像できないんだけど、割と厳しいから……魔法を教えてくれるのは嬉しいのだけど、魔法の練習をさぼったりすると、普段は優しいお姉さまが怖くなってしまう。
さて、今地下室にいるのはわたし一人。
お姉さまはパチュリーの居る大図書館に行ってしまったから、とっても暇である。
「あら、セレネお嬢様、おひとりですか?」
「あ、咲夜。お姉さまいないから、とっても暇だったの」
余りにも暇過ぎて、寝台でゴロゴロ転がっていたら珍しく咲夜さんが来てくれた。
綺麗な銀髪に、シンプルなメイド服がよく似合っている人だ。この屋敷には珍しく、彼女は正真正銘唯の人間である。
あまり詳しい事は分からないのだけど、彼女はレミリアお姉さまが拾ったらしい。名無しだった彼女に「十六夜咲夜」という名前をつけて、この屋敷に雇ったとかなんとか。
彼女は人間であるが、わたしたち吸血鬼を怖がらない。寧ろレミリアお姉さまに心酔しているような節さえある。……まあ、レミリアお姉さまはすごいから、咲夜が惚れるのも当たり前だよね。
そんな彼女は、「時を操る力」を持っているらしい。お姉さまが「最近屋敷が広くなったように感じる」と言っていたけど、実はそれは咲夜のせいだったりする。
時間と空間ってのは、何か密接に関係してるんだってお姉さまが教えてくれたから、多分咲夜が力を使って広げたんだろうなあ。
「暇~。わたしも地下から出たい~」
「あらあら……これは、困りましたね……」
困り顔をする咲夜に近づいて、上目使いでねだってみる。
「ちょっとだけだから、レミリアお姉さまに会いに行くだけだから……ダメ?」
「そんな事を言われても……」
……むぅ、咲夜のガードは堅いなあ。
幾ら頑張ってお願いしてみても、咲夜がイエスと言う事は無かった。うーん、いっそ能力でも使おうかなあ。
そんなやりとりを続けていたら、後ろから冷たい声が聞こえた。
感情を極限まではぎ取ったような、冷たく背筋が凍る様な声だ。その声に咲夜が顔を僅かにひきつらせる。
……この声は聞いたことがある。わたしが地下室から出ようとした時にお姉さまが出す声だ。
お姉さまの妖力が滲み出し、空間が軋みを上げる。
「セレネ?」
「あ、お姉さま……」
固まってしまったわたしを片腕で自分の胸の中に抱き込んで、咲夜を睨み付けるお姉さま。
一種束髪の空気を打ち破るべく、わたしは恐る恐るお姉さまに話しかけた。
「お、お姉さま……これはわたしが悪いの、だから咲夜は……」
「セレネは黙ってて」
……ダメだった。咲夜、ごめんなさい。
こうなったお姉さまはわたしでは止められないから、自然に落ち着くのを待つしか無い。若しくは、レミリアお姉さまが来るか……
「……咲夜」
「……はい、フランお嬢様」
――お願い、咲夜は悪くないの。そう思っても、今この場にわたしの発言権は無い。
……お姉さま――フランドールにはあらゆるものを破壊する力がある。
お姉さま曰く、全ての物体には最も緊張している「目」という部分があるらしいのだが、お姉さまはその目を自分の掌に移動させる事が出来るのだ。
そしてお姉さまがその目を握りつぶせば――その目のあったものは、何であろうとも破壊できてしまう。
お姉さまが地下室に幽閉されている理由は、この強力すぎる力とその不定の狂気があるからなのだ。
わたしが地下室から出られないのも、皆お姉さまに逆らえないから。レミリアお姉さまも、お姉さまの能力には勝てない。勿論、わたしも。わたしの持つ「あらゆるものを創りだす」という力は、お姉さまとは相性が悪すぎるのだ。
いくら創っても、創る傍から破壊されてしまってはたまったものでは無い。
お姉さまは確かに優しいが、ある一線を越えたら容赦がなくなるという残酷な一面も持っている。以前、わたしがこっそり能力を使って地下室から出ようとしたら、お姉さまはわたしの腕と脚を破壊して逃げられないようにしてしまった。幸い、わたしは吸血鬼だから、何とか元通りに復元する事はできたのだが――あの時は本当に痛かった。なんせ、両足に右腕が破壊されてはじけ飛んでしまったのだから。あれ程痛かったのはあの時位である。
紅の部屋がわたしの血で染まって、お姉さまが血塗れのわたしを抱いて本当に嬉しそうに笑ったのが、恐ろしい程鮮明に記憶に残っている。その時に、わたしは寒気とともに「お姉さまからは逃げられない」という事を痛感したのだ。
それからは、逃げるという事を考える事は無くなった。諦めたとも言う。
そんな事を考えながらひたすら目を瞑っていたら、予想外にもお姉さまの優しい言葉が聞こえてきた。
安堵感を感じる前に、驚愕しながらそっと目を開けると咲夜が嬉しそうにお姉さまに頭を下げていた。その時聞こえた言葉に、がっくりと首を落とす。
……まさか、咲夜までお姉さまの味方だったなんて。
冷たく残酷な現実に打ち据えられて呆然としているわたしを放置して、お姉さまと咲夜の会話は進む。
「……よくやったわ。セレネを外に出さなかったんだもの。これからもこの調子で頼むわ。後で私とセレネの二人分の紅茶を持ってきて」
「……お褒めの言葉、真にありがとうございます。血は何時もと同じく、大目で宜しいですか?」
「うん」
気分も良さそうに、咲夜の言葉にお姉さまは頷いてからわたしを抱きしめたまま部屋の中に入って行った。