レティシア・ドラクレアとホグワーツ~LETICIA DRACULEA & THE HOGWARTS SCHOOL OF WITCHCRAFT & WIZARDRY 作:招き蕩う黄金劇場
スリザリンの談話室の暖炉の前の一番上等なソファー。
スリザリンの六年生以上しか使ってはならないというスリザリン内で暗黙の了解のあるその特等席に堂々と一年生のであるはずのプラチナブロンドの美少女が足を組ながら淹れたばかりなのであろうユラユラと湯気の立つ紅茶の入ったティーカップを片手に、『日刊予言者新聞』を読み、その可憐な顔に似合わぬニヤニヤとした笑み、もといゲス顔を浮かべていた。時刻は七時。ほとんどの寮生は朝食を食べに大広間に行っている頃だった。
「ククク、ヴォルさんも不憫な奴だ。折角、グリンゴッツに忍び込んだというのに金庫がもぬけの殻だとはな。運が無さすぎるにも程があるというもの。
それに比べ私はあの
僕はダンブルドアやお辞儀さんのことを軽侮しながらカップに口付ける。
今なら究極生命体となったときのカ○ズ様や時を止める能力を持ってまさに無敵になったD○O様の気持ちがどんなだったかとても理解することが出来るぜ。そう、まさにあたいってばさいきょーね!
そうして最高にハイって奴になり、脳内が大分カオスになっていた僕の耳に突然ドラコの呆れたような声が聞こえた。
「レティシア、声が男子寮の廊下まで響いているよ」
「……どこから聞いていた?」
僕は作り笑いをしながらドラコの方をまるで機械のようにぎこちなく顔を向ける。
仄かな紅茶の香りが漂う談話室に、ピシッとした空気が流れる。それはまるで、RPGで滅茶苦茶強いボスのライフをあと一撃で倒せるけど自分も回復アイテムが底を尽き、ライフも一発攻撃を受けたらアウトみたいな緊張した空気。
そしてそんな張り詰めた空気のなかドラコがゆっくりと口を開く。
「まさに私は人生勝ち組って所から……」
「……」
「レティシアってもしかして……ナルシ――ゴホッ!?」
その先は言わせねーよとドラコの口に、傍に置いていたスコーンを突っ込む。僕はドラコと視線を合わして無言の圧力をかける。ドラコは僕が何を言いたいかわかったようだ。何度も首を縦に振る。ただどうしても解せないことに、ドラコの頬が赤い。毎回思うけれど、いくらなんでも風邪引きすぎだろ。
ドラコは僕の側から少し離れると、口に含んだスコーンを飲み込む。
「ゴホッゴホッ、ごめんレティシア。さ、さっきのことは誰にも言わない。約束するよ」
「……あぁ。それとすまない。スコーンを無理矢理口に突っ込んで……」
「気にしていないよ。そういえばレティシア、今週の木曜日に飛行訓練があることを知っているかい?」
そういえばグリフィンドールと合同で飛行訓練があるってスリザリンの掲示にあったなぁと僕は思い出した。ドラコは随分と飛行訓練が楽しみなようで少しだけ口元に笑みを浮かべている。僕はあまり興味はないといった感じを装った。
「知っているぞ。飛行訓練……クィディッチの選手として参加したい人には好評だろうな。尤も空を飛ぶだけだったら、飛行魔法を使えばいいし完全に趣味の域だな」
「まぁ、そうだね。でも箒で飛ぶのも面白いと僕は思うよ。レティシアがどう思うかは別としてね」
「……しかし残念だったな、ドラコ。一年生はクィディッチの寮代表選手にはなれないみたいだぞ。箒でマグルのヘリを回避したその手腕、スリザリンのチームは惜しいことをしたな」
ドラコの顔が微かにひきつる。
実はドラコは自慢話をするとき、たまに自分の体験したことを大きくして話すときがある。そして箒でマグルのヘリコプターをかわしたという話も事実よりも大きくしてある。というか元になった話が、箒を練習しているときに遠目からヘリコプターを見たというものなので、話を大きくしたというより最早改変だ。
ヘリをかわしたという話をしているときに、ヘリコプターの乗員によくばれなかったなと僕に言われたときのドラコの焦ったような顔……鮮明に思い出せるとはこのことを言うのだろうな。
ということで嘘だとばれてしまったドラコの自慢話は、ドラコの所謂黒歴史になっているわけでして。
「ハハハ、レティシア……その事については掘り起こさないでくれるかい?もしポッターやウィーズリーなんかにばれたら洒落にならない」
「すまないな。ただの冗談だ」
「ハァ~本当に精神に悪いよ。だけど、どうして一年生はクィディッチの寮代表選手になれないんだろう?」
僕はどこか遠い目をして呟くドラコの方を向く。まぁ、でも一年生が選手になれない理由なんて決まっている。僕はキメ顔をしながらふんぞり返った。
「その問いに答えてやる。――大人の事情だ」
ドラコは一瞬、瞬きをすると苦笑いを浮かべた。
「まったくだ……」
◆◇◆◇◆◇
木曜日のよく晴れた3時半、僕は、初めての飛行訓練を受けるのに、ちょっとした自己暗示的なものをかけていた。
「体は完璧で完全なボディで出来ている。血潮は最高級ワイン以上で、心は聖人。 幾多の慢心をして尚不敗。 ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。 彼の者は常にぼっち、自室のベッドで愉悦に酔う。故に、高所恐怖症に意味はなく。
その体は、きっと俺TUEEEなレティシアボディで出来ていた」
高いところが苦手な僕にとって、飛行するときは必ず自己暗示で怖さを軽減しておかないといけない。ジェットコースターに乗れないまである。自己暗示といっても某偽物さんの詠唱っぽい言葉に暗示の効果があるのかは知らない。というか飛行魔法なんかは知ってても使わないため、自分の能力以外で空を飛ぶのは今回が初めてなのだ。つまり、今の僕は屠殺場に連れられる豚さんの気分なのである。ちなみに自分の能力で空を飛ぶときは、何故か怖くなくなる。どういう原理なんだろう。
「ねぇ、レティ、顔色悪いわよ。マダム・ポンフリーのところに行く?」
「大丈夫だよ、ハーミィ。私これから頑張ってくるから」
隣を歩くハーマイオニーにキメ顔でピースする。ハーマイオニー、もといハーミィは呆れたように此方を一瞥すると校庭へ歩いていってしまう。僕はそれをすぐに追いかける。追い付くとハーミィに並んで歩く。
傾斜のある芝生を下り、校庭を横切って平坦な芝生に着いた。校庭の反対側には『禁じられた森』が見える。僕以外のスリザリン寮生はすでに到着しており、ドラコが此方に向かって手を振っている。
「ハーミィ、一旦ここでお別れだ。グリフィンドールとスリザリンの確執は根強い」
「ええ、レティ。また図書室で会いましょう」
僕はハーミィに軽く頷いて、スリザリン生が集まる場所へ歩き出す。
ハーミィとは最近図書室でよく待ち合わせをする。図書館での談笑はなかなかに有意義で楽しい。僕はハーミィからいろんな発想や考えを聞けるし、ハーミィには僕の魔法についての知識を少しだけど教えたりと、両者ともハッピーになれるからね。そのため、ハーミィとの関係は壊したくないのだが、ここでネックとなるのが僕が純血主義の多いスリザリンに所属しているということ。グリフィンドールとスリザリンとの確執はとても根強いため、もし敵対する寮に所属している生徒と関係があると知られたのならば、自分の寮の中でも居場所が無くなってしまうだろう。なのでハーミィと関係を続けていきたいのであれば慎重にいくしかないのだ。結論を言うと、寮のいざこざって面倒くさい。
そうして、スリザリンの生徒の集まっている場所でしゃがみこんでいると、飛行訓練の担当職員であるマダム・フーチが来た。短く切られた白髪に、黄色い目が印象的な人だ。
「なにをボヤボヤしているんですか。
みんな箒のそばに立って。さぁ、早く」
僕は足元に置かれた自分の箒を見下ろした。古ぼけて、穂の小枝が何本かおかしな方向に飛び出している。壊れないのかと内心不安になりつつ、マダム・フーチの指示を待つ。
「右手を箒の上に突き出して。
そして、『上がれ!』と言う」
すると集まった生徒たちが一斉に「上がれ!」と叫んだ。僕も一拍遅れて「上がれ」と言う。
箒はそのまま飛び上がると、スポッと手に収まった。周りを見渡すと、案外飛び上がった箒は少ない。ドラコは流石と言うべきかしっかり成功させている。それと同時に出来ていない生徒を見下しているため、周りからの評価は±0だが。
次にマダム・フーチは箒への跨がり方を指南する。そして、生徒たちの列を列の間を回って、箒の握り方のチェックを行った。僕とドラコは二人揃って箒の握り方を正された。
「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2mぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ――1、2の――」
そうして箒に跨がり、いざ飛ぼうと心の準備をしていると、ネビルがマダム・フーチが笛を吹く前に飛び上がってしまう。笛の音を待てないほどに箒で飛びたかったのだろうか。
「こら、戻ってきなさい!」
マダム・フーチの大声を余所に、ネビルはロケットの如く飛んでいってしまう。そして、地上から7mくらいの高さにまで上がったとき、ネビルが箒の上でバランスを崩し、そのまま地面に向かって落ちた。ポキッと言う何かが折れる音を立ててネビルは地面に墜落した。
マダム・フーチはネビルの元へ駆け寄る。
「手首が折れてるわ」
マダム・フーチはそう呟くとネビルを抱え起こした。重そう……。
「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」
手首を押さえながら号泣しているネビルを抱き抱えるようにしてマダム・フーチは医務室へと向かった。そんな二人が声の届かないところまで行った途端、ドラコが笑いだした。
「あいつの顔見たか?あの大間抜けの」
そんなドラコを見て、他のスリザリン生も囃し立てる。何がどうおもしろいのか……ドラコたちの感性はよくわからない。
「ご覧よ!ロングボトムの婆さんが送ってきたバカ玉だ」
ドラコが草むらの中からネビルの『思い出し玉』を拾い出して高々とさし上げる。
「ドラコ、それをネビルに返しておいてやれ。ネビルは純血だろう?」
「レティシア、勿論これはロングボトムに返すよ。いや、やっぱり後で取りに来られる所に置いておくよ」
「そうか……」
一応ドラコに持ち主に返してやればと進言したが、ドラコは気にせずに思い出し玉を弄る。
可哀想なドラコ……。これからハリー・ポッターがお前を踏み台にするというのに……。
「マルフォイ、こっちに渡してもらおう」
ハリーの静かな、それでも尚怒りの滲む声に、皆が注目する。
そんなハリーにドラコはニヤニヤ笑って箒に跨がる。
「こっちに渡せったら!」
ハリーが強い口調で言うが、ドラコは気にせず箒を飛ばした。そして樫の木の梢と同じ高さまで舞い上がったドラコはそこに浮いたままハリーに呼び掛けた。
「ここまで取りに来いよ、ポッター」
ハリーはドラコを睨みながら、箒を掴む。
「ダメ!フーチ先生が仰ったでしょう、動いちゃいけないって。私たち皆が迷惑するのよ」
ハーミィがハリーに向かって叫ぶが、ハリーは無視している。そしてハリーはそのまま飛び上がった。そのままハリーはドラコに空中で向き合った。どうやら二人は会話しているようだ。
ただ、上空にいるドラコたちが何を話しているのかよく聞き取れない。すると突如ハリーが前屈みになり、ドラコに向かって突進した。ドラコはそれを回避すると、ネビルの思い出し玉を空中高く放り投げる。そして重力によって落下しはじめた思い出し玉に向かって、ハリーが急降下した。地上で見ている生徒の何人かが悲鳴を上げる。
ハリーは地面すれすれの所で思い出し玉を掴み、箒を水平に安定させた。超すげーな。
そんな中、マクゴナガルが「ハリー・ポッター!」と叫びながら走ってきた。
そして、そのままハリーを連れて城に向かって行った。
「やったな!ポッターは退学だ!」
マルフォイが歓喜の表情で喜んでいる。僕はドラコに、ハリーの踏み台にされたことを伝えようと思ったが、なんだか面倒くさいし、どうでもいいので放っておいた。
その後、ハリーがグリフィンドールのクィディッチの寮の代表選手のシーカーになったと聞いて、ドラコがショボーンとするのは、また別の話。