「くそ・・・!強ぇな・・・!」
シロガネ山生活2日目、俺は最後の一体を捕獲するために単身山へと潜り込んだ。正面には口から飛び出した大きな牙が特徴のポケモン《オノンド》と、それに対峙するビブラーバのナツが居た。戦いを始めてから、すでに1時間は過ぎているだろう。
「出来る限り弱そうな奴と思って挑んだんだけどな・・・!さすがシロガネ山、ここまで戦えるとはな!ナツ〝はがねのつばさ〟!」
羽を硬化させオノンドに叩きつけるが、その羽を掴んでナツを地面に叩きつけた!やっぱりこいつもかなり戦い慣れているな。
そのまま地面に横たわったナツに追い打ちを掛けようと、腕を振り上げるオノンド。
「させるか!〝りゅうのいぶき〟!!」
至近距離から強烈な息吹がオノンドを吹き飛ばす!だがオノンドは空中で姿勢を直しやがった。そのまま地面に着地する直前に、
「今なら避けられねぇだろ!〝りゅうのいぶき〟!!」
奴の着地地点に目掛けて息吹を放つ。アリアみたいな正確さは無くとも、大雑把な狙いなら俺でもつけられる。オノンドは再び吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
「今だ!おりゃぁああ!!」
一球入魂。モンスターボールをオノンドに投げつけると、オノンドはモンスターボールの中に吸い込まれる。そのまま抵抗する様にボールが左右に揺れるが、最後はパチンという音と共にボールは動かなくなった。これはつまり捕獲成功の合図だ。
「あ~、もう動けねぇ!」
今回の戦闘のほかに、このシロガネ山を野生のポケモンに追い掛け回されながら歩き続ける事2時間。体力は限界を迎え、俺は地面に座り込んだ。
「ナツもお疲れさん。ゆっくり休めよ」
ナツをボールに戻し、捕獲したオノンドを見つめる。ゲンジはドラゴンタイプの使い手だ。このオノンドも上手い育て方を教えてくれるだろう。
「ニックネームは、そうだな・・・。《ドン》にしようか」
俺は新しい仲間であるドンが入っているボールを腰のベルト部分にしまい、立ち上がる。ここに居ては何時野生ポケモンにでくわすか分からないし、何よりも、早く修業に取り掛かりたかった。
☆ ☆ ☆
俺は何とか下山し、ベースキャンプに戻ると
『犯人はサザンドラ』
そんなダイニングメッセージと共にターコイズは地面にうつ伏せになって倒れていた。周りにはターコイズの手持ち5体が戦闘不能になっている。一体何があったんだ・・・?
「・・・ガーネット、ですか?」
「アリア!?お前もどうした!?」
ターコイズの惨劇に驚いていると、満身創痍のアリアが木の棒を杖代わりにして山から出て来た。その後ろにカイリューを引き連れて、汗一つ掻いていないゲンジが出て来た。
「おいアリア!一体どんな修業が待ち受けているんだ!?」
「・・・ガーネット、《クロバット》って、素早いんですね。初めて知りました」
「しっかりしろ!アリア!!傷は浅いぞ!!」
「・・・疲れたので、寝ます(ガクッ)」
「アリアーーーーーーー!!!」
くっそー!一体何があったんだ!!?クロバットが一体どうしたというんだ!!?
「ようやく戻って来たか。ではすぐに修業を始めるが、その前に頼みがある」
「な、何だよ?頼みって」
「死なないでくれ!!」
「アンタ俺に何をさせようってんだ!!?」
死ぬような事をさせるつもりなのか!?
「頭の中で、出来る限りの辛い修業を思い浮かべてみろ」
そう言われて、とりあえず漠然とした辛い修業シーンを思い浮かべてみる。
「思い浮かべたか?」
「おう」
「ならあえて言おう。そんなものは天国だ!!」
「さようなら!!」
三十六計逃げるに如かず。背を向けて全力で走り出した俺の首根っこを、カイリューはいとも容易く掴んだ。えぇい、離せ!!
「それではこれより修業を開始する!!」
「イィーーーギャァアーーーー!!!」
☆ ☆ ☆
「うぉぉぉぉぉぉ!!!走れお前らーーー!!死ぬぞーーーー!!」
ここはシロガネ山中腹の丘の上。俺はナツとメリー、イヴとマー坊、そして新しく仲間になったドンと共に、《エアームド》の群れに襲われていた。全部で20体はいるだろう
「メリー〝ほうでん〟!!」
メリーから四方八方に向けて電撃が発せられ、数体のエアームドに直撃するが
「殆ど効いてねぇーんだけど!!?」
体にちょっと焦げ目が付いただけで、ダメージは殆ど無し。幾らなんでも強すぎない!?
「エアームドのタイプは鋼と飛行。それらのタイプの特徴であるスピードと防御力を併せ持つ強敵だ。生半可な攻撃では通用しない」
「そもそもエアームドが群れる時点でおかしくね!!?」
「それがシロガネ山だ。無駄口を叩いていると死ぬぞ」
「おわぁっ!!?」
エアームドの鋼鉄の翼を何とか回避する。〝はがねのつばさ〟だ。そしてもう一体のエアームドが、今度はナツに向かって鋼鉄の翼を叩きこもうとしている。
「ナツ!〝はがねのつばさ〟で迎撃しろ!!」
ナツの羽が硬化し、エアームドの翼との鍔迫り合いが始める。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
鋼鉄の羽と翼の鍔迫り合いの末、ナツはエアームドを力ずくで弾き飛ばした!
「マー坊!あいつを狙え!!」
ナツに弾き飛ばされたエアームドを指差し、マー坊に指示を飛ばす!マー坊は素早いフットワークを活かしてエアームドの真下に潜りこんだ!
「〝ほのおのパンチ〟!!」
炎を纏った左の拳をエアームドに叩きこむ!鋼タイプのエアームドには効果は抜群だが、エアームドは苦しみながらも上に逃げようとする。
「もう一発だ!!〝ほのおのパンチ〟!!」
今度は右の拳に炎を纏わせ、再度エアームドに叩きこむ!エアームドは今度こそ力尽きて、地面に墜落した。よし、まずは一体だ!
「一体に対して集中し過ぎてても良いのか?」
「どわっ!?」
鋭い嘴を突きたてて来たエアームドを何とか回避する。そうだ、これは6対20のルール無しの喧嘩なんだ!一体に時間を掛け過ぎたら、その間に他のエアームドに攻撃される!
「イヴ〝こごえるかぜ〟!メリー〝ほうでん〟!」
冷風と電撃がエアームドの群れに向かって放たれる!素早さ低下の効果がある〝こごえるかぜ〟と、麻痺の追加効果がある〝ほうでん〟で、ダメージを与えつつ隙を作らなければ!
そうとも、俺には策なんてものは似合わない。俺には、攻撃しかないのだから。
☆ ☆ ☆
「思ったよりも楽に終わったな」
「そう見えるか?だとしたらその目はビー玉だぞ」
あれから5時間。何とかエアームドの群れを倒して、俺は地面に仰向けで倒れている。手持ちポケモンはドンを除いて全て戦闘不能になってしまっていた。
「ていうかジジィ、何でダンは戦闘に参加させなかったんだ?」
俺はダーテングのダンが入ったボールを取り出す。こいつのレベルは高く、こいつさえいればあそこまで苦戦はしなかっただろう。
「まずは弱い者から鍛え上げていく。その際に強いダーテングが居れば成長の妨げになりかねんからな。無論、他のポケモンがダーテングに追い付いたらダーテングも戦闘に加わる」
「それまではこの5体で戦うのか?」
「そうだ。まぁ理由はそれだけではないがな」
「他に何かあるのかよ?」
「お前達に与えられた時間は少ない。短期間で強さの壁を超えるに、命懸けという諸刃の剣を使わなければならない。どちらかと言うと、こっちの理由が本命だ」
なるほどな。無茶苦茶な理屈だが、筋は通っている。
「今日は初日だからな、体をほぐす程度にしておくが、明日から本格的になる。それに備えて今日は休むといい。丁度夕食の時間だ」
こうして、初日の修業が終了した。
☆ ☆ ☆
その日の夜、夕飯を食べてすぐに眠る準備をした。ターコイズは寝袋に入ってすぐに爆睡し、ゲンジは近くの岩にもたれ掛かって眠っている。
なぜか俺とアリアは眠れず、星を眺め話し続けていた。
「・・・ここに来て2日、私達は強くなれているのでしょうか?」
「分からねぇ。何せ強くなったって言う実感がねぇからな。この山のポケモン達はみんな強くて、俺達もポケモン達も皆ボロボロだ。正直、初日でいきなりこんなので大丈夫かと思えて来た。ていうか、ジジィのスパルタは俺が今まで受けて来た基礎体力の訓練とは比べ物にならない位に厳しい。やっぱりポケモンバトルとなると、その厳しさも一味違うな」
アリアが俺の顔を見るのが分かる。俺はジッと星空を見つめていた。
「・・・私達は強くなれるのでしょうか?」
「なれるか、じゃない。なるんだよ」
「・・・私達は、ルーファス達に勝てるのでしょうか?」
「絶対勝つ。そうじゃなきゃ、俺達に未来は無いんだからな」
「・・・はい」
そこで話を区切り、アリアは瞼を閉じて俺の方に頭を預けた。
「・・・勝ちましょう」
「当然」
☆ ☆ ☆
それから5日間は、本当に地獄だった。
『ギャ、《ギャラドス》が、ギャラドスの群れがー!!』
『・・・口が光っています』
『逃げろぉ!〝はかいこうせん〟だ!!』
『攻撃が全然効かなギャああああああ!!?』
『あぁ!ガーネットが《ゴローニャ》に撥ねられた!交通事故だー!!』
『・・・狙いが、定まら・・・!』
『クロバットの〝かげぶんしん〟と〝こうそくいどう〟だ。気を付けろ』
『へー、《クチート》っていうポケモンなんだ。可愛ぎゃああああああ!!?』
『・・・ガーネット、ターコイズが大変な事に』
『ターコイズを離しやがれぇぇぇぇ!!』
『・・・わー』
『アリアが、アリアが《イワーク》の角に引っ掛かってるぅー!!?』
『あの角を圧し折れぇ!!ドン〝ドラゴンクロー〟だ!!』
『よし、そこまで!!』
『や、やっと終わった・・・』
『次は私のサザンドラと組み手を始める!!』
『ウギィィーーーーーー!!!』
『全員動くなぁ!!《キングドラ》の〝しおみず〟が直撃するぞ!!』
『だったら撃ってこないで下さいよ!!』
『恐怖とは克服し、飼い馴らすものだ!!それが出来て初めて恐怖は身を守る優秀なセンサーとして機能する!今度は〝ハイドロポンプ〟だ!!』
『ヒィィィィーーーー!!』
☆ ☆ ☆
そして、修業8日目の朝。
「うむ。・・・・・分かった」
そこまで言って、ゲンジはポケギアの通話ボタンを切る。
「アルティア家に動きがあった。ルーファス達が逃走準備を整えたようだ」
「遂に来たか・・・!」
ルーファス達の逃走準備の完了。それはつまり決戦の合図だ。
「これよりアルティア家捕縛作戦を開始する!まず、私と協会トレーナーとで逃走するアルティア家の関係者を捕えつつ、ルーファスの逃走ルートを潰して時間を稼ぐ。その隙にお前達はカントー地方にあるアルティア本家を襲撃せよ」
「・・・了解しました」
そこでゲンジは一度言葉を区切って、再び口を開いた。
「私はこの7日間、教えられる事は全て教えた。短い間だったが、今のお前達とポケモン達との絆があれば必ず勝てると、そう信じられる」
「ゲンジさん・・・」
「行け、私の弟子たちよ。行って未来を掴んでこい!!」
「おう!!」
ゲンジはカイリューを繰り出し、その背中に乗る。俺達は飛んで行くその背中を見送り、ボールを取りだした。俺が繰り出すのは勿論
「行くぞ、ナツ!!」
現れるのは本来の体とは違う色。黄緑色の体に蒼い模様、そして山吹色の翼をもつドラゴンポケモン《フライゴン》に進化したナツだ。
「俺達の修業の成果を見せるぞ!」
「行きますよ、《ムクホーク》」
「キャサリン!!」
俺達は最後の戦いに赴くべく、逞しく成長した仲間の背に乗り飛び立つ。目指すはカントー地方・アルティア本家だ。
この数奇な戦いに決着を付け、未来を手に入れる為に。
修業終わるの早えー。でも漫画とかでも修業シーンに時間を掛けないのって、後での戦闘シーンの描写を取っておくためですかね?
早く原作図鑑所有者と邂逅させたいですね。