ポケットモンスターSP 新たなる図鑑所有者   作:俺俺

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それぞれの旅路シリーズクライマックスだと言うのに、この駄文。
見てくれてる読者の皆様には感謝の言葉もございません。




それぞれの旅路と新たな誓い

 

 

 

『エリーの経過は?』

『順調です。このままいけば、健康な人間と変わらないクローンが誕生するでしょう』

 

これは、私の記憶の中・・・?

 

『培養器、開きます!』

『おぉ!!エリー、私が分かるか!?』

『あ、うー・・・あー・・』

『エリー・・・?』

 

 

 

『私が愚かだったか・・・。こんなクローンを作った所で、そのクローンが彼女の筈が無いというのに。くそっ!!これからどうすれば・・・!?』

 

 

 

 

『私は次の作戦に出る。ならば、識別名《アクアマリン》はどうするべきか・・・』

 

 

 

『アクアマリン。お前に任務を与える。もし失敗するようならば、その場で自害せよ』

 

 

 

『お前はもう、必要無い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「っ!!」

 

アリアの目は覚めた。見慣れない天井に畳の上に敷かれた布団の中で眠っていた。

服は寝汗でグッショリとしている。こんな事は、アリアの記憶の中で初めての体験だった。辺りを見渡してみると、すでに外は日が落ちて真っ暗になっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

知ってしまった、いや、思い出してしまった事実を、整理しきれない。これも初めての経験だ。ガーネットとの出会いで、生まれた感情がそうさせるのだろうか?

 

アリアは覚束ない足取りで立ち上がり、窓を開けた。

無性に風に当たりたい。そんな気持ちも、初めてだった。

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「さて、何処から話すべきか・・・」

 

ここはジョウト地方にある育て屋の老夫婦の家。何でも、ここの夫婦はゲンジの古い友人らしく、ロストタワーでの戦いの後、3日間眠り続けていた俺達をここまで運んできたらしい。俺達はこれまでの旅の経緯を話すと、ゲンジも事情を説明し始めた。

 

「私がポケモン協会の理事長からの命を受け、アルティア家を秘密裏に調査を開始したのは、今から7年前の事だ」

「俺を引き取る、1年前から?」

「それから半年後、私は協会の調査員と協力し、派遣部部長のルーファスとアルティア家の当主が同一人物だということを突き止めた」

「あの、その言い方だと、当主の正体が誰だか分からないみたいなんですけど?」

 

そう質問したのはターコイズだ。確かに、カントーでも有名な名家の当主の顔を誰も知らないなんて事があるのか?

 

「アルティア家の歴史は長い。これは極秘の情報だが、過去に何度も暗殺された経験があり、当主は決して表には出ず、常に影武者で対応してきた。そしていつの日か、誰も当主の正体が分からなくなってしまった。協会理事や、他の貴族達でさえな」

「そんなことが・・・」

 

ゲンジの話で、大まかな敵の正体は分かった。でも、俺が知りたい事は別にあった。

 

「何を悩んでいる?ガーネット」

「あ?」

「母の事か?」

「・・・お見通しかよ、相変わらず鋭いジジィだな」

 

母さんは人工授精の実験で、ルーファスの遺伝子を胎内に宿して、俺が生まれた。

『生命をも単位と数字に置き換えて、慈悲も無く実験台にする』それは、俺の知っている優しい母さんとは正反対の人物だ。

 

母さん、本当の所はどうなんだ?

俺に与えてくれた優しさや家族の情は、母さんにとっては実験の一環だったのか?

母の温もりを知っていながら、そんな疑問が頭を過る。

真実は分からない。俺の疑問に答えられる唯一の人間は、もうこの世にはいない。

 

「私がお前の母、サクラに出会ったのは、ルーファスの正体を知った半年後の事だった」

 

その時、ゲンジはポツリと呟いた。

 

「調査を進める内に、ルーファスの所の研究員が1人逃亡したという情報を聞き、私はアルティア家よりも先にその研究員を捜索し、そして接触に成功した」

「それが、母さんだったのか」

 

ゲンジの言う通りなら、やっぱり母さんは・・・。

 

「ポケモン協会が統治するこの世界の闇の一つ、ブラックシティ。そこの片隅で出会った薬物に侵されたサクラと、まだ幼かったガーネット。その事はお前も覚えているだろう?」

「待てよ、薬物って、母さんは病気だったのか?」

「いや、不躾だとは思ったが、これを読ませてもらった」

 

そしてゲンジが鞄から取り出したのは、10冊の古いノートだ。

 

「これは?」

「いつか、お前が大人になって、自分の境遇を受け入れられるようになったら渡そうと思っていたものだ。それは、サクラの日記だ」

「母さんの?」

「お前にはまだ早いと思っていたが、今だからこそ渡そうと思う」

 

俺は日記を受け取る。それを持って俺は、玄関から家の外に出た。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

ターコイズside

 

 

 

 

「ガーネット・・・」

 

ガーネットが出て行った扉を見つめる。今まで知らなかったガーネットの過去を知って僕も混乱してるけど、ガーネットはそれ以上だろう。本当なら、何か声を掛けた方がいいのかもしれないけど

 

「追わないのか?」

 

そう呟いて、ゲンジさんは僕を見下ろしていた。その答えはもう決まっている。

 

「追いません。ガーネットは、立ち止まるのは性に合わないと思うので」

「それは信頼か?」

「どっちかといえば、経験ですね。負けん気が強くて、意地っ張りだから僕が声を掛けても平気なフリをしちゃいそうですし」

 

それに、ガーネットなら大丈夫。何故だか分からないけど、そう思えるんだ。

 

「それに、今はアリアの方が心配です。家族を見つけるはずの旅が、本当は家族が居なかっただなんて、残酷すぎますよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

ゲンジさんは何も言わなかった。結局その後は、ガーネットの帰りを待つほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

正面に海が見える海岸で、夕暮の光を浴びながら座りこむ。

俺はそこで母の日記を開いた。

 

思わず生唾を飲み込んでしまう。そこに書かれていたのは、倫理を無視した人間やポケモンを実験台にした研究の内容が書かれていた。

それに腹の中の研究物?それは俺のことじゃないのか?それを嬉々として記録している。

 

「――――マジかよ・・・!」

 

あまりにも、俺の知っている母とは違いすぎる。ルーファス達との認識が違うのも当然だ。

日記を読み進めていくのは、正直怖い。この後、どういう過程で俺が生まれたのだと想像すると、寒気がする。それでも読み進めなければならない。俺が母さんの真実を見つけなければならないのだから。

だが読み続ける内に、吐き気がする。母は、自分の知的探究心を満たすために腹の子供を育んだのだ。それも単なる研究道具とし割り切って。

 

「・・・ん?」

 

このページから、日記の内容に変化が現れた。俺はそのまま読み進める。

 

 

『●月■日

 

最近、何か様子がおかしい。以前ほど研究に没頭できないくなっている。

だが今はどうでもいい、忘れよう。

 

胎から取り出した後は、成人するまでは人間と同様とする。ただし、肉体的に欠損していた場合は処分する。

私は、間違ってはいないはずだ。胎の中のものがまた大きくなった』

 

このあたりから、中身が戸惑っているように見えた。胎の中の俺の扱いは相変わらずだ。

 

「・・・なんだ、これ?」

 

ページには、何度も読み返したような手垢の後と、水を零した様な染みが幾つもついていた。それも小さなものだ。疑問に思いつつも、ページをめくる。

 

『■月×日

 

胎の中のものは順調に育っている。後は出てくるのを待つだけだ。

 

下腹部に触れる機会が多くなってきた。理由が分からない』

 

 

『■月●日

 

特に書くことはない。

 

胎の中のものが動いた。動いた時、その動きは良く分かる。

眠る時にも気を使う』

 

 

『△月×日

 

そろそろ動くのも不自由になった。実験に影響が出なければいいが。

 

元気だ。

 

分からない。私は何を書いている?』

 

 

『△月■日

 

胎の事を考えると、そろそろ動くのを控えたほうがいいだろう。

レントゲンを見てみると、顔立ちは支部長に似ていると言われた。

動くたびに腹に触れると、動きが止まる。私がそうだとわかるのだろうか?

 

私は、なんだ?これは、なんだ?

 

分からない。

不愉快だ。分からない事は不愉快だ。

 

腹にふれる。胎の中のものが分かる。

不愉快ではない。不思議だ』

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

単なる感想が多くなっている。それも、胎の中にいる俺を思うものばかりだ。

どういう気分なんだろうか?道具として扱っていたものが、『それ』であると理解するのは。

 

母の気持ちは俺には分からないが、それを示す涙の跡が、ページに残っていた。

ページを進める。

 

 

『1月24日

 

胎の中の子供が生まれた。

 

私は、何をしているのだろう?

 

あのか細い手が私の指を握った時に思ってしまった。

私の胎にいたそれは、触れるだけで幸せになれるそれは、私が玩具にしていたそれは。

 

確かに私の子供だ。

そうとも、私以外誰にも産めない、私の子供だ。

 

もう一度、この子に触れる。それだけで、私の中の何かが砕け散った。

 

どうしてこんな事になったのだろう?私は何処で間違えた?』

 

 

『×月●日

 

日に日にこの子は大きくなっている。

 

――――――その日が、近づいてくる。この子が、変わり果ててしまう。

 

何とかしなくてはならない。私がこの子に辛い運命を背負わせてしまった』

 

 

『×月△日

 

ようやく考えが纏まった。

 

私はこの子に、とてつもない試練を背負わせてしまった。

 

それが神の思し召しなど、死んでも言わない。全て私の選択だ。

この子を私の欲求を満たすためだけの道具として産んでしまった。

 

皮を剥がされ、内臓を切り分けて培養器に入れられるのだろうか?

感情を無くし、血みどろになって戦うのだろうか?

悦に浸って、人間やポケモンを襲うのだろうか?

 

それは獣の所業だ。そんな事は耐えられない。

だが、そうなる様にしたのは私だ。死んで償うことなどできない。

 

なら、抗おう。自分が犯した間違いを、正してはいけないという決まりは無い。

この子の為ならどんな法でも破って見せる。それが私にできる唯一の事だ』

 

『×月×日

 

私はこの子と共にアルティア家から逃げる準備は整えた。

これからブラックシティに向かう。治安が悪い街だが、アルティア家の力が及ばない街はここしかない。比較的安全に暮らせる筈だ。

無論リスクは大きい。だが成し遂げなければならない。償わなければならない。

神様などには祈らない。私がこの子を幸せにして見せる。

 

この子の名前も決めた。1月の誕生石、ガーネット。石言葉は、秘めた情熱』

 

 

「母さん・・・・!」

 

視界が涙で滲む。言葉の一つ一つが胸を締め付ける。

俺はページをめくり続ける。

 

母さんが自分の体も使って研究していることが分かった。薬の乱用で体は衰弱しきっているが、まだ見守ることはできると、はっきりした筆跡で綴られていた。

後は俺との暮らしの日記だった。

そこからの量が特に多い。1日1日、欠かすことなく書いてある。

中身は俺を心配する言葉と、謝罪の言葉と、俺への愛情で満ち溢れていた。

 

 

『●月×日

この子はどんな感情を見せるだろうか?

もっともっと笑ってくれるだろうか?いつか、大切な人が出来るだろうか?

惜しむのなら、私がそれを見届けられないということだろう。

実験の影響で、私の体は限界に近い。

覚悟はしていたことだ。それでもガーネットの成長を見届けたい。

私が何時も通りに家事をしている度に言うのだ。

 

「お母さん、ありがとう」と。

 

私にはそんな資格は無い。ただ、それを拒否することもできない。

たとえどんな事があっても、私だけはガーネットの味方でいる』

 

 

 

「はぁ・・・」

 

涙が頬を伝って、ノートに落ちる。それと同時に、胸に迫るものがあった。

 

「俺は、生きてていいんだよな」

 

こんなにも俺を愛してくれる人がいた。それだけで、俺の人生は幸せだったと思える。

 

「っ!!」

 

最後の日記の、最後のページを開く。

そこに遭ったのは日記ではなく、手紙のようだった。

 

 

『今までの名も無いあなたと、これからの未来を生きるガーネット。

そして今、これを読んでくれているガーネットへ。

 

この世に神様はいない。どこにもいない。でもここに、私はいる。ガーネットがいる。

私はガーネットに救われた。こんな私の指を握ってくれた。ガーネットは、笑ってくれた。

 

分からせてくれた。

 

いっぱい間違ってしまった私は、ガーネットに沢山のものを貰った。

今まで沢山ガーネットを傷つけた私は、それよりももっと「ありがとう」を伝えたくて。

けれど伝えられる言葉は無いから、ただ祈るの。

 

誰よりも幸せであれと、ただただ祈るの。

 

ガーネットにも愛する人が出来て、幸せになれると信じている。

だから言わせてください。ありがとうと、ガーネットに。ごめんなさいと、私から。

 

これから私のせいで、辛い試練がガーネットを襲うでしょう。もしかしたら、死んで楽になった方がいいと思うかもしれない。

 

でも諦めないで。どんな事をしてでも立ち上がって。

酷いことをされたら、何千、何億倍にもして返してもいい。他の人を不幸にしてでも、他人の幸せを砕いてでも、それこそ不幸なんて入り込む余地が無いくらいに、幸せになって。

 

それだけが、×××私の願いです』

 

 

最後の一文は、塗り潰されていた。でもなんて書こうとしていたかなんて、見当がつく。

 

「遠慮するなよ、『母さん』」

 

いつの間にか、涙は止まっていた。

 

「謝る必要なんて、どこにもねぇだろ」

 

確かに業は背負わされた。ブラックシティの生活が辛くなかったと言えば嘘だ。その上、実の父親からは命を狙われている。

でも母さんの思いは本物だといことはこの日記が示している。それに何より、救われた。

 

「ありがとよ、母さん・・・!」

 

どれだけ自分の罪を悔やんでも、どれだけ謝っても、俺を産んで育ててくれた事を母さんは一度も後悔してないのだから。

それだけで、俺は生きててもいいと、言われた気がする。

 

「だったらアリアも、生きてていいよな?」

 

力任せに拳を握る。だって、幸せにならなくちゃ何の為に生まれたか分からねぇだろ?

 

「あーーーー!!なんかムカついてきた!!」

 

俺は夕日に向かって吠える。ルーファスも、ウジウジ悩んでいた自分にも。

もう一瞬たりとも、恥じるような生き方はできない。だったらもう進むのみだ。

持っていた日記全てを鞄にしまう。起きてしまった事は変えらねぇけど、こっからどうしていくかは俺達次第だ。

俺はアリアが眠っている寝室へと走り出した。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

全速力で走って帰ると、日は沈んで夜の帳を降ろしていた。

俺は玄関で靴を脱ぎ捨て、アリアが眠る寝室へと足を踏み入れる。アリアは窓を開け、じっと夜空を見上げていた。アリアの長い髪が、風を浴びて舞う様に揺れる。

 

「・・・ガーネット」

 

アリアが俺に気付いて、振り返る。その表情は相変わらずの無表情だったが、瞳は揺れていた。初めてアリアと出会った夜を思い出す。あの頃に戻ったみたいな錯覚に襲われた。

 

「・・・ずいぶん汗を掻いてますね」

「まぁ、走って帰って来たからな」

 

そんな会話をしながら、俺はアリアの隣まで行く。

 

「・・・・」

「・・・・・・・・」

 

俺達の間に会話は無い。俺が話し掛けない限り、会話はできないだろう。そりゃそうだ、アリアは口数は少ないからな。

だから、言わなければならない。アリアには残酷かも知れないが、この話を進めない限り、俺もアリアも前には進めないのだから。

 

「お前、ルーファスの恋人のエリーって女のクローンだったんだな」

「・・・はい。すべて、思い出しました」

 

そう呟くアリアの表情は、やっぱり変わらない。

 

「どんな、事があったんだ?」

「・・・私は、エリーのクローンとして、ほぼ人間と変わらない体を持って生まれました。ですが、ルーファスにはそれでは納得できなかったようです」

 

そこまではルーファスから聞いたのと同じ内容だ。でも問題はその先だ。

 

「・・・ルーファスは何やら別の方法でエリーを蘇らせることを思いついたらしく、私は殺処分されることとなったのですが、その前にポケモン図鑑の奪取を命じました。結局それも失敗した私は、自害しようとしていた所をガーネットに止められ、今に至ります」

 

そう言ってから一拍置いて、アリアは呟く。

 

「・・・私はもう、必要とされていないそうです」

 

その一言は、思ったよりも堪えた。

 

「・・・私には、最初から家族はいません」

「・・・・・・・・」

「・・・ガーネットとの旅の目的は、最初から破綻していたんです」

 

そう呟くアリアは、無表情のままだ。

 

「・・・知っていますか?ガーネット」

「何がだ?」

「・・・私が生まれたのは、去年の3月5日。私はまだ1年しか生きていないんです」

「っ!!?」

 

知らなかった衝撃の事実だ。赤ん坊から育てられたんじゃないのか?

 

「・・・最近の技術は非常に高いそうです。私は培養器の中で育ちました」

 

こんなに饒舌なアリアは、初めて見た。

 

「・・・最後には、私を作ったルーファスによって殺される」

 

俺はアリアの横顔を見つめた。その横顔は始めてみる表情をしていた。

 

「・・・ガーネット、教えてください。私は何のために生まれたのですか?」

 

眉一つ動かさなかった。声一つ震えなかった。でも、その瞳からは一筋の涙が零れ、月明かりで輝きながら、頬を伝って畳に落ちた。

こんな形で、アリアの泣く所なんて見たくなかった。

でも、そうなるようにしたのは俺だ。アリアを旅に連れ出し、こいつの過去を思い出させるような事件に巻き込んでしまった。知らなくても幸せになれたであろうに。

アリアは今、涙を流しながら何処にあるかも分からない答えを俺に求めている。

だから俺は、たった一言呟いた。

 

「幸せになるんだよ」

「・・・・?」

 

何を言っているのか分からないという表情で、俺を見るアリア。

それに構わず、俺は続けた。

 

「お前に出生は、確かに酷なもんだ。それで、その苦しみはお前だけのもんだ。誰にもお前の苦しみは分からねぇよ」

「・・・・・」

「でも、何が起きてもお前は1人じゃない」

 

頭の中で必死に言葉を考え、声に出す。

 

「家族が居ないってんなら、俺が家族になってやる。それに、俺達はポケモントレーナーだ。見てみろよ、お前のポケモンを」

 

布団の隣に置いてあった5個のボールの開閉スイッチを押す。飛び出してきたのは、この1ヶ月アリアと共に闘ってきたアリアの手持ち達だ。

 

「ピカチュウがいる。ムクバードもいる。サンドもいる。プロト―ガもいる。チリーンもいる。皆、お前の家族になってやれるんだ」

 

アリアは俯く。例え無表情でも分かる。その表情はいまだ晴れない。

 

「・・・それでも、ルーファスとサンゾウは強大です。彼等に掛れば」

「だからよ、そいつら纏めてぶっ飛ばすんだよ。強くなってな」

 

アリアの言葉を遮って、そう宣言する。

 

「向こうから仕掛けて来たんだ。だったら、返り討ちにしちまっても文句ねぇだろ?」

 

少し目を見開いて、俺を見つめるアリア。この表情は・・・。

 

「お前、無理だって思ってるだろ?」

「・・・彼らはすぐに行動に移すはずです。私達が強くなる時間など」

「その心配はないよ」

 

アリアの言葉を遮り、部屋に入って来たのはターコイズだ。

 

「お前、盗み聞きしてたのか?」

「今ツッコム所はそこじゃないよね?まぁいいや。ゲンジさんからの提案があってね、その問題は無くなりそうなんだよ」

「・・・提案?」

「私から説明しよう」

 

ターコイズに続いて入って来たのはゲンジだ。

 

「ルーファス達は私に存在をばれて、逃亡の準備に取り掛かっているはずだ。だが、それには時間が掛るはずだ」

「何でだよ?ぱっぱと逃げちまえばいいのに」

「秘密裏に処理しなければならない事件なだけに、少数ではあるがポケモン協会のトレーナーが奴の組織の構成員の捕縛に取り掛かっている。その事は奴も知っているだろう」

「ふむふむ、それで?」

「人の口に戸は立てられない。構成員が一人でも捕まれば、そこからどんな情報が漏れるか分からないからな。ならば、相手もこちらの動きに警戒して、迂闊には動けないだろう」

「更に、ゲンジさんが捕縛班に加わるから余計だね」

「だがこちらも少ない戦力で、ルーファス達を相手にするのは高いリスクが伴う。ならば、相手が完全に油断している方向から攻撃を仕掛ける」

「おいジジィ、それってもしかして」

「一度完全敗北を喫したお前達が、ルーファスに奇襲を仕掛ける」

「勝算は?」

「無ければ作る。実力が足りないのならば、鍛え上げるまで」

「わーお」

 

最後の最後で、えらい大雑把な作戦だこと。

 

「本来ならば、これは我々ポケモン協会の仕事だ。関係者とは言え、子供のお前達に危険な役割を任せるのは間違いだろう。だが、ここで確実にルーファスを倒さなければ、お前達に未来はない。そして、それをお前達の手で果たさなければお前達は前には進めない。ならば、私に出来る事はそれを成し遂げる力を与えると言う事だけだ」

 

母の無念と、父との因縁。

恋人の代わりとして生み出された空っぽの人生。

長年の夢を無残にも踏み潰された。

 

「お前達に問う。この作戦に加わるか否か」

 

動機は復讐に良く似ていて、でもこれを為さなくては前には進めない。なら答えは初めから決まっている。それは珍しくターコイズも一緒だった。

 

「俺はやるぜ。あの澄ました面をまだ殴って無いからな」

「僕も。今回の事は、僕も怒ってるんだからね」

 

そう答える俺達を見て、アリアは確かに戸惑いの表情を見せた。

 

「なぁアリア、難しい事を今考えても分からねぇだろ?」

「・・・はい」

「俺が前に言ったこと、覚えてるか?」

「・・・?」

「ぶん殴れば、スッキリするって言ったんだよ」

「・・・覚えてます」

「今後の事とか、お前の将来とか、そんな難しい事はルーファスの野郎をぶっ飛ばしてからにしようぜ。頭ん中スッキリさせりゃ、何か見えてくる」

「・・・そうでしょうか?」

「俺が保証してやる」

「・・・根拠が、ありませんよ」

「それを今から作るんだよ。だから、生きてもう一度旅を始めようぜ、アリア」

 

そう言って俺が笑うと、アリアの両の眼からボロボロと涙が零れ始めた。って、えぇ!?俺何かした!?そう戸惑っていると、アリアは俺に抱きついて胸に顔を押しつけて来た。

 

「・・・すみません。少しこうさせて貰っても良いですか?」

「・・・・おう」

 

そう言ってアリアの頭を撫でてやる。前に触れた時同様、羨ましい程の手触りだ。

 

「・・・何故、こんな行動に出たか、理解が出来ません」

「今は無理でも、これから先、生きてりゃ分かる時が来るさ」

 

ルーファスを倒せば、幾らでも時間はあるんだから。

 

「・・・ガーネット」

「ん?」

「・・・私は、まだ自分が何をしたいか分かりません」

「そうか」

「・・・この戦いが終われば、一緒に探してくれますか?」

「あぁ、良いぞ。お前が一緒なら旅も楽しいからな」

「・・・約束ですよ」

「おう」

 

月明かりに照らされた部屋の中で、俺とアリアはいつまでも抱き合っていた。

 

「あのー、僕達が居るのを忘れて、ラブコメされても困るんだけど?」

 

月明かりに照らされた部屋の中で、手持ちポケモン達はニヤニヤ笑いながら俺達を見て、ターコイズは顔を赤くしながら呆れている。ゲンジは「曾孫、か」と呟いていた。

 

「記憶を消せぇぇぇぇぇぇ!!!(ドゴォッ!!)」

「ひでぶぅっ!!?」

 

俺の全力のはハイキックが、ターコイズの顔面を捉えた夜の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは修業編&アルティア家打倒編です!!
皆様からのご指摘ご感想お待ちしております。
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